京都社会保障推進協議会ブログ

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特定健診そもそも論(3)

2008年09月05日 06時39分25秒 | 資料&情報
 メタボリックシンドローム診断基準検討委員会「メタボリックシンドロームの定義と診断基準」の評価です。
 「診断基準(ここから)」については多くの疑問点が出されています、

①「診断基準」6ページの図1 内臓脂肪面積とリスクファクター保有数の関係をみると、サンプル数が男性479女性181であり極めて少ない数です。同様に、図2 内臓脂肪面積とウエスト径の関係も男性559女性196となっています。
②前提として、腹腔内脂肪面積100平方㎝を男女共通したカットオフ値としていますが、男女共通が妥当な基準なのか疑問が出されています。
③ウエスト径男性85cm女性90cmとした根拠は、男女の皮下脂肪の違いとしています。

 「診断基準」に対する疑問は、上記の直接的な点のみならず、研究グループからも様々な意見が出されました。


日本のメタボリックシンドローム診断基準の問題点(Wikipediaより転載)

2002年、日本肥満学会(JASSO)はBMI 25 kg/m2以上、内臓脂肪面積 100 cm2以上 (男女無差別)、腹囲 男性 85 cm、女性 80cm以上を「肥満病」と定義し、2005年、メタボリックシンドローム診断基準検討委員会はJASSOの提案した「内臓脂肪症候群」診断基準を日本のメタボリック症候群診断基準とした。この診断基準の問題点を列記すれば以下のようになる。

①「内臓脂肪症候群」は科学的に確立された概念ではない。
1997年、松澤は、限られたデータを基に、インシュリン抵抗性は皮下脂肪肥満よりも内臓脂肪肥満で重症であり、皮下脂肪は内臓脂肪の病的作用から生体を守る作用があるだろうと述べた。しかし、2006年、Reavenはそれまでに報告された19の研究をまとめて、インシュリン感受性insulin-mediated glucose uptake (IMGU)と内臓脂肪面積との関係は、IMGUと腹部皮下脂肪面積との関係とほぼ同等であることを明らかにした。2007年、Pouらは内臓脂肪体積および腹部皮下脂肪体積と各種炎症マーカーおよび酸化ストレスマーカーとの関係を詳細に検討して、内臓脂肪体積と炎症マーカーとの関係は腹部皮下脂肪体積と炎症マーカーとの関係とほぼ同等であることを明らかにした。内臓脂肪はエネルギー過剰環境に対して皮下脂肪よりも強い炎症反応を示すが、これは内臓脂肪量とは平行しない。Wellenらは内臓脂肪だけに炎症を生じるメタボリック症候群のマウスモデルを作成したが、このモデルでは内臓脂肪の増加は見られず、皮下脂肪と肝脂肪が増加していた。

②JASSOが腹囲基準値を決めた方法は論理的に矛盾している。
JASSOは、心血管危険因子と内臓脂肪面積との関係において性差が大きいことを無視して、男女無差別に内臓脂肪面積の基準値を決め、この男女無差別な値から男女別の腹囲基準値を決めたのは論理的一貫性を欠く誤った解析である。日本国内の多くのグループがJASSOと異なる腹囲基準値を提唱しており、JASSOとは逆に、すべて男性の方が女性より大きな値となっている。

③腹囲85cmを基準に診断された男性のメタボリックシンドロームは心血管疾患発症の有意なリスクにならない。
2006年、清原らは久山町研究で、男性で腹囲85cmを基準に診断された腹部肥満とメタボリックシンドロームはどちらも心血管疾患発症の有意なリスクにならなかったと報告した。しかし、腹囲90cmを基準に診断した場合はどちらも心血管疾患発症の有意なリスクになった。

④腹囲90cmを基準に診断された女性のメタボリックシンドロームは多くの高リスクの女性を見逃すことになる。
女性では腹囲基準値を90cmとしても80cmとしてもメタボリックシンドロームは心血管疾患発症の有意なリスクになったが、心血管疾患の発症は腹囲80-90cmの女性に集中しており、基準値を90cmに設定すると多くの高リスクの女性を見逃すことが、久山町研究で明らかになった。

⑤肥満をメタボリック症候群の必須条件とすると心血管疾患リスクの高い多くの人を無視することになる。
KadotaらはNIPPON DATA 90で、非肥満者で代謝性危険因子の集積した人がかなり多く、このグループの心血管疾患発症率が高いので、肥満をメタボリック症候群の必須条件とするのは危険であると報告した。また、Okamuraらは国保10年コホルト研究で、BMI 25未満で心血管危険因子を有する人の費やす医療費は総医療費の16.5%だったのに対し、BMI 25以上で心血管危険因子を有する人の費やす医療費は総医療費の7.1%であり、BMI 25以上で2つ以上の心血管危険因子を有する人の費やす医療費は総医療費の2.9%だったと報告した。したがって、肥満をメタボリック症候群の必須条件とすることは、予防医学的にも医療経済学的にも不適切であると考えられる。

⑥メタボリック症候群の診断は困難である。
日本人のための暫定的な5つの診断基準について、その一致度を検討した研究では、2つの異なる診断基準で一致してメタボリック症候群と診断される割合は、男性で19-60%(均41%)女性で31-89%(均51%)あり、すべての診断基準で一致する割合は、男性で15%、女性で21%だったと報告されている。したがって、メタボリック症候群の診断は暫定的にも困難であり、現時点では、ADAとEASDの共同声明に従うべきであろう。

⑦日本の診断基準はメタボリック症候群の国際比較研究の障害となる。
日本の診断基準はIDF診断基準に協調して作成されたはずであるが、実際には診断項目の数も、腹囲基準値も、血糖基準値も、HDLコレステロール基準値も異なり、メタボリック症候群の国際比較を困難にした。我々の検討では、IDF診断基準と日本の診断基準の一致度は男性で30%、女性で40%だった。

⑧内臓脂肪面積の臨床的有用性が確立していないにもかかわらず、メタボリック症候群診断基準検討委員会が、CT等による内臓脂肪面積の測定を研究目的以外で奨励したことは倫理的に問題と考えられる。


 上記にも記述されていますが、九州大学久山町研究グループの考え方を紹介します。(久山町研究の概略はここから


 88年に健診を受けた健康な町民2452人を14年間追跡したところ、日本の学会が定めた同症候群の腹囲の基準(男性85センチ以上、女性90センチ以上)では、基準値以上の人も、そうでない人も、心筋梗塞などの発症率に、はっきりした違いが見られなかった。
 一方、国際糖尿病連合(IDF)が推奨している日本人の基準(男性90センチ以上、女性80センチ以上)を当てはめると、基準を超えた場合、心筋梗塞などになる危険度は、男性で1・8倍、女性で1・5倍高かった。
 清原さんは「日本の基準だと、生活習慣病になる危険が高いかどうかを判定できないことになる」と指摘する。これでは予防に役立てられない。(08年7月11日付読売新聞)

 
 全文はここから


(つづく)