『秘密の分身』
赤い唇は女性を思わせ、短髪は男性のようでもある。つまり、男も女も等しく《こうであろう》ということである。
背後の中央には水平線が見え、手前にはさざ波が立っている。また、右端に区分された柱(カーテンか)によって、人為的な領域(室内空間)にいることを暗示している。
文明社会の成人の胸像である。その顔の表面部分が殻のような質をもって剥がされ、左に移行している。左右を合体させれば一人の顔面になるかもしれないと想像させる図である。
その右の剥がされた顔面の下(内部)には、得体のしれない太いひも状のものに鈴のようなものが数多付着している。
静かな海を背に任意の人が佇んでいる、そういう光景に他ならないが、そこに秘密の分身たる暴露が公開されている。
鈴は《言葉(主張、流言・・・)》であると思う。言葉は観念・イメージと結びついている。
視覚・聴覚・触覚・味覚・臭覚などの五感によって感受しうるものが、言葉に変換される秘密の分身器官が、人の内部には隠されている。
ただ、言葉から受ける印象は各個人に差異があり、同一のイメージを抱くとはいえない。
言葉はイメージを誘い込むが、各人の複合的な条件下では異なる反応を余儀なくされているに違いない。つまり、決定はなく要約された共通性においてのみ認識されるに過ぎないから、ここに秘密の分身たるゆえんが隠されている。
見えないし、見ることが叶わない秘密の分身は誰にでもある。それは時間とともに流れていくようでもあるし、再び浮上するかもしれない不思議な分身である。
有るけれど無い、無いけれど、確かに在る内的器官の分身は、潜んでいて決して具体化された姿を持たないものである。
(写真は((株)東京美術『マグリット』より)
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