『巡礼者』
山高帽をかぶった紳士の肖像として在るべき顔(頭部)の部分が抜け落ち左に移動している。
背景は薄紫のベタ(特定のない継続された時間)である。
これを『巡礼者』と呼ぶマグリットの真意は何だろう。
薄紫色の背景(ベタ)には淡い期待と、少しの混色に揺れる心理状態が浮遊しているようにも見える。
その中に顔の部分が、というより着衣のなかには実存の肉体が欠落しているのかもしれない。
立派な紳士の様相には社会的地位の安定が見られるが、入るべき肉体は離脱している。
つまり『巡礼者』とは聖地へ向かい信仰を深めるために、社会生活という日常空間や時間から一時的に離れる決意をした人のことであり、社会の規範を手放す覚悟をした人のことである。
巡礼(神とのつながり)とは日常生活(社会性)を放れることであり、リセットなどという凡庸さを超えた聖域を求める行為は、崇高かつ救済であると評価されている。
しかし、マグリットの作品には、沈黙の静かなる疑問が醸し出されている。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)
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