夕焼け金魚 

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水玉のカーテン

2023-06-12 | 創作
本日も雨です。
この街も梅雨に入ったようです。
多くの人は梅雨に入ると仕事がやりにくくなるのですけど、私の町内には梅雨でないと出来ない仕事をしている人がいます。
水玉カーテンの職人さんです。
夏のよしずつくりが本業なのですが、最近はグリーンカーテンよりも効率が良い水玉カーテンの需要が多くなって、梅雨になったら稼ぎ時なのです。
奥さまと糸を引きような梅雨時が一番良い水玉カーンが出来ると言います。
今日は久しぶりに美味しいお酒を頂いたので、水玉さんのところに挨拶に行きました。もちろん、出来ればひとつ水玉カーテンを頂こうかという下心も持って行きました。
「こんにちは」と声をかけても誰も出て来ません。
忙しくてみんな裏庭にいるのです。
勝手知ったるなんとやらで、気にせず裏庭に回りました。
ご家族全員で雨の中、水玉カーテンを作っていました。
水玉カーテンは竹を物干し台に横に置いて、雨が降って竹に滴る水玉を針で刺して作ります。
水玉が丁度いいくらいの大きさに成ったところで、針を刺すのです。
真ん中に刺さないとできあがりが悪く、刺す位置が悪いと玉が外れてしまうことになります。
元々簾やよしずを作っていたのですが、最近は水玉の方が日涼しいと評判になって需要が増してます。
ただ、作れる期間が梅雨時だけなのです。
夏の夕立の雨だと大きすぎて重くなってしまうそうです。
また、需要が夏なので秋の雨では一年持ち越しとなって、その時は保管が大変なのです。
物が水玉なので長い時間、巻いておくと水玉が壊れるみたいです。
壊れると水なので補修できずに廃棄せざるを得ないそうです。
使い方は簾のように窓の外に吊すのが一般的です。
室内に吊すと壊れたときに水になりますから、室内が汚れます。
ただ室内に吊すと加湿器がいらないほど潤うので、便利という声もあるそうです。
水玉そのままだと遮光性がないので、遮光性のために着色するのですが、これも一寸したコツがあるそうです。
「こんにちは、水玉屋さん。精が出ますね」
「やぁ、金魚さん。もう、今が一番忙しいときですよ」
「忙中閑あり、今夜一杯どうですか。良いお酒が入ったのですよ」
「いいですね、梅雨の旨酒ですね」
「これも今時しか手に入らない、梅雨の旨酒」
と言って手でお猪口を飲む仕草をしたのです。
ダメダメ、金魚さんも悪いさそいしないで下さいよ。注文に応じ切れてなくて、また小売りの人達に謝りに行くのは嫌ですから」
「そう言わずに奥さん、奥様も嫌いじゃないでしょう」
「そりゃぁ、私も嫌いじゃないですけど。なら金魚さん、手伝ってくれますか。今日中に百は作らないと間に合わないのですよ」
「いいですよ、私で良ければなんぼでも、金魚の手、貸しますから」
「借りるのは良いけど、後始末が大変にならなければ良いのだけど」
息子さんが声をかけてきました。
小さい頃から可愛がっていたのに、こんな憎まれ口を叩くようになったのです。
「元々は私が教えた水差しの技だよ、まだまだお父さんには負けても、お前には負けないよ」
私も水玉刺しをしようとしたのですけど、場所がないのです。
「金魚さんは、玉に遮光性を付けるのをして下さいよ」
水に遮光性を付けるために着色するのです。
これがちょっと難しいのですね。
遮光性の着色を付けすぎると、隣の水玉とくっついてねじれるのです。
どうしてかって、それは社交性を付けすぎると、誰とでも仲良くなるでしょう。それでカーテンがねじれるのです。
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