夕焼け金魚 

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木造校舎

2023-05-12 | 創作
我が町の小学校は市内でも珍しい木造校舎です。
まだ木造の校舎があると市議会で問題となり、耐震性の確認と称して視察に来られました。
校舎の建て替えの問題は何年も前に一度話題になったのですけど、当時猛烈な反対運動が起こって、それ以来立ち消えになっていたのでした。
しかし、今度は教育委員会も耐震性の調査という大義名分を掲げて、有無を言わさぬ立て替えの調査に来たのです。
「耐震調査の結果によっては、校舎を取り壊して立て替えも仕方ないですから」
とえらく高飛車な感じで話してくるのです。
「だけど、春は桜が咲いて、秋には銀杏の葉で黄色に変わる校舎は、子供達にも良い思い出になってますから、できるだけ補強というか建て替えないでして欲しいのですけど」と私が町民代表として発言し、口火を切ったのです。
「貴方は何を言ってるのですか。桜や銀杏に彩られると言ってもそれは立木の話で、木造校舎と関係ないでしょう」と教育委員の人が言うのです。
私が反論しようとすると、PTAの会長さんが反論しました。
「貴方こそ、何を言うとるのですか。春は桜の花が中央校舎を彩り、秋は東は紅葉、西は銀杏の葉に彩られるのが当たり前じゃないですか。校庭の立木の話をしているのではありません」と言うと、教育委員の皆さんが苦笑するのでした。
「こちらは市内でも特に変わった方が多いとは聞いてましたが、校舎が桜の花に覆われるとか、銀杏や紅葉の葉に染まるというのは例えで、木造校舎とは関係ありません」と言うのです。
今度は町のみんなが笑い出しました。
「あんたら、何を言うとんのじゃ、校舎に桜が咲いて、葉が茂るのは当たり前じゃないか。毎年ここのみんなが知っとることじゃよ」
話が全くかみ合わないのです。
お互い相手のことを罵るようになってきて、とても話し合いという雰囲気にはならなかったのです。
「ここで、水掛け論をしても仕方ないので、桜が咲いてる校舎の写真でもありませんか」と建築家の方が言ったのです。
「そうじゃ、論より証拠じゃ」というとPTAの会長は、教育委員の方々を校長室に案内したのです。
校長室には、春・夏・秋・冬の校舎の写真が飾ってあるのです。
校舎の写真を見た瞬間、教育委員の方達が「あっ」と声を上げたのです。
そこには中央校舎の壁面一杯に桜の花が咲いていたのです。
秋には東校舎に銀杏の葉が、西校舎には紅葉の葉が、やっぱり壁面一杯に紅葉していたのです。
「こんなことが」と言うと建築家の人は写真を何度も見直すのです。
「失礼ですが、合成写真というのでは」
「そんな面倒なことするか、こちらの写真は小学校の開設当時の写真で、白黒だが校舎に桜が咲いていることが分かるじゃろう。こんなの他の校舎でも、みんな昔はあったでしょう」
「あるわけないでしょう。校舎に桜が咲くなんて、こんな校舎、日本のどこ探しても、いえ、世界のどこ探してもありませんよ」
と建築家の方がいうのです。
今度は町のみんなが驚く番でした。
毎年のことなので、昔は他の町の校舎もみんな桜や銀杏・紅葉に覆われているものと思っていたのです。
市は大々的に木造校舎を調査することになりました。
桜の花が咲く校舎と言うことで、テレビにも派手に取り上げられて、大変なことになりました。
校長室に飾られていた写真は世界中に配信されて、内外のメディアが校長先生にインタビューするのです。
「校舎の製材された木に、花が咲くということがあるのでしょうか」と懐疑的に報道するテレビ局もありました。
一週間の耐震調査の後に市が調査結果を公表しました。
「この校舎は言わば、ツリーハウスなのであります」
建築家の方が最初に言った言葉がこれでした。
「学校開設前の写真を調べますと、この土地には桜と銀杏と紅葉の木が生えていました。校舎を建てるにはこの木を切らないとならないのですが、木を切って学校を作ると言うことに抵抗があったのでしょう」と言うのです。
街の植木職人に木を切らずに校舎を作れないかと相談したら、樹の上に校舎を作るという、ツリーハウスのアイディアだったのです。
川沿いにあることもあって、樹の幹部分まで土盛りをして、枝は四角い鉄の枠に曲げて収め、そこに製材した校舎の板で隠して小学校を作ったというのです。
木材で隠すだけではつまらないと言うことで、製材の隙間に枝を這わすようにして、春になると桜の花が校舎の壁面を飾るようにしたというのです。
銀杏と紅葉も枝を這わせて、紅葉する時期にはハメ板の隙間を開閉して、葉が見えるようにもしたというのです。
校舎にあわせて枝を使うのも凄いですが、現在のブラインドのように季節に応じて羽目板の隙間を開閉するというのも、凄い技です。
こんな職人の方がこの街に住んでいたのです。
ところがミステリー仕立てで、報道していたテレビ局の方々は「なんだ、ツリーハウスだったのか」と言う感じてすぐ興味をなくしてしまったのです。
あれだけ騒いだテレビ局がパッタリ来なくなって、町は元の静けさに戻ったのです。
木造校舎の耐震性の問題ですが、三本の樹の根が、校舎全体をしっかり支えていて、何の問題もないと言うことになりました。
三本の樹が枯れない限りは、このままで良いと建築家の方も太鼓判を押してくれたので、町には今も市の唯一の木造校舎として残っています。


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