薬物依存症でホームレスだったストリートミュージシャンが、一匹の野良猫との出会いによって再生していく姿を描いた、実話に基づくヒューマンドラマ。世界的ベストセラーとなったノンフィクション「ボブという名のストリート・キャット」を映画化。
ボブという名の猫 幸せのハイタッチ (A Street Cat Named Bob)
猫というと、気まぐれで何者にも束縛されない自由なイメージがあったので、あまり人になつかないんじゃないか...なんて思っていましたが、決してそんなことはないのだと知りました。本作では、ボブの愛らしい姿やしぐさにハートをわしづかみにされましたが、それ以上に傷ついた人間に寄り添う愛情の深さに心打たれました。
犬の俳優は多かれど、猫の俳優ってめずらしいのでは?と思ったら、演じているのがボブ自身だということにも驚きました。飼い主のジェームズを演じるルーク・トレッダウェイとの息もぴったり合って、その賢さと堂々たる名演技に感心しました。
イギリスの薬物中毒や貧困の問題も描かれ、それらを支える社会福祉制度にも触れられていて、単なる”心温まる話”になっていなかったのがよかったです。ボブの存在はジェームズの生きる力となり、立ち直る原動力を与えましたが、それ以外にケースワーカーや友人の助け、そして最終的には彼自身の強い意志が実を結んだのだと思いました。
舞台はロンドン。ジェームズは少年時代に両親が離婚して精神が不安定となり、ドラッグにおぼれるようになりました。やがて父と再婚した義母から家を追い出され、行き場を失ったジェームズは、観光客が集まるコヴェント・ガーデンでストリートシンガーとして生計を立てるようになります。
食べるものにも事欠く厳しい毎日でしたが、ソーシャルワーカーの助けで低所得者向けのアパートに住めるようになり、ようやく落ち着いたある日、部屋に一匹のとら猫が迷い込みます。飼い主が見つからず、ボブと名付けて世話をするうちに、ボブはすっかりジェームズになつき、どこに行く時も行動をともにするようになります。
ボブのおかげで人気が出て、取材や本の出版の話も舞い込みます。少しずつ人間らしい暮らしを取り戻し、ジェームズはいよいよ薬物中毒を克服することを決意します。よくわからなかったのですが、ジェームズが服用していたメタドンは、薬物依存の治療の過程で使われる薬で、最終的にメタドンを絶ってようやく克服したことになるのですね。
アパートの前では売人がうろうろしていたり、かつてのジャンキー仲間につきまとわれたり...数々の誘惑にも負けず、禁断症状にのたうち回りながら、ジェームズはようやく乗り越えることができたのでした。
ソーシャルワーカーのヴァル、ガールフレンドのベティ、猫好きの優しいおばさん、最後に和解する父親など、脇を固める俳優さんたちも魅力的でした。それからジェームズの歌う歌が、その時々の彼の状況や心情にぴったりマッチしていてすてきだな~と思ったら、これは映画用にプロによって作られたオリジナル曲のようです。^^;
ジェームズご本人も、最後に本屋さんのイベントの時にちょこっと登場しています。
ジェームズ(本人)とボブ