弁理士法人サトー 所長のブログ

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著作権判例百選事件

2017-02-03 11:49:55 | 知財関連情報(その他)

今日は節分ですね。
いつの時代からか「恵方巻」というのが食べられていますが、地元の九州ではこんな風習はありませんでした。普通に、「鬼は外、福は内」と豆まきをしていました。
お寿司は大好きなので、恵方巻でも何でも食べることができれば構わないのですが。

さて、先日、僕以外の弁理士による投稿を行なう、と予告しました。
今回は、その第1弾として、事務所の「小池弁理士」による「著作権判例百選事件」についてご紹介します。

*****

2015年に、有斐閣の著作権判例百選第5版の出版が差止められるという事件が発生しました。これは、第4版の編集著作者の一人であると主張する大学教授Xが、自身が第5版に編者として携わることができず、意に反した状態で第5版を出版しようとする有斐閣の行為が著作権及び著作者人格権を侵害するとして、東京地裁に出版差止めの仮処分を申請したものです。
これに対して有斐閣が保全異議申立てを行いましたが、東京地裁は債権者の訴えを略全面的に認めて仮処分決定が認可されました。更に有斐閣が知財高裁に控訴したところ、昨年11月に有斐閣勝訴の逆転判決が出た結果、第5版は昨年の12月に出版されました。

著作権が身近であり、且つ著作権を内容とする雑誌を出版しようとしていた出版社において、何故このようなイザコザが生じたのかは非常に興味深いところです。個人的にも第5版の出版を心待ちにしていたので、一体何が起きたんだ??という気持ちでした。

公開されている判決文から読み取れる事実経過は、第4版の編集著作者の他の一人であるA教授とX教授との確執というものが窺われてめちゃめちゃ面白いのですが、主たる争点は、「X教授が第4版の編集著作者であるか」という点でした。第4版の表紙には、X教授の名前が編者として記載されています。

この点につき原審では、氏名に「編」を付する表示は、その者が編集著作物の著作者であることを示す通常の方法であり、取り敢えずXは、第4版の著作者(編集著作者)と推定されるとして、その推定を覆す事情が疎明されているかを検討しました。

(1)Xは、執筆者の1名を削除して別の3名を選択することを独自に発案してその旨の意見を述べ、これがそのまま採用された、
(2)第4版は、当初からXら4名を編者として創作するとの共同意思の下に編集作業が進められ、編集協力者として関わったDの原案作成作業も編者の納得を得られるように行われ、原案はXによる修正があり得るという前提でその意見が聴取、確認された、
(3)Xは編者としての立場で、本件原案やその修正案の内容を検討した上、最終的に編者会合に出席し、他の編者と共に判例113件の選択・配列と執筆者113名の割当てを項目立ても含めて決定、確定する行為をし、その後の修正にもメールで具体的な意見を述べ、編者が意見を出し合って判例及び執筆者を修正決定、再確定していくやりとりに参画した。

といった事実から、Xによる(1)の素材の選択には創作性があり、(3)の確定行為の対象となった判例、執筆者及び両者の組合せの選択並びにこれらの配列には、もとより創作性のあるものが多く含まれ、Xが編者としての確定行為によりこれに関与した、などとして、Xは編第4版の著作者の一人であると認定しました。

これに対して控訴審でも、原審と同様にXは第4版の著作者と推定されるとして、その推定を覆す事情の有無を検討しました。
・「編集方針や素材の選択、配列について相談を受け、意見を述べることや、他人の行った編集方針の決定、素材の選択、配列を消極的に容認することは、何れも直接創作に携わる行為とはいい難く、これらの行為をしたに留まる者は当該編集著作物の著作者とはなり得ない」
として、編集過程におけるXの提案等の具体的関与については、
・「斬新な提案というべきほど創作性の高いものとはいい難く」、「その提案に仮に創作性を認め得るとしても、その程度は必ずしも高いものとは思われない」
・「このようなXの関与をもって創作性のあるものと見ることは困難である」
・「第4版の編集過程においてXは、~実質的にはむしろアイデアの提供や助言を期待されるにとどまるいわばアドバイザーの地位に置かれ、X自身もこれに沿った関与を行ったにとどまるものと理解するのが、第4版の編集過程全体の実態に適すると思われる」等と評価され、
「そうである以上、法14条による推定にもかかわらず、Xを第4版の著作者ということはできない」、「Xは、第4版の著作者でない以上、著作権及び著作者人格権を有しないから、抗告人に対する被保全権利である本件差止請求権を認められない」との結論になりました。

編集著作物の編集作業に複数人が関与した際に、各人の作業のどこまでに創作性が認められて著作者と成り得るかは、各作業者間の相対的な関係で決まるため、その見極めは微妙である、と思われます。原審で「創作性あり」としてXを著作者と認めた判示内容も、それなりに説得力があるような気もします。
控訴審では、第5版が発行できなくなると出版社の不利益が大きく、今後も同様な問題で出版が頓挫するケースが出ることを回避するため、出版社側に立った判断をしたのでは?ということも推測されます。
何れにしろ本件は、編集著作物について著作者を認定する基準の1つを提示したと思われます。第6版に本件が掲載されることを期待します。


コメント
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