弁理士法人サトー 所長のブログ

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オープン・クローズ戦略 序論

2015-03-17 15:35:27 | 知財関連情報(特許・実用新案)
すでに使い古されたかもしれませんが、知財分野のはやりの用語として「オープン・クローズ戦略」があります。
特許は、弁理士を受験された方ならご承知の通り、発明公開の代償として排他的な独占権を得ることができます。つまり、独占的な権利をインセンティブとして発明を促し、権利独占の責任として発明公開を義務づけることで、次なる技術の進歩を呼び起こし、技術をどんどんと進化させていく仕組みが特許制度の根幹です。

さて、特許法の根幹を整理した上で、「オープン・クローズ戦略」です。
「オープン・クローズ戦略」は、とらえ方によって随分と意味が異なってきます。
★実施のオープン・クローズ
取得した特許権に関する発明は、特許権者が独占的に実施することができます。また、この発明を他人にライセンスすることで、他人からライセンス収入を得ることもできます。このように、取得した特許権を特許権者が独占的に利用することを「クローズ」、第三者にライセンスすることを「オープン」というとらえ方ができます。
この場合、「オープン・クローズ戦略」は、特許権者が自身が実施を独占して利益を得るのか、第三者へのライセンスも含めて利益を得るのか、を意味するといえます。
・例えば零細企業が爆発的に流行するであろう製品について特許権を取得したとします。零細企業なのでどんなに流行しても月産100個が精一杯。このような場合、ニーズが月に10万個であれば、第三者へのライセンスを上手に利用すれば、特許権者は大儲けできるかもしれません。上記の例でいくと、オープン戦略です。
・一方で十分な生産能力を持っている企業の場合、ライセンスするよりも、自社の実施で独占的に販売した方が、特許権者の大儲けにつながるかもしれません。上記の例でいくと、クローズ戦略です。

★実施料のオープン・クローズ
取得した特許をお金に換えるためには、自己で実施するか、ライセンス収入を得るかを選択する必要があります。自己の実施に物理的な限界があれば、ライセンスを考えることでしょう。このとき、ライセンスをする場合、有料ライセンスを「クローズ」、無料つまりフリーライセンスを「オープン」と捉えることができます。自分が保有している特許を、第三者を含めて自由に実施させることを「オープン」と捉えることができるのです。
・例えば競合する複数の技術があり、より早く普及した方が市場を制する可能性がある、つまりデファクトとなる可能性があるとします。このとき、複数の技術のうちの一つの技術を保有する特許権者は、自己が保有する関連特許のすべてを「無料(フリー)」でライセンスすることにより、一気に市場に自社技術の普及を進めることも考えられます。これは、オープン戦略といえます。この場合、特許権をフリーにする特許権者は、当然ながら普及を目指す技術の核となる部分や周辺技術を特許で固め、フリーの部分の価値を高めるためには自身の特許を利用しなければならない状況に導くことで利益を得る、という難易度の高い仕組みを作ることが求められます。
「QRコード」などは、その成功例でしょう。

★技術のオープン・クローズ
上記の2例は、特許を取得することを前提としたオープン・クローズ戦略です。しかし、もっと上流側つまり発明を作り出す段階からオープンにする技術とクローズにする技術とを選別することも、オープン・クローズ戦略です。つまり、特許出願を行なって独占権を取得する代償として公開を受け入れるのか、そもそも自社の強みである技術であればノウハウとして特許出願をせずに公開そのものを回避するのか、特許出願を行なう前に判断することが求められています。
ここでは、冒頭に述べた特許制度の根幹と矛盾する判断が求められます。

このように、オープン・クローズ戦略は、フェーズによって様々なとらえ方がされています。そして、上記の分類は単なる一例です。今後、技術をともなう事業では、この各フェーズごとのオープン・クローズ戦略を十分に立案することが求められます。
さらに、このオープン・クローズ戦略を国際的な標準化と結び付けていくことで、利益を最大化することも必要です。
オープン・クローズ戦略について有意義な助言ができるかどうかが弁理士に問われる時代になっています。

技術と国際的な標準化との関係については、後日おいおい。
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