OMOI-KOMI - 我流の作法 -

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捨てない生きかた (五木 寛之)

2022-07-16 18:57:38 | 本と雑誌

 いつもの図書館の新着本リストの中で見つけた本です。

 このところ新たな刺激を受けることが減ってしまった五木寛之さんの著作の最新刊ですが、やはり一通りは目を通しておこうと思って手に取ってみました。

 ちょっと前の “断捨離”ブームは収まってきたと思ったら、今回の新型コロナ禍で在宅機会が増えたこともあって“断捨離”がまたブームになったようです。本書のタイトルは、その“逆張り”ですね。

 とはいえ、そこで語られる五木さんのメッセージには、時を経ても大切にすべき “心の持ち様” が記されています。

(p30より引用) ぼくは、孤独を癒やすひとつのよすが(縁)として、モノに囲まれて暮らすということがあると思っています。
 モノに囲まれているということは、じつは〈記憶〉とともに生きているということなのです。

(p31より引用) モノには、「モノ」そのものと同時に、そこから導き出されてくるところの「記憶」というものがあります。モノは記憶を呼び覚ます装置です。
 ぼくはこれを「依代」と呼んでいます。「憑代」とも書きます。

 と、まず五木さんはモノと記憶の関係について言及したあと、続いて「記憶」の意義についてこう語っています。

(p68より引用) 見えない明日に向かって生きていくうえで、自分を後ろから支え、そして背中を押してくれる力を得る。過去の記憶を噛みしめるとは、そういうことなのだとぼくは思います。

 過去の記憶は未来への推進力になるというのですね。

 この過去の記録という点から、もう一か所。
 五木さん所縁の「金沢の歴史」について紹介しているところです。

(p140より引用) 金沢は、たいへん珍しい歴史を持つ町です。大名といった領主のいない、集団指導制にもとづく、いわば共和制が百年近く続いた日本史上初めてと言っていいほどの町でした。一部では新調されて残っていますが、こういった歴史を示す立て札はいずれ撤去されていく傾向にあるようです。

 「立て札」とともに「時代の記録」そのものも捨てられていくのですね。
 やはり、これは寂しいことだと思います。こういった世の中の動きに違和感を感じる五木さんのコメントは、大いに首肯できるものです。

(p143より引用) ダイバーシティ(diversity)といって、最近、多様性が重要だということがよく言われますが、町もまた、歴史的な多様性をもって今そこにあるものです。町全体の厚みあるいは奥行きが感じられるのは、そこに多様な歴史の記憶があってこそでしょう。
 記憶を捨て去っていけば、フラットで平板、平面的で薄っぺらになっていくばかりです。実際、日本の町というものは、どんどんそうなっていっているような気がします。

 奥行きのある空間や時間が作り出す“豊かさ” は、それに触れる人々に “心のゆとり” をもたらしてくれます。

 さて、本書を読んで最も印象に残ったくだりを最後に書き留めておきます。

(p148より引用) 歴史の中には、隠そうとされるもの、忘却が望まれるものが必ず含まれています。モノとして何かのかたちが残っていれば、それを依代にして記憶は蘇り、物語として語られていきます。

 忘れること、消し去られることに抗う「依代」の大切さはここにもあります。

 

 

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〔映画〕バッドボーイズ

2022-07-15 09:57:24 | 映画

 
 「ジェミニマン」を観た後のお薦めで通知されました。
 
 1995年の公開なので、ウィル・スミスにとってもかなり初期の作品になります。
 
 このころのアクション・コメディは、とてもシンプルなストーリーですし、アクションシーンもまだまだ生のスタントが多くてリアリティがあります。
 ヒーローとヒロイン、取り巻く仲間というチーム構成は、素直なエンターテインメント作品には “王道のプロット” で、気持ちいいですね。
 
 時折こういう一昔前のノリの作品を混ぜないと、凝りに凝った映像の連続では少々 “食傷気味” になってしまいます。

 

 

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〔映画〕ナイル殺人事件

2022-07-14 08:22:45 | 映画

 
 最近また新たな作品が制作されたようですが、私が今回観たのは1978年版です。
 
 大分前にも1・2回は観ているので、今回はミステリーの伏線たるディーテイルに気を付けながら観ようと思ったのですが、何のことはありません、結構、大所のストーリーすらも忘れていました。
 
 今回も、よく言えば “ゆったりとした”“抒情的な”、つまるところ、“抑揚のない”“ダラダラとした”展開には、どうにも付き合いきれなかったようです。ところどころで強烈な睡魔が襲ってきて、何度も巻き戻しては抜けたシーンを観直しました。
 
 とはいえ、原作はアガサ・クリスティによる名作ですし、キャスティングも多彩で、当時としては「王道の大作」だったのでしょう。その意味では、歴史的価値はありますね。

 

 

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〔映画〕アベンジャーズ

2022-07-13 11:07:19 | 映画

 
 マーベル・コミックのヒーロー/ヒロインたちが集結した「アベンジャーズ」シリーズの第1作目です。
 
 マーケティング戦略に則った完全な “企画モノ” ですが、ここまで力を入れて作り上げると確かに見ごたえはありますね。
 
 それぞれの役者さんにとっては、演じるキャラクタが良きにつけ悪しきについて自分自身のイメージになってしまうので一長一短あるのでしょうが、その点でのキャスティングは、観る方の立場では、しっくりハマっていたように思います。
 
 観終わっての正直な感想、ストーリーは二の次、意味不明でしたし、映像もちょっと盛り過ぎているように感じました。
 まあ、ともかくオールスター登場の壮大なコミックの映像化ということですね。

 

 

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〔映画〕ジェミニマン

2022-07-12 08:32:47 | 映画

 
 ちょっと前に大きな話題を振り撒いたウィル・スミスが主役の映画です。
 
 プロットは今風でメッセージ性もありますし、ストーリーもプロットを生かした素直な展開で、私としては悪くはないと思うのですが、専門家の評価はとても低いようですね。興行的にも失敗だったようです。
 
 とはいえ、最近の映像技術ではここまでやれるのかという驚きも含め、エンターテインメント作品としてはそこそこ楽しめましたよ。

 

 

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菊池寛が落語になる日 (春風亭 小朝)

2022-07-11 11:38:42 | 本と雑誌

 いつもの図書館の新着本リストの中で見つけた本です。

 最近はYoutubeやPodcastが中心ですが、落語は好きで結構聞いています。好みは、桂米朝師匠古今亭志ん朝師匠といった超オーソドックスなタイプの噺家さんですが、そういった面々のなかでも春風亭小朝師匠はかなり上位に食い込みます。

 この著作は、その小朝さんが、菊池寛の小説を「落語小説」に仕立て直したものが採録されているとのことで殊更興味を惹きました。

 本の構成は、菊池寛の短編小説とそれをモチーフにした小朝さんの創作落語を1セットにして、全9作を並べています。こうやって原作と創作とを密着対置させると、菊池寛作品の着眼を小朝さんが上手く掬い上げて、現代の世情での“小品”に仕上げている様がはっきり分かりますね。とてもチャレンジングで楽しい試みだと思います。

 もちろん、小朝さんの創作パートでは、彼一流のウィットに富んだ語り口がそこここに散りばめられています。たとえば、

(p12より引用) ある時、師匠に召し上がって頂きたいものがあって、根津のマンションに伺ったんですよ。 眠そうな顔で出てきた師匠とひとしきり話をしたあとでひと言。
「お前は俺が会いたいと思う時にくる奴だな」。どうですか、皆さん。キザでしょう。この台詞は女性の皆さんも使えますから、ぜひここイチバンで使ってみてください。男性と電話で話したあとに、「あなたって、私が声を聞きたいと思った時にかけてくる人ね」。こう言われたら男はキュンとしますよ。今わの際に「お前には色々と世話になったな」「あなたって、私が死んでほしい時に死んでくれる人ね」って、これはダメですけど。まぁ、人の上に立つ人間は、下の者に対する言葉の配慮がいかに大切かということですね。

 といった感じですが、やはりこのあたりは、小朝さんの高座の「口演」で聞きたいですね。

 

 

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〔映画〕ブレイン・ゲーム

2022-07-10 11:40:31 | 映画

 
 ちょっと前のスリラー映画です。
 
 主人公はどうして途中で捜査から降りようとしたのか、結局、犯人は最終的にはどうしようとしていたのか・・・、そもそもプロットの掘り下げが中途半端なうえに、ストーリー展開にも面白みがないので、正直なところ “かなり物足りない出来”の作品になってしまいました。
 
 主演のアンソニー・ホプキンスの役どころも、彼が演じるのであれば、映像効果ではなく演技で表現して欲しかったですし、コリン・ファレルに至っては、なぜ彼なのかというほど存在感を感じませんでした。
 残念ですね。

 

 

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〔映画〕アジャストメント

2022-07-09 09:12:07 | 映画

 
 大分以前に一度観たことがある作品でした。
 
 「運命の調整」という着想はなかなか興味深いものがありますが、なかなか面白い物語に仕立て上げるというのは難しいですね。
 
 本作品の場合、 “調整を超えた運命” の必然性に今ひとつ納得感がありませんでした。考えてみれば “運命” なのですから、そこに理由はないのかもしれません。
 
 そのあたりのプロットやストーリー展開の物足りなさを、マット・デイモンとエミリー・ブラントの共演という豪華なキャスティングでどの程度埋め合わせできたのか・・・、私の場合、二人とも好きな役者さんなので、それなりに楽しめました。

 

 

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〔映画〕はじまりのうた

2022-07-08 10:24:41 | 映画

 
 見る前からある程度は想像していました。よかったですよ。
 
 こういった素直なつくりの作品は私の好みです。本作で大きなウェイトを占めている「音楽」の効果も程よいレベルでしたね。
 
 キャスティング面では、音楽プロデューサー役のマーク・ラファロ、主人公の友人役のジェームズ・コーデンがバッチリ役柄にはまっていましたし、やはり、何といってもキーラ・ナイトレイが抜群でした。
 
 こういったナチュラルテイストの彼女も素晴らしいですね。最後、“どアップ” のラストシーンも見事に絵になっていました。

 

 

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〔映画〕ローマに消えた男

2022-07-07 10:27:13 | 映画

 

 イタリア映画です。

 映画もこの程度の尺(90分ほど)なら、疲れなくて集中して楽しめます。
 よかったですよ。こういった “粋なテイスト” のエンターテインメント作品は久しぶりですね。

 変に観客に媚びたような演出もなく、対照的な二人の人物が織りなすエピソードが進んでいきます。それぞれに絡む人々も最小限かつ効果的でした。

 そして極めつけは、ラストシーン。観る人によっていずれにも解釈でき、見事な余韻を漂わせていました。
 私としては「エンリコに一票」ということにしておきます。

 

 

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これでいくほかないのよ (片岡 義男)

2022-07-06 10:00:13 | 本と雑誌

 

 近所の図書館に行ったとき、新着書の棚で見つけた本です。

 片岡義男さんと言えば、私ぐらいの年代の者にとっては「スローなブギにしてくれ」「メイン・テーマ」といった作品の名前がサッと頭に浮かびます。とはいえ、ちょっと自分でも意外なのですが、雑誌のエッセイ等でなく一冊の片岡さんの著作を読むのは初めてかもしれません。

 短編小説集なので引用しての紹介は控えますが、これが「片岡ワールド」なんでしょうね。

 お歳を話題にするべきではないのだと思いますが、1939年生まれとのことなので齢80を越えて、それでいてこういったテイストの作品を生み出し続けているとは正直驚きを禁じえません。

 モチーフの斬新さとシーンの切り取り方の鋭さは、なるほど確かに“お見事” といった印象ですね。

 

 

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〔映画〕GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊

2022-07-05 11:08:23 | 映画

 
 人気コミックを映画化した1995年の作品です。
 
 原作自体、世界観としては「マトリックス」にもつながる秀逸なもので、さらに、押井守監督の手により素晴らしい仕上がりになりました。30年近く前のアニメ作品とは思えない水準だと思います。流石ですね。
 
 声優の方々も、大塚明夫さん、 山寺宏一さん、玄田哲章さん、大木民夫さん・・・といった今では “レジェンド” と呼ばれる錚々たる顔ぶれで、これもまたたまりません。

 

 

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〔映画〕ストックホルム・ケース

2022-07-04 16:20:23 | 映画

 
 軽めのサスペンス映画です。
 
 「ストックホルム症候群」をモチーフにしているので、もっと「人質の心理描写」にウェイトをおく演出もあったのだと思いますが、あまりそこへのこだわりはなかったようです。
 
 キャスティング面でも、イーサン・ホーク、ノオミ・ラパス、マーク・ストロングといった本格派の役者さんたちが出演していたので、やる気になればできたはずですが、あえて本作品ではそのあたりの深堀はしていません。
 
 徒にドラマチックなシーンにしなかったラストも好ましいですね。

 

 

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〔映画〕ヘッドハンター

2022-07-03 11:40:17 | 映画

 
 ノルウェー・ドイツの共同制作という珍しい映画です。
 
 ともかくプロットもストーリーも奇妙奇天烈ですね。よくもここまで構成を思いつき、エピソードを練り込んだと評価すべきか、よくもここまでご都合主義に徹して物語を翻弄したと呆れるべきか・・・、観る人によって大きく受け止め方は分かれるでしょう。
 
 結構ショッキングな映像も出てくるので、製作者としてはリアリティを意識したのだと思いますが・・・。
 
 私の印象はというと、「ちょっとお腹一杯といった感じ」でした。
 ただ、批評家の評価は極めて高いんですね。その点では、私の鑑賞眼は “全くあてにならない” ということです。

 

 

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〔映画〕ちょっと思い出しただけ

2022-07-02 11:33:05 | 映画

 
 池松壮亮さんと伊藤沙莉さんというちょっと気になる役者さんが主演の作品です。
 
 いくつものシーンやそこで交わされる台詞のやり取りは、とても印象的で秀逸なのですが、それらを並べて “流れ” としてみると、どうにもしっくりこないんですね。ぎこちなく、物語として今ひとつ分かりにくいのです。
 
 時間を遡って見せていくという工夫は面白いと思います。
 ただ、その遡っていく時間の節目がはっきりしないので、せっかくのエピソードの意味やつながりがぼやけてしまいました。

 

 

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