2008年から2009年にかけて放送されたNHKスペシャル「沸騰都市」。
本書は、同番組の取材陣による書き下ろしです。ちょうど、リーマンショック以降の世界的な金融危機を挟んだタイミングを舞台としているので、内容は、その前後をフォローした興味深いレポートになっています。
「沸騰都市」として取り上げられたのは、ドバイ・ロンドン・ダッカ・イスタンブール・ヨハネスブルク・サンパウロ・シンガポール、そして東京の8都市。
それらの中から、特に私の興味を惹いた部分を紹介します。
まずは、「第1章 ドバイ 砂漠にわき出た巨大マネー」の章。当時の典型的な不動産ブローカーであるイラン人投資家ラミン氏の取材から。
(p47より引用) 当のラミンはドバイがバブル状態にあることをはっきりと自覚していた。
「とても危険なことがあります。不動産購入者の八割が投資家だということです」
自分も含めた投資家の目的はただ一つ、金だけだと言う。ある時点で多くの投資家が売りに回れば、間違いなく物件の価格は暴落する。
そして、ドバイの不動産バブルの崩壊。それでもドバイでは、下落した物件を買い漁るためのファンドが動いているとのこと。どんな状況に陥ってもマネーゲームは続くようです。
次は、「第3章 ダッカ “奇跡”を呼ぶ融資」の章。貧困解消を目的として設立されたNGOバングラデシュ農村向上委員会(BRAC)は、貧困層自立支援のために「寄付ではなく融資」という方法を採用しました。
(p144より引用) 当初からこの組織が際立って現実的だったのは、貧困の解消のために、人々に融資をするという発想である。それは決して施しではなく、あくまで金銭の貸借である。つまり、貧困層とはいえ、借りた金は利息を付けて返すということを徹底し、それをシステムとして構築したのである。
例の「マイクロクレジット」です。融資という体裁は、何としてでも貧困から抜け出そうという向上意欲のある人を集めることになります。
(p145より引用) 担保を要求する代わりに、マネージャーと呼ばれる担当者が、個別に面接を実施。しっかりとしたモチベーションと熱意を基準に融資の可否を決める。賭けに近い融資と思われるかもしれないが、返済率は限りなく百パーセントに近い。その結果、利子は再び貧困解消のためのプロジェクトに投入されるという、正の連鎖が連なっていくのである。
向上心という観点からは、「第6章 サンパウロ 富豪は空を飛ぶ」の章で紹介された新垣宏助氏の生き方も感動的です。
日系二世の新垣氏の両親は90年前、移民としてブラジルにやってきました。新垣氏の幼い頃は貧困にあえぐ生活でした。その後、幾多の苦労の末、エタノール生産で富豪となったその新垣氏ですが、「成功の秘訣」について問われたときの彼の言葉です。
(p348より引用) 「成功ですか?まだ頑張ってる、まだまだね、お父さんの時代からね、頑張ってる。ゆっくりです。心配だからね、多くやると心配だからね、ゆっくり、ゆっくり。まだまだですよ。まだ頑張っている最中ですよ。本当に成功したらね、もう、やめますよ・・・まあ、頑張らないとね、つぶれますからね、頑張らないと。従業員の皆さん、子どもさん、嫁さんがおるでしょ。だから大きな責任がありますね、心配だから頑張らないといけないんです」
新垣さんは81歳(取材当時)。座右の銘は「ゆっくりしっかり」とのこと。
さて、最後にご紹介するのは、「第7章 シンガポール 世界の頭脳を呼び寄せろ」の章で紹介された「厳しい現実のコントラスト」です。
故郷バングラデシュに教育施設を作ることをみて、その資金作りにシンガポールに働きに来ていたデロワール・ホセン。そういう外国人労働力を、超合理主義国家シンガポールは景気変動の調整弁として扱います。
バングラデシュに送り返される直前のホセンは、こういい残しました。
(p408より引用) 「でも、私は夢を諦めるつもりはありません。また方法を探して、バングラデッシュでお金を作るか、またここにやって来るか、何としてでも学校を作ります。そこで子どもたちを教えます。私の生徒たちは、私のような単純労働者ではなく、技術のある人材としてシンガポールでも、どの国でも大切に扱われるように育てます」
本書では、世界各地の「沸騰都市」の中で、バブルで沸き返りそして金融危機で転落した人々を描くとともに、その対極として、夢に向って堅実に歩んでいる貧困層に属する人々も丁寧に紹介されています。
沸騰都市のひとつ「東京」に住んでいるひとりとして、改めて、いろいろなことを真剣に考えさせられます。
沸騰都市 価格:¥ 1,995(税込) 発売日:2010-02-25 |
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