本書は、エーゲ海周辺の遺跡を巡る紀行文ではありますが、併せて、立花氏による哲学入門テキスト的な色合いの記述も見られます。
立花氏は、終章でターレスについて触れています。
ターレス(Thales 前625頃~前546)は、イオニアのミレトスで生まれた古代ギリシャの哲学者です。ギリシャの七賢人のひとりに数えられる「ギリシャ哲学の始祖」と言われる人物です。
(p292より引用) ターレスの「万物のもとは水」というコメントの内容が高く評価されて、彼が哲学の始祖呼ばわりされたというよりも、ターレスのこのコメントによって、一つの独特なものの考え方の範型が示され、それに刺激され、それにならって、あるいはそれに反発したりして、ものごとをより深く考え、議論をたたかわす一群の人々が生み出されたこと、その全体が評価されて、ターレスが哲学の始祖呼ばわりわれるようになったということだろうと思う。
ここで大事なのは、哲学は、単独者の個人的な知的営為として成立するのではなく、複数者の交わす議論の中に成立するということである。
つまり、哲学というのは、本質的にディアレクティケなのである。
この他にもターレスの多彩な才能が紹介されています。
天文学、幾何学、物理学、土木工学等々・・・。中でも有名なのが、前585年5月28日に起こった日食を予言したことでしょう。
ところで、本書の序章。
序章とはいえ約100ページのボリュームです。須田氏の写真に立花氏の短めのテキストが重ねられた体裁になっています。
須田氏の写真は、立花氏にこういった文を添えさせました。
(p51より引用) 遺跡を楽しむのに知識はいらない。黙ってそこにしばらく座っているだけでよい。
大切なのは、「黙って」と「しばらく」である。
できれば、二時間くらい黙って座っているとよい。
そのうち、二千年、あるいは三千年、四千年という気が遠くなるような時間が、目の前にころがっているのが見えてくる。抽象的な時間ではなく、具体的時間としてそれが見えてくる。
千年単位の時間が見えてくるということが、遺跡と出会うということなのだ。
なんとなく、分かるような気がします。
一度は、こういった「本物経験」をしてみたいものです。
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