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ローマの懐 (ローマから日本が見える(塩野 七生))

2007-02-15 00:20:49 | 本と雑誌

Caesar  塩野氏の本は、昨年読んだ「マキアヴェッリ語録」以来です。

 塩野氏は、この本で、王政から共和政を経て帝政に至るローマの歴史を、その時代時代の代表的人物を紹介しつつ辿っていきます。

 その中で塩野氏は、「同化」というコンセプトを切り出します。
 この「同化」が、政治体制は変化しつつもローマの生き方の底に流れる基本姿勢であると説くのです。

(p51より引用) 「敗者をも同化させる」生き方こそが、のちのローマ帝国を産み出す原点となったというわけなのです。

 ローマは、対立国との戦後処理で「敗者も受け入れる」姿勢を示しました。

 こういった同化政策は、外交政策に限らず内政においても登場します。
 紀元前4世紀、ケルト・ショックからの回復にあたっての元老院改革では、ローマは、平民を貴族に同化させる道を選びました。

(p112より引用) 元老院議員をはじめとする国家の要職すべてを平民出身者にも開放することで、貴族と平民という階級の違いは事実上、意味を持たなくなった。
 能力と実績があれば、元老院議員にもなれるということは、見方を変えれば、平民をエリート階級に取り込むことに他なりません。・・・
 ・・・どの社会でもかならず起こると言ってよい階級対立を、こうした「取り込み方式」で解消しようとしたのはローマ人のみでした。・・・階級対立の解消は単に国家分裂の危機を防いだばかりか、かえってローマを強くするという結果につながったのです。

 ローマの歴史家・伝記作家のプルタルコスもこう語っています。

(p121より引用) 歴史家プルタルコスは、ローマが他を圧して大になった理由を次の一言に要約しました。
「敗者さえも自分たちに同化させる彼らのやり方くらい、ローマの強大化に寄与したことはない」

 かのカエサルも、この「ローマ古来のやり方」を踏襲しました。
 地中海をも内海とする巨大な版図をもつに至ったローマは、従来の中央集権的統治方法ではもはや対応しきれなくなったのです。
 ただ、そこで大胆な「同化策」に踏み切ったのは、カエサルの抜きん出た慧眼というべきです。

(p221より引用) カエサルはガリアを征服はしましたが、だからといってガリアを征服し支配し搾取する地とは考えなかった。たとえ民族や文化や風習が違っていても、ひとたびローマの覇権下に入れば、そこはもう国家ローマになる。このやり方こそが結局はローマに利益をもたらす最良の方法だと知っていたのです。

 「敗者との同化」に加え、ローマには、もうひとつの懐の広さがあります。

(p118より引用) 「組織のローマ」を語る際に欠かせないもうひとつのことは、ローマではたとえ戦闘で敗れた場合でも敗軍の将を罰しなかったということです。
 ・・・というのは、そもそもローマ人の観念からすれば、敗将を解任したり、あるいは処罰したりする必要など、最初から考える必要もなかったからです。・・・すでに彼は、敗将となった時点で、恥という罰を与えられているのですから。

 敗者の同化策も「敗者を信じる」という信念に基づくものですが、この信賞必罰の否定も「失敗した者を信じる」という姿勢の表れです。

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価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2005-06

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