いつも利用している図書館の新着本リストで目に付いた本です。
野中郁次郎教授の著作は、今までも「失敗の本質」を皮切りに「知識創造企業」「戦略の本質」等々、何冊か読んでいます。
本書は、数々の著作で語られた野中教授の戦略理論等を俯瞰するとともに、それらの研究の背景やプロセス等につき、野中教授自身が語ったものだということで大いに関心を持ちました。
予想どおり興味を惹いたところは数多くありましたが、その中から特に印象に残った部分を書き留めておきます。
まずは、名著「失敗の本質」誕生に至る防衛大での共同研究の様子です。
(p44より引用) 共同研究に取り組む過程で実感したのは、研究分野による作法の違いです。研究チームは歴史研究者と組織論の研究者に大別できました。歴史研究者は、歴史は個別の出来事の連なりであり、普遍化よりも、特殊性、独自性、個別性を強調するきらいがありました。個別事例の発掘と記述こそが大切であり、それ以上の説明は不要だと考えるのです。
一方、私を含む組織論者は、個別の出来事の記述では満足せず、その背後にある構造をつかんで理論にしようとします。歴史研究者たちは反発しましたが、個々の事例を取り上げて丁寧に議論するうちに両者は歩み寄るようになりました。
・・・特殊と普遍がぶつかり合ううちに、両者のバランスが取れた研究活動になっていきました。
そして、この共同研究の書籍化にあたっては、文章表現の統一という点で戸部良一氏が、理論一貫性の担保については野中氏が全体調整を行うというフォーメーションで取り運んだということです。
もうひとつは、「失敗の本質」で説かれている「対米国連戦連敗の要因」について一言で語っているくだりです。
(p195より引用) 何よりも致命的な瑕疵は、緒戦の勝利に甘んじ、無敵艦隊と称して驕慢に陥り、作戦・戦闘の軌跡を謙虚かつ真摯に反省し学習する知的な努力を怠ったことです。日本軍は米軍に知的に敗れたのです。
この点は、本書の中で繰り返し触れられているのですが、併せて、その要因は、戦後の日本企業や組織にも継承されていると指摘しています。
まさに、今日の未曽有の危機に相対しての政治・行政の迷走状況を見るに、その構造的欠陥は旧態依然としたもので、野中教授の主張に大きく首肯するところです。さらに、今回のケースは“過去の成功体験”に根ざしていない分、大きく “知的劣化”しているとさえ言えるでしょう。
さて、本書を読んでの感想です。
タイトルだけみると野中教授の代表的著作「失敗の本質」を取り上げての回想録的イメージを抱きますが、実際は、「失敗の本質」から「知識創造企業」「戦略の本質」等、野中教授による主要著作での論考を辿った“野中教授の知的探究半生記”といった趣きのものでした。
個々の著作を取り上げた各章では、その著作で展開した立論を概説していますが、さすがにエッセンスに絞っているので詳細を理解するには難しいところもありました。やはり、そこはそれぞれの著作そのものに当たるべきですね。
私の場合は、本書で取り上げられた著作のそこそこのものは以前読んだことがあるだけに、かえって自らの理解力の至らなさを痛感した次第です。情けないことです・・・。
私の場合、まったく詳しいわけではありませんが、特に太平洋戦争における大本営・陸軍・海軍の戦略/戦術の決定や実行プロセスには大いに驚かされます。
戦略論・リーダーシップ論・組織論・日本人論等々さまざまな切り口で取り上げられますが、ともかく、当時の意思決定の歪みが筆舌に尽くしがたい悲劇を招いたことは間違いのないところですし、その犠牲の大きさを思うと本当に慙愧に堪えません。
自分はミッドウェー海戦の敗因分析について、昔から映画や架空戦記、旧海軍将校の著作を良く読みます。
「戦術では戦略を補う事が出来ない。」「人事は戦略を越えるものである。」という文言がそれらの著作に出てきますね。
ミッドウェー攻略の必然性。艦隊司令長官を卒業年次や学校の成績で決めた事など。