レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。
全世界のメールや通話情報など大量の情報がNSA(米国国家安全保障局)により監視・収集されていたという驚きの事実。その始まりは、やはりあの事件です。
(p87より引用) 世界のインターネットユーザーに対する無差別監視-その起源は正確に特定することができる。2001年9月11日、全米を震撼させ激高させた、あの残虐なテロの日である。その後の10年間で、個人のプライバシーを侵すのもやむなしという政治的な合意が英米両国で新しく築かれた。
この実態が、エドワード・スノーデンの登場により白日の下にさらされたのです。
ただ、スノーデン以前にも部分的には報道されたことがあります。
2005年には「ニューヨーク・タイムズ」に「ブッシュ政権、裁判所の許可なく電話を盗聴」という記事が出ました。
(p95より引用) ブッシュは「ニューヨーク・タイムズ」を非難する一方、・・・さらに抜け目なく、プログラムのなかで同紙が報じた部分だけを認めるとともに、批判者たちを守勢に立たせる絶妙なネーミングを新たに考え出した。その名は「テロリスト監視プログラム」である。
当時は「テロ対策」という理由が、以前の常識では実行できなかったようなアクションを実施にうつす上で、”水戸黄門の印籠”のような効果をもっていました。この口実のもと、9.11以降、ありとあらゆる人々を対象とした信じがたいような情報収集が、google、facebook、microsoftといった企業の協力の下で為されていました。
そういった状況に対し超弩級の爆弾を落としたスノーデンは、しかし、彼なりの理想をもった愛国者でした。
(p110より引用) 彼は自分の身にはろくなことが起こらないだろうと覚悟していたが、決断は悔いてはいないし、「発言や行動のすべてが記録される」世界になど住みたくもないと言った。・・・
「アメリカは基本的によい国です」と彼は述べた。「すぐれた人々がいます。でも、いまの権力構造は自己目的化しています。全国民の自由を犠牲にして、みずからの権力を拡大しようとしています」
方法については、もちろん様々な立場から様々な評価がなされています。また動機の面からも「理想が高潔であれば、何でも許される」というわけではありません。
しかしながら、この事実が、全く人々の目から隠蔽されていてよいものではないでしょう。如何にスノーデンの明らかにした実態が極めて高度な政治的事項であったとしてもです。
なかでも、ドイツのメルケル首相の携帯電話の情報入手は、ヨーロッパ諸国にとっては大変ショッキングは事件でした。
(p270より引用) ヨーロッパの議員はデータプライバシーに関する厳格なルール作りに賛成した。グーグルやヤフー、マイクロソフトなどの企業が集めたEUのデータがNSAのサーバーに送られないようにするのが狙いである。この提案はPRISMへのあからさまな抵抗であり、EUの情報をEU以外の国と共有することを制限しようとするものだった。
そして、スノーデン後の世界は動き始めました。
(p271より引用) このEUの反応は、インターネットの「非アメリカ化」をめざすスノーデン後のトレンドの一つである。・・・
新たなキーワードは「サイバー主権」。米国に不満を持つ同盟国の共通の目標は、NSAが国家データにアクセスしにくくすることだ。
さて、本書を読んで、最も印象に残ったくだりです。
「デア・シュピーゲル」とのインタビューで「なぜ米国スパイはメルケル首相を盗聴したのか」と問われた際、ジョン・マケイン上院議員はこう答えました。
(p294より引用) 「なぜそうしたかというと、そうすることができたからでしょう」
この台詞は、ある種のスパイ共通のメンタリティを表わしている点でも興味深いものですし、また、多くの人々が極めて重要な保護されるべき権利だと考えている「プライバシー」を、マケイン氏自身どう捉えているかを推し量る意味でもなかなか深い?(あるいは、軽い?)言葉だと思います。
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