衆議院議員選挙・東京都知事選挙と選挙月間の12月、妻が読み終わったというので、私も手にとってみた本です。
鈴木宗男氏、正直なところ私はあまりいい印象は持っていないのですが、“政治玄人”の評価は高いですね。いろいろな点でちょっと気になる政治家ですし、本書は、鈴木宗男氏本人の筆によるものなので、それも興味を惹いた理由のひとつです。
佐藤内閣以降、それこそ数多くの政治家が実名で登場しますが、それら鈴木宗男氏が記す何人かの政治家のエピソードや人物評の中からいくつか書き留めておきます。
まずは、大平内閣時の官房長官だった伊東正義氏について、大平氏の急逝を受け次の総理を選ぶにあたって・・・。
(p99より引用) 「そのまま伊東さんで」という声が出たが、伊東さんは自分から断ってしまう。・・・平成元年にリクルート事件で竹下登総理が辞任したときも、「金権腐敗に無縁だから」という理由で後任に名前が挙がる。しかし、
「本の表紙を替えても、中身を変えなければダメだ」
という名言を吐いて、またも断った。総理就任を断わった政治家は何人もいるが、二度断わったのは伊東先生くらいではないか。
また、件の田中眞紀子氏に触れたくだり。小泉政権で外務大臣に就任したころのことです。
(p210より引用) 「次の総理は田中眞紀子がいい」というのが、あのときの国民の声だ。10年経ったいま、誰がそんなことを望むだろうか。・・・
眞紀子さんの資質のなさ、何より不勉強であることは、就任直後から明らかになった。
そして、小泉純一郎氏。
(p221より引用) 小泉さん以後、ポピュリズムと劇場型政治が日本をおかしくした。党内基盤が弱い政治家は、どうしてもマスコミを誘導して求心力を持とうとする。過激なことを言わざるを得ない。しかし過激な弾を撃ちつくし、あとはジリ貧だ。
こう続いてみてくると、政界というひとつの生態系の中で、政治家の育成・鍛錬というプロセスが急激に劣化してきていると感じざるを得ないですね。もちろん、この政治家の質の低下は、選挙民の政治意識の水準を反映するものではありますが、それにしても酷いです。
さて、本書ですが、本人による著述であるだけにバイアスはかかっていますし、それは当然です。それらを踏まえても、本書で述懐しているように、鈴木宗男氏が自らの政治的信念に基づき、外交問題を中心に大きな政治的判断に関わったことは事実でしょう。また、世間に流布されている風評もいくつかのものは捏造や誤解に拠るものだったのだと思います。
ただ、鈴木宗男氏が属し肯定している旧態然とした「永田町の世界」はやはり望ましい姿ではありません。
きれいなのか汚れているのかはともかく、いずれにしても「カネ」は影響力行使の有益な手段でありつづけ、民意とは全く別のraison d'êtreによる「ボス」の差配が通用する政治手法・・・、それを肯定する限りは、やはり私は支持しません。
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