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近い目標 (良い戦略、悪い戦略(リチャード・P・ルメルト))

2013-06-09 20:43:15 | 本と雑誌

General_motors  著者の説く良い戦略は、ザクッと言えば、「最も効果に上がるところを見定め、そこに持てる力を集中投下する」ことです。そして、その“持てる力”というのは「自らの強み」でもあります。

 本書の後半では、この「強み」を活用する手立てについて具体的に示しています。その中のひとつが「近い目標」を定めるというものです。

 その章での「リーダーの資質」に関する指摘、多くのリーダーが陥りがちな陥穽を著者はこう語っています。

(p152より引用) 何に取り組めばよいのか曖昧なままにして、むやみに高い目標を掲げてしまうことが多い。「最後の責任は自分がとる」と言うだけでなく、近い目標を設定してチームが動けるようにすることがリーダーの大切な使命である。

 このアドバイスはとても実感覚に合った的確なものですね。
 多くの場合、長期的な高い目標を掲げても、言いだしっぺのリーダーがその達成を約束した期限まで、その責任ある立場に残っていることは稀です。仮に残っていたとしても、その評価を正しく受けることもあまり見かけません。

 もうひとつ、著者が指摘する「近い目標」に関する実践的アドバイス。不透明な将来に対応するための「足場を固める」ステップです。

(p152より引用) 戦略本の多くが、状況が流動的になったらリーダーはより先を見越して手を打たなければならない、と説く。だが、このような指示は論理的とは言えない。状況が流動的になればなるほど、先は見通しにくいからだ。したがって、絶えず変化する先行き不透明な状況では、むしろより近い戦略目標を定めなければならない。

 状況の変化の多様性を前提に、とるべき選択肢を増やしておくのです。そして、変化を敏感に感知しては、その対応策をきめ細かく発動していくというやり方です。深い霧の中のワインディングロードを、目の前に見えるセンタラインに合わせてこまめにハンドルを当てて進んで行く感じですね。

 さて、実際の戦略の実行にあたって、こういった「近い目標」の重要性を指摘する一方で、著者は、戦略思考の基本として「近視眼的思考」は明確に否定しています。

(p345より引用) 戦略的になるということは、近視眼的な見方をなくすということである。・・・だからと言って遠い将来を予見する必要はない。あくまでも事実に基づいて、産業構造やトレンド、競争相手の行動や反応、自社の能力やリソースを観察し、自分の先入観や思い込みをなくしていく。

 なまじ「経験」や「知識」がある(と思い込む)と返って「過信」や「内部者の視点」で戦略の策定や評価をしてしまいます。

 こういった思考方法がもたらした最近の大きな失敗例が、信用バブルの崩壊による「世界金融危機」でしょう。

 金融工学の専門家が先導したこの金融危機のあり様は、結果論的に振り返ってみると、過去に何度も経験した「危機」の教訓を持ってすれば、十分に予測しえたプロセスを辿ったものでした。
 専門家であればあるほど、自ら陥りがちな陥穽を避ける謙虚な姿勢が必要となります。

(p354より引用) 第一は、近視眼的な見方を断ち切り、広い視野を持つための手段を持つこと。たとえばリストは良い方法である。第二は、自分の判断に疑義を提出する習慣をつけること。自分からの攻撃にすら耐えられないような論拠は、現実の競争に直面したらあっさり崩壊してしまうだろう。第三は、重要な判断を下したら記録に残す習慣をつけることである。そうすれば、事後評価をして反省材料として活用できる。

 「戦略」とその実行は、自らの判断を「仮説」とし、それを「検定」していくプロセスでもあります。

 ここで著者が示している「3つの習慣」は、その最初の判断である「仮説設定」において、目先のことや最初の思いつきに迷わされないための具体的な方法なのです。
 

良い戦略、悪い戦略 良い戦略、悪い戦略
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2012-06-23


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