芥川賞作家の小川洋子氏が、7人の学者・専門家のもとを訪れ、興味の赴くままに科学の世界を尋ね巡ります。
そこには、必ず予想外の大きな驚きがあり、知れば知るほど人知を超えた自然の力に圧倒されるのです。
小川氏が選んだ対象は、必ずしもポピュラーなものではありません。むしろ、普段は晴れやかな光を浴びないようなテーマです。しかしながら、むしろそれだからこそ、新たな発見もあり、その発見に導いてくれる研究者の方々の真摯な姿勢に惹かれるのだと思います。
それらの魅力的な研究者のお一人、筑波大学名誉教授村上和雄氏の、科学者ならではの驚きの言葉です。
(p78より引用) 「ある時私は、DNAに書かれたA、T、C、Gの文字を読む技術はもちろんすごいけれど、もっとすごいことがあると気づいたんです。それは、読む前に既に書いてあったということです。・・・書いた人と読んだ人、どちらが偉いか、それは書いた人の方が偉いんです。しかも単に書き込むだけでなく、見事な秩序のもとで整然と休みなくコントロールしている。これは人間の知恵や工夫でできるものではない。人間を超えた存在、“サムシング・グレート”の働き、としか言いようがありません」
科学者は理詰めで物事を考えます。しかしながら、その対象ははるかに深く大きな存在です。そういう対象を摑まえるためには、尋常の思考の連鎖では不可能なのでしょう。
村上氏は、「真理の発見」についてこう語っています。
(p82より引用) 「要するに大きな仕事は、あるところから常識を超えないと駄目なんです。理性だけではないんです。ジャンプするのです。証拠はあるの?と言われたら証拠はない。しかし必ずこうなるはずだ、あるいはならせてみせます、という研究者の直感や心意気が大切になってくる。・・・」
・・・新しい真理を発見しようと思ったら、理屈や常識を飛び越える感受性が必要になってくる。だからこそ、優れた科学者であればあるほど、豊かな情緒を備えている。
豊かな情緒は、まさにその人の人柄に表れるものです。
東京大学総合研究博物館教授の遠藤秀紀氏は、科学に対して謙虚です。
(p150より引用) 先生はゴールテープを切ることを目的としていない。自分で定めたゴールテープを自分で切ったところでたかが知れている。自分の脳みそを超えたところにある真実へたどり着くためには、次の世代にバトンを渡さなければならない。自らが最終ランナーになってしまっては、決して真理はつかめない。遠藤先生の研究の基本は、そうした謙虚さによって支えられているのだ。
自らの力への自負はもちつつも、過去から未来への知の流れの中で、自らの位置づけを客観化しています。
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