「スモールワールド・ネットワーク」の基本構造は、大きく2つの類型に分かれるようです。
いずれもクラスター間をつなぐリンクがポイントです。
(p188より引用) どうやらスモールワールド・ネットワークには二つの類型があるようだ。すべての要素がほぼ同数のリンクをもっている平等主義的ネットワークと、リンク数に大きな差があることを特徴とする貴族主義的ネットワークである。・・・貴族主義的なネットワークのいずれにも、おそらく金持ちほどますます豊かになっていった結果であると思われるハブ、すなわちコネクターが存在している。
「スモールワールド」の特性を有するネットワークにおいて、それを構成するエンティティの性質・位置づけは各々異なります。したがって、その多様なエンティティの個々の変化(増加・減少・消滅等)は、想定以上の複雑な影響をネットワーク内に及ぼします。
(p242より引用) 食物網内の大半の種は互いに『近辺に』位置し、おどろくほどの『スモールワールド』に存在していると考えられる。・・・このことは、種を加えたり、取り除いたり、あるいは変更したりした場合の影響が、大きく複雑な生物群集内部に広範かつ急速に伝播していくことを物語っている
また、このネットワークへの影響は漸進的なものではありません。液体から固体に変化するような「相変化」が起こります。
この場合、ある一定の閾値(ティッピング・ポイント)を越えるかどうかがポイントとなります。
(p255より引用) 『ティッピング・ポイント』の中心をなす考えは、些細で重要とは思えない変化がしばしば不相応なほど大きな結果をもたらすことがあるというものだ。
変化が閾値内におさまっていれば、部分の変化はネットワーク内で自然に抑え込まれます。
逆に、閾値を越えると、部分の変化は一気にネットワーク内に伝播・拡大するのです。
本書では、「スモールワールド・ネットワーク」の考え方を物理学・生物学といった自然科学の分野にとどまらず、社会科学の範疇にも応用できないか試みています。
たとえば、「2:8の法則」として知られる「パレートの法則」についてのフレーズです。
(p307より引用) パレートの法則は、個人に関するものではない。この法則が表しているのは、多数の個人が集まった集団レベルで出現するパターンである。・・・おそらくパレートの法則は、人間の文化や行動、知性の特徴を反映したものではなく、むしろもっと根源的な組織化原理のようなものがもたらした結果なのだろう。
このパレートの法則への適用にみられるように、本書の主張の興味深いところは、「スモールワールド・ネットワーク」の社会科学への影響を、人間の意思のレベルよりもさらにベーシックなものとして位置づけている点です。
たとえば、最近流行の「行動経済学」に関しても、その行動の源泉は、個々人の意思ではなく集団のネットワーク構造によるとの考え方を示しています。
社会の基本構造を「スモールワールド・ネットワーク型」と想定すると、その特質を理解したうえでの効果的な行動が可能になります。
(p336より引用) 社会的な事例では、スモールワールド・ネットワークはクラスター化と個々のクラスターどうしを結びつける弱いリンクがともに有効に組み合わされているように見える。クラスター化は、社会という織り地をきめ細かいものにするのに寄与し、社会資本の形成を可能にする。・・・同時に、弱い絆のほうは、コミュニティがどれほど大きなものであろうと、すべての人がコミュニティの残りの人たちと社会的な意味で身近な状態になっているのを保ち、そうすることで、だれもがより大きな組織がもつ情報や財産を利用できるようにしている。おそらく、組織やコミュニティは、スモールワールドの線に沿って意図的に作るべきなのだろう。
これは、「スモールワールド・ネットワーク型組織」の創出を意図的に志向すべきという、著者からのさらに一歩進んだメッセージです。
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