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インフォーマルネットワーク (トヨタ 愚直なる人づくり(井上 久男))

2008-05-11 18:39:51 | 本と雑誌

 本書の特徴は、トヨタの強さの源を「人材」という観点から明らかにしようとしている点にあります。

 潤沢な経営資源を背景にゆとりのある人材育成の仕組み・立派な研修施設があることも事実ですが、トヨタは、もっとベタな「人間的」な要素に着目しています。

 たとえば「育ててもらえる」という言い方。「自己啓発」の勧めはどんな企業でも言われているでしょうが、こういう言い方はあまり聞きません。

 
(p43より引用) 新入社員ら若手に配っている仕事の仕方などを説明したパンフレットには、「育ててもらえる人材になりなさい」と明記されている。厳しく指導されるということは、本人に能力がある、やる気があると認められているからである。これは管理職に対して言えば、部下が可愛いなら、もっと厳しくせよ、というメッセージとも受け止められる。

 
 極端な言い方をすると、「トヨタ版徒弟制度」ですね。

 どうも、こういった一般的には「ちょっと前のやり方」と思われるような仕掛けが、トヨタの「人」という側面からみた強みになっているようです。

 トヨタには多くの親睦団体があり、スポーツやレクリエーションイベントも盛んだといいます。

 
(p67より引用) 人事部長の宮崎は「『個』の時代だと思って、会社も遠慮していたところがあるが、こういう会合に若い人もどんどん参加した方がいい。若い人が嫌がっても、どんどん引っ張っていけば、ついてくるようになる。若い人のコミュニケーション力は弱くなっている傾向にあるが、幹事をやれば、企画力やコニュニケーション力もつく。趣味の話だけではなく、他部署の人と仕事のことを話し合うきっかけにもなる」と話す。「花見の幹事のできない人間に、仕事の段取りもできない」と話すトヨタ幹部もいる。

 
 トヨタの「人脈力」=「インフォーマルネットワーク」の源がこのあたりにあります。

 
(p69より引用) 娯楽が多様化したことや、休みの日まで会社に縛られたくないなどの理由で、日本の会社では「文体活動(文化、体育活動)」のイベントは減る傾向にある。・・・しかし、トヨタでは、文体活動のイベントも、縦・横・斜めのネットワークを形成する上で重要な役割を果たしていると判断しているのだ。

 
 近年、野中郁次郎氏も、企業における知識創造プロセスの構成要素として「場」の重要性について指摘しています。
 このトヨタのインフォーマル・ネットワークも、ひとつの「場」もしくは「場」形成の基盤といえるのでしょう。

 
(p75より引用) 人と人との関係、人と職場との関係、人と親睦組織との関係、これらはすべて「場」であろう。
 裃を脱いだインフォーマルな活動では、ざっくばらんに意見交換もできる。立場の違う人や職種の違う人の異なる価値観と交じり合うことで、新たなヒントも入ってくる。トヨタの縦・横・斜めのインフォーマルなネットワークは、大きな「場」である。

 
 著者も、「トヨタの競争力の源泉」について本書のなかで、こう指摘しています。

 
(p91より引用) トヨタの競争力が依然として強いのは、トヨタ生産方式を使っているからではなく、長期的な視点も織り込み、OJT教育を大切にした実践に根づいた人材育成を大切にしているからではないか。トヨタ生産方式を学ぶというよりも、机上の空論は受け入れない実践重視の人材育成のあり方を学ぶことの方が先決であろう。

 
 最後に、本書を読んでの感想ですが、文章が簡潔で非常によみやすく、また、内容も丹念な取材に裏打ちされてよくまとまっています。世の中に溢れている「トヨタ生産方式」の解説はほとんど省いて、「人材育成」に焦点を絞った点も成功しているのではないでしょうか。

 強いていえば、「人材育成」について従業員の声も聞いてみたかったですね。
 経営者やマネジメント層からのコメントは多く取材されているのですが・・・、人材育成は、しばしば育成側の想いと受ける側の実感とがすれ違いがちですから。

 

トヨタ 愚直なる人づくり―知られざる究極の「強み」を探る トヨタ 愚直なる人づくり―知られざる究極の「強み」を探る
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-09-07

 

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