Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.464:伝統的な教育スタイルは本当に良くないのか?

2012年10月07日 | オープニング
(注:本コラムは、10月7日に配信したメルマガのバックナンバーです。
メルマガ配信時は465号としましたが、うっかり464号を飛ばしていることに
後で気が付きました。ということでBlogでは464号として掲載させていただきます。)

先日、教育に関するちょっと気になる記事を発見しました。
『教員の授業スタイルの国際比較』(データえっせい 2012/09/29)
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/09/blog-post_29.html

このエッセイは、下記のWebサイトからダウンロードできる「PISA」の2009
国際学力調査データを用いて日本の教員の授業スタイルを他国と比較し考察
しています。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php

詳細は上記Webサイトをご覧いただきたいのですが、結論としては、日本の
高校の国語教員の授業スタイルが群を抜いて「伝統的」であったことが分析
から導かれています。ここで言う「伝統的」とは「進歩的」の対概念で、
「進歩的な授業スタイル」とは、生徒中心の授業スタイルとあるので、「伝
統的=教師中心の授業スタイル」と理解できます。

もちろん全ての授業が「伝統的」という訳ではありませんが、 日本の生徒
の73%が伝統的な授業を受けていると回答しており、お隣の韓国(38.9%)と
比べても相当低い値になっています。

記事の筆者は、「大学進学規範の強いわが国では,高校段階では,受験向け
の授業の比重が殊に高くなる傾向」にあることを一因に挙げています。しか
し、我が国以上に受験熱の高いと言われる韓国よりも低い数値になっている
点を考慮すると、この考察は的を得たものとは言えません。

さて、ここでちょっと天邪鬼に考えてみましょう。もしかしたら国際的にも
突出して「伝統的」な教育スタイルがあったからこそ、日本はこれまでの経
済繁栄を築き上げることができたとは考えられないでしょうか?

進歩群の教育スタイルを採用している国を見てみると

・ハンガリー
・モンテネグロ
・ルーマニア
・ポーランド

等、お世辞にも経済的に繁栄を極めている国とは言えません(経済的な豊か
さの追求が教育の唯一のゴールでないことは言うまでもありませんが、その
議論はひとまず置いておきます)。さらに進歩的な教育を実践していること
で取り上げられるフィンランドにおいても、進歩群の比率が国際的な水準よ
り低くなっているという結果が出ています。

学習者中心の学習観が絶対視され、一方通行的な講義スタイル(=伝統的な
教授スタイル)から脱皮してアクティブラーニングに向かう必要性が叫ばれ
ています。コガもそのことを100%信じて、現在大学で担当している科目は、
すべてアクティブラーニング的な要素を取り入れています。

本当にそれは盲信して良いことなのでしょうか?

こんな事を書くと、「今までのようにある程度予定調和的な社会であれば、
伝統的な教授スタイルで決められてた事を効率的に教える方が良かったので
しょう。しかし、予測困難な時代において自ら考え主体的に動くことのでき
る若者を育成するためには、それではいけないのです」

とお叱りを受けるかも知れません。しかし敢えて言わせてもらえれば、予測
困難な時代は今に始まった訳ではありません。70年代の終わり頃から「先行
き不透明な時代」とか「不確実性の時代」と叫ばれ続けています。それから
30年以上経っても、日本では「伝統的な教授スタイル」を継続し続け、それ
でも依然世界第三位のGDPを誇る経済大国なのです(本当は中国に抜かれ
ていなくて第二位のままという説もあるようですhttp://goo.gl/VyTqT)。

伝統的な授業スタイルの是非について、皆さんはどうお考えになりますか?
(文責 コガ)

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2 コメント

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Unknown (堀口 卓志)
2012-10-16 10:12:37
教育を受けた人が社会に出るのに10年、その人が要職について実力を発揮するのに10年、その活躍が成果として結実するのに10年、乱暴な計算ですが教育とGDPの間に因果関係があるとしても、30年ぐらいはタイムラグがあるのではないでしょうか。
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Unknown (こが@さんのう)
2012-10-22 13:26:54
堀口様
コメントいただきありがとうございました。
返信遅くなりまして申し訳ございませんでした。

ご指摘の通り教育が実際に成果として結実するには、長期的な視点が重要です。しかし、長期になればなるほど、教育施策と実際の成果(ここではGDP)の因果関係は証明しずらくなる事も事実でして、なんとも難しい問題です。

一方で、「測定しやすい」からといって、短期的な成果や、教育実践直後の満足度や、自己評価による成長度だけで、「効果の上がる教育」と言ってしまうのもかなり乱暴です。

さてさて、どうしたものやらです。
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