Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol230:「大学の新しい学習空間を構想する」参加報告

2007年06月22日 | セミナー学会研究会見聞録
修士論文もレポートも終わってないし、仕事も溜まっているのに、こんなところに出掛けて良いのだろうか?と思いつつ、やっぱり面白そうなイベントだったので参加してしまいました。

■title:大学の新しい学習空間を構想する
■日時:2007年6月11日(月) 18:30-20:30
■場所:東京大学 大学総合教育研究センター

教室を越えて
以前ある方にお聞きしたのですが、「教える」という字のつくりの部分「攵」、は「ぼくにょう」と読み、これには「打つ・たたく」といった意味があるそうです。つまり「教える」とは、鞭や鉄拳で打ったり、たたいたりしながら教え込むという、一方的でスパルタチックな意味が原初的には含まれていたそうです。そう考えると教室というのは、物騒な空間に思えてしまいますね。もちろん現代では、教室での生徒に対する暴力はない(と願っています)ものの、先生が教壇に立って、整然と並んだ生徒に対して教授するという一方的な知識を伝達するイメージは今も健在です。

では、そうした教室の持つ古いコンセプトを打破するにはどうしたらよいのか?その一つの解が「新しい器を作ってしまう」ことだと私は考えます。よく「器だけ作っても中身がないとねえ~」という意見も聞きますが、実際のところ「器が中身を制限している」ケースも多く、やはり器としての学習空間の刷新は必須と考えます。

今回のEduce Cafeでは、最近東京大学 駒場キャンパスにオープンした「駒場アクティブラーニングスタジオ」、と本郷キャンパスに2008年2月に開設される「福武ラーニングスタジオ」の概要をご紹介いただきました。「教室」が「学習空間」に変わるってこういう事を言うのだなあと思った次第です。

<トーク 1> Learning Studioという発想-そのルーツと実現までの道のり
山内 祐平 (東京大学 大学院 情報学環 准教授/Educe Technologies代表理事)

山内先生からは、現在赤門の隣に建設中の福武ホールと、GW明けに完成した駒場アクティブラーニングスタジオの2つについて、その背景にあるコンセプトや、実現までの悪戦苦闘についてお話しいただきました。

「東大に表参道ヒルズが出現?」
福武ホールは、ベネッセコーポレーション代表取締役会長の福武總一郎氏の16億5千万円の寄附に基づき、現在建設中の建物です。(詳細はhttp://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_171212_j.html参照)
建物は地上2F地下2Fで、東大の赤門から入って左手の本郷通りに沿った細長い敷地に建てられます。設計はなんと安藤忠雄氏。地下に降りていく建物の構造は、あの表参道ヒルズに似た作りとなっています。パブリックスペースを多く取り入れた空間、京都の三十三間堂を彷彿させる概観、青山に本店のあるフレンチ・カフェベルトレ営業予定のカフェ等、今までの大学の教室とは全く違う空間が創造されようとしています。

余談ですが、建設で最も苦労した点の一つが「遺跡」だそうです。東大の農学部の住所にある「文京区弥生」からも分かるとおり、この地区は弥生時代の遺跡がざくざく出土されるそうです。さらに、江戸時代には加賀藩邸もあったそうで、掘ればどこかの時代の遺跡がでてくるそうです。そこで、事前に埋蔵文化財調査というのを実施しなくてはならず、それが結構大変だったとのことです。なお調査結果については下記で公開されています。(東京大学埋蔵文化財調査室)
http://www.aru.u-tokyo.ac.jp/

さて、肝心の学習空間ですが、最大の目玉は地下2Fに設置される福武ラーニングシアターです。ゆったり目の空間に最大180人収容できる多目的ホールで、国際遠隔授業やPRS(パーソナルレスポンスシステム)も完備しているとのことです。もう一つ注目の施設は福武ラーニングスタジオ。こちらは3つに分割できる7×21Mの広大な空間を、稼動式の机等を自由に配置して学習できるというものだそうです。山内先生は「学習座敷」と呼んでいましたが、がらんとした空間を自由に使って、食べたり、語らったり、寝たりできる多目的な日本座敷のイメージはこの学習空間にぴったりだなあと感じました。

次に、今年の5月に完成した駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)についてもご説明いただきました。実際のスタジオの写真は、下記の中原先生のBlogを参照願います。
http://www.nakahara-lab.net/blog/2007/05/post_865.html

ここでも様々な仕掛けがあるのですが、私が一番気に入ったのは「まがたまテーブル」というユニークな形のテーブルです。上から見るとまがたまのような形をしたテーブルなのですが、これを組み合わせると、うまい具合にディスカッション用の円形テーブルができるのです。この机を共同開発したコクヨさんの営業の方が、当日筆者の隣に座っていました。その方に「ぜひ東大だけでなく市販化してくださいね」とお願いしてしまうぐらい、とてもよくできたテーブルでした。

その他スタジオとウェイティングスペースの間には透明度を変更できるガラスが採用されたり、前面の大型スクリーンはインタラクティブなガラスボードになっていたりと、様々な仕掛けをご紹介いただきました。現在この教室は大人気だそうで、一日中講義がひっきりなしに入っているとの事です。いい器は学びを呼ぶのだと確信した次第です。

ちなみに、駒場アクティブラーニングスタジオが見てみたい人は、7月27日にスタジオ教室を使った模擬授業等を企画しているようですので、興味を持たれた方はぜひ参加してみてください。詳細下記URLを参照願います。
http://www.nakahara-lab.net/blog/2007/06/727.html

<トーク 2> 学習空間と情報技術の融合-Tablet PCを用いたソリューション
望月 俊男 (東京大学 大学総合教育研究センター 客員准教授)

マイクロソフト先進教育環境寄附研究部門 (MEET)で開発されたソフトウェアをデモしながら、新しい学習空間を支える情報通信技術のあり方についてお話しいただきました。ここでの主役はMEET Video Explorerというツールです。このソフトを使うことで、623本のNHKアーカイブスの映像クリップを探索して図にまとめることができます。詳細は下記ITメディアの記事をご参照ください。
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0702/15/news106.html

既にこのツールを用いて研究の仮説を考えさせる模擬授業を実施したそうです。問題そのものを解決する力でなく、問題をきちんと定義できるチカラ=適切な仮説やリサーチクエスチョンを設定できる能力を養う事を目的とした授業ということで、非常に興味深いものがありました。企業でも、顕在化した問題の解決ができる力に加え、そうした問題の背後に潜む潜在的な課題を明確にするスキルが求められています。課題発見・明確化力は、研究者だけでなく社会人にとっても重要な基礎力といえるでしょう。

<ディスカッション> 新しい教室をデザインする
最後にグループに分かれて、新しい教室のデザインについて、自由にディスカッションしました。私のグループで出たアイデアは、討議する机が液晶画面になっていて、それがタブレットPCのように使え、上板を縦にするとそのままプレゼンテーションスクリーンになるスーパーインタラクティブ机や、アロマテラピー効果のある学習空間、はたまた「足湯」のある教室など、現実を度外視した面白いアイデアがたくさんでました。

みなさんだったらどんな学習空間が欲しいですか?

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