Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.477:「亀田音楽専門学校」

2013年04月21日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊
NHK Eテレ「亀田音楽専門学校 J-POPの魅力に迫る
講師:亀田誠治 特別講師:平井堅 演出:甲斐洋威  制作:NHK他

このコーナーで書籍以外なのは、昨年の年明けに映画「エンディングノー
ト」を書いて以来でしょうか。今回はテレビ番組。e-ラーニングへの関与
筋で!とオユルシください。

さて、年明けにEテレにて2回シリーズ(各30分)で放映されたこの「亀田
音楽専門学校」。 平井堅やスピッツ、椎名林檎らを手掛けた音楽プロデ
ューサー亀田誠治が、平井・ためしてガッテンの小野文恵アナ・ピアニスト
皆川真人とともに、J-POPのヒット曲を例示しながら、「泣ける音楽」に用
いられている技術を解説していきます。1回目のキーワードは「クリシェで
胸キュン」、2回目は「リフレインでメラメラ」。
この番組はエンターテイメントとして珠玉であると同時に、おそらく私が21
世紀に観た視聴覚教材の最高傑作とさえ思っております。その分析、つまり
能書きは後段に送り、まずは番組の流れから。

構成ですが、亀田がメイン講師となり、解説したい技法を象徴的に用いられ
ているヒット曲を例示しながら以下の手順で展開していきます。

 1)その曲のオリジナルのPVを流す
 2)影ナレが用語解説
 3)亀田が例示曲の技法箇所の音符をホワイトボードで説明
 4)亀田の指示で平井と皆川が、その技法を象徴的に再現
 5)他の曲での応用例を平井が即興で歌いながら紹介(皆川も加勢)

第1回のテーマ、クリシェとは、基本のコードは変えずに半音などの装飾を
つけていく手法。例示曲はドリカムの「Love Love Love」です。

まず、画面いっぱいに
 ♪ねー どーしてー すーごくあいしてるひーとにー
と、吉田美和の流麗なPVが流れます。

次に、影ナレがクリシェの語義を童謡「チューリップ」などを用いて簡潔に
説明。

そして再び亀田がホワイトボードで例示曲のクリシェ部の音符を示し、さら
には、
  ・平井にベース音のクリシェをハミングさせる
  ・皆川にクリシェ入りとクリシェなしで弾き分けさせる
という焦点化をしていきます。この際には歌の流れにあわせ画面の音符に
CG載せサービス。こうしてこの技法の方法と効果を興味津々に我々素人に
わからせてくれます。

さらには平井が、自分のお気に入りの胸キュンクリシェ曲「時の過ぎゆくま
まに」(沢田研二)ナドをエピソード付きで紹介していき、その情感を亀田
が楽典ベースでなぞ解きしていきます。そこに平井は惜しげもなく即興で口
ずさみ亀田の解説を盤石にします。そして話は「サビへのジャンプ台」、
「瞳を閉じて」の裏話、最後はクリシェてんこ盛り「瞳はダイヤモンド」を
平井が語り、歌い、この回を総括していきます。

さて、無粋ながらこの30分の音楽バラエティがなぜ教材としてかくもすぐれ、
感動的と感じたのか、先行理論に照らし考えてみます。まず、メリル先生の
「5つ星原理」と照合してみましょう。( )は今回への適用です。
 1)「問題」(泣ける歌って?)
 2)「活性化:知っている知識を動員」(コードってあるよね)
 3)例示(ドリカム)
 4)応用(他の曲も見てみよう)
 5)振り返り(聖子で総括)
なるほど、則ってますね。

ではガニェ先生の9教授事象の4分類ではどうでしょう?
 1)導入(吉田美和!)
 2)情報開示(クリシェって)
 3)学習活動(あり/無しで歌い分けてみる)
 4)まとめ(瞳はダイヤモンド)
これも然り。

ところで、この番組のクオリティを支えたのは4人の絶妙な役割分担と貢献
です。それはおそらく台本でも演出でもなく、4人の底力だと思っています。

平井は特別講師ながらも1生徒を軸足に居続け、亀田は大物平井堅とのマブ
ダチ関係への「ドーダ感」をギリギリで抑え、皆川は亀田の即興解説に愛情
深い相の手を入れるようにピアノを添えていました。そして小野アナは「ク
リシェなんか忘れて当時の思い出に浸っていた」「それ、どういうこと?」
と、視聴者の多くの感覚を等身大で代理し、「音の待ち合わせですね」「涙
の溜め!」と、寄る辺なき感覚を言語化してくれていました。

「成人教育市場でeラーニングが盛り上がらなかったのは、ひとえにコンテ
ンツがpoorだったからだ」というのが私の持論ですが、こういう秀作を無料
で見るたびに、まさにその持論に確信を持ちます。そして、その開発技術を
センスではなく、クリシェのように一般原則化していく野望にも似た研究課
題にあらためて意を強くするのでした。

<文責 シバタ>

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