朝、お母さんがカオニャオを蒸す いいにおいをかぐのも、
お父さんのお祈りをする姿を見るのも、
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たわわに根本まで実ったジャックフルーツの下に、線香の煙が漂うのを見るのも
お父さんと一緒にサイバーツするのも、コンケンで今日が最後。
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さちえ、おばあちゃんと一緒に写真を撮ってあげなさい、とお母さんが言うので
一緒に並ぶけれど、キットゥンで、おばあちゃんも少し元気がない。
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お父さんとお母さんは、朝から顔に元気がない。
どうしたのと尋ねると、
昨日は私が泣いたから心配になり、それにくわえて
私の仕事がちゃんと終わって眠れたのかかどうかも心配で、
二人が眠れなかったのだという。
お母さんに頼まれてソイローポーショーに朝ご飯のお使いに行くと、
ラッキーがついてくる。
お父さんお母さんはもちろんだけど、ラッキーとは心が通じ合っているように
思う時がたびたびあって、ラッキーに慰められることがこれまでにたくさんあった。
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果物屋のおばちゃんのかわいいこんな姿もしばらくは見られない。
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お使いを終えて帰ろうとすると、ラッキーが待っていてくれる。
こういうことは初めてで、ラッキーも今日でしばらく会えなくなることを
分かっているのかなと思う、そう思うほどラッキーは賢く心が伝わる犬だ。
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最後のコンケンでの朝ご飯は、カイモッデーン(赤アリの卵)の入った卵焼き。
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お使い先で、やっぱりお別れの品をあれこれもらう。
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最終日のぎりぎりまで荷物が増えるんじゃないかと思っていたけれど、やはり。
荷造りしてきっちりとつめていた荷物が入らなくなり、急きょ
郵送することにして、お父さんに郵便局に連れて行ってもらう。
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かなり前もって荷物の準備を始めていた私でも結局最終日は時間との戦い。
最後の時間はゆっくりとお父さんお母さんと過ごしたいと思って、
その時間を作るためにも、必死で部屋の片付けと最後のあれこれ処理仕事。
3時になり、やっと全て終了する。
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6時に出発するまでのたった3時間だけど、大好きな人たちと過ごす。
ナムプリック屋の娘のレックは、私に店の名前が入ったかわいいTシャツを作ってくれた。
2人でおそろいのTシャツを着て写真を撮る。
あちこちかけまわってきたので、私は汗だく。
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あらためて、ソイローポーショーの人たちに会いに行く。
日本には持ち帰らない服やバッグ、電化製品、布団類すべて近所の人にあげる。
「このスカートもバッグも本当にもらっていいの?」
と、喜んでファッションショーをしているソムタム屋のお姉さん。
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しばらく話していると、いつも元気いっぱいの屋台のおばちゃんが
みるみる目を真っ赤にして泣き出した。
くだもの屋のおばちゃんも泣く。
なかなか涙を見せない人たちが、こんなに泣くのにびっくりする。
そして、本当にいい人たちとめぐり会えて、大事にされて、助けられて、
これまでの幸せを実感する。
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泣きながらも、カメラを向けるとキャアキャア笑って恥ずかしがるおばちゃんたち。
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くだもの屋のおばちゃんからは毎日毎日果物をもらい、
私の話を聞いて笑ってくれる時間が他にないくらい大切で、
いつもそっと癒されてきた。
タイ料理屋台のこのおばちゃんは、私にビールを飲ませては飲める飲めると喜び、
道を歩けば「サーイ!!どこにいくの!」と誰にも聞こえる大声で声をかけ、
私と一緒に歌を歌っては喜んでヒューヒュー口笛を鳴らす、
おばちゃんのおかげで、ソイローポーショーの人たちが私を知ることになった、
屋台の人たちの中心人物で、その元気、明るさを尊敬していた。
屋台の中に招き入れてくれたことをありがとうとお礼を言う。
お客さんが来たので、お仕事をし始めたけれど
私が帰り際に投げキッスをすると、おばちゃんも仕事の手を止めて何度も投げキッス。
目は真っ赤のまま、何度も投げキッスして笑う。
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ふと見ると、ラッキーが迎えに来ている。
ラッキー! なんておりこうさんなの!
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いいことを思いついた。
使い切れず、あまった切手がある。ハガキもある。
ハガキに私の住所を書いて、切手を貼り、お世話になった人たちに渡そう。
みんな私の住所を聞いてくれるけれど、外国にハガキを出したことがない人たちが、
まして字を書くことも苦手ならばなおさら、住所を聞いたところで
何もできないと思う。
それよりは、私の住所を書いてポストに投函するだけのハガキを渡した方がいい。
どっさりと書く。
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ソイローポーショーの屋台にまた戻って、説明する。
「もし、さびしいな、あいたいなと思ったら、ここに自分の名前を書いて
そしてポストに入れて。
そうしたら、日本に着くから。
私は、いつハガキが来るかなあと、日本で待っているね。」
ハガキをもらったときの、おばちゃんたち、おじちゃんたちの嬉しそうなこと。
一生に、一度でも、海外にハガキを書く、そんな経験はないだろう人たちだから
「これ、あのポストに入れるだけでいいの?」「サーイの所に行くの?」
と、とてもうれしそう。
いつも照れ屋のガイヤーン屋台のおじちゃんもうれしそう。
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私も、たった一言、名前が書かれたハガキが、私の手元に着くのを楽しみに待っている。
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出発が近づいた頃に、寄せ書きノートにお母さんが私へのメッセージを書き終える。
読もうとするが、泣いてしまう。
泣いて読めないので、娘のレックが代読する。
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お母さんが伝えてくれたのはこういうこと。
出会えたのは運命で、運命以外の出会いはない。
前世で一緒によい行いをした者同士はまた出会うことができる。
私たちは、だから遠く離れた国に生まれあってもまた、現世であうことができた。
娘のように愛せるのも、全て運命の出会いだから。
一緒にサイバーツをしたから、また私たちは次の世で会うことができる。
この言葉には、鳥肌ががたつような思いがした。
運命ではない出会いはない。
遠くの国に生まれあったのに、出会えた運命。
それはどこかから すでにつながっていた 決まっていた運命だと。
サイバーツを一緒にすることは、タイ人にとって特別な意味があり、
特に敬虔な仏教徒にはなおさら。
一緒にやってきたから、今、実感できるものが私にもある。
今日一日忙しく働いていたお父さんも戻ってきてメッセージを書く。
体に気をつけなさい。 元気でいなさい。
日本に着いたら電話しなさい。 またお父さんに会いに来なさい。
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空港に行くための車をお父さんが出してくると、ラッキーがじっと見ている。
本当に、ラッキーは今日のことを感じているのではないかと思う。
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一緒にサイバーツをして以来、自分をお母さんと呼んでちょうだいといって
寺に連れて行ってくれたり、送別会に来てくれたりした女性が見送りに来てくれる。
この人も、地元に顔が広く、自閉症ガイドブックを自閉症の人たちが暮らす家に
配ってくれるという。
手に持たれたガイドブックが、これから地域の人たちのもとに渡っていくことがうれしい。
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コンケン空港にはお父さんのナムプリックが並ぶ。
お父さんは有名人だけど、それをずっと知らずにいたから、なんのわだかまりもなく
こんなに親しくなれたのだと思う。
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重そうな私の荷物を持とうとして、お母さんが転んでしまった。
足が痛いというお母さんが心配だけど、もう飛行機に乗りなさいと
私を行かせる2人。
「大丈夫大丈夫」とお母さんが手を振る。
私も泣いて手を振る。
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飛行機の中ではただただぼうっとして、ほうけた状態。
次のこと次のことに必死で、まだ、コンケンであの部屋でもう過ごすことはないのだなと実感がわいていないのかもしれない。
新しくなった隊員ハウスに到着したのは夜も遅くになってから。
新隊員ハウスにも以前の二段ベッドが並ぶのがなんとなくほっとするところ。
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今日はひたすら寝たいところだけど、明日のプレゼンテーションの準備はこれから。
コンケンが、タイが終わったことを実感するのは日本に帰ってからなのかもしれない。