夜ベッドに入ってしばらくすると、そっとミーシャが来て、ピョンとベッドに跳び乗り、足元の掛け布団の裾にうずくまる。手を伸ばして首や片足をつかんで引き寄せると抵抗もせずぐんにゃりして、されるままになっている。顔を寄せて鼻をすり合わせても嫌がる様子もなく、無表情にじっとしている。このあたりは、以前妻がいた頃に飼っていた室内犬のペキニーズとはだいぶ違う。 だいたいネコはイヌに比べると表情が乏しく、もう10年以上もいるミーシャも何を考えているのか分からないことがある。イヌのように尻尾を振って甘えることもなく、餌がほしいときに寄って来てニャアニャア啼くだけだ。
ある新聞に川柳の投稿欄がある、季語にはとらわれず、五七五の形があればいいもので、戯句のようなものが多い。その中に「子も犬も嫌がりだしたギューしてチュー」というのがあった。私も夜ベッドで横になっている時にミーシャが寄ってくると、手を伸ばして引き寄せ「ギューしてチュー」してやるのだが、無表情な顔で、嫌がっているのかどうか分からない。しかし腕を少し緩めるとすばやく逃げようとするから、やはりいささか迷惑に思っているのだろう。
今でこそのっそりしているが、娘の頃は活発で、時々猛然と走り出し猛烈なスピードで部屋の中を爆走し、階段を駆け上り、また駆け下りてくる。よく壁などにぶつからないものだと思うくらいすばしっこい。それが今ではすっかりおとなしくなって、猫を被っているのかと思うくらいだ。我が家に来て11年になるから、人間で言えば60歳、70歳にもなるようだから、もうお婆さんなのだが、それにしては動きはまだすばしっこい。
ノラは警戒心が強く、近寄るとじっとこちらを見つめ、隙を見てさっと逃げる。生後少したつとこの警戒心は身につくようで、そうなるとなかなか人に懐かない。ミーシャは生まれてすぐに女子中学生に拾われ、家族に慈しまれたせいか人好きで、もらってすぐに私にも慣れた。近所の奥さん達にも可愛がられ、生協の共同購入日には集まった奥さん達のそばに寄って来る。
ネコは暑さ寒さに敏感で、季節によって寝る場所を変える。夏は階段で寝ているが、涼しくなると私の布団の上に来る。寒くなると潜り込んでくる。「猫は炬燵で丸くなる」と童謡に歌われているが、やはり寒さは苦手らしい。暑い時には外に出してやるとなかなか帰ってこないが、寒くなると早々に帰る。
ネコは「寝子」から来ているとも言われるから、よく眠る。1日に14時間から16時間も寝ていると言うから、一生の2/3は寝ていることになる。当然ミーシャもよく寝る。寝ている時は静かで寝息も聞こえないが、布団にもぐっている時などは、時々大きな鼾をかき、それを聞くと、ああ生きているのだなと今更のように思い、愛しくなる。
ミーシャのような雑種で出自がノラは、その辺りでいくらでも見かけても、血統書付きの品種は見ることは滅多にない。家の中で大切に飼われているのだろうし、犬と違って散歩に連れ出すこともない。しかし犬ほどではないが品種は多く、ペルシャとかシャムなどはよく知られている。アメリカンショートトヘア(アメショー)もよく飼われているのか、その雑種だろうと思われるノラを見かけることがある。あまり知られていないが、こんなネコもいる。マンチカンという。
http://www.yomiuri.co.jp/stream/m_pet/pet003.htm
短い脚と大きな尻が特徴の可愛いもので、ミーシャを飼うことにした頃、もしこのマンチカンを知っていたら、買ったかもしれない。もっとも結構高価で10万円以上はするし、2,30万円台のものもある。
ネコよりももっと表情が乏しいのはウサギだが、大きい目をしていて、絶えず鼻を動かしているのが可愛い。マンチカンの動画の側にこんなのがあった。ネザーランド ドワーフと言い、オランダに起源を持つカイウサギの一品種だ。オランダチビちゃんというところか。カイウサギの中では最小のウサギで、体重は約0.8 - 1.2kg。
http://www.yomiuri.co.jp/stream/m_pet/pet005.htm
これも飼いたくなるような可愛さだが、ミーシャがいてはだめだ。ウサギを飼うのは案外難しいとも聞く。ネズミのようによく物を齧るし、爪が伸びて傷つけられるとも言う。
猫は20年くらい生きると言う。そうするとミーシャは10年たった今も元気だから、後10年は生きる可能性がある。それが今の私の悩みで、後10年と言うと私は90歳近くになるから、果たしていけるかどうか覚束ない。私が死んだあとは次男が引き取ってくれるかもしれないが、「犬は人に付き、猫は家に付く」と言われているから、次男の家に引き取られても隙があれば飛び出すだろう。そうすればノラになって、どこかで野垂れ死にするかも知れない。そう思うと哀れで、何とか頑張って長生きし、看取ってやらなければと思う。