ファミリーミュージカル～その２～

生まれて初めて「ファミリーミュージカル」というものを観るべく、先日、六本木へ行ってきた。
劇場について愕然とした。作品を観る前に、客を見てまず「わ!!!!!」と声が出るほどに驚いてしまった。「ファミリーミュージカル」というものを俺はナメていたのかもしれない。あ、誤解してほしくないんだけど、別にバカにしていたと言うわけでは全然ない。ただ俺の、「ファミリー」に対するイメージが貧困すぎたというだけの話だ。「ファミリーミュージカル」ですから、そりゃ家族連れは多いだろうとは思っていて、お父さんお母さんに、小学生のお子さんとか、中学生の子もいたりしてね。たまにご夫婦だけでいらしているお客さんもいたり、仲のよさげな老夫婦の姿もあったりしてね、わりと落ち着いた空間を考えていたのですよ。つまり、劇団四季のお客みたいな。劇団四季もほとんど観た事無いからこれもイメージだけど・・・。そんな事を考えていたらですね、実際はね、

え、これから「お母さんといっしょ」の収録はじまんの？？

って感じっすよ。ロビーはもう、2歳～5歳くらいのおこちゃま方が駆け回り、お父さんお母さんの、子供の名前を呼ぶ声が飛び交う。意味なくトイレを出入りする子供たち。劇場内、全部が遊び場である。子供すごい。トイレの個室でウンコなどしようものなら、「まーだだよー!!!!!」とか言って、上から子供が入ってきそうだ。とにかくその時の俺は、心中で「わ!!!!わ!!!!!わ!!!!!!!!!!」しか思えなかった。たまに、中学か高校かの女の子らはいたけど、それでも9割以上が「お母さんといっしょ」である。そこに俺、一人なのである。この、薄汚い格好でボサボサ頭のおっさんが一人で現れたもんだから、そりゃ受付の人も一緒怪訝な顔をするだろう。仕方ないと思う。ごめんなさいって思う。そして場内に入ると、客席案内をしている宮川君を見つけた。そして宮川君に対する第一声は、「マジか」である。彼は「はい」と答えると、俺を座席に案内してくれた。今回は全席指定席なんだけど、案内された席を見て、再び「マジか」である。なんと、前から3列目という、それはもう、かぶりつきの席なのである。

ちょっと待ってよ宮川君!!!!!!

俺一人だよ。おっさんだよ。おっさん一人、ファミリーミュージカルかぶりつきっておかしいでしょ!!!!「お母さんといっしょ」の収録で、歌のお兄さんとお姉さんが歌う中、子供たちに混じって一人おっさんがいたらそりゃおかしいでしょうよ。そんな気分ですよ。とは言え「席、変えてよ」などと言えるはずもなく、極力浅く腰かけ、座高を低く低くして目立たないよう心がける。わいわいとにぎやかな客席で一人、顔半分が埋もれるくらい肩をすくめて、ひたすら「はやく始まって!!!!」と願う。すると、後ろの方から「始まった!!」という子供の声がして、振り返ると、役者の方々が、虫取り網を持って客席側に現れたのだ。今回の演目は『ファーブル昆虫記』。役者のみなさんが、言葉は話さず、客席をウロウロして、虫取り網をお客さんの頭にかぶせたり、お客さんの肩に虫の人形を乗せて捕まえたりとのパフォーマンスが始まった。これには子供も大人も大喜びである。お父さんの顔に虫取り網がかかった時など、子供は飛び跳ねて喜ぶし、子供の手に虫の人形が乗せられれば、子供は「わー!!」とはしゃいで、お母さんも楽しげに笑う。そんな和やかな空気の中、俺は一人、それはもう恐怖におののいていた。

俺、虫取り網で捕まえられたらどうしよう!!!!!!!!!!

みなさんはいいですよ。何かされても、子供や親やお友達が笑ってくれるから。でも俺どうよ!!!!誰が笑ってくれるのよ!!!!!!そりゃ、お隣の席のお母さん、反対側のお隣のお父さん、笑ってくれるかもしれませんけど、それ「笑ってあげなきゃ」的な笑いでしょ？俺がもし捕まえられちゃったら、一瞬にして俺の周りは気づかいの渦に巻き込まれるだろう。気づかいトルネードだ。が、やっぱり役者さんはプロですから、わかってらっしゃるようで、「こいつはいじっちゃいけない」って思うのでしょうね。無事、僕はいじられる事なくお芝居が始まりました。

お芝居は、すごかったですね。あのファミリー感ね。初めてなので何とも言えないけど、すごいです本当に。一度は観てみるべきかも。主役の男性、あれだけ大汗をかいているのに、髪形が一切崩れないのは見事っす。途中、若干「昭和歌謡ショー」みたいな雰囲気もあったりで、なんやかや、楽しめましたよ。盛り沢山。

終演後、宮川君が現れてアナウンス。

「こ、このあ、あと、○○先生の、こう、ここ、講演が、ご、ございま、すす、の、ので、おじか、かんが、ごごご、ざいましたら・・・」

と、それはもう恐ろしいほどの噛みっぷりでアナウンスをしていた。なんかもう、この「僕は出ないんですけど観に行きて下さい」っていうお知らせから、この噛み噛みアナウンスまで含めて、もうね、宮川君には「ブラボー!!!!!」と言いたいです。スタンディングオベーションです。でも本当に楽しかったよ。ありがとうね、宮川君。