2018年のブログです
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田中康裕さんの『心理療法の未来-その自己展開と終焉について』(2017・創元社)を読みました。
田中さんはユング派の分析家ですが、じっくりと読むのは初めて。
かなり刺激的でいい本でした。
田中さんは、心理療法はその対象によって常に改定される、といいます。
神経症が対象だったフロイトさんの時代は精神分析、その後、精神分析は統合失調症や境界例にも適応されて発展しますが、解離性障害ではなかなか難しくなった、と指摘されます。
それは、解離性障害では、それまで当然とされた「人格」の存在があやうくなった(?)ため、といいます(雑な要約で、間違っていなければいいのですが…)。
そのために、それまでの、意識と無意識からなる「人格」を当然のものとしていたそれまでの心理療法では手に負えなくなったのではないか、と考察されます。
そして、その後に出てきた発達障碍。
ここでは、「心的未成」という状態が考えられ、まずは「心的誕生」が必要と考えられ、これまでの神経症、境界例、統合失調症という病態水準ではなく、それとは別の発達スペクトラムの視点での関わりが必要になる、と述べられます。
当然、そのために必要な心理療法の技法も違ったものとなるようで、本書では、これまで常識とされていた中立性などの概念の再検討がていねいになされていて、とても参考になります。
そして、なにより刺激的だったのは、やはり、心理療法家は眼前のものへの個別性を大切にしたコミットメントが重要との指摘で、事例検討を重視し、個別から普遍へと進むことで事例研究に至るという考え方を徹底されています。
ここらへんは、先日の遊戯療法学会のシンポジウムでも取り上げられていた点であり、真のエヴィデンスとは何か、を考えるうえで大切な視点になると思います。
とても面白く、刺激的な本で、さらに読み込んでいきたいと思いました。 (2018.7 記)
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2021年9月の追記です
このブログを改めて読んでいると、ビオンさんの、記憶なく、というフレーズがふと浮かびました。
毎回毎回のカウンセリングが新鮮なことの大切さを強く感じますし、そこでしかカウンセリングの真の勝負はないのかな、と思ったりします。 (2021.9 記)