ココロの居場所

平穏な居場所を求めるべく、日々、感じた事を掲載していきます。

苦手なことからは、逃げなくてよかったという話

2012-05-20 02:17:28 | ショートショート
1年半ぶりとなる久しぶりの東京出張である今日は、飛行機が苦手な私とって、いつになく憂鬱だった。それでも、重い腰を上げて搭乗手続きを済まして搭乗した。羽田行きの便は、平日の昼過ぎだったからか、飛行機の搭乗率は、あらかたみても50%にも達してなく、私が座った席の3列シートは、私以外には誰も座っていなかった。また、明日は天候が荒れ模様なることが予想されていて、すでに、上空における窓の情景は、ほとんど雲ばかりで、地上の世界を見渡すことは難しかった。そこで、墜落の恐怖心をなくすためには、何か楽しいことを見つけ熱中することが一番よいのだ。私はコンパクトデジカメを取り出し窓に固定し、青空とその下に広がる真っ白な雲の世界を何枚か撮っていた。そうしていたら、キャビンアテンダントの女性が近づいてくる。私は、てっきり機内での撮影を制止されるのかとびくついた。「うまく、撮れましたでしょうか?」とキャビンアテンダントの女性。私はすぐに「こんなのが、撮れました。」とカメラのモニタで、撮ったものをみせた。空と雲の写真を見せると、「わぁ、私もこういうの、すきなんです。」とその女性は言って私と目があった。つぶらなパッチリとした目元が、私の心に焼き付いた。私は、すっかり嬉しくなり、ホットコーヒーを注文した。そうしたら、「有料になってまして。...」ときたので、すかさず、手前のポケットの事前に見ていたメニューのスタバのコーヒーを指した。そして「ホットコーヒー、それにミルクをつけてください。」と添えた。しばらくすると、その女性がやってきて「どうぞ、多めに入れました-。」などと言う。ますます私は上機嫌となっていたようで、「あ、ありがとうございます。」となぜか緊張気味に答えた。もちろん、このコーヒーの味がいつになく格別であったことは言うまでもない。またしばらくして、その女性は、はがきを2枚を持ってきて、「良かったら、使ってください。」と言う。絵柄は787だったが、ここで、ちょっとしたサプライズがあった。2枚のうちの1枚に、なにやらペン筆で次のように書かれていたのだ。「先ほどは、コーヒーをご購入頂き、ありがとうございます♪上空からの景色はお楽しみ頂けましたか?私も空が、とても大好きです!!! また、お待ちしてます。」私は感激し、そのはがきを眺めては、しばし余韻に酔った。

(このショートショートは、99%ノンフィクションです。)

傘の骨

2010-03-27 23:38:46 | ショートショート
春一番と言っては遅すぎる突風が吹き抜けた。そして、横殴りの雨が断続的に降る中、ぼくは、外へ急いで飛び出した。コンビニで買った傘だからか、パタパタと前後左右に頼りなげに揺れながら、風をかわしていた。ふと、あの頃も、こんな天候だったことを思い出した。君は、ぼくより3歩以上先を歩いていたが、雨と風の中、通りすがりのずぶぬれの自転車を避けようとして、体勢をくずしたのか、その調子に風にあおられ傘の骨が折れてしまったのだ。ぼくは、タイミングよく、自分の傘を差し伸べたのに、君は、まだ、させるからよいのだと言って、一本、骨の折れた傘を差しなおし、ますます、先を急ぐのだった。あの時、気の強い君に、ぼくは、合わせていけるか本当に自信がなかった。「おい、おい、相変わらず、短気なんだから。」と声をかけるぼくに、「あ、そうっ、だから、今日は付き合わなくて、いいって、言ったじゃない。」雨粒よりも、冷たく響く君の言葉。今なら、もっと自分の考えていることを君にきちんと伝えられる。だけど、あの時は、正直に言って、君に嫌われるのが怖かったのだ。いや、そうではない。きちんと向き合うのが怖かったのだ。でも、それが、お互いの距離を遠くした。...ぼくは、胸が痛む。その先の橋の色あせた欄干を通り過ぎようとした時、激しい突風が吹き、もののみごとに傘の骨が折れて、傘がひっくりかえった。雨脚は、さらに激しくなり、横殴りの大粒の雨が、容赦なく、ぼくを殴りつけた。ぼくは、その傘を拾うこともせず、呆然と立ち尽くした。ずぶぬれであることも忘れて。

(このショートショートは、95%フィクションです。)

季節はずれの黄砂が降った日を、思い出して。

2010-02-03 22:33:40 | ショートショート
ぶらぶら、歩いていると、茶の木という小さな喫茶店があった。すでにお昼の時間もかなり過ぎていて、おなかもすいていたため、あたるもはずれるも、たまたま目の前にあったその喫茶店に入ることにした。薄暗い店内に、低めの天井、手作りのような机とイス。そして、インド系のワールドミュージックがBGMとして流れていた。せっかちな君に合わせて、メニューを見るのもそこそこに、早くできてきそうなプレートランチとデザートつきのコーヒーを注文した。君は、言葉少なく、バッグから単行本をとりだして読みはじめた。ぼくは、寝不足だったのか、なにをすることもなく、ぼんやりとその場の雰囲気に浸っていた。だから、プレートランチの中身や味を思う出すことができない。でも、コーヒーのカップが、取っ手のない陶磁器でできていたことを覚えている。そして、ぼくは、今でも忘れることができない。向かって斜め後方の窓から、この季節には珍しい黄砂が降りとてもゆるやかになった冬の日差しが、君の髪から肩にふりそそいだ、その情景を。

(このショートショートは、60%フィクションです。)

ビンにはいったコーヒー牛乳

2009-12-17 23:04:50 | ショートショート
めずらしく晴れた日のブランチ時だった。
週末のつかれきった体を、やっともちあげた時だった。
君は、突然、温泉にいきたいと言う。
この日の夜は、別の用事があって、ゆっくり過ごしたい日曜だったので気のりがしなかった。
「すっごく、いいお湯なんだよ。だから、一度、つれていきたかったから。」
もう、すっかり、行く事になっているようだ。
「高速は、かんべん。」と運転力が落ちたぼくは、逃げの体制である。
「最近、堤ルートが開通して速くなったから、すぐ着くよ。」と君が運転、ぼくは助手席ということで、ひっぱられることに。
ここまで言うからには、かなりの穴場なのかもしれないと思った。

しかし、久しぶりに乗る君の運転は、ぼくより少しましなぐらい、ほんとに、へただった。
道を知っていると自慢していた君だったが、それも、雲行きがあやしくなってきた。
唯一、救いだったのは、ナビがついていること。これで、あっちだ、こっちだといいながら、なんとか目的に着くことができた。

目的の温泉だが、ぼくは、ちょっと首をひねった。そう、それはまさしく銭湯という言葉にふさわしいものだったのだ。料金が300円というのも安すぎである。
しかし、ここまで来たら行くところまで行くしかない。当然のごとく男湯に入る。
雰囲気は、まったく、これはただの、銭湯である。ただし、硫黄の匂いがした。湯は実になめらかで、熱すぎることもない。
湯につかって、足を思いっきり伸ばし、頭をあげた。眼にはいってきたのは、高めの広い窓ガラスを通して、冬のゆるやかな日差しが拡散して差込み、ぼんやりと浮かぶ湯気が白んで輝き、体を洗う男たちがシルエットになった。超度近眼のぼくの眼を通しても、これは絵になると思った。こんな気分で湯に浸るのは、10年ぶりぐらいかもしれない。
湯から上がって、待合室で待っていると、ずいぶんして君は現れた。「これ、これ、こういうときは、これでしょ。」と懐かしいビンにはいったコーヒー牛乳を君は、いっきに潤した。ここは、銭湯のような温泉場なのだと思った。

(このショートショートは、30%、フィクションです。)

おばあさんのハナモモの話

2009-08-23 01:39:33 | ショートショート
あるところに、仲のよい老夫婦が、山里の田舎に住んでいました。二人は、休むこともなく、畑仕事に一日中、精を出し、おじいさんがクワを持って耕せば、おばあさんは、野菜の種を植えつける、そんな息のあった生活だったのです。しかし、二人ともに、とうに80歳を超える高齢でしたので、冬の寒い夜に、おじいさんはとうとう、眠るように息をひきとりました。おばあさんは、悲しさを通り越して、しばらく、畑仕事にでることができませんでした。それでも、おじいさんと共に育てた畑から、新しい命が芽吹くのを見て、この畑を守っていこうと思いました。そして、毎日毎日、坂道を行き来し、おじいさんの想いが残る畑に手をかけるのでした。何年かが過ぎ、運命とは非情なもので、おばあさんは、体力的に限界にきていることを悟りました。今や雑草の茂る、手つかずの畑の真ん中に、おばあさんは、ハナモモの苗を植えたのです。ここの山を登る人々が足をとめ、成長したハナモモの花を見て喜んでくれたらという想いからでした。そうやって、いくつかあった畑を、それぞれ、山に返していったのでした。ある日、おばあさんは、たけのこを取りながら、「山は、手をつくした分だけ、返してくれる。」と言った言葉が最期だったと聞いています。

この話は、NHKの番組から一部、変更して、お話にしてみました

雨の日に、若き日を思い出す。

2009-05-22 23:02:27 | ショートショート
雨が降り出した。今の時期の雨は、突然、降り出すのだ。
スクランブルの交差点で、信号待ちをしていたら、
ふいに、ぼくの前を通り過ぎた女性が。
昔の、あの頃の彼女か。まさか、もう随分、時は流れたのだ。
邪魔する傘で、人違いをしたのか。

地下に降りる階段の所で、君は少し振り向き、ちょっと悲しそうな顔して、傘をたたんだ。そう、忘れられない、あの頃の君だ。

甘えることが苦手な君は、ぼくの気持ちと、すれ違うことが多かった。
今、正直に言おう。ぼくは、あまりに自分中心で、大人ではなかったと。
気まずい別れに、今も、後悔している。もう、随分、昔のことなのに。

そして、今、雨足が強くなり、あの頃の鈍い痛みを、洗い流して欲しいと思った。
ずっと、ずっと、もっと激しく、この僕は、しばし、雨に打たれ続けた。

(このショートショートは、70%、フィクションです。
 ある歌に感化されて、書いてみました。)

成就すべき道

2008-12-10 23:21:38 | ショートショート
その男は、いつも不満ばかり抱えてました。
そして、お金こそが、自分を満たしてくれるものだと思い、
稼ぐために仕事を頑張り、手当たり次第に買ったものを並べて、
眺めるのが好きでした。ところが、困った事に、どんなに欲しい物を
お金で手に入れても、満足する事ができませんでした。
ある日、仕事で無理をしすぎたのか、肺炎を患い、倒れてしまいました。

「ここに、おまえが成就すべき道がある。」との声を聞き、その男は、目が覚めました。
窓から注ぐ柔らかな日差しで、あたりを見回すと病室の中でした。
窓の外の屋根にスズメが1羽、いました。屋根づたいに飛び交うスズメの姿は、
冬に向かう厳しい環境でも、自由そのものでした。
その男は、そのスズメの姿を、しばらく追って、眼が洗われるように、つぶやきました。
「心を満たすには、身軽になって、つつましく、生きることなのだ。」と。

補足:この話には、元になった有名な逸話があります。

人生の機微「今のままでいいのか?」

2008-10-20 23:09:49 | ショートショート
ある所に、負け犬とはこういう人物だという模範のような中高年の男がいました。うだつの上がらない仕事を、何十年も続けてました。この日も、被害妄想的に「自分をごまかし続けて、その日をのりきる事がやるせない。」と思っていました。そして、彼は、その日、感情を抑えられなくなって、現実から逃げるように会社を早退してしまいました。それでも、彼は、自分を責め続けます。「無性にふがいない自分に腹がたつ。」と思って自宅に帰ると、家の中は散らかり放題。彼の家族の者は、皆、外にばかり目がむいていて、家の中が散らかっている事に実に無頓着なのでした。でも、彼は人間的な生活をしたいので、ぶつぶつ、独り言をいいながら、掃除をし始めました。家族の者が、夜になると一人、二人と戻ってきました。すかさず、姑のように彼は、小言を言いはじめました。結果は、まるで、鏡に向かって話しかけるようなもので、すかさず自分に跳ね返ってくる言葉の応酬でした。そして、ついに彼は大声で、「俺は頑張ってるのに、おまえたちは、なんだ。」と切れて、家の中の椅子をひっくり返したり、扉や柱を足で、けったりして、情けなくも自傷行為に走るのでした。さて、この男は、救いようのない駄目人間でしょうか。もう、長い事、この家族を見守ってきた、置物のフクロウが、男に語りかけました。「今のままでいいのだよ。ただ、お前は、今、体の状態がよくないようだ。まず、1日、絶食をして、翌日に、わずかなパンを食べなさい。そうすれば、お前が、いかに満たされているか気づくだろう。」と。男は、それを聞いて、ふとんにくるまり、肩がふるえてました。

(このショートショートは、20%、フィクションです。)

ある三つ葉のクローバーのお話

2007-10-08 01:01:11 | ショートショート
四つ葉のクローバーは、幸運を運んでくれると言います。
とある場所に三つ葉のクローバーが、四つ葉になる事を望んでいました。
だから、たくさん、水分を取って、お日様の光を浴びてみました。
でも、四つ葉になる事はなく、葉っぱが大きくなるだけでした。
ある日、強い風が吹いて、葉っぱが一枚、吹き飛ばされてしまいました。
二つ葉になってしまったクローバーが嘆き悲しんでいると、
近くのいた三つ葉のクローバーが、優しく、こう言いました。
「私も、葉っぱを一枚、風に持っていってもらうよ。」
と言うと、近くのいた三つ葉のクローバーの葉っぱが一枚、空高く、
舞い上がっていきました。

すると、どうでしょう。風によって二つのクローバーは、つながり合って、二つで、
四葉のクローバーになる事ができました。

(ラジオのCMから引用、一部、手を加えました。)

感傷的な失恋もどき

2007-08-26 22:35:23 | ショートショート
歩き疲れて、スタバで休憩しようと思った。
店を開けると女性のお客でほとんどの席は埋まっていた。
しかし、夏の暑さに負け、ここで、一息つきたかった。
「ご注文は、いかが致しましょうか。」と聞いてくる。
私は、暑いにも関わらず、反射的にいつもように「ホットコーヒーを。」と応える。
そして、歩く人々が見えるカウンタで、まずストレートで、香りを楽しむ。

ボーっとしてると、ガラス越しの目の前に見覚えのある女性が通り過ぎた。
見間違いだろうか、いや、確かに彼女だった。
私は、過去の事が思い出され、見なかった事にしようと目をつぶった。
あれは、たしか10年前、同じ職場で親しくなり、食事に誘ったりした。
そして、彼女の地元である北九州で、デートらしき事もした。
あの時、彼女は「西新の近くで、過ごしたい。」とさりげなく言った。
でも、押しの弱い私と彼女の間は、それ以上の仲にはならなかった。...
その彼女が今、目の前を。しかし、日曜日の午後だから多くのお客であふれかえっている。
だから、私に気づくはずがないのだ。イヤホーンを耳につけるとエルビス・コステロの「She」が流れた。いつの間にか、隣の席が空いていた。
そして、次なる客が座ると、「お久しぶりっ!」と声が聞こえる。
私が振り返ると彼女だった、想定外の展開にあわてて何と返事したか思い出せない。
彼女は、見違えるほど前向きで、積極的になっていた。
私が、なにか話そうとすると、「白髪、ふえたね~。」と可愛くない事を言う。
気まずくなるのを察してか、彼女は「あ、じゅあ、またね。」と席を立とうとした。
私は、「もう少し、ゆっくりしていかない。」とやっと応える。
彼女は、「ちょっと、友達ときてるので、またね。」とつれなかった。
ほんとに、彼女が友達と一緒かどうかなんて、どうでもよかった。
私は、過去の不甲斐ない自分が呼び起こされ、身動きができなかったのだ。
いつの間にか、イヤホーンから「YESTERDAY」が流れていた。

(このショートショートは、95%フィクションです。)