臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の「朝日歌壇」から(12月5日掲載分・其のⅣ)本邦奔放初演!本日特出し大公開!乞う、日本国民皆読!

2016年12月20日 | 今週の朝日歌壇から
[馬場あき子選]
○ πと兀古代ギリシャと中国で生まれた文字は不思議な双子 (観音寺市)冨田高志

 例えば「『凹』は女陰(ほと)『凸』は男根(だんこん)交合は『凸』を『凸』に埋むる行為」といったような短歌を誰が詠んだとする。
 そんな短歌に対する朝日歌壇の選者諸氏の評価や如何?
 また、「妻(さい)と妾(しょう)たがひに性を同じくし嫉(そね)み妬(ねた)みて同棲不能」といったような短歌を私・鳥羽省三が詠んだとする。
 そして、そんな短歌を私が朝日歌壇に投稿したとしたら、果たして入選合格の運びと相成るのでありましょうか?
 文字の相似や篇(へん)や旁(つくり)を同じくする文字に関わる短歌は、これまでも一定の時期を隔てて新聞歌壇に再三投稿され、ある作品は入選作として紙面に掲載され、ある作品は没にされて闇から闇へとと葬られてしまったかと思われます。
 掲出の馬場あき子選の首席作品や、私・鳥羽省三が面白半分に即席で詠んだ前掲の淫靡な内容の二首などは、発想の奇抜さやアイデアだけが取り柄の作品だろうと思われるのであるが、新聞歌壇や結社誌の選者諸氏が、こうした作品の是非を判断する場合の基準はどの辺りにあるのでありましょうか?
 短歌というものは、必ずしも、国民大衆に愛国心や肉親愛や正義感や倫理道徳などを啓蒙し奨励する道具ではありません。
 だが、過去の一定の時期に於いて、短歌がそうした役割を果たしていた事は、今更隠しようも事実であるし、当、朝日歌壇の昨今の入選作の多くに見られる「反原発」、「反安保」、「反自衛隊の海外派兵」、「反トランプ」、「親憲法九条」、「親オバマ」、「親天皇制」といった傾向は、それと五十歩百歩の違いでしか無いと、私・鳥羽省三には思われるのである。
 昨晩の寝付きがあまり宜しくなかった所為なのかも知れませんが、ついうっかり、私の本音めかした冗談ごとを記してしまいましたが、かと言って、私には、前掲の二首の如き淫靡な内容の作品を当朝日歌壇に投稿して、親愛なる選者諸氏の短歌観を窺ってみようとする悪戯心などは、今のところ全く以てありませんから、選者諸氏に於かれましては、何卒、ご休心くださいませ。
 第一、初めから入選するはずのない即席の作品に、郵便葉書代金・五十二円を投資するほどの経済的な余裕は、年金暮らしの私にはありませんからね!
 [反歌] 机と椅子いつもセットで用ひられ「椅子」に「子」が付くことの不思議さ
      椅子の無い机は用を為さざるも机が無くても椅子は用為す
      斯く程に母に子供は必要で子供に母は必要でなし
 

○ 冬越しの注意など受けもらい来る友の「うちの子」メダカ十匹 (名古屋市)磯前睦子

 かつての或る秋の一日、東京二十三区内の何処かの墓地で「ミケちゃんの墓」なる墓標を目にした時、私は、それこそ目の玉が飛び出すほどにも吃驚仰天したものでありましたが、今となっては、それは私の認識不足の所為であったと、深く反省せざるを得ません。
 それにしても、たかが「メダカ」風情を「うちの子」とはね!
 私たち人間、特に日本人の増上慢も此処に至れりといった感じですね!
 [反歌] 天井裏もそもそ這へる青大将われらを守る屋敷神なる


○ 思い出は色なき風の中に住み秋深まると顔のぞかせる (東京都)青木公正

 今から六十年前に、北東北の田舎町生まれの私が初めて上京し、板橋区の志村橋を渡ろうとした時、私の新品の白いワイシャツを染めるような赤い色の風が吹いて来たのにはびっくりしました。
 あの頃の東京の川は、荒川にしろ、神田川にしろ、多摩川にしろ、濁りに濁っていたし、空気には気持ちの悪い化学薬品の匂いが混じっていたし、水道の水にはカルキ臭、東京も場末の板橋区内などでは、空吹く風にも赤や黄色の捺染工場の染め粉が混じっていたんですよ!
 本当の話ですよ!
 神に誓って私・鳥羽省三は嘘を言いません!
 まあ、こんな昔話をしてもキラキラネームの君たちは誰も信じたりはしないと思いますけれど!
 本作の作者の青木公正さんは、さる年の秋に二人目の恋人に振られたのでありましょうか?


○ 大阪の人はいつでも急いでるそんな活気だ地上も地下も (名古屋市)長尾幹也

 初めて大阪に行った時、私は地下鉄の車内の網棚に新聞が乗っていない事に気付きびっくりしましたが、本作の作者・長尾幹也さんは、単身赴任先の名古屋から大阪にご出張なさった折りに、「大阪の人はいつでも急いでる」のに気付き吃驚なさった、との事。
 でも、「大阪の人」が「いつでも」急ぎ足で歩いているのは、あれは、元禄の井原西鶴の頃からの伝統であり、何も今始まった事ではありません。
 で、もう一言申し添えますと、「大阪の人」が「いつでも急いでる」のは、あれは、〈大阪維新の会〉のお膝元の大阪の街が、特別に景気がいいからではありません。
 現実はむしろ逆で、今の大阪は東京からは離され、名古屋からは追い上げられて、不景気のどん底に陥ってるんですよ。
 その証拠として、こないだの朝日新聞の記事に拠ると、「関西電力の電気使用量があと半年も経つと中部電力のそれに追い越されてしまう」との事です。 
 そういう事ですから、本作の作者の長尾幹也さんも、「いずれ妻子の待っている大阪に帰ろう」などという気を起こさずに、名古屋嬢の蟹股足でも拝みながら、そのまま、名古屋市に住み着いてしまった方が賢明ですよ。


○ ノルウェーのサーモンのお寿司食べながら心の奥に雪が降ってる (神奈川県)九螺ささら

 「ノルウェーのサーモンのお寿司」を「食べ」たからといって「心の奥に雪が降ってる」とは、単純と言えば真に単純!
 私は、本作の作者の九螺ささらさんの事を、今まで、田螺の甲羅の如く、ひと曲がりもふた曲がりもしたご性格の女性だとばかり思って居りましたが、案外〈純情可憐な乙女〉なのかも知れませんね!
 私としたことが見損なってしまったわ! 


○ 大学は都会もいいなでも私雪景色が好き巣立ちの準備 (富山市)松田梨子

 大学入試も一時期の混乱状態から解放されて、松田梨子くらいの心掛けの宜しい受験者ならば、第一志望校に百発百中とまでは行かないけれども、かなりの確率で入れるようになりましたから、あと一ヶ月間じっくりと考えて、必ずしも地元の国立大学に拘らずに、ご自身の適性を活かせるような大学を選んで下さい。
 それともう一点申し添えますと、「大学入学=巣立ち」ではありません。
 ご両親や親戚の方々には、これからも迷惑を掛けるんですよ!


○ 難聴のゆゑの齟齬にて立ちつくす枯れ野にむごしわれの耳鳴り (浜松市)松井 恵

 「枯れ野にむごしわれの耳鳴り」とは!
 斯く申す、私も「難聴のゆゑの齟齬にて立ちつくす」場合が再三ですから、本作の作者の松井恵さんと私とは、「同病愛憐れむ」という間柄なんですね!


○ 捨て案山子あらぬ眼差しにあるものは農を捨てたる人の切なさ (東かがわ市)河野久之

 やや文意不明瞭な作品でありますが、一首の意は「刈り入れの終わった田圃で『捨て案山子』が『あらぬ』方向に『眼差し』を向けているが、彼の眼差しの彼方に『あるものは農を捨てたる人の切なさ』」といったところでありましょうか?