臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の「朝日歌壇」から(12月5日掲載・そのⅠ)本日特出し大公開!乞う、ご期待!

2016年12月17日 | 今週の朝日歌壇から
[佐佐木幸綱選]
○ 寝息たてソファヘに寝る娘胸の上赤子が同じ顔して眠る (静岡市)菅沼美代子

 本作の作者の菅沼美代子さんは、作中の「娘」の母にして「赤子」の祖母なれば、三代続きの「同じ顔」をしみじみと眺めているのでありましょう。


○ バナナ・柿・みかんに昨日の芋そえてほとんどゴリラのわれの朝食 (東京都)松本知子

 上野動物園の「ゴリラ」は、「バナナ」などの果物の他に〈ゆで卵・ヨーグルト・プトトマト・レーズン・落花生・煮干し」なども食べる、とのこと。
 ならば、本作の作者・松本知子さんの「朝食」のメニューはゴリラ以下ではありませんか!


○ 戦争の授業はたった四時間で戦後へ走る高校日本史 (西条市)村上敏之

 「高校」の「日本史」の「授業」では、大学入試問題などとの絡みも在って、ごく最近になって近・現代史まで教えるようになりましたが、以前はせいぜい明治維新止まりでした。
 「たった四時間」だけでも太平洋戦争に就いて教え、「戦後へ走る」のはかなり進度が早い授業です。
 そもそも、高等学校学習指導要領で定められた日本史の授業時間配当は〈日本史A〉が二単位、〈日本史B〉が四単位である。
 四単位とは、四十分授業が週当たり四時間であるが、この程度の時間配当で戦後史まで教えるのは、マラソンを百メートル競争並みのタイムで走らなければならない事になるのです。


○ お日様が時計がわりの日々でしたふるさとの村谷あいの家 (静岡市)安藤勝志

 「谷あいの家」ともなれば、「お日様」が昇るのが午前8時過ぎ、沈むのが午後4時頃なのかも知れません。
 だとしたら、安藤勝志さんの「ふるさとの村」の一日は物凄く短かったんですね!


○ 冬用のセーラー服に着替えた日風も私もキリッとしてる (富山市)松田わこ

 本作の作者の松田わこさんは、素顔からして元々「キリッとしてる」んですよ!


○ 背伸びして暖簾を掛ける媼居てシャッター通りの昼が始まる (横浜市)毛涯明子

 「昼が始まる」が一首の眼目である。
 また、「背伸びして」もなかなか含蓄が深い表現である。
 「媼」だから腰が曲がっている。
 だから「暖簾を掛ける」のに「背伸び」する必要があるのか?
 また、「シャッター通り」だからお客が来るはずがないのに開店するのを「背伸びして」と言ってるのか?


○ 代替のバスの待合室となりし駅舎を飾るクレヨンの顔 (長野市)原田浩生

 「代替のバスの待合室となりし駅舎を飾るクレヨンの顔」には、いちいち「パパのかお」「ママのかお」「バアバのかお」「ジイジのかお」「へんなおじさんの顔」などとの説明書きが付けられています。


○ 何思うと話したくなる、かたわらに寝そべるねこに陽ざしがまるい (神戸市)松田成美

 「陽ざしがまるい」としたところがなかなか宜しい。
 そんな「猫」を目にしたら、誰だって「何思う」と話し掛けたくなりますよ!


○ 献燈を軒に吊して川越しのみこし太鼓の音を聞きをり (豊後大野市)三代英輔

 本作の題材となっているのは、豊後大野市緒方地区の「緒方三社川越しまつり」である。
 毎年十一月半ばの土曜日から日曜日に掛けて行われるこの祭典では「松明が明々と燃える中、犢鼻褌姿の勇壮な若者たちに担がれた神輿が川に立つ鳥居を潜って対岸のお宮まで渡る。源平時代の武将、緒方三郎惟栄にまつわるもので、厳寒の時期だけに多くの見物客で賑わいます」とのこと。
 因みに、明年度は、「平成28年11月12日(土曜日)~13日(日曜日)・川越しは19時から行われる予定」とのこと。


○ 君の中の銀河の中の地球の中の私の中のあのひと (茅ヶ崎市)川島向日葵

 演出過剰。
 創り過ぎです。
 そんなに大事な「ひと」であったならば、真綿で包んで置きなさい。
 第一に、この無限大とも言える宇宙の中の一人の男の存在なんか、それこそ〈インフルエンザウイルスの国〉の〈ゴミ置き場のゴミ〉みたいなものでありましょう。