イスラーム文化を真にイスラーム的ならしめているものは何か。―著者はイスラームの宗教について説くことからはじめ、その実現としての法と倫理におよび、さらにそれらを支える基盤の中にいわば顕教的なものと密教的なものとの激しいせめぎ合いを認め、イスラーム文化の根元に迫ろうとする。世界的な権威による第一級の啓豪書。
出版社:岩波書店(岩波文庫)
イスラム教を少し知りたくて手にした本だが、非常に刺激的な内容で、楽しい読書となった。
文章も一般人を対象にした講演をまとめているだけに、平易で読みやすく、理解しやすい。
初心者向けの良質な一冊と言ってもいいだろう。
著者が文中でも述べているように、文化は「その文化の成員のものの考え方、感じ方、行動の仕方をあらかじめ決定する」ものだ。
それはイスラムでも顕著に表れているらしい。
イスラームでは、聖なる領域と俗なる領域を区別しておらず、「生活の全部が宗教」という点。
イスラームはすなわち、『コーラン』とムハンマドの業績や言行をまとめた「ハディース」のテキスト解釈と結びついた文化であるという点。
神と人との関係において、イスラームには、キリスト教の父と子のような親しさはなく、主人と奴隷という契約関係となっている点。
イスラームという語源自体、絶対帰依を意味している点。
因果律が否定され、神が無条件で全能的であり、人の関与する余地がないという点。
『コーラン』に基づいてつくられたイスラーム法は命令という形式を取っている点。
などなど。
それはとかく峻厳なイメージのあるイスラーム世界と合致していて興味深い。
傍目的に厳しそうな彼らの宗教的態度にはそのような背景があったのか、と驚くばかりだ。
またそんなイスラームの問題点にもいくつか気付かされる。
たとえば構造的に、イスラーム国家は世俗の分離ができていないことから、近代化に必要な世俗国家としての形態を持ちえず、近代化に苦労することとなった点。
聖典解釈の自由「イジュティハード」が9世紀に禁止されたことで、「活発な論理的思考の生命の根を切られてしま」い、「文化的生命の枯渇という重大な危険に身をさらすことにな」ったこと、そしてそれが「近世におけるイスラーム文化の凋落の大きな原因の一つ」となったという点、
などなど。
それらには宗教の根深い問題を見るようで、興味深い。
また現世重視的なスンニー派や、内面への道へと深化したシーア派など、それぞれの違いも見られておもしろかった。
大概、両者はムハンマドの後継者をどう見なすか、という分け方で述べられることが多い印象なので、細かな違いの説明はおもしろい。
特に、両者が聖典解釈で、大きく異なっているという点が何より印象的だった。
そりゃ衝突するだろうな、と読んでいて納得もした。
ともあれ、知らないことばかりで、どのページを読んでも刺激に富んだ内容だった。
イスラーム世界とその宗教について、多くを知ることのできる、初心者にもわかりやすい一冊である。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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