2009年度作品。アメリカ映画。
文明が崩壊して10年あまり。空を厚い雲が覆い、寒冷化が進んだ世界には生物の姿はなく、食料もわずかしかない。生き残った人々のなかには、人を狩り人肉を食らう集団もいた。そんな大地を、ひたすら南を目指して歩く親子がいた。道徳や理性を失った世界で、父親は息子に正しく生きることを教える。自分たちが人類最後の「希望の火」になるかもしれないと。人間狩りの集団におびえながらも、二人は海にたどり着く…。(ザ・ロード - goo 映画より)
監督はジョン・ヒルコート。
出演はヴィゴ・モーテンセン、コディ・スミット=マクフィー ら。
映画に向く題材と向かない題材というものがある。
「ザ・ロード」は映画に向かない題材を映像化しているように僕には感じられた。
過程はよくわからないものの、人類の多くは死滅してしまい、世界から秩序が失われ、暴力が支配するようになっている。そんな世界を、父子はひたすら進んでいくという内容である。
ドラマ的なイベントはあるものの、物語自体は、見ようによっては単調だ。
原作の小説は想像力に訴えかけるものがあったため、おもしろく読むことができた。
だがその世界を映像化すると、どうしても牽引力に乏しいように見えてならない。
だが部分部分のエピソードは、やっぱりそれなりにおもしろい。
人肉を食べる集団から逃げるシーンなどはハラハラさせられるし、父と子の関係の描き方も心に残る。
父が子どもを守ろうとする――その姿は物語の中心を、終始貫いており、その姿が忘れがたい。
しかし終末の世界を描いているだけに、親子には、厳しい試練が待ち受けている。
息子を苦しめないためにも、万が一のときは自分が息子を殺さねばならない。そう父親は思っているが、その心情はなかなか切ない。
そしてそういう覚悟を、持たなければならない状況は、大変悲しいことだとつくづく思ってしまう。
それにその世界では、自分が生きていくため、他人を押しのけねばならない場面も生まれる。
たとえば、父は息子を守るために、人を傷つけることもある。
善き者であり続けることを、息子は望んでいるが、この絶望的な世界ではそれすら容易ではない。
そこにあるのは、どうしようもならない重苦しいほどの悲壮感だ。
だがラストにはかすかな希望が混じっているように感じられ、少しだけほっとする。
全体のトーンは沈んでしまいそうな、灰色のトーンで描かれているけれど、カラーのついた映像と同様、息子の前途には、それなりに明るい予感が漂っているようにも感じられる。
その印象が麗しく、忘れがたい。
地味であり、必ずしも上手い作品と思えないが、静かに胸に響く一品である。
評価:★★★(満点は★★★★★)
原作の感想
コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』
出演者の関連作品感想
・ヴィゴ・モーテンセン出演作
「イースタン・プロミス」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます