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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「マイ・バック・ページ」

2011-07-27 21:21:59 | 映画(ま行)

2011年度作品。日本映画。
東大安田講堂事件をきっかけに全共闘運動が急激に失速を見せていた、1969年。東都新聞社で週刊誌編集記者として働く沢田は、取材対象である活動家たちの志を理解し、共有したいという思いと、ジャーナリストとして必要な客観性の狭間で葛藤していた。2年後のある日、沢田は先輩の中平とともに梅山と名乗る男から接触を受ける。梅山から「武器を揃え、4月に行動を起こす」と言われ、沢田は疑念を抱きつつも親近感を覚えるようになる。(マイ・バック・ページ - goo 映画より)
監督は「リンダ リンダ リンダ」の山下敦弘。
出演は妻夫木聡、松山ケンイチ ら。




そこまでくわしく知っているわけでないので、えらそうなことは言えないが、全共闘というものに対して、僕は偏見を持っている。

思想的には一面的、独善的、短絡的な部分が多く、学生たちは熱病的な流行に乗っているだけで、筋の通った考えをもっているわけではない。
若気の至りで騒いだだけの、迷惑でうすっぺらいお祭騒ぎ、というのが僕の偏った考えだ。


「マイ・バック・ページ」はその当時の青年たちを描いている。
主として描かれるのは、全共闘運動に共感を覚える若い記者沢田と、革命運動を続ける青年梅山だ。


松山ケンイチ演じる梅山は、僕が持っている全共闘運動の悪いイメージを集約したような人物である。
うすっぺらくて、思想にも中身がない。流行に乗っているだけで、ヒロイックな自分の行動に酔っている。

それだけでなく、彼は自己弁護が激しく、自分の手を汚すことのない卑怯な人物として描かれている。
最悪なやつだな、否定的な気分で見ていた。
青いと言えば青いけれど、その青さと独善っぷりに見ていて、げんなりしてしまう。


一方の、妻夫木聡演じる沢田は、僕が持っている全共闘運動のいいイメージを集約したような人物だ。
本気で世界を良くしたいと考え、若い考えなりに行動したいと願っている。

だが、彼が全共闘にシンパシーを覚えるのは、仲間と一緒に行動できなかったという負い目もある。だからこそ、必要以上に梅山を信じて、援助しようとするのだ。
けれど、そこに迷いがないわけではない。それは結局のところ、梅山が信じるに足るかという一面に尽きる。

基本的に沢田という人は純粋なのだろう、と見ていて思う。
彼は社会の側に立ち、卑怯に自分をだまして生きることができない人間なのだ。冒頭の挿話などいい例だ。
言い換えるなら、社会的に見れば、不器用で弱い人間ということである。
だからこそ、梅山といううすっぺらい人間を信じることを貫き通してしまったのだろう。
彼が社会的に制裁を受けるほど、強く自分を貫き通したのは、矛盾しているけれど、彼の弱さゆえなのだろう、と僕は思う。


ラストシーンはこの映画のすべてを象徴するシーンだと思う。

沢田はそのシーンでひたすら涙を流し続けた。
その涙にある感情を名づけることは容易ではない。
彼は信じた人間に裏切られ、自分が信じた通りに行動した結果挫折を強いられた。そして同時に自分がだました人間に信頼を寄せられ優しくされてもいる。

それは敗北の涙であり、自身のふがいなさに対する涙かもしれない。
もしくはもっと深い意味があるのかもしれない。

ただそのシーンは、切なくも苦く、余韻を残すラストになっている。それが個人的にはとても印象に残った。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



関係者・出演者の関連作品感想
・山下敦弘監督作
 「天然コケッコー」
・妻夫木聡出演作
 「悪人」
 「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」
 「クワイエットルームにようこそ」
 「ザ・マジックアワー」
 「憑神」
 「どろろ」
 「パコと魔法の絵本」
 「ブタがいた教室」
 「闇の子供たち」
・松山ケンイチ出演作
 「ウルトラミラクルラブストーリー」
 「L change the WorLd」
 「男たちの大和/YAMATO」
 「椿三十郎」(2007)
 「DEATH NOTE デスノート 前編」
 「DEATH NOTE デスノート the Last name」
 「ノルウェイの森」

「ミックマック」

2010-11-16 20:20:06 | 映画(ま行)

2009年度作品。フランス映画。
ビデオ店に勤めるバジルは、発砲事件に巻き込まれ一命は取り留めたものの、銃弾を頭の中に残したまま生きてゆく羽目になる。入院中、仕事も住む部屋も失いホームレスとなるが、【ギロチン男】ことプラカールに拾われ廃品回収業を営む一団に加わることに。ある日、頭の中の銃弾と、30年前に父の命を奪った地雷それぞれの製造・販売をする二つの巨大企業を突き止める。バジルは仲間たちと知恵を絞って報復作戦を開始する。(ミックマック - goo 映画より)
監督は「アメリ」のジャン=ピエール・ジュネ。
出演はダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエ ら。




「アメリ」の監督ということもあってか、本作には個性的なキャラクターが多く登場する。
体が異様に柔らかい女や、人間大砲のギネスホルダー、数字に強い女など、どれもキャラが濃くて、印象に残るものばかり。それだけに見ていておもしろいな、と思うことができる。
つくり手のセンスがいい感じに出ている。

物語はコメディタッチで進んでいく。
僕の近くに座っていた人はくすくすと笑っていたので、笑える人もいるのだろう。
それはそれとして、雰囲気自体は楽しげであり、明るい気分で鑑賞できる点が良かった。

物語はそういう背景もあってか、ドタバタ劇めいたものになっている。
武器製造会社と銃製造会社を互いに争わせて、敵対させていく過程に、えぐい展開になるのかなと思ったのだが、最後まで、おもしろおかしく見せることに徹しており、好印象。
ラストは皮肉も利いていて、後味よく席を立つことができる。

パンチの弱い作品であり、そこが最大の欠点だが、それでも独自の雰囲気を出した手腕は見事だ。
絶賛はできないが、それなりの佳品といったところだろう。

評価:★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・ダニー・ブーン出演作
 「戦場のアリア」
・アンドレ・デュソリエ出演作
 「あるいは裏切りという名の犬」

「マイレージ、マイライフ」

2010-05-12 20:31:46 | 映画(ま行)

2009年度作品。アメリカ映画。
年間322日も出張し、リストラ宣告を行っているライアン。「バックパックに入らない物は背負わない」がモットーだ。面倒な人間関係を嫌い、出張先で出会った女性とその場限りの情事を楽しむ毎日だ。貯まったマイレージは1000万目前。しかし、その目標を阻む者が現れた。新人ナタリーが、ネット上で解雇通告を行うという合理化案を提出したのだ!(マイレージ、マイライフ - goo 映画より)
監督は「JUNO/ジュノ」のジェイソン・ライトマン。
出演はジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ ら。



軽さと重たさとが、適度にバランスよく調和した作品である。
そのため見ていても、すなおにおもしろいと思うことができる。

この映画は社員にクビを言い渡す役目を引き受けるコンサルタントの話である。そのため、内容としては充分に重たい作品だ。
それでも軽妙であると感じた理由は、やはり笑いに依るところが大きい。
アナ・ケンドリックが突然泣き出すあたりの流れや、ボードの使い方などはコメディタッチで、くすくすと笑うことができる。
このあたりは監督のセンスが感じられて好ましい。


また俳優陣の演技が優れている点にも、大いに魅せられる。

ジョージ・クルーニーがすばらしいのは知っているが、カジュアルな関係を結ぶ大人の女を演じたヴェラ・ファーミガも非常に印象的である。
これまでにも彼女の作品を見てきたが、こんなに印象に残る女優ではなかった。
だけど、この作品では非常に強い個性が感じられて、なかなか忘れがたい。

だが個人的にもっともツボだったのは、そんなベテラン二人ではなく、新米社員を演じたアナ・ケンドリックであった。
若いゆえにとんがっていて、きまじめゆえに融通がきかない女性を、彼女は等身大に演じている。
アナ・ケンドリックは初めて知る女優なのだが、この一本を見る限り、かなりセンスのいい女優だ。


物語のエピソードにも心に残るシーンがある。
個人的には、クビを宣告されたときの、社員の表情や言葉遣いに心を打たれた。つうか個人的な事情もあって、他人事には思えなかった。
オンライン映像でクビを宣告された老人が、涙を流すシーンがあるのだが、そのシーンにはこっちまで泣きそうになってしまう。
それらのシーンを見ている間、僕はずいぶんと心がへこんでしまった。
そこにある悲しみ、人生に突如降りてくる理不尽なできごとには、他人事ではない分、何かと考えさせられる面が多い。

ラストはいくらか平凡で物足りないのだが、笑いあり、人生の重みありで、楽しめる作品に仕上がっている。
欠点はあるけれど、僕はこの作品が好きである。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・ジェイソン・ライトマン監督作
 「サンキュー・スモーキング」
 「JUNO ジュノ」
・ジョージ・クルーニー監督作
 「グッドナイト&グッドラック」
・ジョージ・クルーニー出演作
 「オーシャンズ13」
 「グッドナイト&グッドラック」
 「シリアナ」
 「フィクサー」
・ヴェラ・ファーミガ出演作
 「縞模様のパジャマの少年」
 「ディパーテッド」

「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」

2010-03-09 20:00:53 | 映画(ま行)

2009年度作品。スウェーデン=デンマーク=ドイツ映画。
敏腕ジャーナリストとして鳴らしたミカエル・ブルムクヴィストは、大物実業家のスキャンダルを暴いたばかりに名誉棄損で有罪判決を受けてしまう。そんな矢先、40年前の少女失踪事件の真相解明を大企業グループの重鎮ヘンリック・ヴァンゲルから依頼される。早速、ヴァンゲル一族の住む孤島で調査を開始したミカエルのもとに、天才ハッカーにしてパンキッシュな出で立ちの若い女リスベットが貴重な情報を持って訪れる。(ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 - goo 映画より)
監督はニールス・アルデン・オプレヴ。
出演はノオミ・ラパス、マイケル・ニクヴィスト ら。



筋運びが巧みな映画である。

盛り上がるポイントは随所に散りばめられているし、後半の畳み掛けるような展開はなかなかのもの。
それに伏線の散りばめ方も堂に入っている。

たとえば前半にあったレイプシーン(「アレックス」みたいだった)。
これを見たときは何でこんなものを描くのだろう、悪趣味な、と思ったのだけど、後半でそのレイプシーンをそれとなく呼応させてくるところなどは、うなってしまうほど上手い。
また投獄のきっかけになる不正行為の追及も、ラストで生きてくるところは好きだ。

その物語の組み立てには感心するばかりである。ミステリのおもしろみを堪能できる格好だ。


もちろん欠点はたくさんある。
エピソードを若干つめこみすぎていると思うし、そのために印象が散漫になっているし、派手なモチーフのわりにパンチも弱いところは気に食わない。

それでも構成の上手さを認めるのに、僕は何のためらいもないのだ。


キャラクターとしては、主人公二人のつながりの描き方はちょっと弱いように思う。
それにそんなに簡単にくっついていいの、と思う部分もなくはない(もちろん女の過去から判断するに、必然的な理由はあるようだけど)。

しかし、ラストで女が男に真相を伝えるシーンなどはなかなか好きだ。
二人の間にある適度な距離感もおもしろく、孤独と共感がうまく出ていたと思う。


続篇があるらしいが、現時点では見るかどうかは不明だ。絶対次も見たいと思わせるほどの力はない。
しかしサスペンスとしては、よくできた作品で、退屈せずに見ることができる。丁寧につくられた一品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「燃えよドラゴン」

2009-11-24 20:57:21 | 映画(ま行)

1973年度作品。アメリカ=香港映画。
香港の裏社会に君臨する実力者ハンが主催する武術トーナメントに、世界中の武術家が招待された。アメリカのウィリアムズ、ローパーはその招待状を受け取り、香港へ向かう。一方、少林寺で武術を修行中のリーという若者は、秘密情報局から、トーナメントに出場し、ハンの麻薬製造密売の内情を探り出す要請を受ける。
監督はロバート・クローズ。
出演はブルース・リー、ジョン・サクソン ら。



この映画は、ブルース・リーの代表作だが、それは映画の魅力がブルース・リー一人の力に負っているからにほかならないのだろう。

実際、ストーリーだけを抜き出せば、平凡な作品かなと思う。
物語の流れは勧善懲悪そのもので、つまらなくはないけれど、つまらなくはないね、という程度で終わってしまう。そういうレベルの作品でしかない。
一ヶ月も経てば、ストーリー内容など完全に忘れているだろう。


しかしその平凡なお話も、ブルース・リーのおかげでは一変している点が本当にすごい。
一言で片付けるなら、彼はとにかくかっこいいのだ。

特にヌンチャクさばきなんかは最高である。あのシーンを見て、ヌンチャクの真似をした人は多いと聞くけれど、それも納得。DVDを見ながら、思わず「すげえな」とつぶやいてしまった。
その動きのキレにほれぼれとしまうし、見ているだけでワクワクドキドキしてしまう。

蹴りなどの動きも見応えがあるし、そのほかのアクションもすばらしい。
ブルース・リー特有の怪鳥音なんかはインパクト大だ。


ブルース・リー作品を観るのは初めてだったけれど、確かにこの存在感は強烈だ。
彼の存在が永遠となるのも、と当然だな、と思わせる一品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」

2009-11-17 21:09:46 | 映画(ま行)

2009年度作品。アメリカ映画。
今年の夏、ロンドンのO2アリーナで開催されるはずだったマイケル・ジャクソンのコンサート"THIS IS IT"。本作は2009年4月から6月までの時間の流れを追いつつ、百時間以上にも及ぶリハーサルと舞台裏の貴重な映像から構成される。
監督はケニー・オルテガ。



最初はこの作品を見に行く予定などなかったのだが、あまりに評判が良かったので、DVDを待たずに大画面で見ることに決めた。
わが事ながら、えらく安直だと思う。

だが結果的には、映画館で見て正解だったかな、と感じることができた。
それは、歌の迫力が段違いだったからにほかならない。

たとえば、冒頭の「WANNA BE STARTIN’ SOMETHIN’」。
一応鑑賞後に、「HISTORY」という古いアルバムを聴き直したが、同じ曲でも、映画とCDではサウンドがまったく違っていた。当然ながら映画の方が、むちゃくちゃ臨場感はある。
おかげで、最初からいきなり心を持っていかれてしまうのだ。


それ以外の曲も、当たり前だがすばらしい。
ロンドン公演のリハーサル映像ということもあり、映画では、実際にライブで使用される予定だった演出が用いられている。そのため見ているだけでも充分楽しいものになっている点も良かったと思う。

たとえば、ダンサーとの共演が、演出としておもしろかった「THEY DON’T CARE ABOUT US」。
映像をバックにして、マイケルたちが踊るシーンに、心底しびれてしまった「SMOOTH CRIMINAL」。
ゴーストたちの演出が見るからに楽しそうな「THRILLER」。
ギターの女性が最高にカッコいい「BEAT IT」、など。


それにリハを映画にしているということもあってか、マイケルがスタッフたちに、いろんな指示を、かなり熱心に出しているのが知れて、非常に印象深い。

「HUMAN NATURE」では、音を何度か合わせているのがうかがえて、彼の熱心さがよく伝わってくるし(ついでながら、音合せからフルの演奏に入っていく演出はなかなか良かった)、「THE WAY YOU MAKE ME FEEL」では、テンポのとり方を熱心にスタッフに指導しており、いい作品にしようとしているのがそこからもよくわかる。

ほかにも音を出すタイミングやダンサーたちへの振り付け、演奏家への指導など、マイケルはすべての多岐にわたる演出を一人で行ない、精力的に行動している。
そのアドバイスは真剣そのものであり、ときにきつくダメ出しもする。
だがそれは決して尊大ではないのだ。
スタッフたちをはげますマイケルの姿からは、彼の細やかな性格がうかがえるようである。

「I JUST CAN'T STOP LOVIN’ YOU」を見る限り、のどを大事にしていたこともわかるし(この曲のシーンがこの映画最大の見せ場だと思う)、自分のことも他人のことも、ずいぶん気を配っている。

そういう場面を見続けていると、マイケルはこのロンドン公演を本当に成功させたかったんだろうな、というのがよくわかるのだ。
彼は本当に一所懸命で、その熱心で情熱的な姿に、感動してしまう。
それだけに、ロンドン公演を行なうことなく、志半ばで彼が亡くなったことは残念でならない。


僕はマイケル・ジャクソンが好きだし、アルバムも持っている。だが、ファンというほどではなかった。
そのため正直な話、よく知ろうとしないまま、マイケル・ジャクソンのピークはすでに過ぎていたと思いこんでいた。
だが、この映画を見ていると、彼はまちがいなく、現役で、しかも一級のエンタテイナーであり続けたのだ、と思い知らされる。

マイケル・ジャクソンというアーティストの偉大さを、存分に知らしめる作品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「湖のほとりで」

2009-08-25 21:42:41 | 映画(ま行)

2007年度作品。イタリア映画。
北イタリア、のどかな小さな村のはずれにある湖のほとりで発見された美しい少女アンナの死体。争った形跡がないことから、顔見知りの犯行であると推測された。この村に越してきたばかりの刑事サンツィオは、いつも明るく元気だったアンナの様子が、ベビーシッターをしていたアンジェロが不慮の事故で亡くなってから変わったという情報を耳にする。アンナは誰に、なぜ殺されたのか――? 捜査を進めていく中で、住民たちの人間関係や家族のあり方が明らかになっていく―。
監督はアンドレア・モライヨーリ。
出演はトニ・セルヴィッロ、アンナ・ボナイウート ら。



湖で女性の遺体が見つかり、その事件の真相を刑事が追う。事件を追うため、彼女の周辺を洗ううちに、怪しそうな人物がいろいろ出てくる。
そういう展開で映画は進んでいく。ジャンル的には、ミステリと言えるかもしれない。

だがつくり手はミステリ部分よりも、ドラマ部分を重要視して描いたのだろうな、ということは伝わってくる。
実際、多くは語らないけれど、ミステリとして見たら、ちょっと弱いかなという気がしなくはないからだ。
だがドラマ部分が優れているかといえば、ちょっとそうとは言いがたい。
趣味の問題かもしれないが、何かが足りないように僕には思えた。


映画は、ミステリのテンプレ通り、被害者の過去を追ううち、被害者の人物像や、追う側の家族の関係などが浮かび上がる仕掛けになっている。
それはそれでいいのだけど、どうも僕は見ていて、ピンとこなかった。
歯切れが悪くなって嫌なのだが、一人の女性の人生や、最後に選択した行動などが、追跡の結果わかっても、へえー、そうなんだ、としか思えないのである。

確かに彼女はかわいそうだけど、見ていて、ああ、哀れだな、ってだけで終わってしまう。
彼女をめぐる人間模様や、刑事の家族のことなども丁寧に描かれているけれど、どうもそれが有機的に絡み合った濃厚な人間ドラマにはなりえているようには見えない。
僕の趣味もあるが、すべて心に響く一歩手前で終わっている。そのため、結構退屈だ。


ただ良かった点としては、ラストが上げられるだろう。
ラストのシーン、刑事は娘を連れて、認知症になった妻に会いに行っている。
そのシーンは必ずしもハッピーエンドとは言えないし、ラストのセリフもそれでいいのかな、という気がしなくはない。けれど、生きていく上でのつらさを、しっかり受け入れるように見えて、なかなか興味深い。

トータル的に見れば、好みとは言いがたいのだけれど、後味自体は悪くない作品である。

評価:★★(満点は★★★★★)

「ミルク」

2009-04-25 19:29:24 | 映画(ま行)

2008年度作品。アメリカ映画。
1972年、ミルクはサンフランシスコのカストロ地区と呼ばれる地域で小さなカメラ店を開く。やがてミルクは同性愛者、夕食人種、シニア層など社会の弱者の声を伝えるべく政治の世界へ――。1977年サンフランシスコの市政執行委員選に4度目の出馬で、念願の当選。マイノリティを支援する条例の実現するため行動を推し進める。
監督は「エレファント」のガス・ヴァン・サント。
出演はショーン・ペン、エミール・ハーシュ ら。


この映画を見終わった後、自分がゲイの人間に対して、どんな感情を抱いているか、考えてみた。

少なくとも、ゲイの人間がゲイであることを、否定するつもりなど、僕には毛頭ない。周りにそういう人はいないが、普通の場面なら、普通に接することはできると思う。
そもそもそれは個人の嗜好であり、それによって、誰かを傷つけることは大概の場合、ないからだ。それを否定する理由が僕にはない。

だが性的な意味合いで、ゲイの人たちを理解できるかと言われれば、まったく理解できないし、拒否反応を覚える。
たとえば、この映画では男同士でキスするシーンが多く出てくるのだが、僕はそれを見て、正直ドン引きした。
それはヘテロである自分の嗜好とちがうという異質さから来る、不快な感情なのだろう、と僕は思う。そう感じるという事実を否定することはできない。

だが僕はそれを理由にして、ゲイの人を差別するような人間にだけは、死んでもなりたくないのである。
ゲイという性質は僕個人の嗜好や考えと合わないかもしれない。それに接して不快になる場面もひょっとしたら出てくるかもしれない。
だがそれが、個人の人間性を否定する材料や言い訳には、決してなりえないと思うからだ。

それが僕がゲイの人間に対して抱く感情のすべてである。
いきなり映画の内容とはずれた、どうでもいい話をした。消そうかと思ったが残しておく。
さて映画の話をしよう。


この映画は1970年代が舞台だ。当然ながら、その当時の方がゲイに対する偏見は激しい。
僕が男同士のキスシーンを見て、不快感を覚えたように、多くの人は多かれ少なかれ似たような感情を覚えるのだろう。
そのため多数派のヘテロは、マイノリティのゲイを理解せず、理解できないがゆえに否定し、拒否をする。
そういう構図は、世間的にはよくある光景なのだけど、見ていてあまりいい気分にはならない。

主人公のハーヴィ・ミルクはそんなゲイというマイノリティのために戦った実在の人物だ。
だがこの映画では、必ずしも英雄のように彼を描いているわけではない。
たとえばミルクが姑息な手段を取るような場面もはっきり描いている。具体的にはマスコミを利用して、自分の正当性を演出するような方法がそうだ。デモの調停の場面などは最たる例だろう。
そういう点、ありのままのミルクの姿を描いていると言える。そんなつくり手の姿勢は誠実だ。

だが彼の行なった事業はまぎれもなく、英雄的と言ってもいいと思う。
マイノリティという社会的に弱い立場の人間のために、行動する姿は、同じ人間としてのシンパシーを覚える。
そのため多くの人間から理解されず、苦悩するミルクの姿には共感できるし、彼の行動が社会全体に大きな流れを生み出していく過程には感動を覚えるのだ。ラストのキャンドルライトのシーンも、じーんと胸に響くものがある。

伝記映画にありがちなことだが、物語の芯がぶれ、冗漫に見えかねない部分もあり、そのためパンチが弱い面はある。
だがミルクという人間の生き方は共感するし、ときに感動し、いろんなことを考えることができる。
いくつかの不満はあるが、総じて見ればわりに好きな映画である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想
・ガス・ヴァン・サント監督作
 「パラノイドパーク」
・ショーン・ペン監督作
 「イントゥ・ザ・ワイルド」
・ジェームズ・フランコ出演作
 「告発のとき」
・エミール・ハーシュ出演作
 「イントゥ・ザ・ワイルド」
・ジョシュ・ブローリン出演作
 「アメリカン・ギャングスター」
 「告発のとき」
 「ノーカントリー」
 「プラネット・テラー in グラインドハウス」

「ミスト」

2008-05-16 20:51:50 | 映画(ま行)

2007年度作品。アメリカ映画。
メイン州西部の全域が、未曾有の激しい雷雨に見舞われた。嵐に脅える住民たち。だが、その後に襲ってきた正体不明の”霧”こそが、真の恐怖だったのだ。その霧は街を覆い尽くし、人々を閉じ込めていく。時を同じく、デヴィッドとビリーの父子は、食料の買出しに向かい、スーパーマーケットで霧に遭遇する。
監督は「ショーシャンクの空に」のフランク・ダラボン。
出演は「パニッシャー」のトーマス・ジェーン。「ミスティック・リバー」のマーシャ・ゲイ・ハーデン ら。


設定はあからさまにB級映画だ。
霧が町を覆いそれが災厄をもたらすという出足はおもしろそうではあるのだが、かなり早い段階で明かされる霧の正体には正直げんなりしてしまう。せっかくつかみはいいのだから、もう少しひねればいいものを、と素人目には思ってしまうくらいに安い設定だ。

だがB級映画だと一旦受け入れてしまえば、そのような設定もそれなりには楽しめる。
加えて演出やフラグの立て方も、B級らしく見事なくらいにストレートだし、盛り上げようとするあまり無理な展開やつっこみどころも多く、ある意味では飽きることがない。
それにB級にありがちなグロい映像も、驚くくらいに悪趣味だ。巨大な虫の描写といい、人間の殺され方といい、美しい女性の顔の腫れ具合といい、不愉快になるくらいに気持ち悪い。最高である。

だがこの映画はただのB級映画にとどまらない力がある、と思う。
それは人間の描写が恐ろしいことに要因があるだろう。恐怖に陥った人間が、いけにえと称して人間を殺す姿には人間の奥底に眠る野蛮さを見せ付けられる思いがする。
ありきたりな言葉だが、本当にこわいのは怪物などではなく、人間なのかもしれない、という事実を後半の展開は如実に示している。

ラストはバッドエンドで何の救いもなく、カタルシスもないが、最後まで悪趣味に走っているのは製作者なりの姿勢と言えるのかもしれない。
だがスタッフロールの間に流れた音声から判断するに、絶望を抱えながらも主人公は生きていくのだろう、と推察される。深読みかもしれないが、その描写に製作者が託した希望を見ることができるのかもしれない。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「MONGOL モンゴル」

2008-04-13 16:55:00 | 映画(ま行)

2007年度作品。ドイツ=ロシア=カザフスタン=モンゴル映画。
陰謀が渦巻く時代、モンゴルの一部族の頭領の息子として生まれたテムジン。待ち受けるのは、父の毒殺、裏切り、復讐、異国での投獄という壮絶な運命。そして、優しさを秘めた強靭な魂で運命と闘い、次第に統率者として頭角を現してゆく。
第80回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされ話題を呼んだ作品。
監督は「ベアーズ・キス」のセルゲイ・ボドロフ。
出演は「サッド ヴァケイション」の浅野忠信、「初恋のきた道」のスン・ホンレイ ら。


まさに大河作品と呼ぶにふさわしい風格を備えた映画だ。
雄大な自然と、人員を多くつぎ込んだ戦闘シーン、騎馬のシーンの迫力や、歴史的な背景の深み、そしてあぶりだされる一大英雄の叙事詩的なプロット。ともかくその外郭の大きさは目を見張るばかりだ。

その中で語られるチンギス・ハーンことテムジンの物語は説得力に満ちている。
奴隷として苛酷な人生を送った様子を描いており、その劇的な人生には驚かされる。また妻を取り戻すために戦う愛に生きた側面や、味方や敵に鷹揚に振舞う姿、そして掟を犯した者を容赦なく殺すある意味では誠実な姿などが描かれており、テムジンという存在が立体的に浮かび上がっているのが目を引いた。

しかしそういった長所を認めながらも、どうも心に訴えるものは乏しいとも感じた。早い話、それはこの話が地味だからだろう。
物語はともかくリアルなれど、リアルすぎてエンタメという形になりきれていない。またテムジンの人間造形はすばらしいものの、その部分から、何かプラスアルファで発展するものがあるわけでもない。
要はでかいスケールのわりにパンチが弱いのである。そこが残念な限りであった。

浅野忠信はモンゴル語という難しい条件でがんばっていたと思う。テムジンという後に英雄になるキャラを丁寧に演じていたのが好印象だ。

積極的に推せる作品ではないが、映画の雄大さは確かで、つくり手の誠実さは存分に伝わる作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

出演者の関連作品感想:
・浅野忠信出演作
 「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」
 「花よりもなほ」

「迷子の警察音楽隊」

2008-04-09 20:01:22 | 映画(ま行)

2007年度作品。イスラエル=フランス映画。
文化交流のためにイスラエルに招かれてやってきたエジプトのアレキサンドリア警察音楽隊。なぜか空港に出迎えはなく、自力で目的地にたどりつこうとするうちに、彼らは一文字間違えてホテルすらない辺境の町に迷い込んでしまう。そこで食堂の美しい女主人に助けられ、地元民の家で一泊させてもらうことに。
監督はエラン・コリリン。
出演はサッソン・ガーベイ。ロニ・エルカベッツ ら。


イスラエルにエジプトの警察音楽隊が迷い込む。そういう設定を聞くと、イデオロギカルで民族的な側面が強調されているような内容を思い浮かべてしまうが、そういった要素はほとんどなく、普通の異国で人と人とが出会う、という状況が描かれているだけでしかない。
そこが個人的にはまず新鮮に映った。

その状況をどこかとぼけた感じと、気まずい雰囲気を交えたユーモラスな視線で描いているのが印象深かった。
たとえば夫婦ゲンカを前に固まる独特の雰囲気や、女に慣れない青年に恋の指南をするシーンは思わずくすりと笑ってしまう。

さて映画のストーリーそのものは普通の交流ものである。一晩だけイスラエルの人とふれあい、ささやかな人生の一面がふっと浮かび上がり、多少の苦みも垣間見せるという内容である。
その様はよく言えば純文学的、悪く言えば中身の無い状況描写と言ったところだろう。
しかしそこにある優しい雰囲気などは居心地がよく退屈するということはなかった。

強く印象には残らず地味だが、それなりの佳品といった味わいがある作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「マイ・ブルーベリー・ナイツ」

2008-03-24 20:32:37 | 映画(ま行)

2007年度作品。フランス=中国=香港映画。
失恋したエリザベスを慰めてくれたのは、ジェレミーの焼く甘酸っぱいブルーベリー・パイだった。でも、失恋から立ち直れないエリザベスは、旅に出る。過ぎ去った愛に束縛された夫婦、人間不信の美しいギャンブラーと出会い、彼らの人生を自分のと照らし合わせる。
監督は「恋する惑星」のウォン・カーウァイ。
出演はグラミー賞シンガーのノラ・ジョーンズ。「コールド・マウンテン」のジュード・ロウ ら。


出だしは個人的には好きだ。
恋人に裏切られた女が終わった恋を引きずっている。行きつけの店の男といい雰囲気になり、男も気のあるそぶりを見せるが、そこまで深い関係になるには至らない。
映像の美的センスもあってか、その雰囲気は見ていても心地よい。ノラ・ジョーンズとジュード・ロウがそんな男女の自然な空気をうまくつくり出しており、おかげでノラ・ジョーンズ演じる女の心情に寄り添うように映画の世界へと浸ることができる。

しかしノラが街を離れてから、作品のトーンが少し変わり、異なるエピソードが挿入されたことで、その雰囲気は一変する。
それまでノラにフォーカスされていた視点は、異なる人物に注がれるため、ノラに寄り添うように見ていた感情が分断されてしまったきらいがある。少なくとも僕はそう感じられ、映画のエピソードにうまく乗っていくことができなかった。

しかもそこに挿入されたエピソードがノラの心情を変化させるほどのエピソードには思えない。
おかげでキャラに対する目線だけでなく、映画の印象そのものまでどうにも散漫な印象を受けてしまった。
もちろんそのエピソードはおもしろくはあるけれど(特にナタリー・ポートマンの方)、なぜそんな方向にストーリーをもっていったのか僕としては理解に苦しむところがあった。

しかしラストでベタであるけれど、きれいなオチを迎えてくれたため、後味は決して悪くはない。
積極的に賞賛するつもりはないが、後味のよさはすばらしく、これはこれでまあ有りと言えるのかもしれない。

PS
映画とは関係ないが、この映画を見た後、ブルーベリー・パイが食べたくなって探してみたが、まったく見つからなかった。本当にブルーベリー・パイは人気がないのかもしれないな。季節柄、ストロベリーは大量にあったのだが。

評価:★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・デヴィッド・ストラザーン出演作
 「グッドナイト&グッドラック」
 「ボーン・アルティメイタム」
・レイチェル・ワイズ出演作
 「ナイロビの蜂」
・ナタリー・ポートマン出演作
 「Vフォー・ヴェンデッタ」

「魍魎の匣」 

2007-12-26 20:37:13 | 映画(ま行)

2007年度作品。日本映画。
美少女連続殺人事件が世間を騒がせていたころ、女優の陽子が探偵の榎木津に失踪した娘の捜査を依頼する。一方、作家の関口は京極堂の妹敦子とともに、信者を食い物にする新興宗教の謎に迫る。それぞれの謎を持ち寄り各人は京極堂の元に集まってくる。やがて謎はひとつに収束していく。
監督は「突入せよ!「あさま山荘」事件」の原田眞人。
出演は「ALWAYS三丁目の夕日」の堤真一。「TRICK」の阿部寛 ら。


エピソードの込み入った映画だ。
少女のバラバラ殺人に、女優の娘の失踪事件、その背後には資産家の遺産問題も絡んでいる。しかも資産家の死にも謎が浮上する、というおまけつき。さらに怪しげな新興宗教に、怪しげな小説家、奇怪な箱型の建物など、エピソードはあまりにてんこ盛りで、明らかに詰め込みすぎだ。
設定を変えたり、魅力的なエピソードをいくつかカットしているとはいえ、レンガ並みに分厚い原作を二時間強にまとめるのは無理があったらしい。

エピソードが大量に投入されるため、観客もその内容を整理するのが大変になる。
何年も前に原作を読んだことがあるためか(内容は結構忘れていたけど)、僕は何とかなったが、初めてこの作品に接する客はわけがわからない部分も多かっただろう。実際、映画館では途中であきらめたのか、眠っている人もいた。

個人的には、ラストの列車に乗っているふたりの行動に説得力を与えるためにも、もっとそれを補強する描き込みがほしかったと思う。
また、ふたりの少女のエピソードを丁寧に描いてほしかった。個人的に原作の冒頭のエピソードは好きだったし、それを抜きにしても、にきびの説得性がないと思う。
それに、失踪した娘に関するエピソードで不整合が生じたり、なぜバラバラ死体が出版社にあったのかなど、回収できていないエピソードがあるのが引っかかって仕方ない。

とは言え、そのように不満はあれど、原作の骨格が優れているため、トータル的にはおもしろい、と感じることができた。いくつものエピソードがラストですべて収束するあたりはおーっと素直に感心してしまう。
俳優たちが力演していたのも好印象だ。関口はもう少し頼りない感じが出たほうが良かったが、許容範囲だろう。
欠点は多いが、これはこれで個人的には満足である。

しかしだからと言って、他人に勧められるレベルになっているというわけではない。
やはり京極作品は文章で読んでなんぼ、なのだろう。

評価:★★★(満点は★★★★★)


映画版京極堂シリーズ感想
 「姑獲鳥の夏」

出演者の関連作品感想
・阿部寛出演作
 「HERO」
・椎名桔平出演作
 「輪廻」
・宮迫博之出演作
 「大日本人」
・田中麗奈出演作
 「暗いところで待ち合わせ」
 「夕凪の街 桜の国」

「マリア」

2007-12-02 17:09:12 | 映画(ま行)

2006年度作品。アメリカ映画。
ナゼレに住むマリアは同じ村の大工ヨセフと婚約をすることになる。しかしマリアは聖霊の予言により、神の子を妊娠することになる。同じころ、圧政を敷いていたユダヤ王ヘロデは救世主が現れるという予言を恐れ、その存在を抹殺しようと画策していた。
監督は「ロード・オブ・ドッグタウン」のキャサリン・ハードウィック。
出演は「クジラの島の少女」のケイシャ・キャッスル=ヒューズ。オスカー・アイザック ら。


イエス・キリスト誕生のドラマをマリアとヨセフのふたりの夫婦の視点から描き上げている。
基本的には聖書に忠実につくられているという印象だ。天使からのお告げも、そのまま描いていてそれに対してよけいな解釈をしていない。大胆な視点があるわけでもない。そういう点、お行儀のよい作品と言えるだろう。
しかし物語は適度に起伏があって、斬新さはなくともそれなりに楽しめる。
マリア演じるケイシャ・キャッスル=ヒューズらの存在感ある演技もあり、オーソドックスな伝記映画でも充分に心をひきつけられるものになっている。

映画の中でもっとも印象に残ったのはやはりヨセフの優しさだ。
典型的ないい人である彼は、しっかりとマリアを守り、惜しみなく愛情を注いでいる。どうしてもマリアと比べるとヨセフは地味な存在だが、彼の優しさがあったればこそ、イエスの命は守られたのだな、とこの作品を見ているとつくづく思う。
彼の存在により、この作品は聖人の物語であると同時に、優しい男女の愛を描いた普遍的な作品になることができたと思う。

派手ではないものの、クリスマス前に見るにはうってつけの作品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「ミルコのひかり」

2007-11-11 16:22:21 | 映画(ま行)

2005年度作品。イタリア映画。
銃の暴発により視力を失ったミルコは全寮制の盲学校に入学する。その学校の片隅で一台のテープレコーダーを見つけたミルコは、周りのいろいろな音を録音していく。そしてそのことがミルコに新しい世界をもたらしていく。
監督はクリスティアーノ・ボルトーネ。
出演はルカ・カプリオッティ。パオロ・サッサネッリ ら。


本作はきわめてオーソドックスな話である。盲目になった少年が音に関する才能を発揮するという大まかなストーリーを聞けば、どういう感じでストーリーが進むかはある程度のところまでは想像がつくし、実際ほぼ予想した通りの展開を見せていく(デモに関しては予想外だが)。
それでもまったく退屈さを感じなかったのはいくつかの美点があったからだ。

たとえば音に関する扱いなどは目を引く。
音に興味を持つ少年という設定だけにそこで使われる音響効果はどれもなかなかおもしろいものばかりだ。シャワーの音は本当に雨のように聞こえるし、紙の束は人の足音のように聞こえる。
その発想の妙はすぐには思いつかないものばかりで、ユニークであり、非常に興味深いものがあった。

子役の存在感も良い。
たとえば、ミルコが恋人や友人たちと音をつくり上げていく光景は本当に楽しそうで、少年たちの表情が生き生きしているのがよくわかる。それだけに見ているこちらもその姿に共感を覚えることができ、少年が作中いくつかの困難に出くわすたびに、(オーソドックスとは言え)少年たちを応援する気持ちになることができる。

また大人たちも、子供たち同様にそれぞれ存在感を放っている。ミルコを見守る神父の存在など、周囲の大人にも子供を理解する人間がいて、その暖かい視線にこちらも穏やかな心地に浸ることができる。

本作は決して目立つような作品ではない。だがいくつかの美質を持った良作だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)