私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」

2009-02-15 07:51:59 | 映画(は行)

2008年度作品。アメリカ映画。
80歳で生まれ、年をとるごとに若返っていく男ベンジャミン・バトン。生まれてすぐに捨てられた彼をクイニーは無償の愛で育てていく。普通とは言い難い彼は、出会った人々や場所を心に刻み、愛と出会い、愛を失い、生の喜びと死の悲しみに震えながら、壮大な旅を続ける。そんな出会いと別れの中で、人生を大きく変えたのは、生涯思い続けた女性、デイジーだった。
監督は「セブン」のデヴィッド・フィンチャー。
出演はブラッド・ピット。ケイト・ブランシェット ら。


本当にいい小説とは、どこどこがいいと具体的な理屈をつけられないものだ。と、そんな感じのことを(うろ覚え)、宮本輝が津村記久子との対談の中で、話していた。
ああ、なかなかおもしろいこと言うな、とその是非はともかく僕は思ったわけだが、何もそれは小説に限定されるものではなく、映画と置き換えても、成立は可能だろう。

「ベンジャミン・バトン」という作品は、輝の基準を採用するなら、いい作品と断言していい。
見終わった後には、ああ、いい作品だったという手応えがあるし、個人的には好みだという確信がある。だがどこが良かったかを上手く説明できそうにないからだ。

もちろんもっともらしいことを言って、この良さを語ることは可能だ。
まずはその寓話的な世界観だろう。僕はこの映画を見ている間、これは映画というよりも物語って言った方がいいな、とずっと思っていたのだが、その理由は一代記というストーリー形態と、この寓話的な雰囲気に由来している。
歳を取るごとに若返っていくことに、どうしてもある種の悲しさがつきまとうのだが、物語の大きな雰囲気で、悲観的にも楽観的にもならず、淡々と描いていく様が印象深い。

そしてそのような映画世界を多くの俳優陣が支えている。
タラジ・P・ヘンソン演じる母親役は、その大きな母性で捨て子のベンジャミンを育てているが、その大らかさと愛情の深さが画面を通じて伝わってくるのが魅力的だ。
ほかにも、ティルダ・スウィントンもいい味を出している。大人の恋愛と一抹の苦い記憶をベンジャミンに植え付ける、なかなかいいエピソードで個人的には好きだ。海峡横断にもにやりとしてしまう。
また若いベンジャミンをホテルに訪ねた初老のケイト・ブランシェットが、別れ際に見せた、何とも微妙な表情も忘れがたい。その表情によって、恋した相手が若返っていくことに対する、悲しさと苦みに満ちた情景が浮かび上がっている。
もちろん各世代を演じたブラッド・ピットも雰囲気はいい。

と、いい部分をいくつも上げてみたが、これらの美点はすべて、部分的な良さでしかなく、決して全体の良さではない。映画全体には、こんな言葉を超えるようなもっと別の魅力がある。
しかしそれを僕に指摘することはできない。言えることがあるとしたら、ただいい映画なのだ、ということだけだ。
それが少しもどかしくもあるが、ひょっとしたら、この映画に関しては、それですべてが語りつくされたと言えるのかもしれない。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


そのほかの出演者関連作品感想
・ブラッド・ピット出演作
 「オーシャンズ13」
 「バベル」
 「Mr.&Mrs.スミス」
・ケイト・ブランシェット出演作
 「アイム・ノット・ゼア」
 「あるスキャンダルの覚え書き」
 「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」
 「エリザベス」
 「エリザベス:ゴールデン・エイジ」
 「バベル」
・ティルダ・スウィントン出演作
 「サムサッカー」
 「ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女」
 「フィクサー」

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