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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「リアル・スティール」

2011-12-14 20:07:41 | 映画(ら・わ行)

2011年度作品。アメリカ映画。
2020年、ボクシングは、生身の人間ではなく高性能のロボットたちが闘う競技になっていた。元ボクサーのチャーリーは、ロボットの賭け試合などで生計を立てていた。ある日、かつての恋人が亡くなり、その息子・マックスがチャーリーの元にやって来る。部品を盗むために忍び込んだゴミ捨て場で、マックスはATOMという旧型ロボットを見つけ、家に持ち帰ってきた。マックスはATOMをチューンナップし、試合に出場する事を決意する。(リアル・スティール - goo 映画より)
監督は「ナイト・ミュージアム」のショーン・レヴィ。
出演はヒュー・ジャックマン、ダコタ・ゴヨ ら。




いい意味でオーソドックスであり、見応えのある作品でもある。

オーソドックスと感じたのは、ストーリーの展開にある。ロボットを用いた格闘技の巡業を行なっている男が、離れて暮らしていた息子を一定期間引き取ることになる。
そういう物語なのだが、基本的な面では大概の人が考えている通りにお話は進む。
着地も多くの人にとっては、予想の範囲内ではなかろうか。

そういう意味、本作は無難との言い方もできるのかもしれない。
だがこの作品に関しては、手堅くまとまっていると言った方が適切だ、と僕は思う。
ストーリー展開がわかりきっていても、観客は結局そういう物語を求めているんじゃないだろうか。

そして手堅いだけでなく、楽しいと感じられるレベルにまでもっていっているだけでも、充分及第点なのだ。


加えてこの作品、ストーリー以外の面も存分に光っていた。
それは言うまでもなく、ロボットたちの格闘シーンにある。

むかし男の子だった身としては、ロボットの造形や格闘シーンを見ていると、それだけでワクワクする。
ノイジー・ボーイの「超悪男子」の胸のロゴとか、「極楽」とか「贖罪」とか表示される腕のディスプレイのダサさはともかくとしても、メカが登場するって、それだけでおもしろい。

おまけにそのロボが戦うのだ。
おかげで、いい大人であっても、子どものころに帰ったような気持ちになりながら映画を楽しめる。


「リアル・スティール」はある意味、ベタな父と子の関係を描いた映画であると同時に、世の父親も子どものように楽しめる映画でもあると思う。
つまるところ、徹底的なまでの父子の映画と言えるのかもしれない。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・ヒュー・ジャックマン出演作
 「プレステージ」

「RED/レッド」

2011-02-13 18:33:09 | 映画(ら・わ行)

2010年度作品。アメリカ映画。
かつては名を馳せたCIAエージェントのフランクだが、今は引退し、田舎町でのんびり暮らしていた。そんな彼の唯一の楽しみは、用事を装い年金課の女性サラに電話をかけること。ある夜、フランクはコマンド部隊に襲われる。次はサラの身が危ないと感じたフランクはサラを連れ、かつての上司で今は老人介護施設で暮らすジョーを訪ねた。襲撃者たちはCIAと関わりあいがあることがわかり、フランクは引退したかつての仲間たちと反撃に出る。(RED/レッド - goo 映画より)
監督は「フライトプラン」のロベルト・シュヴェンケ。
出演はブルース・ウィリス、モーガン・フリーマン ら。




ドンパチ映画である。いい意味でも、悪い意味でもともかくドンパチ。
そういう点、観客の期待に見事に応えている作品だろう。

最初はわりにスローなスタートで始まるけれど、ある瞬間から唐突に何の説明のないまま、銃撃戦に突入する。ちょっとびっくりするが、これはこれでおもしろい。
この映画の銃撃シーンはその冒頭に限らず、どれもなかなか見応えがあって楽しい。
この雰囲気が僕は好きだ。


だが真に注目すべきは、その銃撃戦をくりひろげるのが、全員初老の人間ばかりという点にある。
タイトルのREDはRetired Extremely Dangerousから来ているらしいが、ブルース・ウィリスらはその言葉に見合った行動を取っており、その姿はユニークである。

個人的には特にヘレン・ミレンがよかった。
彼女はこういうタイプの役をなかなかやらないので、見ていて新鮮に感じる。

ブルース・ウィリスに、モーガン・フリーマンに、ジョン・マルコヴィッチにヘレン・ミレン。こんなメンツを使って、アクションをやってしまおうと考えたアイデアは本当にすばらしいと思う。


ストーリーは中だるみはあるものの、敵は誰なのか、最後までわからないようになっていて、考えてつくられていることがわかり、好印象。
絶賛するほどの作品ではないけれど、割合楽しめる作品。それが僕の「RED」に対する評価である。

評価:★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・ロベルト・シュヴェンケ監督作
 「フライトプラン」
・ブルース・ウィリス出演作
 「ダイ・ハード4.0」
 「プラネット・テラー in グラインドハウス」
 「ラッキーナンバー7」
・モーガン・フリーマン出演作
 「インビクタス/負けざる者たち」
 「ダークナイト」
 「ラッキーナンバー7」
・ジョン・マルコヴィッチ出演作
 「JUNO ジュノ」
 「リバティーン」
・ヘレン・ミレン出演作
 「クィーン」
 「消されたヘッドライン」
 「終着駅 トルストイ最後の旅」

「Ricky リッキー」

2011-01-11 21:08:08 | 映画(ら・わ行)

2009年度作品。フランス=イタリア映画。
小さな娘と暮らすシングルマザーのカティ。娘をバイクで学校に送った後、工場で代わり映えのしない仕事をしている。そんな彼女が出会ったのが工員のパコだ。恋に落ちた二人の間に赤ちゃんが誕生。赤ちゃんはリッキーと名づけられ、家族として絆が深まっていくかに見えた。しかし、リッキーの背中に痣を見つけたカティは虐待と思い込み、パコは家を出て行ってしまう。ところが痣はどんどん大きくなり、そこから羽が生えてきた…。(Ricky リッキー - goo 映画より)
監督は「スイミング・プール」のフランソワ・オゾン。
出演はアレクサンドラ・ラミー、セルジ・ロペス ら。




赤ん坊の背中に羽が生える。
それこそ、この映画の肝であり、勘所でもあるのだろう。

しかし僕個人の印象からすると、その部分が一番ダメだったように感じた。
それはリアリティとファンタジーの落差が大きくて、引いてしまったのが大きい。

個人的に、この映画はもっと軽いものだと思って見に行ったのだが、思った以上に前半がシリアスでリアリスティックである。
そのため、後半のファンタジーの展開に入り込めず、醒めてしまったのだ。


僕がこの映画で一番醒めてしまったのは羽である。
はっきり言って、あの大きさの羽で空を飛ぶことに納得いかなかった。
最初に空を飛ぶシーンのときに強く思ったのだが、あの大きさの羽ではとても空など飛べない、と思う。
鳥だってヒナの時代は空を飛べないのだ。人間だって同じでしょ、と考えてしまうのだ。心が狭い言い方だと思うけれど、どうしても納得いかない。

多分これが小説みたいに文章で見せられたら、まったく気にならなかっただろう。けれど、ビジュアルで見せられるとツッコミどころを見つけてしまいがちになる。
それが大変惜しいのだ。


しかし趣味で言うなら、前半のシリアスな部分はおもしろかったと思う。
映画を見る前は軽い作品と思っていただけに、前半はイメージとはずいぶんちがっている。でも非常に丁寧に撮られていて好ましい。

新しい恋に目覚める母親や、それに不満を抱く娘、パートナーとの関係にいらだちを見せる男など、見せ方が上手いこともあり、非常に興味深く見ることができる。


それが良かっただけに、ファンタジーの部分のグダグダっぷりが残念でならない。
ラストでは赤ん坊も消えちゃうし、結局あの設定は何だったんだよ、と言いたくなる。

個人的な考えを言うなら、この映画は別に翼の生えた赤ん坊の設定にこだわる必要はなかったのだ、と思う。
監督が撮りたかったのは、ラストで抱き合う三人の姿だと思うし、それなら、ちょっと変な赤ん坊という程度に抑えておけばよかったのに、と思う。
あるいは中途半端にリアルではなく、最初から徹底的に寓話的な雰囲気を出していれば良かったような気もするが、どうだろう。

何にしろ、いい作品になりえただけに、非常にもったいない。
僕個人は強くそう思うのである。

評価:★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・フランソワ・オゾン監督作
 「ぼくを葬る」
・セルジ・ロペス出演作
 「パンズ・ラビリンス」

「リトル・ランボーズ」

2011-01-07 21:07:14 | 映画(ら・わ行)

2007年度作品。イギリス=フランス映画。
1982年、父親を亡くした少年・ウィルは、プリマス同胞教会の厳しい戒律のもと、テレビも見せてもらえない生活を送って来た。ある日、学校イチの悪ガキ、リー・カーターの家で、ウィルは初めて映画『ランボー』を観る。ランボーにかぶれてしまったウィルは、リーと一緒に、捕らわれたランボーを救出しに行く冒険映画を撮影することにする。正反対の二人だったが、監督と主演俳優として過ごす間に、だんだんと友情が芽生えていく。(リトル・ランボーズ - goo 映画より)
監督は「銀河ヒッチハイクガイド」のガース・ジェニングス。
出演はビル・ミルナー、ウィル・ポールター ら。




男の子の感性をうまく捉えた一品だな、と思う。

厳格な宗教一家に育てられた少年が、荒くれ者の少年と出会うことで新しい世界に出会っていくという作品だ。
最初に出てくるこの悪ガキは結構いやなやつだ。主人公のウィルに乱暴をふるい、万引きなどの犯罪行為も行なう。
見ていていい気分はせず、主人公との関係はどう見ても、いじめっ子といじめられっ子のものだ。
そのため、こんな子とつきあってたら、この先もいじめられたり、苦しめられたりしちゃうよ、やめときなはれ、とおばちゃんじみたことを考えてしまい、やきもきさせられる。

しかしこちらの杞憂をよそに、ウィルとカーターは互いに楽しんで映画をつくることになっていく。
その過程は楽しげで、個人的にはほっとし、同時にニコニコしながら見ることができるのだ。


そんな二人の友情も時間が経つにつれ、ひびが入ることとなる。
その過程は状況的には大いにありえることだが、見ていて悲しい気持ちになってしまう。

カーターは決していいガキんっちょではないが、かと言って悪人でもないのだ。
少なくとも、こんな風に心を傷つけあうような仕打ちを受けるほどひどい子ではない。


そんな悪たれ少年が、兄貴をかばう言葉が、本当に良かった。
カーターはクソガキだけど、純粋に兄のことが好きなのだな、ということがわかって、ジーンとしてしまう。
それにそれなりに友情を大切にしていることもわかり、胸震える。


ラストシーンは王道であり、ベタでもあるのだが、僕はすなおに感動してしまった。
そんな少年同士の友情や兄弟愛が美しく、忘れがたい。
小品といった印象のある作品だが、僕は結構好きなタイプの作品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「ロビン・フッド」

2010-12-17 21:10:02 | 映画(ら・わ行)

2010年度作品。アメリカ=イギリス映画。
時代は12世紀末。十字軍の兵士としてフランスで戦っていたロビンは、イングランドの騎士ロバート・ロクスレーの暗殺現場に遭遇。ロバートの遺言を聞き入れ、彼の父でノッティンガムの領主であるサー・ウォルターに剣を届ける役目を引き受ける。かくして訪れたノッティンガムの地で、ロバートの身代わりになってくれと頼まれるロビン。彼の素朴な人柄は領民たちの人気を集め、ロバートの未亡人マリアンとも次第に心が通いあっていくのだが……。その行く手には、イングランド侵略をもくろむフランス軍との壮絶な戦いが待ち受けていた!(ロビン・フッド - goo 映画より)
監督はリドリー・スコット。
出演はラッセル・クロウ、ケイト・ブランシェット




良くも悪くも、リドリー・スコットらしい歴史映画である。
そして良くもなければ、決して悪い映画でもない作品である。
どうせ、客は入るだろうから、あえてそう辛口で言っておこう。

とは言え、戦闘シーンはさすがに迫力があることは否めない。
壮大な映像で、迫力ある映像をつくる手腕はさすがと言ったところだろう。少なくとも見ている間、これっぽちも飽きさせないところなどはいい。
矢の雨が降ってくるところなどは、映像として臨場感にあふれていたように思う。
これだけでも、映画館で見る意味はあると思う。

ストーリーはいたってシンプルである。
ベタというほどありきたりではないが、驚くようなポイントもない。難しいことも考える必要なく、観賞できる。
そしてそれゆえにそれ以上、語る言葉が見つからない。

だが非常に手際よくつくられており、2時間半近い作品を、長さを感じさせることなく、描ききった点は良い。
絶賛も否定もしないが、とりあえずは楽しめる作品になっていると感じた次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・リドリー・スコット監督作
 「アメリカン・ギャングスター」
 「ワールド・オブ・ライズ」
・ラッセル・クロウ出演作
 「アメリカン・ギャングスター」
 「消されたヘッドライン」
 「3時10分、決断のとき」
 「ワールド・オブ・ライズ」
・ケイト・ブランシェット出演作
 「アイム・ノット・ゼア」
 「あるスキャンダルの覚え書き」
 「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」
 「エリザベス」
 「エリザベス:ゴールデン・エイジ」
 「バベル」
 「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」

「乱暴と待機」

2010-11-02 20:16:48 | 映画(ら・わ行)

2010年度作品。日本映画。
郊外の市営住宅に超してきた番上夫妻。失業中の夫に代わり、大きなお腹を抱えスナック勤めを続ける妻のあずさは、近所の山根家を訪れて驚愕する。そこには高校時代に自分を酷く傷つけた許し難い女・奈々瀬が、実の兄でもない英則を「お兄ちゃん」と呼び一つ屋根の下で暮らしているではないか。妙に男の気を引く奈々瀬を見る夫の視線に心穏やかでないあずさは、ある日、山根家で二段ベッドの真上の天井に覗き穴を発見する。(乱暴と待機 - goo 映画より)
監督は「パンドラの匣」の冨永昌敬。
出演は浅野忠信、美波




本谷有希子のエッセイが好きで「モーニング」や「ダ・ヴィンチ」の連載をこまめに読んでいる。
だが彼女の小説で読んだことがあるのは、数年前に読んだ『乱暴と待機』のみだ。

感想をこのブログでアップするのを忘れていたが、大雑把な感想としては、
ストーリーとしてはつっこみどころが多すぎる。だが設定は奇抜で、見せ方が上手く、単純におもしろい、といったところである。

そしてその原作を元にした映画の方も、いくつかは原作と似た感想を抱く。


原作が原作なので、映画の設定のいくつかにもつっこみどころがある。

冒頭がミステリアスでおもしろそうに見えるけれど、明かされた謎に、それはちょっと突飛ではないですか、と言いたくなってくる。
またスウェットにメガネという奈々瀬のキャラも、つくりすぎという気がしないわけでもない。
人に嫌われたくない、とは言え、やりすぎだろ、と思う箇所がいくつもある。


だがそういった点が気にかかっても、本作は楽しめる作品だった。
それは俳優たちが、特に浅野忠信と小池栄子の存在感が光っていたからだ。


浅野忠信が演じるのは変態である。
まあそういうわけで感性が幾分ずれているけれど、それが見ててちょっとおもしろい。
個人的には修羅場の場面で天井から顔を出すシーンに笑ってしまった。彼はひょっとしたらちょっとアホなのかもしれない、と思えておもしろい。

また小池栄子もキレてる女を演じていて、見ごたえある。
彼女はこういうSっ気の強い女を演じるのが抜群に上手い。
個人的には自転車を家の窓に叩きつけるシーンが印象に残っている。
それは見ようによってはとってもこわいシーンだけど、僕はそれを見て笑ってしまった。狂気というものは突き詰めすぎると滑稽になるらしい。
だがそれは笑えるくらいに、突き詰めた狂気を演じきった、小池栄子の手柄でもあるのだろう。


ともかくも役者たちが存在感を発揮していて見応えある作品になっている。
つっこみどころは多いが、俳優たちの演技が光る、愚かしくもバカバカしい人間ドラマである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・冨永昌敬監督作
 「パンドラの匣」
・浅野忠信出演作
 「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」
 「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」
 「劔岳 点の記」
 「花よりもなほ」
 「MONGOL モンゴル」
・小池栄子出演作
 「接吻」
 「パコと魔法の絵本」
・山田孝之出演作
 「十三人の刺客」(2010)
 「手紙」

「ラブリーボーン」

2010-02-17 20:51:14 | 映画(ら・わ行)

2010年度作品。アメリカ映画。
スージー・サーモンは、14歳のときに近所に住む男にトウモロコシ畑で襲われ、殺されてしまった。父は犯人捜しに明け暮れ、母は愛娘を守れなかった罪悪感に苦み、家を飛び出してしまった。スージーは天国にたどり着く。そこは何でも願いがかなう素敵な場所で、地上にいる家族や友達を見守れる。スージーは、自分の死でバラバラになってしまった家族のことを心配しながら、やり残したことを叶えたいと願うのだった…。(ラブリーボーン - goo 映画より)
監督は「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン。
出演はマーク・ウォールバーグ。レイチェル・ワイズ ら。



つまらなくはない。だが致命的に何かが足りない。
個人的な印象を語るなら、そういうことになる。

これはなぜなんだろう。映画を見終わった後には、考え込まずにはいられなかった。

それは、物語のテンポが悪いことが原因なのだろうか。
あるいは、現世と来世という、リアルとファンタジーのつながりが悪いためだろうか。
犯人の扱いに関して、割り切れなさというのか、カタルシスの乏しさがあるからだろうか。
自分がいない世界を、残された家族は生きていくんだ、というテーマ性に押しの弱さを感じたからだろうか。
あるいは、それらすべてが原因なのだろうか。どうでもいいんだろうか。

いろんな理由はありそうだと思う。
ただこの映画で、個人的に最大の欠点だと思ったのは、死んだ少女の視点で物語を語る必要がまったくなかった、という点である。
それが、何か足りないと思った原因かどうかはわからない。
けれど、少なくとも重要な欠点だと、僕は思う。


監督が、死んだ少女の視点で物語を描いた理由は、二つの過程を描きたかったからだろう、と思う。
一つは自分が殺され、死んでしまったことを、当の少女が受け入れる過程。
もう一つは、残された家族が娘の死を受け入れる過程だ。

だけど、その描き方はどうにも弱いように見える。
そんな風に、両方の物語を描いているため、現世と来世とで、視点が分散してしまっているように感じるからだ。
おかげで、物語そのものの印象は薄くなっているし、焦点がぼやけてしまった感も強い。

せっかく死者の視点で物事を描くなら、犯人探しのヒントを現世に与えるとか(ベタすぎるか?)、もうちょっとリンクさせればいいのにな、と個人的には思うのだけど、監督はそんな方向に、そこまで興味はないらしい。
霊感の強い少女が出てくるのだし、それを上手く使えばいいのだけど、その少女の扱いも中途半端だ。
ついでに言うと、ファンタジー世界の描き方も、どこか弱い。

結局のところ、せっかくの素材を生かしきれていないように僕には見える。
それが、本当にもったいなくてならない。


さっきから何かけなしてばかりいるが、一応フォローしておくと、それでもつまらないわけではないのだ。
お話づくりはしっかりしているので、退屈せずに見ることができるし、僕は決してきらいではない。

特に秀逸なのは、妹が犯人の家から証拠を盗み出すシーンだ。
そこには緊迫感があふれていて、惹きつけられるものがあった。このあたりはなかなかいい。

個人の好み的に、不満が多いことを否定するつもりはない。
だが見るべき部分もちゃんとある作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)



制作者・出演者の関連作品感想
・ピーター・ジャクソン監督作
 「キング・コング」
・マーク・ウォールバーグ出演作
 「ディパーテッド」
・レイチェル・ワイズ出演作
 「ナイロビの蜂」
 「マイ・ブルーベリー・ナイツ」
・シアーシャ・ローナン出演作
 「つぐない」

「レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―」

2009-11-19 20:43:02 | 映画(ら・わ行)

2009年度作品。中国映画。
日本でも高い人気を誇る『三国志』を、ジョン・ウー監督が映画化した『レッドクリフ』の第2弾!
曹操率いる大軍と対峙した連合軍。曹操軍は疫病で亡くなった兵士たちの死体を舟に積み、連合軍のいる対岸へ流し始める。その死体に触れた連合軍の兵士から次々と疫病が感染し、劉備軍は兵と民のために撤退を決意するのだが…。
監督は「男たちの挽歌」のジョン・ウー。
出演はトニー・レオン、金城武 ら。



アクションは一流だけど、ストーリーは二流以下、それがジョン・ウー作品に対して、僕が持っている偏見だ。

それはヒットした「レッドクリフ」シリーズでも変わらない。
赤壁の戦いに至るまでの描写はいくらかだれるし、特別盛り上がるようなエピソードがあるわけでもない。
有名な十万本の矢の話も、ふうんそうなんだ、と思うだけで終わってしまうし、「苦肉の計」も中途半端だ。

一言で終わらせるなら、すべての話の内容が薄いのである。
ジョン・ウーは一つの話をふくらませて、それをおもしろく見せるのがヘタクソなのだろう。

特にダメダメだな、と思ったのが、映画のラストで曹操を殺さなかったことだ。
もちろん史実の関係上、曹操が死んでいけないことはわかる。
けれど、あそこまで徹底的に追いつめておきながら、なぜ殺さないのか、本当に疑問でならなかった。
あそこで生かしたら、後々の禍根が絶対残る。平和を本気で思うなら、曹操を殺すか、せめて捕らえるくらいするのが筋だ。
それができないなら、あんな方向にストーリーを持っていくなよ、と思う。
せっかくの完結編なのに、終わり方がああではがっかりだ。おかげで映画の印象は悪い。


だが相変わらず、この監督、アクションだけは見事だ。
黄蓋らによる火攻めのシーンは相当金をかけているらしく迫力があったし、火矢を中心とした攻防戦もなかなか見応えがある。
夜が明けてからの野戦も楽しむことができ、アクションシーンへの力の入れようは画面越しからはっきりと伝わってくる。

なんじゃそりゃ、とラストで思ってしまったので、どうしても辛口になってしまう。
だが、このアクションシーンだけは、すなおに賞賛をしたい。

評価:★★(満点は★★★★★)



前作の感想
 「レッドクリフ Part I」

出演者の関連作品感想
・トニー・レオン出演作
 「傷だらけの男たち」
 「ラスト、コーション」
・金城武出演作
 「ウォーロード/男たちの誓い」
 「傷だらけの男たち」

「私の中のあなた」

2009-10-22 20:26:32 | 映画(ら・わ行)

2009年度作品。アメリカ映画。
11歳のアナは、白血病の姉・ケイトを救うため、臓器を提供するドナーとして生まれてきた。彼女は、生まれたときから姉のために体のあちこちを切り刻まれていた。そんなある日、「もう姉のために手術を受けるのは嫌」と、アナが突然両親を訴訟したのだ。アナは、姉のケイトが大好きだった、なのになぜ・・・。そのアナの決断の裏には、驚くべき真実が隠されていた。
監督は「きみに読む物語」のニック・カサヴェテス。
出演はキャメロン・ディアス、アビゲイル・ブレスリン ら。



病気を持った子どもがいる家庭では、その子どもを中心にして物事は動いていくと聞く。

この映画では、長女のケイトが白血病に侵されているのだが、彼女の家族は実際、ケイトを中心にして回っている。両親も子どもたちもケイトのために行動している部分が多い。
そういう風にみんなが動くのは自然なことなんだろうな、と僕も思う。
でも、当然のことながら、そのしわ寄せは、ほかの場所に現われてしまうのだ。

たとえば、次女のアナはケイトを救うドナーとなるよう、人工授精により計画的に生まれている。そのため、幼いころから、姉のために幾度にも渡って手術を受けてきた。もちろんそれは体に負担のかかる行為だろう。
また長男は、失読症という問題を抱えているのだけど、その問題に対して、親は長女ほど注意しようとしない。
そんな家族の姿は幾分かの無理がある。

それでも彼らは、そういったことに対して、(基本的には)不満を口にはしない。
彼らなりにやりたいことはいっぱいあると思うけど、家族内での優先順位がどこにあるか、わかっているからだ。
そしてそれをガマンできるのは、家族であるケイトのことをみんな好きだからだろう。

その中でもケイトへの愛情を強く示すのが、キャメロン・ディアス演じる母親だ。
特に薬剤投与で毛髪が抜けてしまったケイトのことを思い、自分も髪を丸めるシーンなどは印象的である。
その衝動的なまでの行動から、病気の娘を愛し、彼女のために必死で戦おうとしている姿がよく伝わってくる。


だけどその愛情の強さが、病人であるケイトを苦しめていたとしたらどうだろう。

ケイトは自分の病気に苦しんでいるし、好きになった男の子を自分と同じ病気で亡くしている。そして彼女自身、多くの人の支えがなければ生きていくことはできない。
それは彼女にとってはつらく苦しいことだろうと思うし、いくつかの状況は彼女の心を追いつめている。だからこそ、彼女が死を願う気持ちもわからなくはないのだ。
でも、彼女が死ねば、残された家族は深く傷つき悲しむことになることもまた事実なのである。
そこがこの問題の難しいところなんだろう。

基本的には、長女の希望を叶えるように行動するのは、ベターだと思う。少なくとも彼女は充分に戦ったのだし、それ以上の戦いを望むのは酷なのかもしれない。最終的に尊重すべきは当人の意思だ。
でも頭で何がベターかわかっていても、それをちゃんと受け入れることが難しいこともあるのだろう。
何が正しいのかなんて、一概に言い切れない。


なかなか難しい問題だけど、登場人物の根っこにあるのが、善意なだけに、暖かい作品に仕上がっている。
映画を見ながら、いろんなことを考えることができるし、いくつかのシーンで感動もできる。
幾分あざとい面はあるものの、好印象の作品であると僕は感じた次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・アビゲイル・ブレスリン出演作
 「リトル・ミス・サンシャイン」


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「レイチェルの結婚」

2009-07-28 21:54:50 | 映画(ら・わ行)

2008年度作品。アメリカ映画。
コネチカット州に暮らすバックマン家の長女レイチェルの結婚式を2日後に控え、次女キムはある施設を退院する。父親や姉が向ける眼差しや言葉に神経を尖らせるキムの存在は、結婚式の準備で華やぐバックマン家の空気を一変させる。
監督は「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミ。
出演はアン・ハサウェイ、ローズマリー・デウィット ら。



家族というものは非常に近しい存在だ。
関係はある程度、濃密にならざるをえないし、濃密にならざるをえないがゆえに、ときどき感情的にぶつかることもある。そしてささいなすれ違いも、ときどき生れる。
それがある程度は当たり前だし、少しもそうでない方が逆に気持ち悪い。
問題はそのある程度の衝突や齟齬が、許容できる範囲にあるかだけである。

この映画を見ていると、そんな一般論めいたことを考えてしまう。


映画は、麻薬の厚生施設から戻ってきた妹のキムが実家に戻ってくるところから始まる。その時点で、この家族がぶつかることはほぼ自明である。
キムは空気を読まないところがあり、自分語りが非常に好きで、自分を注目してほしいという思いの強い、いわゆるところの、かまってちゃんだ。そのため姉のレイチェルはイライラするし、それでケンカにもなる。
もちろんキムの態度は愛情を求める感情の裏返しだし、弟を不注意から死なせたことによる罪悪感の念にも裏打ちされている。
あまり好きになれないタイプの人間だが、彼女の気持ちもわからないわけではない。

だがそうやってさびしさを抱えているのはキムだけではないのだ。
姉のレイチェルも、わがままな妹を中心にして動く家族が気に食わないし、キムの母は、弟を死なせたキムをまだ少し恨んでいるふしがある。そしてキムを心配している父親だって、弟の死をいまだ引きずったままだ。
そういった近しい者同士の、衝突は見ていてもどこか苦しく切なく、それゆえ心を揺さぶられてしまう。


しかし近しい者同士だからこそ、そこには愛情も生まれうるのだ。
ささいなことでぶつかり、相手のことをときに恨むこともある。
だが家族だから、ある程度の衝突や齟齬が起きても、許容できる範囲は、他人に比べると、ちょっとだけ広い。
相手のことを許したいという気持ちも、ちゃんと謝りたいという気持ちも、家族だから持っている。
その心情のささやかな機微の描き方は絶妙で、すばらしい。


残念な点があるとしたら、結婚式のシーンだろうか。
シーン自体は明るく華やかなのだが、ちょっとだらだら続きすぎて、いくらかだれてしまったのが少し惜しい。

だが登場人物の感情の機微を丁寧に描き上げており、心を揺さぶる力に富んでいる。
いろいろあるが、個人的には好きな作品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・アン・ハサウェイ出演作
 「ブロークバック・マウンテン」

「レスラー」

2009-06-16 21:30:13 | 映画(ら・わ行)

2008年度作品。アメリカ=フランス映画。
全米No.1レスラーだったランディ。50代になった今でもスーパーでアルバイトをしながら、かろうじてプロレスを続けている。ある日、試合直後に心臓発作を起こし倒れた彼に医者は「命が惜しければリングには立つな」と告げる。一人娘のステファニーと疎遠で孤独に生きてきたランディ。さらに生きがいを失った彼には何も残っていなかった。新しい仕事に就き、娘との関係を修復し、好意をもっていた顔なじみのストリッパーに心の拠り所を求めるが…
監督は「レクイエム・フォー・ドリーム」のダーレン・アロノフスキー。
出演はミッキー・ローク、マリサ・トメイ ら。


老いるということは一般的に悲しいことだと思われている。
老いることによって、見えてくる風景はあるけれど、失われるものがあまりに多いからだ。
年をとるにつれ、若いころのように動くことができず、何かをあきらめねばならなくなるし、年を取るほど、適応力は失われてしまう。


主人公ランディはかつて栄光をつかんだレスラーだ。
そんな彼は心臓病を発し、引退を決意するに至る。老いを迎えたものがいつか通らざるをえない道だ。
ランディはそれをきっかけに暮らしを変える。スーパーでの日常の仕事を増やし、仲違いしていた娘と和解しようとする。そして親しいストリッパーの女と接近する。

それはレスラーをしていた時代とは、いくらか違った生き方だ。
その行動は彼なりに、人生を再出発しようという意志の表れなのだろう。
だが違う環境であるがために、彼は上手くその環境に適応していくことができない。
せっかくうまくいきかけていた娘との仲も再び悪化し、スーパーでの仕事にも嫌気がさして最後は辞めててしまう。


彼は基本的に不器用な人間なのだろう。
それだけに現実世界は、彼にとって、リングの世界よりも痛く苦しいものでしかないのだ。
彼はどこまでいってもレスラーであり、リングの上にしか生き場所がなく、そしてそこにしか死に場所がない。
それがいいか、悪いかはともかく、少なくとも彼の主観ではそれは厳然たる事実であるようだ。そのため彼は最後、リングの上へと戻っていく。

実際レスラーの彼はそこで多くの栄光をつかんできた。
そして現在でも、プロレスの世界でなら、彼は多くの人に愛され、認められ、尊敬されている。
そしてその世界でなら、彼も本当にいきいきと動くことができるのだ。
確かにリングの上こそ、彼が生きざるをえない場所なのかもな、という気がしなくはない。


しかし悲しいかな、彼が愛されるその場所に、彼が愛する存在はいないのである。
仲違いしたままの娘も、親しくなった女も、彼が苦しみ適応できなかった現実世界の側にいる。
その事実が、あまりに苦くつらい。

彼の生き様について、良し悪しの判断は下せないだろう。
彼にはきっとそういう生き方しかできなかったのかもしれない。
その悲しい事実だけが最後に残り、深い余韻を生んでいる。きわめて印象深い一品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・マリサ・トメイ出演作
 「その土曜日、7時58分」

「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」

2009-01-25 20:56:52 | 映画(ら・わ行)

2008年度作品。アメリカ映画。
1950年代、フランクとエイプリルのウィーラー夫妻は、ふたりのかわいい子供に恵まれた理想のカップル。”レボリューショナリー・ロード”にある閑静な住宅街に住んでいる。あるパーティの会場で知り合ったふたりは、人生が素晴らしいものになると信じて結婚した。しかし、そんな新婚時代の夢も次第に色あせていった。
監督は「アメリカン・ビューティー」のサム・メンデス。
出演はレオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット ら。


レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレット、「タイタニック」以来のコンビが夫婦を演じるが、その夫婦がまた共感とは実にほど遠い存在なのである。

とは言え、その夫婦が徹頭徹尾、共感できなかったというわけでもない。
たとえば彼らが抱える悩みなどは僕のような普通の人間が抱え持つものと近しいものがある。
妻は女優の夢に挫折しており、夫は現在の仕事を退屈に感じている。そんな平凡な二人は閉塞感に満ちた日常に嫌気が差し、「絶望的な虚しさ」を覚えている。
程度の大小こそあれ、平凡な人間は自分が生きる日常に対して、大なり小なり彼らと似たような感情を一度くらい持ったことがあるのではないだろうか。

夫婦はそんな閉塞感から逃れる(どう見ても、逃れる、だ)ために、パリへ行こうと考える。
だがその計画はあまりに浮世離れしているものだろう。パリに行った後のプランも現状認識が甘いように見えてならない。現実は常に地続きであり、環境を変えただけですべてが好転するほど、人生は都合よくないものだ。
辛らつな言い方になるが、彼らは目の前の現実から逃れるために、幻想を追い求めているだけでしかないのだろう。

だがそれ自体は僕から見て、特に問題はないのである。
まあ子どもは大変だろうけれど、人間は弱いわけで、それくらいのことをしなければ、心の安定だって保てないときだってあるというだけの話だ。

問題はその幻想が破れた後にあるのだ。
二人は幻想が破れた後、相手を、ある面では自分自身の心をも傷つける方向にばかり行動を取っている。それが二人に対して嫌悪感すら覚える結果となってしまった。

それらの夫婦の衝突はいろいろな齟齬や、すれ違いの末ということもあるし、なんだかんだで互いに思いやるシーンもないわけではない。
だが夫婦のケンカシーンを見ていると、そんな留保を吹き飛んでしまうのだ。このケンカシーンが演者二人の演技力もあって(本当に上手い)、無駄に迫力があるのである。言うまでもなく他人のケンカは見ていて、あまり気持ちいいものではない。そのためいくらかの同情も、より一層そがれてしまった。

そのようなマイナス印象をくつがえすほどのものが、この映画内には見られなかったのも個人的には残念である。しいてあげれば、夫婦の描写がリアルだったことくらい。
だが映画である以上、リアルの先を、あるいはリアル+αの要素を提示してほしかったと思う。

映画自体のつくりはしっかりしているため、退屈することはなく(むしろプロットだけを抜き出せばそれなりにおもしろい)、不平とは言え、人にここまで何かを語らせたいと思わせる点は立派であろう。
だが、もう少し何かがあっても良かったのにな、と思う次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)


製作者・出演者の関連作品感想
・サム・メンデス監督作品
 「ジャーヘッド」
・レオナルド・ディカプリオ出演作
 「ディパーテッド」
 「ブラッド・ダイヤモンド」
 「ワールド・オブ・ライズ」
・ケイト・ウィンスレット出演作
 「リトル・チルドレン」

「ラースと、その彼女」

2009-01-05 19:59:50 | 映画(ら・わ行)

2007年度作品。アメリカ映画。
ラースは誰よりも優しくて、純粋。でも、極端にシャイ…。ずっと彼女がおらず、ラースに片思いしている同僚の好意からも逃げてしまうようなラースを周りの人も心配している。そんな彼がある夜、「紹介したい人がいるんだ」と兄夫婦の元にやってきた。喜ぶ二人だったが、ラースが嬉しそうに紹介したのは、等身大のリアルドールだった!
監督は新進気鋭のCM作家、クレイグ・ギレスビー。
出演は「きみに読む物語」のライアン・ゴズリング。「Dear フランキー」のエミリー・モーティマー ら。


奇妙な味わいとほんのりした優しさに包まれた映画、それが見終わった後の感想である。

奇妙な味わいとは当然ながら設定のことだ。
人付き合いの苦手なラースがダッチワイフを恋人だと称して兄夫婦に紹介する。そこからしてまずおかしいし、何とも言えない気まずさを醸し出しているのがツボである。どう接していいかわからず混乱している兄夫婦の姿にも失礼だけれど笑ってしまうものがあった。

そしてそのおかしみを誘うのはキャラの力もあるだろう、と個人的には思う。
ちょっと内気なラースも、母性を持った兄嫁も、大人の男だなという対応を見せる兄もキャラクターがしっかり描かれているから、よりおかしさを誘うところがあるのではないだろうか。

そんな心を病んでいるとしか思えないラースに対して、みんなは実に優しい対応を見せる。
兄夫婦は決して投げ出さず、みんなに相談してしっかりラースに向き合うし、町の人たちも(偏見こそあれ)ラースと話を合わせて見守っていく。
その雰囲気は温かく、あまりに麗しい。こういう空気を映画内につくり出すだけでも見事なものだ。

そういう周囲の空気や、人間関係の変化もあり、ラース自身も少しずつ変化していく。
その変化にはいろいろな解釈を加えることは可能だ。
ラースは、心を病んだような行動を取り、人との接触に強烈な恐れを感じているが、その理由として、陰気な父親と長年一緒にいたことや、母を早くに失い母性に対して憧憬を持っていることを当てはめるのは可能だ。
だがつくり手は解釈という押し付けがましいものを付与せず、物語を進めている。その点は本当すばらしい。

そしてラースの小さな変化を積み重ねることで、彼が成長しているな、という手応えを観客に感じさせていく点には非常にセンスが感じられる。
その手応えがあるからこそ、ラストには美しい余韻が生まれていた。そして後味も爽やかな佳品となりえているのである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・エミリー・モーティマー出演作
 「マッチポイント」

「ワールド・オブ・ライズ」

2008-12-27 09:53:50 | 映画(ら・わ行)

2008年度作品。アメリカ映画。
世界中の情報網の中枢に潜入し、命を張るCIA現場工作員ロジャー・フェリス。遠く離れた平和な場所から命令を下すベテラン局員エド・ホフマン。生き方も考え方も違う2人の目的はひとつ。地球規模の破壊を企む爆破テロ組織のリーダーを捕まえること。正体不明のその男を罠にかけるのは、いったい誰のどんな嘘か?
監督は「ハンニバル」のリドリー・スコット。
出演は「タイタニック」のレオナルド・ディカプリオ。「グラディエーター」のラッセル・クロウ ら。


イラク戦争のために中東に乗り込んだCIA諜報員の姿を描いているが、そこで起きる状況は極めてえぐいものがある。どこまで真実かは知らないが、作戦遂行という大義のためCIAの協力者や情報提供者の命がないがしろにされているからだ。
それはあまりに非人道的にすぎるだろう。
特に建築家の扱いには眉をひそめてしまう。ただの一般人を作戦のために利用し、その後何のフォローもしない、という展開を見て、それはないだろう、と心の底から思ってしまう。

作戦を指導するボスは官僚主義的だ。
冷徹なマキャベリストであり、仕事は有能だろうが、あまりに血も涙もない。それは恐らく戦争という現場を見ていないからこそ起こる意識なのかもしれない。

だからこそ現場にいるディカプリオ演じる諜報員の怒りは真摯なのだ。
しかしその怒りはボスには通じず、CIAのために働いてきたのに、冷徹にもあっさりと切り捨てられてしまう。
事件は会議室で起きているのではなく、現場で起きていることに上の人間が気づかないのは世界共通であるらしい。

そんな諜報員を救うのが同じ現場の人間であるという点はある意味示唆的だ。
結局のところ、現場の苦しみを知り、現場の流儀を知っている者同士でなければ、共通認識というものは生まれないものなのかもしれないな、とそのシーンを見ていて思った。

そういったテーマに対する姿勢はリドリー・スコットらしく骨太であり、盛り上がりもあって楽しめる作品というのがトータルの印象である。
惜しむらくはプラスαの要素がないため、インパクトに乏しい点だろう。
しかし上質の部類に入る作品ではないかと個人的には思う次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


製作者・出演者の関連作品感想
・リドリー・スコット監督作
 「アメリカン・ギャングスター」
・レオナルド・ディカプリオ出演作
 「ディパーテッド」
 「ブラッド・ダイヤモンド」
・ラッセル・クロウ出演作
 「アメリカン・ギャングスター」

「私は貝になりたい」

2008-11-29 10:32:10 | 映画(ら・わ行)

2008年度作品。日本映画。
清水豊松は高知の漁港町で、理髪店を開業していた。決して豊かではないが、家族三人理髪店でなんとか暮らしてゆく目鼻がついた矢先、戦争が激しさを増し豊松にも召集令状が届く。配属された部隊で思いもよらない苛酷な命令を受ける。終戦。豊松は家族のもとに戻り、平和な生活が戻ってきたかに思えた。それもつかの間、MPに戦犯として逮捕されてしまう。
監督は映画初監督となる福澤克雄。
出演は「模倣犯」の中居正広。「大奥」の仲間由紀恵 ら。


フランキー堺主演のオリジナルの後も、映画化やテレビドラマ化された作品だが、ちゃんと見るのは今回初めてである。
なぜこの作品がそう何度もリメイクされてきたかは映画を見れば納得できる。
日本人受けしそうな泣きを煽る展開、不幸としかいいようのない悲劇、家族の絆や反戦という普遍的なテーマを扱っているということもあって、多くの人の心に訴える素材を持ち合わせている。

特に戦争が生む悲劇というテーマが良い。声高に戦争反対を訴えるのではなく、戦争の悲劇性をクローズアップする辺りのセンスは良い。
軍隊における非人間的で苛酷な扱いにはただ眉をひそめるしかない。あの程度のことは当時は普通に行なわれていたのだろう。僕ならあの環境には耐えられない。
しかも捕虜の処刑のシーンなどを見ていると憂鬱になってしまう。
あの状況下にいたと仮定して、何人の人が上官の命令に逆らうことができるのだろう。人を殺すなんて、大抵の人はやりたくないのに、戦時下という状況はそれを許さない。その様が心苦しい限りだ。

しかし戦争という暴力的で巨大な流れの前にあっては、一人の人間というものはあまりに無力な存在だと気づかされる。
ただの散髪屋で、家族を愛しているだけの普通の人間が、あらゆる誤解や勘違いにより、なぜここまで苦しめられなければならないのだろうか。
戦争というものは悲劇以外の何物でもない、とこういう映画を見ているとつくづく思う。
オリジナルを見ていないが、その単純な訴えを発信し続けるためにも、こういうリメイクがつくられる必然性や意義はあるのだろう。

もちろん本作には欠点も多い。
主演両者の演技はお世辞にも上手いとはいえないし、泣きを煽る演出は鼻につくくらいあざといし、音楽自体は良いものの、音量が大きく無理にでも情感に訴えようとしている部分が気に入らない。
だがそういった瑕疵はあるものの、良質の反戦映画ではないか、と個人的には思う。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)