「味噌汁に含まれる塩分は1グラム程度と少ないので血圧に影響はありません。」という文章、昭和の頃から健康雑誌によく載っていますよね。でもそれは誤解です。どうやら、栄養について大学などで勉強したことのないライターさんが誤解で書いて広めているようです。
なんてったってみそしるは日本人の郷愁をそそる美味しい料理です。だから「飲み過ぎると塩分が心配だよね」と言う人よりも、「心配ご無用!」と言う人の方が好かれますよね。ライターさんも人気商売ですから、「いいね」が欲しくて「味噌汁は健康に良いことばかりで悪いことはありませんよ」ってな文章を書く残念な人もいるのです。マスコミがそういう人を登用するのは危険です。きちんと栄養学や医学を学んで事実を伝えるライターさんに記事を書いて欲しいですよね。健康情報について誤解している記事が増えたら、ツケを払うのは私たち消費者なんですから。
今回は、この「あるある文章」のどこが間違いなのか、わかりやすくご説明します。(念のために:味噌汁を上手に利用すれば野菜や海藻や肉や貝などを美味しく食べられるので、味噌汁にはいいところもいっぱいあります。だけれども「味噌汁に含まれる塩分は心配ご無用だ」という文章はアウトだよ、という説明です。)
まず、「お米にはヒ素が含まれますが、普通の調理方法で普通に食べる量なら、ヒ素は少量なので健康に影響はありません。」という文章は事実です。
このように、世の中には「大量に取れば健康に悪影響があるが、常識的な食事なら悪影響が出ない物質」が色々あります。それで
「食品Aには、物質Xは少量しか含まれないから、安心していいですよ」
と役所などが情報提供しているのですね。
そしてですね、実は冒頭の文章は、役所の定型文の「食品A」のところに味噌汁、「物質X」のところに塩分と書き込んだパロディなんです。炊いたご飯に入っているヒ素は、常識的な食事量だったら少量しか体に入らないことが科学的に明らかにされた物質です。だから、この定型文が書けるのです。一方、塩分は、常識的な食事でも過剰に体内に入ってしまうのです。だからこのような定型文にのせて紹介しちゃいけないのです。放っておけば、塩気のついた食品はついつい美味しいからたくさん食べてしまうからなんです。
(塩分と食塩の違いについて(知ってる人はここを読み飛ばして大丈夫ですよ。)。「健康のために塩分の取り過ぎには気をつけましょう」という文章の指す「塩分」とは、ナトリウムのことです。醤油や味噌の主原料である「食塩」の正体は、塩素とナトリウムが結びついて出来た化学物質の「塩化ナトリウム」です。食塩を水気のある食品や口の中に入れると、塩素イオンとナトリウムイオンに分かれるのですが、このナトリウムイオンを取り過ぎると体に影響が出やすい、ということなんですね。ということで、厳密には塩分(ナトリウム)と食塩は違うのですが、塩分はたいてい食塩からやってくるので、塩分という言葉と食塩という言葉はだいたい同じ意味で用いられるのです。)
例えば、ごく普通の勤め人の平凡な一日を想像してみましょう。
朝ご飯。白米には塩気がありませんが、食塩(つまり塩化ナトリウムですね。)の摂取量は焼き魚から1グラム、タクアンとキムチからは2グラム、味噌汁飲んで1グラム。
昼ご飯はラーメン食べたら5グラム・おやつに塩気のあるパンを食べたら1グラム。
晩ご飯は健康に気を遣いたいなと思います。テレビや雑誌が「乳酸菌が取れるから体に良いんだ」と言っていたから「ぬか漬け」も食べましょう。食塩が2グラムだ。味噌汁も体にいいとテレビや雑誌が言うから2杯飲みましょう。食塩2グラム。野菜の天ぷらも体にいいよね、と天つゆで食塩1グラム。食物繊維が多くて腸内環境を整えるとヘルシーな印象の野菜の煮物で食塩2グラム。
こうして、一日の食塩は合計で17グラムとなりました。・・・・あれ?日本人は一日どれぐらいの食塩量を取るのがおすすめなの?
はいはい、それはですね、厚生労働省が定めた「健康日本21(第二次)」という平成25年度から10年間の計画によると、日本人は塩分を取り過ぎなので平成34年度までには塩分を食塩換算で一日8グラムに下げることを目標としましょう、と定められています。別表第5という資料に載ってますよ。WHOは5グラムを目安にしていますが、日本人にはこの目標は高すぎるので、8グラムと設定しているのです。一方、あまり気を遣わずに食事をしていたらたちまち食塩が15グラム以上は簡単に体の中に入るのだから、結構怖いですね。
だから、ヒ素や水銀のような物質とは違い、食塩はとにかくいろいろな場面で減らすように気をつけた方がいいのです。
「味噌汁の塩分は1グラムだから心配いらない」という言葉が許されるなら、「食パンの塩分も1グラムだから食パンの塩分も心配いらない」「この漬物の塩分は2切れで1グラムだから心配いらない」「この塩魚の塩分は2切れで1グラムだから心配いらない」「この煮物も一口分だったら塩分1グラムだから心配いらない」と、なし崩しで、なんでもかんでも「塩分1グラム程度だから心配いらないよね」となります。消費者は「これもあれもたった1グラムだから安心して食べられる」となって、チリツモで一日15グラムを簡単に突破してしまうのです。こんな悲劇を防ぐためには、「味噌汁の塩分だったら心配ご無用!」という説には耳を傾けてはいけないのです。
ラーメンの汁を残し、味噌汁も乳製品などを入れてコクを出して減塩する、漬物も煮物もレモン汁を入れるなどのアイデアで減塩を工夫する、などなど、1つ1つの食品はちょびっとでもいいから食塩を削ることで、食事全体の食塩の摂取量を減らせるのです。だからこそ、いろいろなメーカーも一生懸命、減塩醤油や減塩味噌・減塩漬物などを生産しているのですね。「味噌汁の塩分だったら1杯1グラムだから気にしなくていい」なんて台詞がまかり通るんだったら、一生懸命減塩味噌を製造販売している味噌業界の努力はどうなるのかな?味噌業界の味方をしているつもりが、ひいきの引き倒しですよ。
「食塩をとっても高血圧にならない遺伝的体質の人がいるから、食塩を減らそうなんてみんなに勧めるのはおかしい。」という人がいますが、これも生半可に信じるのはとても危険な説です。理由は2つあります。まず、食塩を取ると高血圧が進む人は日本人の約半数いて、自分の血圧が食塩に反応するかどうかは病院で調べないと分からない。だから、日本人全員に一様に「高血圧にならない人もいるんだから、食塩を減らそうと進めるのはおかしい」と言うのは、約6千万人の健康を害しかねないのです。
もう一つの理由は、腎臓への負担の問題です。これは少し後で改めて述べます。
腎臓の話の前に、「味噌汁の塩分は心配ない」説の根拠とされがちな「もう一つの都市伝説」を紹介しましょう。それは「味噌汁の具に野菜を豊富に入れれば、野菜のカリウムのおかげで塩分(ナトリウム)が排出されるから心配いらないよ」という「あるある間違い」です。なぜ「あるある間違い」なのかというと、もしも「カリウムをとればナトリウムが排出されるから心配無用」が正しいなら、次の文章も正しくなるからです。
「塩魚をカリウムの多い野菜でくるんで食べればいい」
「パンに野菜を挟んでサンドイッチにすればいい」
「煮物は野菜が多いから煮物の塩分は気にしなくていい」
「梅干しは梅の実由来のカリウムがあるから塩分を気にしなくていい」
「ラーメンにモヤシとネギをたっぷり載せればいい」
「カリウムのサプリメントを飲めばいい」
はい、そろそろ読者の皆さんも、これらの文章がおかしいと気がつきましたよね?
はい、次の文章を声に出して読んでください。「カリウムさえ取りゃ食塩をたくさん取っても大丈夫というお気楽な説が事実なら、国やWHOが塩分摂取量の上限を定める必要ないじゃん!!」
はい、ご協力ありがとうございます。
カリウム摂取が体内のナトリウムの排出に役立つのは事実でも、大量にカリウムとナトリウムを取る生活をしていたら腎臓に負担がかかります。医師の指導下なら可能ですが、素人が家庭で自己流にやると、体質によっては最悪死に至ります(詳しくは次の段に書きますね)。まずは、とにかく体内に入る食塩を減らす方が大事なんですよ。だから、元の「野菜たっぷり味噌汁なら塩分が体外に排出されるからオッケー」論も間違っているのです。
この点を、歴史を簡単に追って説明しましょうね。
ナトリウムを取っていてもカリウムもたくさん取れば血圧(最大血圧)が上がりにくくなること自体は1958年のMeneely and Ballの論文や、1972年の Dahl et al.の論文で知られてはいたことでした。しかしですね、1980年にAcademic Presss社からMorley R. Kare博士らが発行した塩と生体の関係の研究書で、ペンシルバニア大学Torii博士が一部分執筆を担当し、重要な研究結果を報告するのです。高血圧研究用のSHRラットの子どもにこの実験をすると、実に44%(25匹のうち11匹)が死んでしまったのです。
この本を手にして驚いたのが、東北大学農学部の木村修一教授でした。SHRラットは腎臓機能が少し弱いらしいことは当時から知られていました。木村先生は1987年発表の論文「食塩の生理」に、Torii博士の論文を引用して、こう説明しました。「ネズミでこのようなことが見られることは、人間の場合でも腎臓がよくない場合など、塩化カリウムを単純に塩化ナトリウムの代わりに使えばよいといった単純な発想には疑問が残ります。」この文章は、ナトリウムの害を防ごうと思ってカリウムをたくさん取れば、腎臓が弱い人が死ぬ可能性がある、と示す文章でした。
ですが、1984年に鳥取医科大学の家森幸男教授達のグループが、日本人でもカリウムをたくさんとれば高血圧が防げることを証明し、この実験は健康な高齢者を対象としたため、腎臓への危険性が医学者には認識されないまま、世の中は「カリウムを取ればOK」論に流れてしまいました。家森先生達の研究そのものは正しかったのですが、世の中にはこの研究成果を応用できない生来腎臓の弱い体質の人がたくさんいて、しかもその体質は隠れていて本人も自覚がない、という重要な点が見過ごされたのです。
初期の腎臓病も自覚症状がありません。多くの患者さんは、健康診断で医師から指摘されて初めて知りますが、健康診断を受けない人や、結果を聞かされても自覚症状がないものだからピンと来なくて話を聞き流してしまう人も多いのです。でも、重症化してから「ああ、食塩とカリウムの多い野菜を食べ過ぎてしまった。」と後悔しても、もう間に合わないのです。
高齢化が進んだ現代、高齢者はかなり高い確率で腎臓を患っていることが確認されてます。慢性腎臓病は、70歳代で約3割、80歳代で約4割の方に生じています。野菜をたくさんとればいいという生兵法では、大勢の方々の命を損なうことになります。しかも困ったことに、古い時代の教育を受けた医師や栄養士には、未だに「野菜をたくさんとればおっけー」論を信じていて、情報をアップデートしてない方も大勢います。高血圧と腎臓が心配な方は、きちんと専門医にご相談して、適切な量のナトリウムとカリウム量にセーブするように心がけてくださいね、
勘の鋭い方は気がついたはずだけど、一部の声の大きい方は「○○という物質の世界基準は1日につき○マイクログラムだけど日本の基準はそれより緩くて許せない!」とよく言うけど、こういう人たちは「塩化ナトリウムの日本の基準は世界より緩くて許せない!」とは決して叫ばないのですよね。でも、どっちの方が、より切羽詰まって深刻な問題かと言えば、大勢の人たちが悩んでいる高血圧問題です。日本人の約半分が塩分に反応して高血圧が進む体質だから、国の医療費削減のためにも減塩はこれからも進めたいですよね。タミアは、医療費削減のために社会のお役に立ちたいです。だから「味噌汁の塩分は気にしなくてオッケー」説は間違っていると、声を大にして叫びたいのです。
みなさんも、本当にこの国を愛しているなら、医療費削減のためにも、お年寄りが健康的に長生きできるためにも、おかしな健康情報を掲載している雑誌には気をつけてください。
なんてったってみそしるは日本人の郷愁をそそる美味しい料理です。だから「飲み過ぎると塩分が心配だよね」と言う人よりも、「心配ご無用!」と言う人の方が好かれますよね。ライターさんも人気商売ですから、「いいね」が欲しくて「味噌汁は健康に良いことばかりで悪いことはありませんよ」ってな文章を書く残念な人もいるのです。マスコミがそういう人を登用するのは危険です。きちんと栄養学や医学を学んで事実を伝えるライターさんに記事を書いて欲しいですよね。健康情報について誤解している記事が増えたら、ツケを払うのは私たち消費者なんですから。
今回は、この「あるある文章」のどこが間違いなのか、わかりやすくご説明します。(念のために:味噌汁を上手に利用すれば野菜や海藻や肉や貝などを美味しく食べられるので、味噌汁にはいいところもいっぱいあります。だけれども「味噌汁に含まれる塩分は心配ご無用だ」という文章はアウトだよ、という説明です。)
まず、「お米にはヒ素が含まれますが、普通の調理方法で普通に食べる量なら、ヒ素は少量なので健康に影響はありません。」という文章は事実です。
このように、世の中には「大量に取れば健康に悪影響があるが、常識的な食事なら悪影響が出ない物質」が色々あります。それで
「食品Aには、物質Xは少量しか含まれないから、安心していいですよ」
と役所などが情報提供しているのですね。
そしてですね、実は冒頭の文章は、役所の定型文の「食品A」のところに味噌汁、「物質X」のところに塩分と書き込んだパロディなんです。炊いたご飯に入っているヒ素は、常識的な食事量だったら少量しか体に入らないことが科学的に明らかにされた物質です。だから、この定型文が書けるのです。一方、塩分は、常識的な食事でも過剰に体内に入ってしまうのです。だからこのような定型文にのせて紹介しちゃいけないのです。放っておけば、塩気のついた食品はついつい美味しいからたくさん食べてしまうからなんです。
(塩分と食塩の違いについて(知ってる人はここを読み飛ばして大丈夫ですよ。)。「健康のために塩分の取り過ぎには気をつけましょう」という文章の指す「塩分」とは、ナトリウムのことです。醤油や味噌の主原料である「食塩」の正体は、塩素とナトリウムが結びついて出来た化学物質の「塩化ナトリウム」です。食塩を水気のある食品や口の中に入れると、塩素イオンとナトリウムイオンに分かれるのですが、このナトリウムイオンを取り過ぎると体に影響が出やすい、ということなんですね。ということで、厳密には塩分(ナトリウム)と食塩は違うのですが、塩分はたいてい食塩からやってくるので、塩分という言葉と食塩という言葉はだいたい同じ意味で用いられるのです。)
例えば、ごく普通の勤め人の平凡な一日を想像してみましょう。
朝ご飯。白米には塩気がありませんが、食塩(つまり塩化ナトリウムですね。)の摂取量は焼き魚から1グラム、タクアンとキムチからは2グラム、味噌汁飲んで1グラム。
昼ご飯はラーメン食べたら5グラム・おやつに塩気のあるパンを食べたら1グラム。
晩ご飯は健康に気を遣いたいなと思います。テレビや雑誌が「乳酸菌が取れるから体に良いんだ」と言っていたから「ぬか漬け」も食べましょう。食塩が2グラムだ。味噌汁も体にいいとテレビや雑誌が言うから2杯飲みましょう。食塩2グラム。野菜の天ぷらも体にいいよね、と天つゆで食塩1グラム。食物繊維が多くて腸内環境を整えるとヘルシーな印象の野菜の煮物で食塩2グラム。
こうして、一日の食塩は合計で17グラムとなりました。・・・・あれ?日本人は一日どれぐらいの食塩量を取るのがおすすめなの?
はいはい、それはですね、厚生労働省が定めた「健康日本21(第二次)」という平成25年度から10年間の計画によると、日本人は塩分を取り過ぎなので平成34年度までには塩分を食塩換算で一日8グラムに下げることを目標としましょう、と定められています。別表第5という資料に載ってますよ。WHOは5グラムを目安にしていますが、日本人にはこの目標は高すぎるので、8グラムと設定しているのです。一方、あまり気を遣わずに食事をしていたらたちまち食塩が15グラム以上は簡単に体の中に入るのだから、結構怖いですね。
だから、ヒ素や水銀のような物質とは違い、食塩はとにかくいろいろな場面で減らすように気をつけた方がいいのです。
「味噌汁の塩分は1グラムだから心配いらない」という言葉が許されるなら、「食パンの塩分も1グラムだから食パンの塩分も心配いらない」「この漬物の塩分は2切れで1グラムだから心配いらない」「この塩魚の塩分は2切れで1グラムだから心配いらない」「この煮物も一口分だったら塩分1グラムだから心配いらない」と、なし崩しで、なんでもかんでも「塩分1グラム程度だから心配いらないよね」となります。消費者は「これもあれもたった1グラムだから安心して食べられる」となって、チリツモで一日15グラムを簡単に突破してしまうのです。こんな悲劇を防ぐためには、「味噌汁の塩分だったら心配ご無用!」という説には耳を傾けてはいけないのです。
ラーメンの汁を残し、味噌汁も乳製品などを入れてコクを出して減塩する、漬物も煮物もレモン汁を入れるなどのアイデアで減塩を工夫する、などなど、1つ1つの食品はちょびっとでもいいから食塩を削ることで、食事全体の食塩の摂取量を減らせるのです。だからこそ、いろいろなメーカーも一生懸命、減塩醤油や減塩味噌・減塩漬物などを生産しているのですね。「味噌汁の塩分だったら1杯1グラムだから気にしなくていい」なんて台詞がまかり通るんだったら、一生懸命減塩味噌を製造販売している味噌業界の努力はどうなるのかな?味噌業界の味方をしているつもりが、ひいきの引き倒しですよ。
「食塩をとっても高血圧にならない遺伝的体質の人がいるから、食塩を減らそうなんてみんなに勧めるのはおかしい。」という人がいますが、これも生半可に信じるのはとても危険な説です。理由は2つあります。まず、食塩を取ると高血圧が進む人は日本人の約半数いて、自分の血圧が食塩に反応するかどうかは病院で調べないと分からない。だから、日本人全員に一様に「高血圧にならない人もいるんだから、食塩を減らそうと進めるのはおかしい」と言うのは、約6千万人の健康を害しかねないのです。
もう一つの理由は、腎臓への負担の問題です。これは少し後で改めて述べます。
腎臓の話の前に、「味噌汁の塩分は心配ない」説の根拠とされがちな「もう一つの都市伝説」を紹介しましょう。それは「味噌汁の具に野菜を豊富に入れれば、野菜のカリウムのおかげで塩分(ナトリウム)が排出されるから心配いらないよ」という「あるある間違い」です。なぜ「あるある間違い」なのかというと、もしも「カリウムをとればナトリウムが排出されるから心配無用」が正しいなら、次の文章も正しくなるからです。
「塩魚をカリウムの多い野菜でくるんで食べればいい」
「パンに野菜を挟んでサンドイッチにすればいい」
「煮物は野菜が多いから煮物の塩分は気にしなくていい」
「梅干しは梅の実由来のカリウムがあるから塩分を気にしなくていい」
「ラーメンにモヤシとネギをたっぷり載せればいい」
「カリウムのサプリメントを飲めばいい」
はい、そろそろ読者の皆さんも、これらの文章がおかしいと気がつきましたよね?
はい、次の文章を声に出して読んでください。「カリウムさえ取りゃ食塩をたくさん取っても大丈夫というお気楽な説が事実なら、国やWHOが塩分摂取量の上限を定める必要ないじゃん!!」
はい、ご協力ありがとうございます。
カリウム摂取が体内のナトリウムの排出に役立つのは事実でも、大量にカリウムとナトリウムを取る生活をしていたら腎臓に負担がかかります。医師の指導下なら可能ですが、素人が家庭で自己流にやると、体質によっては最悪死に至ります(詳しくは次の段に書きますね)。まずは、とにかく体内に入る食塩を減らす方が大事なんですよ。だから、元の「野菜たっぷり味噌汁なら塩分が体外に排出されるからオッケー」論も間違っているのです。
この点を、歴史を簡単に追って説明しましょうね。
ナトリウムを取っていてもカリウムもたくさん取れば血圧(最大血圧)が上がりにくくなること自体は1958年のMeneely and Ballの論文や、1972年の Dahl et al.の論文で知られてはいたことでした。しかしですね、1980年にAcademic Presss社からMorley R. Kare博士らが発行した塩と生体の関係の研究書で、ペンシルバニア大学Torii博士が一部分執筆を担当し、重要な研究結果を報告するのです。高血圧研究用のSHRラットの子どもにこの実験をすると、実に44%(25匹のうち11匹)が死んでしまったのです。
この本を手にして驚いたのが、東北大学農学部の木村修一教授でした。SHRラットは腎臓機能が少し弱いらしいことは当時から知られていました。木村先生は1987年発表の論文「食塩の生理」に、Torii博士の論文を引用して、こう説明しました。「ネズミでこのようなことが見られることは、人間の場合でも腎臓がよくない場合など、塩化カリウムを単純に塩化ナトリウムの代わりに使えばよいといった単純な発想には疑問が残ります。」この文章は、ナトリウムの害を防ごうと思ってカリウムをたくさん取れば、腎臓が弱い人が死ぬ可能性がある、と示す文章でした。
ですが、1984年に鳥取医科大学の家森幸男教授達のグループが、日本人でもカリウムをたくさんとれば高血圧が防げることを証明し、この実験は健康な高齢者を対象としたため、腎臓への危険性が医学者には認識されないまま、世の中は「カリウムを取ればOK」論に流れてしまいました。家森先生達の研究そのものは正しかったのですが、世の中にはこの研究成果を応用できない生来腎臓の弱い体質の人がたくさんいて、しかもその体質は隠れていて本人も自覚がない、という重要な点が見過ごされたのです。
初期の腎臓病も自覚症状がありません。多くの患者さんは、健康診断で医師から指摘されて初めて知りますが、健康診断を受けない人や、結果を聞かされても自覚症状がないものだからピンと来なくて話を聞き流してしまう人も多いのです。でも、重症化してから「ああ、食塩とカリウムの多い野菜を食べ過ぎてしまった。」と後悔しても、もう間に合わないのです。
高齢化が進んだ現代、高齢者はかなり高い確率で腎臓を患っていることが確認されてます。慢性腎臓病は、70歳代で約3割、80歳代で約4割の方に生じています。野菜をたくさんとればいいという生兵法では、大勢の方々の命を損なうことになります。しかも困ったことに、古い時代の教育を受けた医師や栄養士には、未だに「野菜をたくさんとればおっけー」論を信じていて、情報をアップデートしてない方も大勢います。高血圧と腎臓が心配な方は、きちんと専門医にご相談して、適切な量のナトリウムとカリウム量にセーブするように心がけてくださいね、
勘の鋭い方は気がついたはずだけど、一部の声の大きい方は「○○という物質の世界基準は1日につき○マイクログラムだけど日本の基準はそれより緩くて許せない!」とよく言うけど、こういう人たちは「塩化ナトリウムの日本の基準は世界より緩くて許せない!」とは決して叫ばないのですよね。でも、どっちの方が、より切羽詰まって深刻な問題かと言えば、大勢の人たちが悩んでいる高血圧問題です。日本人の約半分が塩分に反応して高血圧が進む体質だから、国の医療費削減のためにも減塩はこれからも進めたいですよね。タミアは、医療費削減のために社会のお役に立ちたいです。だから「味噌汁の塩分は気にしなくてオッケー」説は間違っていると、声を大にして叫びたいのです。
みなさんも、本当にこの国を愛しているなら、医療費削減のためにも、お年寄りが健康的に長生きできるためにも、おかしな健康情報を掲載している雑誌には気をつけてください。