タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

朝日新聞の「発酵ブーム」記事の疑問点

2023年07月16日 | Weblog
2023年7月9日朝日新聞デジタルに、実に興味深い記事が掲載されました(11日には本紙にも掲載されています)。発酵食品ブームを牽引していると自称する「小倉ヒラク」さんが、発酵ブームはうれしいけど、発酵食品でナショナリズムを喚起して政治利用しようとしている動きがあるので特に農水省当たりには目配りしてくれ、と書いているのです。

ヒラクさんは「安易に民族的精神性や「日本スゴイ」に結びつけるのは危険です。」と指摘し、和食がユネスコ無形文化遺産に登録された時に「独自性が過度に強調され」たと書いています。そのユネスコ登録文書にも記載された新鮮な食品を最小限の加工で食べる伝統(=刺身や煮物、焼き物、酢物などが該当します。)は、明治以降の「作られた伝統ではないか」と主張しています。

確かに和食をナショナリズムの高揚に結びつけてはいけません。その点は賛成します。
しかしヒラクさんには申し訳ないけど、ヒラクさんの文章には大きな誤解が含まれているし、彼の人脈を見ると彼の発言に隠された本音が見えてきます。
 先に人脈の方を指摘しましょう。その方がわかりやすいから。

 ヒラクさんは①2010年に東京農大名誉教授の小泉武夫氏の元で学び、②スピリチュアル系右寄りニセ科学で大変有名な「マクロビオティック」の信奉者に支えられてマスコミの寵児になった人物です。

 小泉氏は東京農大教授時代の2001年に「食の堕落と日本人」という本を書き、その内容は完全に洋風の食事を「堕落」として否定する本でした。和食を食べない日本人は堕落しており正しい日本人は和食を食べなさい、洋食を止めなさい、という本です。おやおや、最近のどこかのナショナリズム喚起政党の発言内容とそっくりですよ。小泉氏のこの本は大ヒットしました。農水省より前からナショナリズムを喚起・利用していた訳です。
 その小泉氏の弟子であるあなたが何を言うのかと問いたい。

そして、小泉氏は雑誌ソトコトでのスローフード連載で「食の総理大臣」という称号を授かって、和食こそが正しい、と右寄りの説を唱え続けたんですよ。誌上で総理大臣ごっこしながらなんて、ナショナリズムの発露ではありませんか。

 ソトコトは当時スピリチュアルもよく載せていたので、スピリチュアルなマクロビ人脈が小泉氏の知己になって行きました。もともとマクロビは「米をたくさん食べることが正しい。洋風の食品は避けなさい。」と民族的精神性を重視する発想だったので、ますますそういう人が小泉氏のファンになりました。
 
 で、②なんですけど、ヒラクさんは自分自身のブログでも自伝を記して、「最初のターニングポイントは、2011年以降。環境や自分の生活環境に不安を抱える人たちが発酵に持つようになりました。僕の講座に参加する人で一番多いのはこの人たち。マクロビや菜食主義の実践者」((https://hirakuogura.com/?p=7419 参照 2023年7月16日))と述べました。つまりマクロビに向かって足を向けて寝られないほどマクロビに恩義を受けているのがヒラクさんだと判明。
 ほかにも有名な和風自然化粧品の「あきゅらいず」の広告対談では、ヒラクさんはマクロビで有名な中島デコ氏と対談して、女性の間で知名度を上げました。

対談広告から引用しましょう。
「【中島デコ×小倉ヒラク対談#1】美肌の秘訣は、毎朝の味噌汁と「好き」を極めること2016.11.18 ある晴れた日、千葉県いすみ市にある「ブラウンズフィールド」で、発酵デザイナー・小倉ヒラクさんが料理研究家の中島デコさんを訪ねました。ヒラクさんは、「大人すはだ」の運営元である「あきゅらいず」の創成期のメンバー。デコさんも5年ほど前に「あきゅらいず」の代表である南沢典子さんに出会い、以来お付き合いが続いています。」((http://otonasuhada.jp/dialogue_deco_and_hiraku_1/ 参照 2023年7月16日)) 

①に話を戻すと、小泉氏は洋食否定運動を開始してしばらくして、農水省からお誘いがあり、様々な検討会講演会で、日本は世界一の発酵の国!と「日本スゴイ!」を連発して、農水省の食育分野で広く活躍したのですよ。
 ヒラクさん、あなたの師匠が農水省を踏み台に食育で「日本スゴイ」を散々広めておきながら、今更「麹を使ってナショナリズムをやってる農水省には目配りを」って他責するなんて恥ずかしくないのですか?農水省がナショナリズム的な思想に傾倒するようになったのなら、それはあなたの師匠のまいたタネではないでしょうか。

 さて、ヒラクさんが朝日記事に書いた説「「正しい和食」は生鮮な食材を使用するという説は明治時代にねつ造された伝統だ、なぜなら和食は発酵大国だからだ、明治時代に食の廃仏毀釈が行われたため、ねつ造されたんだ」という趣旨のトンデモ発言も、食文化論を分かってないようです。

 そもそも「正しい和食」と言ってるのはだれ?そうやって「麹や発酵食こそ正しい日本の伝統」と言ってナショナリズムをあおっているのはヒラクさんですよ!

 「和食」の定義は文脈や場面によって異なるというのが、多数の食文化研究者の共通的考え方です。あの第一人者の熊倉功夫先生でさえ、書く媒体によって定義を使い分けているため、時々自己矛盾することを言っていますよ。私自身もブログで何度も「和食」は文脈によって様々なパターンがあるため定義が難しいと指摘しています。「正しい和食」があるという考え方を共有しているのは、むしろヒラクさんとヒラクさんの師匠の小泉氏ではありませんか。
 
 「正しい和食」は無いが、他国(欧米や中国韓国など)との差異はあります。特徴という言葉でも言い換えられるでしょう。そして、外国人に「日本の食の特徴は?」と問われた時に、「発酵食品です」と言ったら相手に差異を説明しにくいものです。いくら「日本は発酵食品大国で麹が麹が」と言ったところで、諸外国にも似た文化があるからです。似た文化を説明しても特徴ではありません。

似た文化を「特徴だ」と言い張ると、例えばこんなわびしい結果になります。
「麹?ああ、うちの国のクモノスカビ文化を取り入れようとして失敗した結果ですよね?うちの国は堅い穀物を生のまま粉砕して固める技術があったから、餅麹(クモノスカビを穀類にはやしたもの)ができたんですよね。日本にはその技術が無かったから米を蒸して菌類を生やすしか方法が無かったわけだけど?」
「麹?ああ、うちの国も発酵食品大国で、パンにビールにワインにチーズ。コウジは身体に良い?はあ、それを言ったらチーズも身体に良いけど。コウジは美味しい?ビールも美味しいよ。・・・あなた自分の物差しで話してない?」

このように発酵文化は和食の特徴としては不適切です。発酵以外の何かを特徴として明確に説明が出来ないと、日本はどこかの国の属国扱いされかねません。そこで明治時代に、洋・中・韓との違いを明示できる特徴として、新鮮な食材を最低限の加工度で提供するのが日本の食文化の特徴だと気づき指摘したわけです(例えば刺身、煮物、焼き魚、貝の吸い物、おひたしなどです)。これらの調理法は明らかに他の文化体系と異なる事実です。正しさの押しつけでもねつ造でもありません。

ユネスコ無形文化遺産に和食が登録された時に、新鮮な食材を使うのが和食の特徴だとされたのは当然です。大陸文化等と決定的に違うところを説明出来ないなら、ユネスコが登録するはずもない。それなのにヒラク氏は、こうした大陸との差異の指摘をねつ造だ、「独自性が過度に強調され」ていると言っているのです。残念な方だと思いました。

先に、ヒラクさんはマクロビ仲間を大事にしなければならない立場に置かれていることを指摘しました。しかもマクロビは漬物が大好きです。マクロビ擁護のために、「新鮮な食材を食べる日本の伝統」はねつ造だと主張しているのではありませんか?
しかも小泉氏やマクロビが散々盛り立てた「日本スゴイ」を役所の責任に押しつけて、「日本のコウジスゴイ!」って宣伝するなんて・・・良心がとがめませんか。


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