タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

日本人「身長の限界」に到達は本当?

2022年11月12日 | Weblog
11月5日の日経土曜版に、戦後一貫して伸びてきた日本人の身長がここにきて停滞しているという記事がありました。
仮説も含めて多角的に切り込んだ非常に面白い内容である一方、踏み込み足りないと感じた部分もあるため、ここで紹介します。

まず記事では、日本人(17歳)の平均身長が一番高かったのは1994年度で、その後は横ばいと紹介しました(文部科学省 学校法検糖計調査)。記事に掲げられた別のグラフ(医薬基盤・健康・栄養研究所の池田奈由氏の研究データ)では1996年には男女ともに韓国や中国に追い越されてしまいました。
 日本人は実は古墳時代に高身長でした。では鎌倉~江戸時代に身長が低かったのはなぜか?従来の説である「仏教の影響で肉食を避けるようになったため」へのカウンターとして記事では、国立科学博物館明洋研究員の馬場悠男さんの説「急速な都市化と人口増で身長が低くなった説を取り上げています。
 「動物は特定の場所で個体数が増えるとリソースを効率的に分け合うため」という視点はなかなか面白い説なのですが、これはリソースが一定であるという前提が必要です。外部から食料の移入があれば成立しない説です。江戸時代は言うまでも無く、海運や陸路で各地の食材が江戸や大阪など都市に運び込まれたわけなので、タミア的には、やっぱり従来の「肉食を避けるようになったため」の方が要因として大きく、過密説はその次の要因だろうと想像します。

 この記事の白眉は、国立成育医療研究センターの森崎菜穂さんらの研究紹介部分です。実は1980年代以降に生まれた人の成人身長はむしろ低下していたというショッキングなデータです。記事ではきちんと医薬基盤・健康・栄養研究所の池田奈由氏の研究データも示して、平均身長が低下気味のデータを示しています。低下が始まった時期は森崎さんのデータと完全に一致しませんが、これは今後の精査が必要でしょう。
 森崎さんは身長低下が始まった理由は1980年頃から妊婦の体重制限が着目されたのが原因であろうと推測しています。記事のグラフによると1986年前後から低体重児が次第に増加したことが示されています。そして低体重児は大人になっても身長が低めになることは国内外の論文で指摘されている、だから妊婦の体重制限が原因だろうと。

 ですが身長は17歳ぐらいで伸びが止まることを考えると、森崎先生の説だけが正しいなら身長低下は今世紀になってから現れ始めないと説明がつきません。池田先生のデータだと日本人男性の平均身長(18歳)は1980年より1996年の方が低いので、話のつじつまが合いません。つまり他にも重要なファクターがあるはずです。

 そこで厚生労働省の国民健康・栄養調査報告を見ると興味深い事実が・・・。
 実は日本は酸性土壌のため昔からもともと日本人のカルシウム摂取量も大変少なかったのですが、戦後に食品の量や質が豊かになりカルシム摂取量も増えていきます。1番目のピークは1975年の550ミリグラム/day。
 ところが1980年に入ると535ミリグラムと減少し、その後は大きく上下を繰り返しながら、1998年の2回目のピーク(568ミリグラム)を最後に、後はカルシウム摂取量が右肩下がりになるのです。
 一方、カルシウムの食事摂取基準が人生で一番大なのが12~14歳です(日本人の食事摂取基準2020年版より)。言い換えればこの年ごろの子供にカルシウム豊富な食品を与えると身長が伸びる可能性が高くなります。

1980年以降に生まれた子供は、それ以前に生まれた人よりもカルシウム摂取量が減少しています。わかりやすく説明するため1980年生まれを例にピン止めすると、この人はカルシウムをたくさん取るべき12歳(1992年)に平均で539ミリグラムしか取っていません。14歳の1994年でも545ミリグラム。繰り返しますが1975年には550ミリグラム取っていたのにそれより低い値ですよ。これじゃあ日本人男性平均身長が1980年測定値より1996年の方が低いのも納得です。
 カルシウム摂取量の2番目のピーク(1998年)の恩恵を受けるのが1984~1986年生まれ。それ以降は、年々摂取量が落ちています。2000年以降にカルシウム摂取量が減ったのは、牛乳が身体にどーだこーだという変な作り話がまことしやかに広められて、情報弱者が信じてボイコットしたためと考えられます。

 記事中で、馬場先生は日本人の身長が伸びなくなったのは遺伝的限界だろうと言いましたが、それが事実なら1980年の身長が1996年より大きいなんて不思議な現象は説明がつきません。身長は遺伝子でも決まりますが、子供時代の栄養状態も影響することはすでに先行研究があります(注1)。
 遺伝だ限界だと諦めずに、まだ伸びしろがあると考えて、妊婦の食事制限を緩め学童・中学生への牛乳飲食を呼びかけると1980年の頃のように身長が伸びるのではないでしょうか。遺伝子限界説は子供たちから健全な成長を奪ってしまう可能性があるので心配です。
注1: 岡田知雄「子どもの生活習慣病の改善と牛乳摂取の効果」『食の科学』光琳(2003年)

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