心理学の本(仮題)

【職場に】心理学書編集研究会(略称:心編研)による臨床心理学・精神医学関連書籍のブックレヴュー【内緒♪】

失敗から学ぶ――死せる魚の眼的落語調違反者講習に僕は時の涙を見ましたよ!

2007-10-18 15:05:07 | 臨床心理学
どうもこんにちは。

せんだて,私もいっちょまえに免許更新をしてきたわけですが,まあ残念ながら,交通違反をしていたため,優良ドライバー講習ではなく,違反者講習,2時間受講さらしたわけです。

違反者講習って,どこでもそうなのかわかりませんけど,僕が受けたところでは,1時間のしゃべくりがまずあったわけですが,これがなぜか落語調の名調子でまくし立てられ,10分経過した時点ではげしく殺意が沸いてきたわけですが,まあこれも違反した報いかと我慢するしかなく,はげしくイライラしてたわけです。

それがまあ落語調なんですけど,ネタ本は,交通教本なわけですから,落語調でも面白いわけがないわけですよ。10分くらいは渡された交通教本に落書きをして自我を退行させていたわけですが,どうも耳につくんですよ,落語調違反者講習が(ちゃんと聞けという話もある)。

多分,講師の方は落語好きで,志ん生とかのDVD観まくってスキルを磨いてるに違いない,と思い,そのスキルがゆえに,退行もままならぬというなら,どんな顔してしゃべってるのか,マンウォッチングとシャレ込もうやないか,と思い,顔を上げて,しゃべってる顔をまじまじを見だしたのが,私なのですね。

するとどうだろう。その名調子とは裏腹に目がね,完全に死せる魚の眼なんですよ,講師の方が! お手製のギャグも織り交ぜた緩急自在の話術の一方で,アイズ・オブ・デッド・フィッシュ,まったく笑ってない,口角すら上がらないというアンドロイド的無表情に驚愕しました。

まあでも仕方ないんですよ。だってなにしろオーディエンスからのレスポンスZEROなわけですからね。しかし,お手製ギャグといっても,予定調和というか,サザエさん的安定感はあるものの,官僚機構の中で完全に去勢されたポイズンフリーの小話に,刺激に慣れすぎた現代人たるわれわれが反応しようもないんですよ。

それは向こうも勝手知ったるもので,流す流す,かえって笑ったりしたらリズムを壊して迷惑なのでは? とすら思える流しっぷりで,ますますオーディエンスとの断絶は深まるばかり。

こうなると逆に悲しくなってまいりまして,ハイ!と挙手して,ウンコ行って来ていいですか? と大声で質問してトリックスター気取りすらしたくなってきましたが,何しろ,国家権力ですから,妙なことして,免許更新できなかったら,困っちゃうということで,身動きが取れないわけです。その間もよどみない言語の洪水が,僕らを包み込んでるわけですね。

僕らも僕らで生殺与奪の権を奪われた悲しき俎板の上のカープですが,向こうも向こうで,陸上に上げられ空しく口をパクパクさせてるフィッシュなんでありまして,いったいこれで誰が幸せになるというのか。

そんなこんなで45分,その後,ミニ心理テストがはさまれたり(心理テストがこんなにありがたく感じたことはかつてなかった!),休憩が挟まれたりしながら,ラスト30分は美木良介主演のビデオ鑑賞が行なわれたりしながら,つつがなく2時間が経過していきました。余談ですが,ビデオは飲酒運転者により,NHK朝の連続テレビ小説的な女子高生ヒロインが惨殺されるという悲惨な内容。ヒロインはのっけから将来の夢を語ったりするなどの死亡フラグ立ちまくりで,死んだときはやっぱり死んだという感じでしたが,そんななか美木良介の存在感は際立ってましたね。

などとどうでもいい感想を抱きつつ,落語調の違反者講習も終了,無事,免許更新と相成ったわけですが,さて,きっと最初は講師の方も,ギスギスしがちな講習を落語調で楽しめるものにしようとそういう親心というかサービス精神というかそういうものがあったはずだと思うんですよ。でも次第に,オーディエンスの無反応を見るにつけ,学習性絶望というかね,こいつらに反応を期待してもしょうがない,という境地に至ってしまったのかもしれない(もしかしたらいつもはバカウケなのかもしれないけれど)。そんな初心の残骸をまざまざと見せ付けられ,これからもこの悲劇が繰り返されるのかと思うと,というか,3年後もこの講師だったらどうしようと思ったわけですよ。

ということで,今日,私が何を言いたいかといいますと,そう,その講師の姿,それはブログで独り善がりな文章を面白いと思って書いてるお前の姿だ!

…………なんていう本質的な議論はどうぞ何卒よろしくプリーズさておいていただきまして,まあ,もし,その講師の立場に自分が置かれたとしたら,今日の講習をどんな風に反省するだろう,ということで,まあ失敗ですよね,その失敗を失敗と認めて,いかに改善するか,ですが,失敗を失敗と認めるのは自尊心が傷つきますから,あのブドウはスッパイさ,よろしく,失敗を合理化しちゃいたくなりますけど,それではオーディエンスのハートはいつまでたってもつかめないわけですよ。


心理療法・失敗例の臨床研究―その予防と治療関係の立て直し方心理療法・失敗例の臨床研究―その予防と治療関係の立て直し方
岩壁 茂

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で,これなんですが,ロテ職人さんのところでかなり売れているようですが,僕も言っておきたいですが,これはメッタに出る本ではないです。真の意味で,オリジナル,です。先日やや皮肉交じりに「世界を変えるかもしれない」本としましたが,それは正直悔しかったわけ,で,す,YO!

まあすばらしいのは,これが単著すなわちひとりの著者によるもの,ということでして,さらに事例性を前面に押し出したものというよりも,もちろん事例は出てきますけど,なんていうんでしょうかね,失敗を研究する,という側面をキッチリ押し出している点もすばらしいように思います。

浜の真砂は尽きるとも世に失敗の種は尽きまじ,でして,失敗はたくさんあるはずなのに,性質上,蓄積されないし,蓄積されたとしても,個別分断的な知にとどまり,普遍的かつ集合的な普遍知になっていないわけですね。もったいない,もったいない,もったいないことしてないかい?

まあこうなってくると,逆コクランライブラリー,すなわち,治療逆効果のメタ分析データベース,なんて夢想してしまいますけど(あるいは心理療法その基礎なるもの~失敗ver.),ないんでしょうね。なんかそっちのほうが役に立ちそうな気がしますけどね。でも心理版ヒヤリ・ハットくらいはあってもいいと思います。まあ,僕が知らないだけで,あるのかもしれないけれど。

なんか,カリスマ的な臨床家がしばしば「治療の場で,いかに何もしないか」みたいな,禅問答的なことをおっしゃってたりしますが,これだって,治療逆効果要因を排除し,自然治癒力を引き出す,みたいな意味なのかなと,テキトウなことを思ったりもしますね。

失敗に関する成書はいくつかあって,岩壁先生がおっしゃるとおり,精神分析系が多いですね。単著だと,



ある精神分析家の告白ある精神分析家の告白
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ご存知ストリーンさんですね。ものすごくブッチャけてて,おもろいです。



あやまちから学ぶ―精神分析と心理療法での教義を超えてあやまちから学ぶ―精神分析と心理療法での教義を超えて
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カリスマPSWから分析家になった気鋭の論客ケースメントさんも「ドグマを超えろ」とおっしゃってますね。



逆転移〈3〉 (分裂病精神療法論集)逆転移〈3〉 (分裂病精神療法論集)
ハロルド・F. サールズ Harold F. Searles 佐藤 健司

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1巻2巻と合わせて。ストリーンに負けず劣らずのBUD-CHAKE野郎サールズさんです。



ころんで学ぶ心理療法―初心者のための逆転移入門ころんで学ぶ心理療法―初心者のための逆転移入門
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ころんでしっかり学べば本まで出せちゃう。しかもそれが,心理療法入門にもなっているという素晴らしさ。ご存知の良書です。


以下は編集もの。編集ものの利点は,いろんな人の失敗が読めるというとこですかね。



失敗から学ぶ心理臨床失敗から学ぶ心理臨床
丹治 光浩

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学派問わない日本人の失敗例満載ということでオススメです。



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白石 大介 立木 茂雄

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これもケース集ですね。



ありがちな心理療法の失敗例101―もしかして、逆転移?ありがちな心理療法の失敗例101―もしかして、逆転移?
Gerald Schoenewolf Richard C. Robertiello リチャード・C. ロバーティエロ

星和書店 1995-09
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翻訳ですけど,たぶん数としてはこれが一番多いです。一将功なりて万骨枯る,ウームです。


あとは余談ですが,精神分析は,転移・逆転移,という失敗をとらまえるための概念的枠組みをいち早く取り入れていたため,失敗に関する考察においては,一歩先んじてる印象があり,間主観というか関係理論というかそこらへんの理論においては,逆転移は防ぐものではなく,逆転移をどう治療に利用するか,が眼目になるという観点を生み出すに至っていますが,当たり前ですけど,治療に生きる失敗もあれば生きない失敗もあるわけで,それ以前に,そもそも治療的な成功とはなんなんだろうか,とか思ったりしますけど(主訴の改善とか症状の喪失なんて言わないでくださいね),成功であれ失敗であれ,それがセラピスト本位にしか捉えられないなら,クライエント側の人間としては悲しくなってしまうわけで,セラピストがセラピストとして成長するために,クライエントはいるんじゃないのですよね。

前にある年配の臨床家が,自分が治療に携わりながら命を落としてしまった患者さんのことをいつも思い出す,と著作に書かれていましたが,重みを忘れることなくしかし押しつぶされることもなく受け止める度量と真摯な姿勢に敬服しつつ,上っ面の言葉でない,責任と覚悟,その壮絶さたるやおいそれと計り知れるものではないですね。


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