高額所得の有名芸人の親御さんが、生活保護を受給していると、
ネット上で4月以降報道され、民法上の「扶養義務」が問題になりました。
どこから、そのようなプライベートなことが報道の発端になったのか知りませんが、
いつのまにか「生活保護不正受給」と、ツイッター等でも批判が集中しました。
国会議員が、厚労省の担当課長に調査を依頼したと、ブログでアピールしたり、
別の議員が、国会で取り上げ質問するとか、マスコミを通じて批判しました。
5月には、地上波のテレビ番組でも「不正受給疑惑」が取り上げられるようになり、
5月末には、さらに別の芸人の親御さんの生保受給も報道され、拡大しました。
挙げ句の果てに厚労大臣が、制度見直しを示唆するなどエスカレートしていきます。
「社会保障と税の一体改革」の裏側で、スケープゴート化していったように思えます。
これらの一連の動きに対して、生活保護問題全国対策会議等が緊急声明を発表し、
制度の理解を欠いた、安直な生活保護の切り詰め論議に警鐘を鳴らしています。
加熱する報道を通して、「不正受給疑惑」が際限なく拡がっていきました。
この問題は、PSWが関与するクライエントたちの「後ろめたさ」に飛び火しています。
現に生保を受給している方々が、影響を受けて不利益を被っていないか、懸念されました。
PSW協会の理事や支部を中心に、電話聴き取りによる実態把握が取り組まれました。
去る7月2日、社団法人日本精神保健福祉士協会は「見解」を公表しました。
生活保護抑制の風潮に抗し、現行「生活保護制度の堅持」を訴えるものです。
高額所得の人気お笑い芸人だから、今回の問題は耳目を集め批判も集中したのでしょう。
でも、制度が締め付けられたら、不利益を一番被るのは、無名の市井に生きる市民です。
一芸人の芸能ネタが、この国のセーフティネットの根幹を揺るがすようになるとは…。
改めて、ネット社会でつぶやく「民意」「世論」の威力と怖さを感じます。
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2012年7月2日
生活保護制度を巡るこの間の動向に関する見解
―国民の健康で文化的な最低限度の生活を保障する生活保護制度の堅持を―
社団法人日本精神保健福祉士協会
会長 柏木一惠
本協会は精神障害者の権利擁護と社会的復権、および国民の精神保健福祉の向上に携わる専門職能団体として、昨今の生活保護制度を巡る一連の動向に対し、以下に問題点の指摘を含め見解を表明する。
生活保護に関しては、昨年度から社会保障審議会などで、生活保護受給者および保護費急増を背景とした制度の見直し等に係る検討が行われている。
その最中で国会における議員の質疑応答に端を発し浮上した有名芸人の母親の生活保護受給に対し、当初マスコミが行った制度誤認を含む過熱報道により、生活保護制度や受給者全般に問題があるかの如き世論が形成されつつある。
さらには、小宮山厚生労働大臣が議論の手続きも経ずに、扶養問題を含めた制度見直しに言及するなど、被保護・要保護者一人ひとりの尊厳を脅かし、当然として受給する権利を有する方々および現在受給している方々に深刻な影響をおよぼす事態が生じている。
本協会はこれらのことを憂慮し、本年5月より構成員に呼びかけ、各地での生活保護に関し一連の報道等による影響に関する情報を収集中である。
現段階では、自治体による明らかな引き締め策は見られないものの、被保護者の方々の中には不安の増大や、いわれのない罪悪感を覚え閉じこもりがちになる等の影響が出ていることが確認されている。
今後も引き続き情報集約に努め、生活保護制度の活用や制度上の支援が必要な方々への更なる支援の充実化を求め、改めて具体的な提言等を行う予定である。
現段階で、本協会が特に指摘したい問題点は、以下の3点である。
1.2007 年北海道滝川市における不正受給事件を契機に、厚生労働省の通知により、被保護者が通院医療機関の変更や移送費の制限を迫られたことは記憶に新しい。
精神障害のある方の多くは、医療関係者との信頼関係の元に通院を継続することが安定した地域生活を送る上で極めて重要であるにもかかわらず、当時、必要な移送費が支給されなかった事実を受け、本協会は要望書を提出した経過がある。
この時、厚生労働省は通知を出し直した経緯もある。
今回もきわめて稀でかつ法律上では不正受給とは言えない事例を一般化し、生活保護の抑制を図るという構図が垣間見え、障害のある方々を支援する専門職の団体として、この国の福祉のありように対する危機感を抱かざるをえない。
2.我が国においては、憲法第25 条で健康で文化的な最低限度の生活を送る権利が一人ひとりの国民に認められているにもかかわらず、最後のセーフティネットである生活保護制度すら利用できずに、餓死や孤立死などの事態を引き起こしている。
また生活保護受給の背景には、何よりも長引く景気の低迷、そして雇用の不安定や年金、医療など他の社会保障制度の脆弱さがあることも明らかである。
生活保護制度のみをことさら強く問題視し、生活保護基準引き下げの根拠に社会保障制度として位置付けの異なる年金制度の基準額との比較を持ちだす等、暮らしや生命や権利を護るための議論ではなく、専ら費用抑制の観点から安易な議論がなされていることに強く警鐘を鳴らしたい。
3.特に障害のある成人にとって、親や家族から独立して生活するための社会的基盤となる所得保障制度の確立は長年の要望課題である。
しかし、無年金問題等の未解決課題を含め未だ整備されないままに経過している。
加えて、我が国は家族構造が大きく変化している現代にあって尚、家族内扶養の価値観や道徳観が極めて重い社会であり、社会的ケアに委ねられないまま、障害のある人とその家族が追い詰められた結果の不幸な事件は後を絶たない。
国が果たすべき公的責任による国民の生活を守る権利としての社会保障を家族に負わせ続けることは、障害のある人たちの権利保障の運動にも逆行するものであり、断じて許されない。
なお、国においては国民の生活を第一に考え、社会保障を確実なものとするための政治および政権運営を期待する。
また、報道関係各位には正確な知識と情報に基づく報道をお願いしたい。
以上
【問い合わせ】
社団法人日本精神保健福祉士協会(大塚、木太)
〒160-0015 東京都新宿区大京町23-3
四谷オーキッドビル7F
TEL.03-5366-3152 FAX.03-5366-2993
E-mail:office@japsw.or.jp
※画像は高尾両界橋近くのトンネル。
本文の内容とは一切関係ありません。
来年度予算では、生活保護費予算を減額するという報道がされていました。確かに、大きな金額かもしれませんが、削ってよいものだとは思いません。確かに、精神科病院に入院している生活保護受給者とそうでない人を比べると、受給者の方が、裕福?であることも、中にはある場合もありますが、これは障害年金に対する収入認定の問題もあり、全く別のことです。
生活保護については、不正受給があった場合、マスコミ等で大きく報道されるため、世間の関心をひいてしまいます。でも、本当に重大なことについては、小さな報道になっています。別に、マスコミ批判をするつもりではありません。
でも、何故か生活保護については、なにか事件があると世間の関心を集めますが、普段はあまろ関心事ではないようです。これは、政府に働きかける団体が組織されていないことも、理由の一つであるかもしれません。
是非、生活保護制度に対して、関心をもっていただき、今回の予算案のあり方が、他にも広がらないように、見守って頂ければありがたいです。
社会福祉士会や介護福祉士会は見解を出していないようでした。
さすがPSW協会は違うなとうれしく思いました。