PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

精神障害をめぐる法制度のゆくえ

2012年07月13日 00時21分10秒 | PSWのお仕事

ひとつの時代に生きていると、その時代の物事の捉え方が当たり前になります。
しかし、少し年代が下ると、かつての常識はどんどん非常識になっていきます。
専門職と自称する人の、物事の捉え方も、どんどん古びたものになっていきます。

かつて、この国に、精神障害をもつ方々が自分の意思で入院する制度はありませんでした。
1987年の精神保健法により「任意入院」ができるまで、すべて強制入院でした。
精神疾患を有する方が、自分で精神病院に入院するなどと、考えられていなかったのです。

実際に「任意入院」制度を導入する際、精神病院の職員がもっとも心配していました。
自分の意思で入院し、自分の意思で退院できる制度なんて作ったら、
患者たちはみんな離院するか退院して、社会は大混乱に陥ると真面目に語っていました。

結果がどうであったかは、ご存じの通りです。
今や入院患者の3分の2は「任意入院」で、当たり前の入院形態になっています。
必要な時に、病院は患者が自ら使うもの、という意識が当たり前になりつつあります。

時代意識が、その時々の制度を形作っているのは確かです。
一方で、制度がその時々の時代意識を作っているのも確かです。
制度はいったん定着すると、人々の意識を形成し、その時代の「常識」を作ります。

その時代に生きていると、その時の制度が当たり前のものに思われます。
数多の問題が生じていても、制度がそうだから仕方ないと諦めがちになります。
問題意識は徐々に鈍麻し、本来あるべき姿への追求は忘れられがちです。

でも、制度を作り、維持しているのは、その時代の人々です。
法律を新しくするには、政治家や中央官僚の判断が大きく影響しますが、
制度の実体を形成しているのは現場であり、従事者の声が制度を変える力になります。

今ある法律や制度が、絶対的なものではありません。
むしろ、様々な矛盾を抱えた、とても危うい存在です。
歴史を経れば、とんでもない制度の時代だったと笑い草になるかも知れません。

法律は変えられます。
多くの声が挙がれば、制度は変えられます。
意識が制度を変え、制度が新しい意識を形成していきます。

問題は、その変えるべき姿を、人々がきちんと語りイメージできているかということ。
矛盾や問題を語るだけでなく、代わる制度の姿を具体的に示せるかということ。
画餅に帰さない、現実的な未来の姿を、時代のミッションとして描けるかということ。

精神障害にかかわる法制度は、どのように変革していくべきなのか。
今何が一番問題で、どのように制度改革が進もうとしているのか。
今ある精神保健福祉法と障害者自立支援法を、どうしていけばよいのか。

今回、そんなことを考える、雑誌の特集をひとつ組みました。
法律や制度を扱う特集って、どうしても地味で、あまり売れないのですが。
PSWにとってはとても大事な課題だと思うので、ぜひお読み頂ければと思います。


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「精神医療」No.67(第4次)
『精神障害をめぐる法制度のゆくえ~精神保健福祉法、障害者自立支援法』
編集:『精神医療』編集委員会
責任編集:岩尾俊一郎+古屋龍太

◆巻頭言
現実とのせめぎ合いから生みだされる「精神障害と法」の弁証法的関係
岩尾俊一郎

◆特集:精神障害をめぐる法制度のゆくえ~精神保健福祉法、障害者自立支援法◆
○座談会
精神障害法の望まれる姿
池原毅和、石毛子、北野誠一、高木俊介、岩尾俊一郎、古屋龍太

○精神保健福祉法から医療法へ~精神医療改革のために
伊藤哲寛

○精神保健福祉法をどう変えるのか~権利擁護の観点から
竹端寛

○当事者の人権確保の観点から
関口明彦

○これからのためにも、あまり立派でなくても、過去を知る
立岩真也

○精神障害のある人の自己実現が可能な社会をめざして
大塚淳子

○総合福祉法は精神障害をいかに位置づけようとしたのか
三田優子

◆コラム・連載

○視点~29:福島県相双地区における地域精神保健福祉活動の展開
須藤康宏

○〈互酬性・アニミズム・トーテミズム〉3人類の共同性のルーツ 2)アニミズム
森山公夫

○東日本大震災の支援者支援~支援者であり被災者である人達を支えるということ
高橋葉子

○引き抜きにくい釘34:神経症の系譜4
塚本千秋

○雲に梯10:命アルアイヤ
久場政博

◆書評
○『認知症ケアの知好楽~神経心理学からスピリチュアルケアまで』(山崎英樹著)
阿保順子

○『精神科臨床倫理第4版』
(シドニー・ブロック、ステファン・A・グリーン著、水野・藤井・村上・菅原監訳)
浅野弘毅

○『精神医療の光と影』(高木俊介著)
横田泉

◆編集後記
古屋龍太

批評社刊、2012年7月11日発行、定価:1700円+税
ISBN978-4-8265-0562-8 C3047


※上記座談会の出席者の石毛さんの本名は「えいこ」さんで金篇に英語の英と書きます。
 ブログの入力編集画面ではちゃんと表示されているのですが、環境依存文字のようで、
 どうしても上のようになってしまいます。お許しください。
 


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