PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

福祉専門職が仕事を辞める理由

2010年12月01日 16時44分01秒 | PSWのお仕事
昨日(11月30日)、茨城県に行ってきました。
まだ真っ暗な5時に起きて。
朝6時過ぎには家を出て、上野駅からフレッシュひたちに乗って。
前日の寝不足もあり、行き帰りの特急電車は、ほとんど爆睡状態でした。

今回、お邪魔したのは水戸の「水高スクエア」。
国立水戸病院跡地に、北水会グループが建てた、一大医療福祉複合エリアです。
病院から、特養老人ホーム、老健、救護施設、保育園、医療専門学校等が並びます。
さらに、フィットネスクラブから、カフェレストラン、整骨院、薬局、コンビニまで。

茨城県救護施設協議会の研修会にお招き頂きました。
県内施設の職員の方々のほかに、各施設長、県担当者もいらしていました。
テーマは「統合失調症・精神障害者へのかかわり方~『処遇困難』な利用者への接し方」。
午前中、講演をさせてもらって、午後はグループに分かれて演習を行いました。

茨城県内は、精神科への長期在院者が、かなり多い県だそうで。
退院促進・地域移行の流れの中で、救護施設に精神障害の利用者が急増しています。
今回、お邪魔した「救護施設もくせい」も、既に入所者の75%は精神障害の方だとか。
たしかに見学させて頂いても、ほとんどの方が、慢性の統合失調症の方と思われました。



お昼休みに、各施設長の方々とカフェレストランで食事をしました。
ある施設長の方と、職員の職場定着・離職の話になりました。
慣れない精神障害の方への対応で、ストレスフルになってる職員も多いようで。
スタッフ自身のメンタルヘルスも、大きな課題になっているようです。

特に、離職者を通して考えると、職場の人間関係が大きくクローズアップされてきます。
利用者とのかかわりよりも、同僚や上司とのコンフリクト(葛藤・対立)関係です。
仕事は続けたいけれども、あの人の下でやっていくのは、もう無理!という声です。
自身の専門職としてのアイデンティティを賭した、究極の自己選択としての離職です。

大人げないといえば、それまででしょうが。
保健・医療・福祉の世界って、それだけスタッフの人間観・価値観が反映する職場です。
利用者のことや、仕事自体は、決して嫌いではないけれど…。
このままでは、自分がダメになってしまう気がして…、という方も多いように思います。



一昨年末に、厚労省が公表した、就労状況実態調査があります。
全国の社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士登録者を対象としたものです。
未就労の方が全国で15%いる一方で、23%が現在は職場で働いていない人たちです。
調査では「潜在的有資格者」という表現になっています。

現在就労していない有資格者の状況を見ると、
現在働いていない理由として最も多かったが「出産・子育てのため」です。
社会福祉士の46.7%、介護福祉士の 38.1%、精神保健祉士の31.2%にのぼります。
一方で「腰痛等、体調を崩しているため」の割合は、介護福祉士で13%に上っています。

福祉・介護分野への現職復帰の意向を見ると、全体の約7割が戻りたいと回答しています。
その一方で、「戻りたくない」という回答もかなりあります。
社会福祉士の約1割、介護福祉士と精神保健福祉士のそれぞれ約2割にのぼります。
夢や希望を持って職についても、現場の厳しさに懲りてしまう、悲しい現実があります。

今後、福祉・介護分野へ復帰する上で改善してほしいこととして、
最も多かったのは「資格に見合った給与水準に引き上げる」です。
社会福祉士の64.8%、介護福祉士の62.4%、精神保健福祉士の56.2%に上ります。
福祉の仕事への評価を求める気持ちは、すごくよくわかります。

こういった結果から、厚労省社会・援護局の福祉基盤課は、
「キャリアアップの道筋を設けて、意欲のある人を評価する仕組みが必要。
子育て退職の割合が大きいため、仕事と子育てを両立させる仕組みが必要」としています。
ある程度キャリアが形成された人の、職場定着を図る手立てが、やはり必要です。



でも、こういった調査ではオモテに出てこない、もっとネガティブな側面もあります。
職場に蔓延しているコンプライアンス違反や、職員の利用者への人権感覚の乏しさ。
冷静で的確なスーパーバイザーの不在や、コンサルテーションできない職場環境。
そのような環境を反映した、いびつな職場内人間関係で疲弊してしまうスタッフ。

先の施設長さんの施設でも、職場の人間関係が元で、辞めていった方が結構いるそうで。
「できれば施設で定着して欲しいと思うけど、合う合わないってありますからね…」と。
でも、合う合わないで留めるじゃなくて、チームの問題として考えないとね。
仕事の目標を明確にして、チームをコーディネートできる人が求められているのでしょう。

それぞれの現場で、静かに闘っている人がいます。
学校で学んだ理念を、少しでも現場で形にするために。
現場を一気に変える、魔法の杖はどこにも存在しないから。
諦めず、粘り強く、したたかに、自分の現場を大事にしながら。

既にあるものを、変えていくって大変です。
変わることを頑強に拒否する人の方が、どうしても多いですから。
でも、自分自身の現場を少しでも変えていくことからしか、状況は変わらない。
日本の精神科医療を変えていくのは、そうした小さな営みの積み重ねだと思います。



※画像は、上野駅ホームの「フレッシュひたち」。


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8 コメント

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そうですね。。。 (fufu)
2010-12-01 22:42:45
職場定着。ほんとにそのとおりだと思います。福祉の仕事をしていて「キツイなぁ」と思うのは、仕事が忙しいときや問題を起こされた時などもそうですが、何よりも職場の人間関係が上手くいかない時。考えが合わない時。忙しくてもお互いが分かり合えていい人間関係が保たれていると、忙しさって何とかやり過ごせるように思います。
私も結局それで仕事を辞めました。自分の勤務先の体制ややり方が、どうも「違うなぁ」と感じていて・・・。
でも私は知的障がいの入所施設だったので、「辞めないぞ」と思っていました。だって入所施設って現実的には出て行くのは難しい。特に知的障がいがあると意思表明が苦手ですから、保護者と呼ばれる方々が「この子は連れて帰ります!」くらいの勢いがないと、自身の意思で出て行くことはできません。
だから私は「この人たちが出て行けないのなら、私たちが施設を(素敵な場所にはならないけれど、ここでの生活も悪くないなと感じてもらえる施設に)変えないと」と思っていました。
でも大きな海に簡単にうねりを起こせるわけもなく、結局辞めました。
でもでも、せめてもと思い今もこの仕事は続けています。
自分の嫌いな勉強を自分に課して、その上で場所は変わりましたが、何とかまたこの仕事を続けています。
でもでもでも、今もその頃の人間関係は役に立っています。入所施設での十数年の期間でお世話になった方々に、今も公私共にお世話になってます。だから、頑張っていれば少数でも仲間はできるということなのでしょうね。
どんなにひどい職場でも全員が全員悪いわけではないし。悪いと思う人も、見方をかえればいいところもあるわけで、それが意外と自分に欠けている部分だったりもする。。。
何だか自分でも言っていることが訳がわからなくなりましたが、いろんな人がいることをみんなで認め合えば、お互いを尊重しながら議論ができる。ケンカではなく議論がね。
私はまだまだ未熟なので、上司の言動に腹が立ったり、カチンときたりしていますが、いろんな人のいろんな考えを認めて受け止めて共感できる、そんな人になりたいなぁと、心の大きな人間になりたいなぁと思ってしまう今日この頃。。。
でも給与水準も上げて欲しいですね。お金は一番大事だとは思わないけど、お金の豊かさと心の豊かさの両方が必要なのは事実です。
貧困は心にも身体にも影響します。貧困は経済面だけでは図れませんからね。
今の仕事をしていて、つくづく貧困について考えさせられます。いろんな貧困と言うことを。
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まさに (通りすがりの者)
2010-12-03 11:15:35
まさに、おっしゃるとおりで、あたしの大切な友人がその真っ只中です。
上しか見ていない上司と仕事したくない部下との間に挟まり、志高く、現場を大切にする友が疲労困憊でその子がつぶれそうなんです。
なんと言って元気付けてあげたらいいのか。。
ただ、自分はお酒を飲みながら、おいしいものをたらふく食べさせてお腹を満たし、話を聞くことしかできません。
しかも、遠く離れているので、いつでも顔を見て話すことができる状態ではないのです。
先生のような方と出会えたら彼女はもっと勇気が湧いて元気になれるのでしょうね。
よきアドバイスがあれば、お聞かせくださいますか?
先生もお忙しいでしょうから、お時間が少しできたときにでもお願いします。
ゆっくり待ってますので。
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辞めてしまうのと辞めたい気持ち (詠み人知らず)
2010-12-05 23:50:46
龍龍先生
はじめまして。お初にお目にかかります。といってもご高名な先生なのでこちらは一方的には存じております。

ブログを読んでいつもいろんなことをかんがえさせられております。

PSWだけでなく福祉職は定着するのが大変です。実際自分も2回転職しております。
1回は職場の人間関係でした。

以前辞めたくなる気持ちはどんな困難か、というアンケートをとりました。
その中では「クライエントに負のエネルギーを向けられること」が最も多かった答えでした。
けれど、辞めると決断するのと辞めたいと思うこととの違いもあると考えておりました。
今回のブログを読んで「辞める決断をする」ことは職場の人間関係によるところは大きいな、と改めて思いました。

私の周囲の病院でもどちらも素晴らしいワーカーさんなのにやり方の違いや考え方のちょっとした行き違いから話もしないようになってしまっている相談室があります。

どちらかが辞めてしまわないとこの関係は修復できないのだろうか?と思うようなところです。

こういう状況でも彼らがやっていけるのは日々のクライエントとの関わりがあるから。ワーカーが辞めずにいられるのにはやっぱり利用者さんの力もあるのだなあ、とも思っています。

周囲にいるワーカーもやはり支えになれると思います。
こういうことををうまく活かしていく場としての職場、研修、協会、資格を作っていくことも必要。
ワーカーが成熟した職種になるにはまだまだいろいろな試練がありますね。

昔から言われている身近でしかも大切にしないといけないテーマだと思っています。
地道にがんばっていかなければと思います。
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fufuさんへ (龍龍)
2010-12-25 15:19:55
職場定着って、大きな問題ですよね。
当事者本人にとっても、同僚にとっても、組織にとっても、利用者にとっても。
でも、記事にも書いたけど、仕事そのもの、ユーザーとのかかわりで「もうイヤだ。ダメだ。続けられない」という人は少ないのでは?と思います。
それは、自分が続けてこられたからかも知れないけど。
すぐ辞める人もいるし、それは本当に「ダメだ。自分には合わない」と思うのかも知れませんけど。
長年勤めていた人が辞めるって、やはりそれ以外の理由が大きいと思います。
大きいのは、やはり上司との関係。
組織でチームで動いているナースを見ていると、上司とうまくやれないと、求人してる転職先もいくらでもあるので、ほんとにあっさり辞めちゃいますよね?
自分の職場だという意識が希薄と言うより、資格で食べて行くのに職場をいくらでも選べる立場だからでしょう。
ナースほどではないけれど、福祉現場も広く見れば常に求人していて、領域や業務内容を選ばなければ、このご時世でもそれなりに仕事はある。
でも、逆に辞めないのはfufuさんのように「ここで頑張らなきゃ。ここを少しでも変えたい」と思う使命感があるからかも知れないし。
だからこそ、組織として体制や方針が大きく変わると「あ、ついていけない。もういいや」って気持ちにもなるだろうし。
職場の人間関係が上手くいかないって、そういった職業感や専門職としてのアイデンティティ不安も反映しているように思います。
仕事を続けていさえいれば、すべての体験が決して無駄にはならないし、むしろ自身の幅を形成していくことにもなるし。
こだわってやり続けていれば、共感してくれる仲間は必ずいるし、時代の流れと共に増えてくるしね。
すぐに状況が変わらなくても、自分の場所で、自分の仕事を、粘り強く続けて行く事って大事ですよね~。
待遇面の問題はもちろんあるけれど、この仕事を続けてて良かった~って思えれば、一番良いですよね?

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通りすがりの方へ (龍龍)
2010-12-25 15:30:54
返事が遅くなり、すみません。
大切なご友人は、その後どうされましたか?
ちょうど中間管理職の位置なんでしょうか?
職場の中堅って感じですかね?
仕事を一生懸命やり現場を大事にする志高い人ほど、もう疲れてつぶれちゃいそうになりますよね。
まだまだ頑張れる余力があり、周囲を動かしていける力が引き出せそうな人だったら、ガンバレって声かけも有効でしょうが。
何をどう頑張れば良いのかわからないと、本人はツライですよね?
やはり、職場と本人の力量のアセスメントは必要ですね。
器用に立ち回ることができず、本当に燃え尽きてしまいそうな時には、避難させてあげることも必要だと思いますよ。
元気付けてくれる仲間はありがたいし、お酒呑みながら愚痴をこぼしたり聞いてくれる存在は大事ですけど。
その友人の方が、どうしたいのか?それを軸に、何ができるのか具体的に考えないとね…。
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詠み人知らずさんへ (龍龍)
2010-12-25 15:45:11
こんにちは、はじめまして。
「高名な先生」ですか?
「悪名高き」でなければ良いのですが(笑)

福祉職の職場定着アンケートを実施されたということでしょうか?
「辞めたくなる気持ち」って多分ストレスフルな時ですよね?
「クライエントに負のエネルギーを向けられること」は確かにめげますね。
僕はPSWなので精神科でしたけど、やはりアグレッシブな方と接することも多くて。
しかも精神科は、自ら援助を求めて来たのではなく、不本意ながら拒否していても入院になった方や、病状不安定な方が来るのが当たり前の職場だったので。
それなりにストレスフルではありました。
けれど、辞めると決断するのには、別のファクターがやはりあるのだと思います。
職場の人間関係が最悪って、それ自体出勤拒否したくなるくらいストレスフルですよね。
どちらかが辞めるかみたいな、生死を賭した闘争関係に発展する事もあります。
利用者・患者さんとの関係の比じゃないです。
対人援助職ゆえに、抜き差しならない関係になっちゃう傾向はあると思います。
また、職場の人間関係もさることながら、自分がその職場にいる意味が見出せないと言う人も多いのではないでしょうか?
それでも辞めないとすれば、それは目の前の利用者さんの力でしょうね。
常に僕らは、利用者さんにエンパワーされながら仕事をしてる気がします。
詠み人知らずさんも、きっとそうですよね?(笑)
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人を助けるのはやっぱり人♪ (通りすがりの者)
2010-12-28 13:21:25
忙しい中、ご回答いただき、ありがとうございました。
おかげさまで、先日その彼女と直接会い、お酒を飲みながら話すことができ、さらに、長年彼女に会わせたかった私の師に時間を割いてもらい、彼女のカウンセリング及び、背中を優しくかつ力強く押してもらうことができました。

やはり、人は人と助け合いながら、導きあいながら、人との係わり合いの中で生きて活かされていくのだなって思いました。

このようなブログをここに開設して下さった龍龍先生に感謝申し上げますとともに、先生のご健康とご多幸と益々のご活躍をお祈り申し上げます。


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追伸 (通りすがりの者)
2010-12-28 13:24:52
「その友人の方が、どうしたいのか?それを軸に」

当たり前のことなのに、それを忘れていたような気がします。
ハっ!としました。
まさに、おっしゃるとおりです。
なんか、目の前がぱっ☆と明るくなった気がします。
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