PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

『精神医療改革事典』の紹介

2021年07月01日 05時25分02秒 | 出版案内

今日は『精神医療改革事典』の紹介をさせてください。

雑誌の「精神医療」第4次100号記念総特集として、編集されたものです。

 

従来の精神医学系の辞典とは、大きく性格と構成が異なります。

精神疾患や診断・治療法に関わることは、ほとんど取り上げられていません。

「精神医学」という学問について、解説する辞典ではないからです。

「精神医療」という臨床実践の場で、語られてきた言葉を集めています。

 

専門職が、学会や協会で激しく議論してきた事柄が、取り上げられています。

歴史の暗部ともいえる、精神科病院の不祥事事件等も、多く取り上げています。

立場によって、今も歴史的な評価が割れる政治的な事柄も、収載するようにしました。

一貫しているのは、精神医療は極めて社会的な出来事であるという視点でしょう。

 

ここに収載されている言葉は、今日までの日本の精神医療のリアルを映す鏡でもあります。

多くの人が忘れ去り、語り継がれてもいない、過去の出来事もありますが。

一方で、現在に至るまで何も変わっていない事柄も、たくさん含まれています。

そして、もしかすると未来に至るまで、この国で残り続ける問題も含まれています。

 

そういった意味では、これは「精神医療未改革事典」なのかも知れません。

もちろん、その時々に「改革」を目指す試みは重ねられてきました。

その時代の限界はあったにせよ、それぞれの現場で静かな戦いが繰り広げられてきました。

なんとか精神医療を変えようと、時代状況と抗い続けた人びとの記録とも言えそうです。

 

この本は、昔も今も精神医療改革を追求してきた、62名の執筆陣によって書かれました。

「あ:ICJ勧告」に始まり、「わ:Y問題」に終わる、全268項目。

誌面の都合から、うち79は参照項目とし、解説は189項目に絞らざるを得ませんでした。

割愛せざるを得なかった項目も多々ありますが、およそ類書の無い事典にはなりました。

 

僕が執筆させていただいた項目は、以下の15項目です。

①岩倉病院問題

②クラーク勧告

③クリティカルパス

④国立犀潟病院問題

⑤障害者総合支援法

⑥精神科医全国共闘会議(プシ共闘)

⑦精神科病棟転換型居住系施設

⑧精神障害者福祉法

⑨精神保健福祉士(法)

⑩全国精神障害者家族会連合会(全家連)

⑪多機能型精神科診療所

⑫地域移行支援

⑬日本病院・地域精神医学会

⑭ピアサポート

⑮保護者制度

 

上記の中には、世代的にいうと、僕が書くべきではなかった項目も含まれています。

本来は、その出来事にリアルに関わっていた方に、執筆いただければ良かったのですが。

精神医療改革運動を牽引しながら、すでに鬼籍に入った方も多く、果たせませんでした。

執筆を辞退される方もあり、力不足は承知の上で書かざるを得なかった項目もあります。

その事柄をその時代に担っていた方々からすれば、苦笑・失笑ものの記述でしょうが。

その点は、浅学非才の若輩の管見をご海容いただくしかない心境です。

 

現に精神医療に関わる方は、どれくらいの項目をリアルタイムでご存じでしょうか?

ほとんどの項目をリアルに体験している方は、もう古希を超えている方々でしょう。

いわゆる「団塊の世代」と呼ばれる、1947年~1949年生まれの70代の方々ですね。

還暦過ぎの60代の方でも、「聞いたことはある」範囲のことも多いかも知れません。

ましてや50代の方々は、よほど関心が無いと、知らないことの方が多いでしょうね。

40代以下の方々は、「初めて聞いた」ということが圧倒的に多いのではないでしょうか。

 

精神保健福祉士を目指す学生は、精神医療史の勉強も一応してきていると思います。

下記の用語のうち、どれだけ知っているでしょうか?

たぶん、現在の法律に載っている制度やサービスの用語は、目にしているでしょうが。

まじめに受験勉強をしていても、およそ聞いたこともない事柄も多いでしょう。

国家試験では取り上げられない、教科書にも載らない、歴史的な事柄なので当たり前です。

それだけ、国家が必要とする専門職の知識は、保守に偏重しているということですね。

でも本当は、未来を担う若い世代にこそ、知っておいてほしい事実ではあります。

 

「温故知新」の言葉通り、古いものの中に、新しい知見が秘められていることがあります。

歴史を軽んじ笑う者は、結局同じような過ちを繰り返すことにもなるでしょう。

歴史から「何をしなければいけないのか」を考え具体化を図ることも大事でしょうが。

少なくとも、「何をしてはいけないのか」を歴史から学ぶことが大切でしょう。

 

綺麗事だけでは済まない、この国の精神医療の歴史的経緯と現実を、まずは知るために。

改革が志向されながらも、未解決のまま放置されている事柄と課題を、押さえるために。

そして、現行法に縛られない発想で、精神医療の抜本的変革の方途を、考えるために。

ぜひ手に取って、どこからでもいいから、読んでみて欲しい、1冊です。

 

『精神医療改革事典』収載項目(五十音順)

※以下の収載項目のうち「⇒」が付くものは、参照先項目を示す。

 

ICJ(国際法律家委員会)勧告

ICD⇒操作的診断基準

赤堀裁判⇒島田事件

赤レンガ⇒東京大学精神科医師連合

アウトリーチ⇒ACT

ACT

アサイラム(asylum)

アドボケイト

Eクリニック問題⇒多機能型精神科診療所

医局解体闘争

池田小学校事件

石巻事件⇒少年法

いじめ

移送制度

イソミタールインタビュー⇒島田事件

イタリア精神科医療改革

一般入院⇒自由入院

医療観察法⇒心神喪失者等医療観察法

医療法施行規則⇒施設外収容禁止条項

医療法特例

医療保護入院

岩倉病院問題

インシュリンショック療法

インスティチューショナリズム

院内公衆電話⇒行動制限

インフォームド・コンセント

宇都宮病院問題

うつ病

臺(うてな)人体実験

SST

大阪教育大学附属池田小学校事件⇒池田小学校事件

大阪精神医療人権センター

オープンダイアローグ

オープンドア方式⇒開放化運動

オレム・アンダーウッド・モデル

オレム看護論⇒オレム・アンダーウッド・モデル

介護保険

開放化運動

開放療法⇒開放化運動

解離

鍵と鉄格子

画一処遇⇒開放化運動

隔離

学級崩壊

学校崩壊⇒学級崩壊

金沢学会

髪の花

烏山病院問題⇒生活療法

仮退院⇒精神衛生法・精神保健法・精神保健福祉法

看護師

患者クラブ活動

患者使役

岐阜大学胎児人体実験

境界例

共同作業所

京都大学精神科評議会

薬漬け⇒多剤処方

クラーク勧告

クリティカルパス

クロザピン

経済措置

K氏問題⇒岩倉病院問題

刑法改「正」・保安処分に反対する百人委員会⇒保安処分

欠格条項

ケネディ教書

権限委譲(県から市町村)

向精神薬

行動制限

公認心理師法

国際法律家委員会勧告⇒ICJ勧告

国民優生法

国立犀潟病院問題

国連ケア原則(「精神病者の保護及び精神保健ケアの改善の

ための原則」)

こころのケアチーム⇒災害精神医療・DPAT

5疾病・5事業

個人情報保護法

個別看護

コメディカル

災害精神医療

相模原事件

作業療法

作業療法士⇒作業療法

三枚橋病院

敷地内グループホーム⇒病棟転換型居住系施設

死刑制度

自己決定権

自殺

自殺予防総合対策⇒自殺

施設外収容禁止条項

施設コンフリクト⇒施設等建設反対運動

施設症⇒インスティチューソナリズム

施設等建設反対運動

私宅監置

自動車運転

自閉スペクトラム症⇒発達障害

島田事件

社会生活技能訓練⇒SST

社会的入院

十全会病院⇒精神科病院不祥事

重度かつ慢性

自由入院

就労支援

就労移行支援⇒就労支援

就労継続支援⇒就労支援

就労定着支援⇒就労支援

障害構造モデル⇒障害構造論

障害構造論

障害者基本法

障害者虐待防止法

障害者権利条約

障害者自立支援法⇒障害者総合支援法

障害者総合支援法

少年法

処遇困難者専門病棟

自立支援医療(精神通院医療)

新規抗精神病薬⇒向精神薬

新宿バス放火事件⇒保安処分

心神喪失者等医療観察法

身体拘束

人体実験

新谷訴訟⇒自動車運転

心理教育(psychoeducation)

診療看護師⇒看護師

診療報酬

スーパー救急

ストレスチェック制度

生活療法

生活臨床

精神医療国家賠償請求訴訟

精神医療人権センター

精神医療審査会

精神衛生実態調査

精神衛生法(体制)

精神科医全国共闘会議

精神科看護

精神科救急⇒スーパー救急

精神科デイケア

精神科特例⇒医療法特例

精神科七者懇談会

精神科認定看護師⇒精神科看護

精神科病院情報公開―630調査を中心に

精神科病院不祥事

精神科病棟転換型居住系施設

精神看護学⇒精神科看護

精神看護専門看護師

精神鑑定

精神外科

精神CNS⇒精神看護専門看護師

精神障害者権利主張センター・絆⇒精神障害者運動

精神障害者社会復帰施設(法定)

精神障害者福祉法

精神障害者保健福祉手帳

精神病質(psychopathy, psychopathic personality)

精神分裂病呼称変更

精神保健指定医

精神保健従事者団体懇談会

精神保健福祉士

精神保健福祉法

精神保健法

精神療養病棟

成年後見制度

説明と同意⇒インフォームド・コンセント

1968年革命

全国学園闘争

全国精神障害者家族会連合会

全国精神障害者地域生活支援協議会(ami)

全国「精神病」者集団⇒日本の精神障害者運動

全国青年医師連合

全国大学医学部医局解体闘争⇒医局解体闘争

操作的診断基準

相談支援専門員

措置入院

退院後生活環境相談員

退院促進

代弁者制度⇒アドボケイト

多機能型精神科診療所

多剤処方

脱施設化

地域移行支援

地域医療計画

地域精神医学会

地域包括ケアシステム

地域保健法

チーム医療(の推進に関する検討会議)

中間施設

長期在院

治療共同体

治療抵抗性⇒クロザピン、重度かつ慢性

通院医療費公費負担制度⇒自立支援医療

通信面会の自由⇒行動制限

DSM⇒操作的診断基準

DPAT(「こころのケアチーム」も含む)

鉄格子⇒鍵と鉄格子

電気けいれん療法(ECT)⇒電撃療法

電撃療法

電子カルテ

同意入院

東京地業研

東京都精神医療人権センター

登校拒否

当事者活動⇒ピアサポート

東大精神科医師連合

東北精神科医療従事者交流集会

特定行為研修制度

トリエステ⇒イタリア精神医療改革

日本児童青年精神医学会

日本精神科看護協会⇒精神科看護

日本精神科病院協会

日本精神神経学会

日本精神神経学会専門医

日本精神神経科診療所協会

日本精神病理学会

日本精神病理・精神療法学会⇒日本精神病理学会

日本の精神障害者運動

日本病院・地域精神医学会

日本臨床心理学会

任意入院⇒精神保健法

認知症

認知症呼称変更⇒認知症

脳生検⇒台人体実験

ノーマライゼーション

野田事件

パーソナリティ障害⇒精神病質

バザーリア法⇒イタリア精神医療改革

パターナリズム

発達障害

発達障害者支援法⇒発達障害

バンクーバーの地域精神医療と福祉

阪神淡路大震災

反精神医学

ピアサポート

ピアスタッフ⇒ピアサポート

東日本大震災と精神保健活動

ひきこもり

病棟転換型居住系施設⇒精神科病棟転換型居住系施設

貧困

不登校⇒登校拒否

べてるの家

ベルギー精神医療改革

保安処分

包括的暴力防止プログラム(CVPPP)

訪問看護

ボーダーライン⇒境界例

北全病院事件

北陽病院事件

保健師助産師看護師

保健所法改正⇒地域保健法

保護義務者⇒保護者制度

保護室

保護者制度

ホスピタリズム⇒インスティチューショナリズム

母体保護法

みちのくフォーラム⇒東北精神科医療従事者交流集会

無痙攣電撃療法⇒電撃療法

無認可共同作業所⇒共同作業所

やどかりの里

大和川病院事件

優生保護法

抑制⇒身体拘束

ライシャワー事件

リーガルモデルとメディカルモデル

臨床心理士⇒公認心理師法

労働安全衛生法⇒ストレスチェック制度

630患者調査⇒精神科病院情報公開

ロボトミー⇒精神外科

ワイアット裁判

Y問題

 

『精神医療100号:精神医療改革事典』

編集:第4次「精神医療」編集委員会

2020年12月25日、批評社より刊行

定価1,700円+税、156頁

ISBN:978-4-8265-0719-6