Life in Japan blog (旧 サッカー評 by ぷりりん)

日本に暮らす昭和生まれの猫ぷりりんの、そこはかとない時事放談と日記です。政治経済から科学、サッカー、手芸まで

SPEEDIは役に立たなかった?福島第1原発事故

2013年07月19日 00時30分59秒 | 原発・放射能

私は役に立つデータは出ていただろうと思うのですが、東日本大震災当時、原発事故シミュレーション・システムのSPEEDIは役に立たないデータしか出せなかったから公開しなかったと政府や科学者達は述べて居ます。

果たして彼らの言うことは本当でしょうか。それならば、なぜいの一番に相対的に最も汚染が激しかった地点にピンポイントで測定に行けたのか説明がつかない、などの疑問がインターネット上にもあります。

原子炉が緊急事態になった場合、どのようなシナリオをたどるのか事前にシミュレーションしたソフトも発電所内各所の計測機器にあったそうです。そのシナリオを読み込んだり、事故後もずっと生きていた福一原発敷地内(例えば正門前の線量計など)のデータを入力すれば下記のようなシミュレーション予測はできたのではないかな?と思うのですがいかがでしょうか。


原発のコストを低くするためには補償金額を少なくしなくてはいけない-20mSv/年は住民へのコスト丸投げ

2012年05月27日 21時17分25秒 | 原発・放射能

原発のコストを低くするためには補償金額を少なくしなくてはいけない-20mSv/年は住民へのコスト丸投げ

国策を代行した電力会社、東京電力の過失による福島第1原子力発電所事故(2011年3月11日東日本大震災)で被害を受けている福島県の方達の一部が、日本国政府の 原子力損害賠償紛争審査会によって補償金を打ち切られようとしています。
年間20mSv以下の被曝推定地域(避難指示解除準備地域)からの避難者への補償を2012年8月で打ち切ろうとしているのです。

20mSv/年という原発作業員の線量限度と同じこのとんでもない数字・・・1時間当たり2.28μSv。政府は、この空間線量を参考にして考えてもあまり存在していない数字以下は補償をしなくてよいと考えているようです。

補償金は原発のコストに算入されますので、この金額は少なければ少ない方が良い人達がいます。
その人達が、補償をする線量を決めています。利益相反どころではない状態です。

避難指示解除準備地域とは

原子力災害対策本部資料より

  1. 「帰還困難」
    5年間を経過してもなお、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある地域です。現時点で年間積算線量が50ミリシーベルト超の地域が相当します。
  2. 「居住制限」
    避難指示区域のうち、年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、住民の方の被ばく線量を低減する観点から、引き続き避難を継続することを求める地域です。
  3. 避難指示解除準備
    避難指示区域のうち、年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であると確認された地域です。
線量限度について

現存被ばく状況にある地域の参考値は1~20mSvですが、年間20mSvの被曝は、通常状態の原子炉作業員等職業人5年間の年当たりの平均被曝線量限度です。放射線感受性が数倍高い乳児や幼児にはリスクが生じかねない値です。
実際の原発作業員の方々の被曝線量は、年間1.4mSvだそうです(1)。
妊娠する可能性のある女性においては、職業人でも5mSv/3ヶ月が限度です。
被曝によるメリットが無い一般公衆の線量限度は通常1mSv/年(補助的に5mSv/年)です(自然放射線や医療放射線は含まず)。

ICRP 111

それ以上の線量限度を事故などで受けてしまう現存被ばく状況を一般公衆が受容する前提条件が国際放射線防護基準ICRPのICRP pub.111和訳(←PDF注意), ICRP pub.111英語(←PDF注意)に明記されています。

(8)汚染地域に居住することを希望した場合、人々にそれを認める決定は当局によって下され、これが事故後の復旧段階の始まりを意味することになる。この決定には、潜在的な放射線の健康影響に対する防護と、しっかりとして生活様式や生計手段を含む持続可能な生活条件を人々に提供できることが暗に含まれている。
(8) The decision to allow people to live in contaminated areas if they wish to do so
is taken by the authorities, and this indicates the beginning of the post-accident rehabilitation
phase. Implicit with this decision is the ability to provide individuals with
protection against the potential health consequences of radiations, and the provision
of sustainable living conditions, including respectable lifestyles and livelihoods.

しかし日本政府は長期汚染地域への居住を解禁するにともない、被災住民の方の中の現存被ばく状態を選択したくない方々の避難費用の補償をしないことによって、経済力が無い住民の自己選択権を事実上剥奪し、過失事故による避難であるにもかかわらず補償をしないと宣言するようです。

また、ICRP111は現存被ばく状況下での居住を希望した場合でも、防護と生活設計を政府が提供できるabilityを持っている事が暗に含まれていると明記されていますが、NHKの番組内でも紹介されたように、除染費用も補償を打ち切る可能性があるようです。(参考:日本政府の決定についての 甲斐先生の資料(PDF))

見直しに伴って1人月10万円の賠償が前倒しで打ち切られるとの警戒感もある。楢葉町の南に位置する広野町は昨年9月、緊急時避難準備区域の指定を解除されたが、町民の95%が町外での避難生活を続けている。しかし、政府は今年8月末の賠償打ち切りを決めた。【図解・社会】福島原発・避難区域再編の現状(2012年5月4日)時事ドットコム

東京電力が不動産などの損害を補償する決定もあるのですが、収入の空白期間ができてしまうと被災者の方の苦痛はより増す方向になりそうです。( 2012年4月25日東京電力プレスリリース)

実測値は正確なのか?

科学者の方々は、ICRPが規制しているその値は体に受けた実測値であると述べているため、実際に体に受けて実証するしか補償をもらえる方法は無いようです。

2012/6/17追記:実測値ではないようです。よく考えればそのはずで、一般市民の体で計測するわけにはいけません。
「公衆構成員の年間実効線量は、1年以内に外部被ばくで受けた実効線量とその年に取り込まれた放射性核種による預託実効線量の合計である。この線量は、職業被ばくのように個人被ばくの直接測定では得られず、主に放流物と環境の測定、習慣に関するデータ及びモデル化により決定される。」ICRP2007年勧告4.4.4.公衆被ばく

ICRPの基準が実測値でも、放射線を避けるため今現在とっている行動パターンは正常なものではないので、正常な生活パターンをとって被曝するであろう線量を客観的に推定して欲しいと思います。

科学者の方はツイッターで、自治体の計測結果を見れば大丈夫と言われます。しかし、プロの保健婦の方達が線量計をつけて実測すると、8mSv/年の高い値が計測されています。24時間外に居た推測値からいえば、12時間外に居た値が観測されたとしています。セシウムのγ線は建物の壁や屋根も越えて来ますし、UNSCER 2000年報告では屋内にいれば0.8の線量になるといいますので、不思議ではありません。

また、ガラス個人線量計は、入射角による計測値の誤差(方向依存性)が生じる性質があります。屋根から、または地面から来るものは低く見積もります。
自治体が算出した値は少し少ないように思うのです。また、子供はなかなか測定の大切さや正確に測る意味を理解しないのではないでしょうか。
さらに、冬の季節の測定は雪が遮蔽するので、原発事故補償の参考値にはなりません。

内部被曝を計測するホールボディーカウンターも、とても限界がある測定方法です。γ線核種には有効ですが、α線、β線核種には不利で、全ての被曝を測定できるわけではありません。また、未知の放射線核種がある場合は計測に非常に時間がかかります。

計測値の客観性と正確性を上げるにはどうしたら良いのでしょうか。私は複数機関の同時検査が不可欠であると思っています。

追記:政府の対応に不信感を持たれる方のご意見、何件かぐぐれました。


放射線リスクを安全よりに選択しようとするとなぜか怒られる件

2011年12月17日 01時16分43秒 | 原発・放射能

健康に関するリスクを客観的にとらえて賢く選択する態度が奨励されていますが、私達が発電所事故でもたらされたリスクを客観的に過剰だ、過小だとする適切な指標がまだ存在しないのになぜそう簡単に言えるのか、いまいちよく理解できていません。

不確実な未来の選択において、結果が、死と病含む悪いことも選択の彼方にある場合、かなり安全よりの選択をしたいのはごく普通だと思うのですが、事故の被災者であるのにその気持ちさえ認めてもらえない状態は少し不気味です。

諸説ある中でWHOがチェルノブイリ事故について途中経過を出した結果を標準と考えると、科学者から科学的な指標で判断できるクレバーな人間と認定されるみたいです。
反対に彼等の価値観に逆らうと、非科学的で頭が悪いヒステリーのワーワー教放射脳患者とネット上で揶揄される状態です。

もし40年後まだ生きていたら、彼等の墓石に何を添えている私がいるのか、それは今のところまだわかりません。墓前で彼等の子孫にあったら、私は彼等になんて挨拶するようになるのでしょうか?


放射性物質の汚染はどこまで許容できるのか-放射線の規制値

2011年12月10日 03時02分02秒 | 原発・放射能

 

数々の食品汚染の数値が日々報道されます。粉ミルクの汚染が騒がれましたが、希釈されるために赤ちゃんに害は少ないと考えられています。(記事下部にて前々回のように、粉ミルクを乾燥させる際に外気から混入したとされているセシウム混入を考えてみました。)

北関東で製造する際粉を乾燥させる外気から汚染されたということは、他の製造物に関してもなんらかの可能性があるのではないか、という市民の疑念を容易に想起させています。

経口からの放射線量-ICRPモデル

現在日本の暫定基準値は500ベクレル/kgです。
では仮にその半分以下200ベクレル/kgの食事を毎日1kg(平均は1.7Kg)続けるとどれくらいの摂取になるのでしょうか。

  1. ○モデル:ICRPのコンパートメント・モデル 
  2. ○汚染値:約200ベクレル(1kgあたりセシウム134は100Bq、セシウム137は100Bq)
  3. ○摂取:成人
  4. ◆合計5.41.168mSv/yの内部被曝
    2011/1/4:リンク先のセシウム137大人経口摂取時実効線量係数の元資料にミスプリントがあり訂正

放射性セシウムの動態-チェルノブイリの例

ではモデルに対し、実測体内動態モデルではどのような結果になっているでしょうか。
単純な積算値は均質的なセシウム動態を前提としていますが、体内動態モデルでは生体内では有機的な動きと蓄積をみせます。

ICRP Publication 111のチェルノブイリの例
事故後20年後の汚染地区での日常摂取量は10から20Bqで年間実効線量は0.1mSv程度、なかには情報の乏しい住人もいて100mSv以上を摂取し年間実効線量は1mSvから数mSvに至ると記載されています。(筆者要約)

「図2.2.に、1000Bqのセシウム137を一時的に摂取した場合と、毎日1Bq及び10Bqのセシウム137をそれぞれ1000日間にわたって摂取した場合の全身放射能の変化を記す。同じ総摂取量に対して、期間末期における全身放射能は大きく異なっている。これは、汚染食品を日常的に摂取する場合と断続的に摂取する場合との負荷が本質的に異なることを示している。実際には、汚染地域に居住する人々の場合、全身放射能は食品の出所と食習慣に依存する日常的な摂取と一時的な摂取の組み合わせによってもたらされることになる。(ICRP Publ. 111 日本語版・JRIA暫定翻訳版による)」
(17) Exposure from ingestion of contaminated foodstuffs may result from both chronic and episodic intakes according to the relative importance of locally produced foodstuffs in the diet. As an example, Fig. 2.2 presents the evolution of the wholebody activity associated with an episodic intake of 1000 Bq of 137Cs and with a daily intake of respectively 1 and 10 Bq of 137Cs over 1000 days. For the same total intake, the resulting whole-body activity at the end of the period is significantly different. This illustrates the intrinsically different burden between daily ingestion of contaminated foodstuffs and periodic ingestion. In practice, for people living in contaminated areas, the whole-body activity is resulting from a combination of daily and episodic intakes depending on the origin of foodstuffs and dietary habits.

ICRP Publication 111 Fig.2.2.
Evolution over a pluri-annual period (1000days) of whole-body activity (Bq) associate with an episodic intake of 1000 Bq and daily intake of 1 and 10 Bq of 137Cs.

日本の基準500ベクレル/kgは事故時の飢餓を防ぐための基準ではありますが、だんだん日常に戻るにつれ、慢性摂取へ戻る段階ではこの値はまったく許容できないと思います。
では10ベクレル/Kgならば良いかといえば、核種によりますが上記ICRP111のFig.2.2. の様な慢性状態ではこれも許容できません。
しかしながらこれくらいの低レベルの汚染の計測は極めて困難です。
(セシウム134の半減期は3年ほどなのでかなり状況が違ってくるともいえますが。)

除染をするにも範囲は非常に広大です。しかし厄介なことではありますが食物を収穫しない、居住しないにしても拡散するセシウムはできるだけ早い内に環境から隔離しなければ濃縮や拡散を発生させます。

この費用対効果をどうみるのか。財政難の日本は八方ふさがり状態です。

粉ミルクの汚染のレベル

1日の飲乳量=700ml、1回当たりの粉ミルク28g(スプーン4杯)
28g×3.5杯=98g /1日
98g×365日=35,770g、35Kg/年摂取します。

(汚染があったロットは数日分のロットなので、買いだめ状態でないと一家庭で継続して摂取することはあり得ませんが)高い値のロットでセシウム134は14.3Bq/Kg、セシウム137は16.5Bq/Kgでした(国産メーカー2012.10.22賞味期限分)。

■セシウム134
14.3(Bq)×0.000026(mSv(セシウム134の乳児経口摂取時実効線量
))×35(kg)=0.013013mSv/y

■セシウム137
16.5(Bq)×0.000021(セシウム137の乳児経口摂取時実効線量
))×35(kg)=0.0121275mSv/y
→合計25μSv/y(0.025mSv/y)の内部被曝
(こちらの記事にも計算例があります。 )

 ※2011年12月15日一部訂正 実測→体内動態モデル


放射線リスクはどこまで判明しているのか

2011年12月06日 23時06分48秒 | 原発・放射能

放射線のリスクは疫学という方法で統計的にその影響の度合いの有意さ、を調査しているようです。
原発事故の影響を調べるには、事故発生前のデータと、事故が発生した後のデータを比べて、どれくらい変化したかを調べます。

以前からこの方法の限界が気になっていました。この方法では、

  • 1.数値としてデータ化できるものしか比較できない、つまり不定愁訴や神経系への障害(知能低下など)はほぼ拾えない。
  • 2.医療機関が採取できるデータしか比較できない 健康データのありとあらゆるものを採取することは不可能です。ガンなど統計を取りやすいもの、放射性物質内部被曝においてもその当時の科学で医療機関の対応できる範囲で計測できるものしかデータは採取できない。
  •  3.移住などによりデータ採取地の病院に来院しなくなった人のデータも採取できない。
  •  4.国会質問で有名になった児玉医師の説明にもあるとおり、ガンは数十年潜伏期があるため、事故発生からガン発生までは20~40年以上の時間が必要な上、発症からさらに数年後でないと統計に現れてこない。(チェルノブイリのケースは事故後25年経過)

疫学と時間軸

疫学調査による放射線健康リスク

メディアやプロガーの話題に上る100mSv外部被曝を受けるとガン死亡率が通常の癌死亡率プラス0.5%上昇する、というリスクは全体でどうも大きなウエイトを占めているようですが、一部のリスクである可能性もあるようです。< /br> また、ガンに罹患する率はこれよりは大きく、また、この数字の中には余命やQOLの数値は入ってはいません。

まだ未知な部分があるけれど、他の化学物質と比較して激烈な作用をするというわけでもない。しかし未知な部分がある。念を入れて少ない数値でもきちんと管理しなければいけないもののようです。激烈ではないものでも広く薄く身のすぐまわりに拡散すればやはり良くないですし、かつ管理されていないので局所的な濃縮が起こり看過できないリスクになります(ホットスポット)。

不確実な環境の下に置かれるストレスは事故によってもたらされました。体によくないものがおうちにばらまかれたのならば、本来は事故前の状態に戻してもらわなくてはなりませんしその義務があります。< /br> しかし範囲があまりに広範囲であるため、物理的にとても難しい。発電会社一社では払いきれない金額になるようです。< /br> しかし発電会社は存続するし、ボーナスもでます。国の原子力損害賠償紛争審査会は年末まで1人8万円、子供・妊婦は40万円を賠償するそうです。(合計約2160億円) ・・・・。

事故のリスクは、住民にばかり背負わされるのが現実のようです。 一度事故が起きると、非常に広範囲で色々な産業にコストをかける燃料を使わなくても、形有る物は壊れるのですからもっと人間にとって扱いやすいものを使えばいいと思うのですが。やりきれないです。


放射線障害、内部被曝の基準、1キロ500Bqはちょっと高すぎ?

2011年07月11日 01時57分31秒 | 原発・放射能

※まったく専門外なので、間違った記載がされている可能性があります。ご了承ください。もしお気づきの点があればコメントをいただければ幸いです。

外部被曝について考えたので内部被曝についても考えてみた。

東京都は8日、福島県南相馬市産の牛肉から食品衛生法の暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)の約5倍に当たる2300ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表した。2011年7月9日アサヒ・コムトップ(朝日新聞)

もしこの牛さんを子供が300g食べたらどれくらい内部被曝するか?
セシウムの核種がないのでCs-134とすると、
690Bq×0.000026mSv=0.0179mSv え゛???17μシーベルト??
365日食べ続けると6.54mSvにもなってしまいます・・・

では、基準値の1キロ500ベクレルだとどうなるでしょうか。毎日1キロ食べると、
500Bq×0.000026mSv=0.013mSv 多いです。
365日食べ続けると4.745mSvです。これに呼吸器系から吸い込む吸入の内部被曝や外部被曝も加わります。
空気中の密度の計測も必要です。こうしてみてみると、やはり逃げないといけない地域は広がりそうです。

経口摂取による実効線量及び甲状腺等価線量への換算係数
(線量係数)(mSv/Bq)

核 種乳 児幼 児少 年青 年成 人
Sr-89 3.6X10-5 8.9X10-6 5.8X10-6 4.0X10-6 2.6X10-6
Sr-90 2.3X10-4 4.7X10-5 6.0X10-5 8.0X10-5 2.8X10-5
I-131 1.4X10-4 7.5X10-5 (3.8X10-5) (2.5X10-5) 1.6X10-5
I-133 3.8X10-5 1.7X10-5 (7.2X10-6) (4.9X10-6) 3.1X10-6
Cs-134 2.6X10-5 1.3X10-5 1.4X10-5 1.9X10-5 1.9X10-5
Cs-137 2.1X10-5 9.7X10-6 1.0X10-5 1.3X10-5 1.3X10-5
U-234 3.7X10-4 8.8X10-5 7.4X10-5 7.4X10-5 4.9X10-5
U-235 3.5X10-4 8.5X10-5 7.1X10-5 7.0X10-5 4.7X10-5
U-238 3.4X10-4 8.0X10-5 6.8X10-5 6.7X10-5 4.5X10-5
Pu-238 4.0X10-3 3.1X10-4 2.4X10-4 2.2X10-4 2.3X10-4
Pu-239 4.2X10-3 3.3X10-4 2.7X10-4 2.4X10-4 2.5X10-4
Pu-240 4.2X10-3 3.3X10-4 2.7X10-4 2.4X10-4 2.5X10-4
Pu-241 5.6X10-5 5.5X10-6 5.1X10-6 4.8X10-6 4.8X10-6
Pu-242 4.0X10-3 3.2X10-4 2.6X10-4 2.3X10-4 2.4X10-4
等 価 線 量(甲 状 腺)
核 種乳 児幼 児少 年青 年成 人
I-131 2.8X10-3 1.5X10-3 (7.6X10-4) (5.0X10-4) 3.2X10-4
I-133 7.3X10-4 3.3X10-4 (1.4X10-4) (9.3X10-5) 5.9X10-5

2012/1/4:元資料にミスプリがあり上記表を訂正しました

緊急時における食品の放射能測定マニュアル 平成14年3月36頁
厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課より引用孫引き
(元:「原子力施設の事故等緊急時における食品中の放射能の測定と安全性評価に関する研究(総括研究報告書)」出雲義朗他2000年)


放射線障害はほんとうに煙草やCTと同じリスクとみなして良いのでしょうか?

2011年07月10日 22時22分25秒 | 原発・放射能

※まったく専門外なので、間違った記載がされている可能性があります。ご了承ください。もしお気づきの点があればコメントをいただければ幸いです。

放射線のリスクは煙草以下であるという説がインターネット上に流れていますがそれは本当でしょうか。
例えば、「ALARA思想を疎外する“二元主義”」東大病院放射線科准教授/緩和ケア診療部長中川恵一氏  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/sports/011/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2011/06/28/1306865_3_1.pdf

私は、もしかすると喫煙を過小評価し、さらに現在の北関東地方の空間線量を多少少なめに見ている影響ではないかと感じています。

例:外部被曝積年合計450mSvの場合
放射線被曝により1万人のうち771人がなんらかのガンに罹り179人が亡くなる。
(より多くの空間線量からそのうち1.7μSv/時間を外部被曝と仮定すると15mSv/年の被曝。それを30年受けると、15×30=450mSvとなります。)

■1Svあたり名目リスク係数1715、1万人当たり1,715人が放射線被曝によりなんらかのガンに罹患する。
ICRP 2007年勧告 附属書A http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09020305/02.gif より孫引き

両性平均の名目リスクと健康損害(全年齢集団)
組織名目リスク係数
※1
致死割合
※2
名目リスク
※3
寿命損失
※4
健康被害
※5
相対損害
※6
食道 15 0.93 15.1 0.87 13.1 0.023
 胃 79 0.83 77 0.88 67.7 0.118
結腸 65 0.48 49.4 0.97 47.9 0.083
肝臓 30 0.95 30.2 0.88 26.6 0.046
114 0.89 112.9 0.8 90.3 0.157
0.45 5.1 5.1 0.009
皮膚 1000 0.002 0.007
乳房 112 0.29 61.9 1.29 79.8 0.139
卵巣 11 0.57 8.8 1.12 9.9 0.017
膀胱 43 0.29 23.5 0.71 16.7 0.029
甲状腺 33 0.07 9.8 1.29 12.7 0.022
骨髄 42 0.67 37.7 1.63 61.5 0.107
他固形がん 144 0.49 110.2 1.03 113.5 0.198
生殖腺 20 0.8 19.3 1.32 25.4 0.044
合計 1715   565   574

ICRP:2007年勧告 付属書A
※1:名目リスク係数(がん/万人/Sv)、記号Rで表す。Rは致死がん罹患率と非致死がん罹患率の和。
※2致死割合=がん死亡率/がん罹患率、記号qで表す。このとき、致死がん罹患率「R×q」、非致死がん罹患率「R×(1-q)」となる。
※3名目リスクは、致死がん罹患率に非致死がん罹患率を加える際、がん治療上の痛み、苦痛、悪影響の生活苦(quality of life detriment)に伴う荷重0※4各がん部位の寿命損失の期待年数を全部位についての寿命損失平均期待年数で割った相対的寿命損失。
※5名目リスク(致死相当に換算したがんリスク)と相対的寿命損失を乗じて計算した総合的な健康損害。
※6組織ごとの総合的な健康損害を全組織合計の健康損害で除した相対的健康損害量。の相対的健康損害量の値を丸めた数値が、実効線量計算時の組織加重係数になる。この計算方法の基本は1990年勧告と同じ。

■1Svあたり名目死亡リスク係数398、1万人当たり398人が放射線被曝により亡くなる。
ICRP Publication 103:Recommendations of the ICRP , Annals of the ICRP Volume37/2-4(2007) http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09020305/03.gif より孫引き

全年齢集団における死亡リスク係数(単位:がん死亡/万人/Sv
組織名目死亡リスク係数
2007年勧告※1
食道 14
 胃 66
結腸 31
肝臓 29
101
皮膚
乳房 32
卵巣
膀胱 12
甲状腺
骨髄 28
他固形がん 71
生殖腺 -16
合計 398

1※ ICRP Publ.103(2007) 修正相乗モデルの年齢別過剰罹患率に基づく計算結果。
本附属書Aから、「名目リスク係数」×「致死割合」で計算
・生殖腺は2世代。・このがん合計は、一般公衆で使用。
2※ がん合計には、生殖腺のリスク係数又は名目確率係数を含まない。

1.7μSv/時間、15mSv/年、30年で450mSvは高い値でしょうか?
このサイトを見ると、福島県、千葉県、栃木県の一部の地域では高めの線量が計測されています。
http://hakatte.jp/ 

放射線を均等に被曝した際の各臓器への影響(実効線量)は次の式で表す事ができるそうです。

等価線量=吸収線量×放射線荷重係数
 

(等価線量(Sv)=吸収線量(単位はGyがよく使われる)×放射線荷重係数(放射線の種類別の係数))
実効線量=等価線量× 組織荷重係数(wT)

組織荷重係数は各組織の放射線への感受性を数値化したもので、ICRPが2007年勧告にて下記数字を出しています。

組織荷重係数(ICRP 2007 年勧告)
組織・臓器組織荷重係数WT
乳房 0.12
骨髄(赤色) 0.12
結腸 0.12
0.12
0.08
生殖腺 0.08
甲状腺 0.04
食道 0.04
肝臓 0.04
膀胱 0.04
骨表面 0.01
皮膚 0.01
0.01
唾液腺 0.01
残りの組織・臓器* 0.12

*14 臓器の平均線量に対して0.12を与える
2007 年ICRP 勧告(Publ.103) 株式会社メジカルビューのサイトより
http://www.medicalview.co.jp/download/blue_yellow/2007ICRP.pdf

450mSv×肺の組織荷重係数0.12=54mSvの影響となります。肺ガンは1Svあたり114人/1万人罹ります。54mSvだと0.054Svですので6人/1万人肺がんにかかり、5人がなくなります。

450mSv×乳房の組織荷重係数0.12=54mSvの影響となります。乳ガンは1Svあたり112人/1万人罹ります。54mSvだと0.054Svですので6人/1万人がんにかかり1.7人が亡くなります。

1Svあたり1715件/1万人ガンが発生し398人が亡くなります。450mSvだと0.45Svですので771件/1万人がんが発生し179人が亡くなります。

これは少ないのでしょうか?この係数は成人と子供の区分けをしていませんが子供はより高いです。
また、これには、内部被曝は入れていません。

参照:「放射線の確定的影響と確率的影響 (09-02-03-05) 」http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-02-03-05 財団法人高度情報科学技術研究機構 原子力百科事典 ATOMICA


原子力発電所の震災事故について考えてしまう

2011年05月08日 01時30分07秒 | 原発・放射能

原子力発電所の震災事故を受けて原発について色々考えていたけれど、太平洋側の古いタイプの原子炉を全て 停止させるべきだと考えている。
やはり 以前の意見 を変える要素が見当たらない。
もし、原発が無くても電力供給が可能でかつ原油やガスを安定的に輸入でき るのであれば即廃炉、それができなくても設計当時の耐用年数が来た時点で即廃炉が望ましいと感じる。

ただ、まだ事故の調査はまったく行われていないので結論は出せない。

実害以上に国内・海外で発生する恐怖感、風評被害・イメージダウンが避けられず経済活動に与える影響は甚 大で 、国土が狭いため広範囲の放射性物質汚染によって失う土地の問題が非常に重たく、国家が抱えている債務が 大きい日本では耐えられない。
実害については知識が無くわからない。専門家の意見も両極端に分かれてい て、まだ未解明の部分が多い様だ。

  • ■日本は環太平洋の地震多発地帯にある。
    Quake epicenters
  • ■どんな「質」の揺れの地震にも耐えられる建造物はありえない。
  • ■地震の揺れに耐えれるかどうかは、原子炉の設計というよりも建築学、土木工学の問題である。
  • ■あらかじめどのような大きさの地震や津波が来るか想定は不可能である。
    今回の震災で知られた昔の 三陸沖地震の38mという津波だけではなく、石垣島・明和の大津波の40m、遡上高 85mという津波も発生し ている。
    プレートがマントルに載って移動している地球の活動は数千年、数万年規模で安定するとは限らな い。
    地震学者も警告している。
    神戸大学名誉教授 石橋克彦博士 http://historical.seismology.jp/ishibashi/
  • ■地殻変動が激しい地球で半減期何億年という放射性廃棄物を安全に保管するコストは大きい。

■安全に運営する組織が無い

■コストの問題

  • ◇女川原発や福島第2原発は地震の揺れに炉部分は耐えたが、プラントは配管も全て耐えて「再機動、再使用」 が できて初めて地震に耐えたと述べることが出来るが、まだそれができるかどうかわからない。このまま廃棄され れば、震度6という日本では珍しくない震度で原発は使えなくなる条件でコスト計算をしなければならない。
  • ◇燃料の処分は今停滞していて、19兆円というコストがかかるそうである。
    河野太郎議員ブログ「原子力政策の分かれ道」 http://www.taro.org/2011/03/post-964.php
  • ◇事故の処理費が膨大である。賠償金も何兆円単位である。
  • ◇研究開発費、民間と公中間的な関連法人の費用、実験炉、現地対策費等、税金で負担している会計資料に計 上さ れて来ないコストを合わせて考えると非常に高コストになるのではないかと思われる。
  • ■地殻変動が激しい地球で半減期何億年という放射性廃棄物を安全に保管するコストは大きい。

■放射線の漏出、再発の可能性

  • ◇水素爆発を発生させた1号機と異なり、正確性はまったくもって未確認ながら、3号機の爆発は1999年 6月 18日北陸電力志 賀1号機の臨界事故で疑われた即発臨界を発生させていた可能性が日本の科学者海外の科学者に指摘されている。
  • ◇水素爆発を回避する為窒素を入れたが、水蒸気爆発の可能性はゼロではない。 プール内、炉の燃料棒を挿入 する穴から漏れた熔解した燃料が再臨界する可能性はまったくゼロではない。(わからない)
  • ◇最大余震がこれから発生する確率はある。津波が発生すれば、汚水は海に流れ、より対処困難な事故が発生 する 可能性がある。
  • ◇炉と配管の点検は目視でさえ不可能で放射線や地震での痛み具合もわからない。弱った部分からの漏出は想 定で きる。

■放射性物質
大人が短期間でも危険だという数値は見られていないものの、子供と女性は多少気になる 。 できれば早めに避難した方が良いと思われる。一部地域は早く避難をして欲しい数値も出ている。

まったく安全を繰り返す識者もいるが、社会・疫学調査のデータが、被曝後5年以内に無くなった方は調査されていない日本の戦争時の被曝者の方々のデータや、
「ABCCの研究対象は五〇年の国勢調査が基になり、被爆五年以内に死亡した人は対象外。「抵抗力のある被爆者が生き残った」と考えることもできる。(重松逸造 放射線影響研究所名誉顧問)」
中国新聞 社http://www.chugoku-np.co.jp/
共産圏崩壊で大混乱のチェルノブイリ事故での結果に依存しているためデータの正確性が保たれにくいものと思われる ため、どのように結論していいのか専門家の間でも意見が分かれている。(特に物理学者と医学者の見解はとても 違う場合が多い)

ウクライナ、ベラルーシロシア等の人口は要因は明確ではないものの減少している。

屋内にいれば良いという問題でも無い。今回、高い値が計測された地域は下記透過率である。
北国の木造家屋でさえこの遮断率である。
「車、建物等よる放射線遮の効果(放射線量率の透過係数)は、車で約0.8 、木造家屋で約 0.4、コンクリート建物で約0.1 と見積もられた。」
3 月28 日と29 日にかけて飯舘村周辺において 実施した放射線サーベイ活動の暫定報告


copy:「放射能漏れに対する個人対策」 山内正敏先生 スウェーデン国立スペース物理研究所(第3版)

2011年04月30日 18時07分04秒 | 原発・放射能

先日の記事の原本に更新がありました。最新版はこちらの原本「放射能漏れに対する個人対策(第3版)」を参照ください。

外からの放射能に関して、 放射線医学総合研究所(事故対策本部に加わった組織)を始めとして、多くのメディアや研究者が
『現在の放射能の値は安全なレベルである』
という談話を発表していますが、残念ながら、どの組織も
『どこまで放射線レベルが上がったら行動を起こすべきか(赤信号と黄信号)』
を発表していません(注釈2)。これでは近隣地域の人々の不安を払拭する事は出来ないと思います。行動を必要とする危険値や警戒値を語らずに『安全です』と言っても情報とは全く言えないからです。これは我々が取り扱っている宇宙飛翔体での管理についても言える事です(その為に宇宙天気予報があります)。
そこで、少々荒っぽいですが、放射能と風向きの観測値 (現時点で一番濃度の高い場所では 文部科学省の測定結果 を参照するのが一番です。一般人に分かり易い表示は、 donuzuimさんのページで、優れたまとめサイトに 一宮亮さんのページがありますが、後者はブラウザによってはクラッシュする事があります)に基づく緊急行動指針を概算してみました。厳密な予測は1キロメートル四方に測定器を置いて完全なモニターを実施した上で、気象の緻密なシミュレーション、拡散条件の考慮など多分野に渡る計算を必要として、短い時間にはとても出来ないので、多少の間違いもあるかも知れませんが、緊急時ですので概算をここに公表します(4月5日現在)。なお、ここでは主に状況が悪化して来た場合(次第に悪化するケースと原発で変な事が起こった場合)を考えます。微妙な濃度の放射線(数マイクロSv/時以上)が3週間以上(=500時間以上)に渡る場合は、土壌に付着した放射性物質から放射能が出ている可能性が高いので別のガイドラインが必要になります(最後に書きます)。

脱出基準(理由は下に書いています)
(1) 居住地近くでの放射線濃度が1000マイクロSv/時(=1ミリSv/時)に達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号。
(2) 居住地近くでの放射線濃度が100マイクロSv/時(=0.1ミリSv/時)に達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。
(3) 妊婦(妊娠かどうか分からない人を含めて)や小児の場合、居住地近くでの放射線濃度が300マイクロSv/時(=0.3ミリSv/時)に達するか、ダスト濃度が 500 Bq/m3 に達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号。
(4) 妊婦(妊娠かどうか分からない人を含めて)や小児の場合、居住地近くでの放射線濃度が30マイクロSv/時(=0.03ミリSv/時)に達するか、ダスト濃度が 50 Bq/m3 に達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。
(12) 現在、日変化の最低値が15マイクロSv/時(子供や妊婦なら5マイクロSv/時)ならば、早めに脱出すべき
→ * 居住地近くでの値が急上昇した場合でも、普通の人で3~10マイクロSv/時、妊婦や子供で1~3マイクロSv/時なら、それが10日以上継続しない限り安心して良い
なお、ネット上で北村名誉教授と云う人が上記『居住地近くでの放射能』というのを『原発サイトでの放射能』と読み違えて『値が厳しい目だ』とコメントしているようです。この人のコメントには他にも読み違えが原因と思われるものがありましたので、3月23日以降の版では、そのあたりの誤読が無いような書き方に改めました。ですが、それでもまだ誤読の余地があるのではないかと危惧します。なので、問題点がありましたら、ご一報頂けると助かります。

室内退避基準(無理やり居住地から脱出する必要は余りありません)
(6) もしも原発の近くで50ミリSv/時を越えたら風下100km以内の人は緊急に屋内(出来るだけコンクリート製:注釈3)に退避し、100km以上でも近くの放射能値情報に随時注意する = 赤信号。
(7) もしも原発の場所で急に5ミリSv/時以上の変動が見られたら、風下100km以内の人はなるべく屋内(出来るだけコンクリート製:注釈3)に退避し、100km以上でも近くの放射能値に随時注意する = 黄信号。
(9) もしも原発サイトで何らかの爆発(水蒸気爆発や水素爆発)があった場合、半径100km以内の人は緊急に屋内(出来るだけコンクリート製:注釈3)に退避し、100km以上でも近くの放射能値情報に随時注意する = 赤信号。

補足
(5) 居住地の近くが、原発から同心円上で一番濃度の高い場所だったら、上記(1)、(3)の半分の放射能量で緊急脱出すべき。
(8) 居住地で黄信号の場合、雨天時はもちろん、朝凪や夕凪(あるいは風の弱い曇天や雨天)は外出を控える。
(10) SPEEDIは、今後起こるかも知れない放射性ダストの大量放出から身を守るには全く役に立たない
(11) シミュレーションの試算値に極端に惑わされてはいけない

関係官庁や有志への要望
(a) 放射能の測定値から空気中のダスト濃度を推定する方法を示して欲しい。今のデータでは、ダストの吸い込みによる被爆の程度を推定出来ません。
(b) 日本海側を含め、各県の地方気象台で大気電場計測をしてほしい。
(c) 30km同心円(理想的には20km同心円、10km同心円も)に、0.5~1km置きに放射能モニター(線量計)を設置して、風上情報としてリアルタイムで流して欲しい。
(d-1) 原発を取り巻くような形で500m程度離れた地点での放射能モニターを至急設置して欲しい。
(d-2) ダストと風の垂直分布(ダストが何処まで高く昇るのかが決定的に重要です)を推測する為に、気象ゾンデに簡易線量計を積んで、毎日数回、原発サイトの近く(又は至近の風下)で打ちあげて欲しい。
(d-3) 原発地点の近くの高い所で、常時発煙筒を焚いて欲しい。この煙の行き先から放射性ダストの向かう方角がある程度わかる
(e) 原発の場所から出た放射性物質の総量を放射能と風向きの観測値から大雑把(桁の精度)で見積もって欲しい
(f) 地球大気・海洋・資源探査のプロに応援を頼んで欲しい
(g) 日本学術会議が3月25日付けで出したメッセージで、その主張の中の『一元性』の具体的内容を明らかにして欲しい
(z) 原子力安全委員長の班目氏に、原発北西30キロ地点に一家揃って暫く住んで欲しい


理由付け
先ず第一に、刻々と変化する放射能に対してどう判断するかです。色々な研究所が上限値を出していますが、これが総量である事が問題です。というのも測定値は1時間当たりの値だからです。とりあえず、総量100ミリSv(Svはシーベルト)という数字で考えてみます。この数字は原子力関係者が緊急時に受けて良いとされる政府基準・東電基準で(政府は今回に限り250ミリSvに引き上げた。ちなみに 国際基準 は原子力従事者で500~1000ミリSvで、一般人で20~100ミリSvです)、更に妊婦を除く大人が受けても概ね大丈夫と科学的に示されている値でもあります( R.L. Brent の2009年のレビュー論文を参照)
居住地付近での悪化に気がついてから(就眠中など、そこで既にロスタイムがある)脱出まで半日~1日かかるとして、状況の悪くなる事を加味して、危険値は100時間で割るのが妥当です。
(1) 居住地近くで『実効値』が1000マイクロSv/時(=1ミリSv/時)に達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号。
しかしながら、この値になって行動すると云う事はパニックを意味します。今までの変動幅を見るに、一桁の余裕を見れば数日の余裕があると考えられます。逆に言えば、1割以下の量を超えた段階で行動を開始するのが妥当で、
(2) 居住地近くで『実効値』が100マイクロSv/時(=0.1ミリSv/時)に達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。
という事になります。これらの値は 放射線医療総合研究所の指針(57ページ目)と同じであり、原発サイト(居住地でなく)で測定された場合に緊急事態並びに警報を発令する米国基準でもあります( 原子力安全委員会の資料 の88ページ目参照)。ちなみに黄信号でも長時間に渡ると危険値になってしまいますので、黄信号が10日以上続く場合は脱出を真剣に考えるべきです。黄信号に至らなくとも高い放射線が長期間続く場合は、室内にこもっている訳にはいかないので脱出を考えるべきですが、それはここでは考えません。


第2に、妊婦や小児に関する特別な考慮です。事故対策本部の放射線医学総合研究所に100ミリSv(総量)で大丈夫とありますが、これは正確ではありません(こんな事をやるから『安全』と言っても人が信用しなくなるのです)。上にあげた R.L. Brent のレビュー論文(2009年)によると、100ミリSv(総量)というのは、胎児の1%以上の人が影響を受ける値です。つまり、安全値というより、むしろ、これを越えると有為な差があるという危険値です。では大人に比べてどのくらい考慮しなければならないか? 論文の Figure 4 を見ると、ある種の障害に関して、妊娠初期で危険値が低くなっていて、妊娠後期に比べて3割程度の放射線で赤ちゃんに同じ障害が出ています。(ちなみに、妊娠後期から大人までは大差はないという事のようです)。という事は、大人の場合の3割(30ミリSv)を目安にするのが妥当です。一方、小児については甲状腺ガンのリスクが高くなっていて(甲状腺ガンに限れば胎児よりも高い)、それ故に妊娠初期と同様に取り扱うのが妥当です。従って
(3) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)や小児の場合、居住地近くで『実効値』が300マイクロSv/時(=0.3ミリSv/時)に達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号。
(4) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)や小児の場合、居住地近くで『実効値』が30マイクロSv/時(=0.03ミリSv/時)に達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。
となります。この黄信号も(2)と同じく10日以上続く場合は脱出を真剣に考えるべきです。
逆に言えば、(2)や(4)の1割以下(居住地近くでの値が、普通の人で3~10マイクロSv/時、妊婦や子供で1~3マイクロSv/時)なら、それが10日以上継続しない限り安心して良い事になります。ちなみに、放射能の影響は、一般には(細胞分裂や栄養の取り込みの活発な)若い人ほど深刻と思えば良いでしょう。

 ここで『実効値』と書きましたが、これは測定値よりもやや高くなります。というのも、放射能測定値は、屋外に浮遊する放射性ダストから出てくる放射線のみを示していて、そのダストを吸い込む事による追加被曝が含まれていないからです。 放射線医療総合研究所の資料(109ページ目)によると、放射性ヨード(I-131)の濃度が 100 Bq/m3 の時に呼吸経由で被爆する量は10歳児で 40マイクロSv/時(=0.04ミリSv/時)程度で、大人で 20マイクロSv/時(=0.02ミリSv/時)程度です。逆に言えば、上記(1)と(3)に示す
赤信号に対応するダスト濃度は、子供で 500 Bq/m3、大人で 5000 Bq/m3
となります(念のために子供は少し余裕を持った方が良い)。問題はダスト濃度の測定が難しい事で、文部科学省や福島県は実施しているものの、観測点が圧倒的に足りません(特に高濃度地域)。従って、もしも放射能の測定値から空気中のダスト濃度をより正確に推定出来れば非常に有用で、誰でも良いから
(a) 放射能の測定値から空気中のダスト濃度を推定する方法を早く示して欲しい
と思います。とりあえず発表されているデータで放射線量とダストの量の大雑把な経験則を調べてみると、10 Bq/m3 の放射性ヨード(I-131)濃度に対応する放射線量は 3~100マイクロSv/時程度で、この放射線が主に地表に定着したダストから出ている事を考えると、大人はともかく、子供の場合は、ダストを吸い込む影響の方が大きいと思われます。

 放射能の観測値には、留意点がもう一つあります。それは居住地での放射能値と測定点での放射能値が同じとは限らない事です。それどころか、高い放射能値を示すような地点の近くに限って、短い距離で大きな違いがある事が 文部科学省の測定 から示されていて、例えば原発から30kmの同心円上の固定地点32と固定地点34(僅か3kmの距離)とで 25日19時の瞬間値 でも 23日から24日にかけての積算値 でも5倍以上の差になっています。この局所高濃度域では、居住地と一番近い観測点(危険な場所は文部科学省が調べてくれていますから誤差は減ります)とで最大倍の差を見積もる必要があります。従って
(5) 居住地の近くが、原発から同心円上で一番濃度の高い場所だったら、上記(1)、(3)の半分の放射能量で緊急脱出すべき。
となります。黄信号の判断条件は変わりません。というのも黄信号になったら文部科学省が調べる筈だからです。


第3に、緊急事態発生時のリアルタイム対応です。この心構えがないと『安心』は得られません。
チェルノブイリで問題になったのは事故現場からの直接放射でなく、そこで発生した高濃度の放射性噴煙が移動しながら出す放射線でした。福島原発も、今度どういう事が起こるか分からない状況です。更に、レベルは遥かに低いものの、放射性ダストを常時出しています。開放弁や未知の亀裂からはもちろん、大量の汚染水が、その放射能によって回りのダストを汚染して新たな放射線源を作っています(現に筑波では風向きは丁度原発から下流に当たる時に限って放射線値があがっているそうです)。不測の高濃度放射性ダスト流出であれ、定常的に出ているダストであれ、濃淡を作りながら拡散し、ある高さまで昇ると風に乗って、その濃淡は距離と共に強くなるのが普通です。この手のマイクロスケールの濃淡(いま問題になっているのは高濃度部分です)は自然界では普通に起きています。当然、この高濃度ダストが風に運ばれる事に被爆しない為のリアルタイム対策が必要になります。
地表と違って上空100mを越えると風は安定的にかなりの速さで吹く事が多くあります(山などで風を感じないのは、どんなに標高が高くてもそこが地表だからです)。その場合、地表から数百メートル以上の高さ(ダストが届き得る高さ)では10m/秒(時速約40km)という見積もりが良く(10km上空は最大50~100m/秒です)、この速度だと、高濃度の放射性ダストは(サイズにもよりけりだけど)数時間は拡散せずに放射能を出し続けます。最悪の場合は地面にかなりの量が降り積もって、更に長い時間放射能を出し続ける危惧すらあります。一部の人が言っているように距離の逆自乗・逆三乗で減る事はありません(真空の場合とは全く違います)。たとえば煙突から出る煙を見て頂ければ分かりますが、風の弱い日(煙突の高さで5m/秒以下)だと、ソーセージ状の煙のくびれが距離と共にハッキリして、その為、高濃度の部分が距離の割にあまり拡散しない事が見て取れると思います。実際、文部科学省の測定結果(上記)も、強い濃淡を裏付けています。
このような高濃度ダストは原発現場でも高濃度の放射能を出しますから、現場で非常に高い値を記録したら、その風下の人間は緊急に室内に退避しなければなりません。その警報が届くまでに2時間見積もる必要があり、そこから80km圏という数字が簡単に出て来ます。ちなみに、こういう警報は日本語で出されますから、日本人(現状では1時間以内で対応すると思われる)と外国人とでは避難の速さが違い、その為に日米での退避半径が違うと考えられます(もちろん、避難範囲を広げると国が後日保証しなければならない人が多くなる、という事情もあるかも知れませんが、そういう政治的・裁判手管的考察はここではしません)。

 ここで風向き、正確には風下地域をどう知るかが問題になります。問題は風向きが高度によって違う事で、下手をすると地表近くと2000mの上空とで正反対の事すらあります。一番手っ取り早いのは、原発サイトから10km、20km、30kmの同心円上0.5~1km置きに、より精密には升目0.5~1kmの格子状に放射能計測器(簡易線量計で良い)を置いて、それをリアルタイム(1~10分更新)で、アメダスのように表示する事です。ウェブカメラと同じ技術ですから、ネット環境とパソコンと線量計さえあれば出来るシステムです。
しかしながら、事故から3週間も経つのに、こんな簡単なシステムすら出来ていないし、そういうシステムを設置すべきという声も原子力安全委員会(科学者に対し放射能拡散問題に関して絶対的な権限を持っているらしい)からあがって来ません。また、学術会議が4月4日の第2次緊急提言で1km格子の測定を提唱していますが、土壌調査など、将来に渡る影響を調べるためのもので、緊急時の事は想定していません。原子力安全委員会も学術会議も、今までに放出した放射性物質が地面に降り積もって、その場所で放射能を出し続ける効果を考えるのに精一杯で、今後、また放射性ダストが大量に出るかも知れない可能性まで考える余裕が無いと思われます。
原子力安全委員会に期待出来ないとなると、放射線のリアルタイムモニターではなく、別のシステムを使うしかありません。例えばアメダスでの風向き表示が候補の一つです。しかし、これには問題があります。それは、風向きが高さによって変わる事で、地表から上空1km程度まで、風向きがゆっくりと時計回りに変わる事(エクマン螺旋といいます)が良くあります。最悪の場合、正反対に流れる事すらあります。幸い、現状では地表にかなり近い高さを放射性ダストが飛んでいるらしく(高い所まで昇るダストが非常に少ない)、水素爆発のようにダストを高く吹き上げる事が無い限り、アメダスで代用するのが一番無難だと思われます。但し、常に誤差を見積もる必要があり、それを最大120度と見積もって、地表風向きに対して(上から見て)時計回りに90度、反時計回りに30度の範囲が風下に当たると考えれば十分です。特に文部科学省(上記)の測定や 米国機の空中測定結果(http://energy.gov/japan2011)で高濃度である事が分かった北西部は、地形的に風下になりやすい可能性が高いので気をつける必要があります。一方爆発の場合はダストの昇る高さが分からないので、全ての方角が風下になりうると考えるのが無難です。
ちなみに、風下は時間と共に変わります。 早野氏チームのシミュレーション によれば、3月15日の爆発で南に向かった放射性ダスト雲が1日かけて栃木にまで南下した後、それが北に向きを変えて 雨で福島全体に降下した 事になっています。北西部の狭い範囲に偏在した高放射能値は米国機の測定が示すように別の風(高さによって、地形によって違う)が原因ですが、それを除けば、北関東の風や放射線の観測とかなり合っていますので、ダストが地表近く風に乗って遠くまで動いた事は確かでしょう。
もちろん、日常生活で常にアメダスを見ている訳にはいきません。その為に、風向き予報というのがあります。そして、その予報に基づいて(ダストが大量に出るような緊急事態に備えて)、ダストの行き先を予め知っておく事は、安心に繋がります。具体的には 気象庁 の予測を参照にするのが一番です(4月5日に公表開始)。ただし、全ての予報(シミュレーション)は何らかの仮定が入っていて、それ故に大きな誤差があります。特にダスト雲の行き先や密度は天気予報よりも遥かに難しい予報です。例えばダストがどの高さまで昇るかの仮定を変えるだけでも行き先がすっかり変わります。そこで、その誤差の幅をする為に、海外の研究所が出している予報も同時に参考にするのがお勧めです。例えば
ノルーウェー気象研究所(http://transport.nilu.no/products/fukushima)の Dr. Andreas Stohl(大気汚染シミュレーションの専門家)や
オーストリアの気象庁(http://www.zamg.ac.at/aktuell/)、
ドイツ気象庁(http://www.dwd.de/)、
フランス放射線防護原子力安全研究所(http://www.irsn.fr/EN/Pages/home.aspx)、
などが出していて、例えば地表のどこにダストが届くかは これ です。上述したようにかなり長い距離をダストが塊の形を保ったまま流れているのが分かると思います。ノルーウェー気象研究所の予報は ノルーウェー気象庁(http://www.yr.no/)の風向き予報(例えば東京だと これ)に基づいています。
この手の予報の誤差が大きいと書いた通り、上の4つの予報結果はお互いに食い違っています。だからこそ、観測データを一番の拠り所とすべきです。もしも政府がリアルタイム線量計ネットワークを設置すれば、それが一番、次善はアメダスで、シミュレーションは最後の手段です。予報や計算の曖昧さは、特に『量』で顕著です。例えば、オーストリア気象庁では放射性物質の量も出していますが、この手の『数値』は多めに見積もるのが普通なので、シミュレーションの数字にはあまり踊らされない方が無難です(下に書きます)。大切なのは観測値です。

 さて、福島原発での放射能の値がどれだけ上がったら室内退避をすべきでしょうか? 急速に運ばれた放射性ダストが、例えば朝凪夕凪になって居住圏にジグザグしながら浮遊するとして、2時間を想定すれば50ミリSv/時が危険値です。つまり
(6) もしも原発の近くで50ミリSv/時を越えたら風下100km以内の人は緊急に屋内(出来るだけコンクリート製:注釈3)に退避し、100km以上でも近くの放射能値情報に随時注意する = 赤信号。
ちなみに無理やり居住地から脱出する必要は余りありません。想定外の爆発でなければ、様子を見て(1)~(5) に従って判断すれば良いと思います。
では警戒値はどの程度になるでしょうか? この場合、原発での測定が一ヶ所であることを考慮しなければなりません。局所的な高放射能雲なので、一桁の誤差を見積もる必要があります。従って、緊急避難値の1割の5ミリSv/時という事になりますが、この位の値になると、原発正門(測定値のある所)では、事故現場からの直接放射の量が大きくて、浮遊性ダスト起源と区別がつきません。こういう時は変動幅を使うのが常套です。つまり
(7) もしも原発の場所で急に5ミリSv/時以上の変動が見られたら、風下100km以内の人はなるべく屋内(出来るだけコンクリート製:注釈3)に退避し、100km以上でも近くの放射能値に随時注意する = 黄信号。
となります。補則として、スモッグの時の対策と同じく
(8) 居住地で黄信号の場合、朝凪や夕凪(あるいは霧の発生し易い天気下)は外出を控える = 赤信号。
というのも加えておきます。どんなに急速にダストが溜まるか分からないからです。ちなみに雨天の場合は雨でダストが除去されますが、浮遊する代わりに地面(生活空間)に集積するので、 ダストの下では放射能値が急上昇 します。
一方、原発サイトで何らかの爆発(水蒸気爆発や水素爆発)があった場合、その爆発でそれだけの放射性ダストがどこまで高く上空に巻き上げられたかは分かりません。その事は、『放射性物質がない』と言われた1回目2回目の水素爆発で実際には放射性ダストを大量に伴っていたらしい事からも分かります。なので、原発サイトで爆発があったら、風下は無条件に赤信号です。そして、その風下は高さによって違いますから、全ての方向が危険と云う事になります。従って、
(9) もしも原発サイトで何らかの爆発(水蒸気爆発や水素爆発)があった場合、半径100km以内の人は緊急に屋内(出来るだけコンクリート製:注釈3)に退避し、100km以上でも近くの放射能値情報に随時注意する = 赤信号。
となります。
ちなみに、この爆発は100km離れた遠隔地でもモニター可能です。というのも、放射能を含むダストは、その放射能によって、空気中の分子や微粒子を電離させて、大気に電流が流れやすい状態を作るからです(この電流は微小で人間活動には全く影響を与えません)。逆にダスト以外の場所では電流が減り(電気は流れやすい所を選んで流れる)、その結果、電圧が下がります。この電気回路は電離層(高さ100km)と地表を結ぶ大規模なもので、それ故に電圧が下がる範囲も広く、3月15日未明の大量放出の際は100km以上離れた所で同時に3分の1になった程です。不幸にして、この大気電場計測は日本では殆ど行われていません。しかも、15日の観測で役立った地点は、既に放射性ダストの影響を受けて感度が落ちています。なので、
(b) 日本海側を含め、各県の地方気象台で大気電場計測をしてほしい。
と思います。


第4に、微妙な濃度の放射能が長期間続く場合です。この場合は、風に乗って流されて行くダストからよりも、寧ろ、地面に降り積もって 地面から続し続ける放射線(減衰が非常に遅い)が原因 と考えるのが自然です。この2つの成分は、風向きによって変動するかしないかで分離できます。なので、数日分のデータを見て、大雑把に変動しているのが浮遊性ダストの効果で、その変化の最低値が地面が汚染された効果と考えて、だいたい合っています。
ちなみに、原子力安全委員会は、地面に定着した放射性物質の影響のみで避難基準を決めています(注4)。実際、3月23日に公表した SPEEDIの試算値 は、地面に定着した放射性物質の影響を計算したもので、これから新しく流入する放射性ダストは全く考慮していません。しかも、結果の値は現実離れして、結局、原子力安全委員会は 26日付けで 個々の地点の土壌測定から、その地点地点での放射性物質を推定すべきであると方針を変えました(だからSPEEDIは再び登場しない)。この方針転換が上記の 学術会議からの第2次緊急提言(4月4日)で提唱されている1km升目の測定という形で現れています。
上記の事から言えるのは、
(10) SPEEDIは、今後起こるかも知れない放射性ダストの大量放出から身を守るには全く役に立たない
(11) シミュレーションの試算値に極端に惑わされてはいけない
です。この手の誤差はシミュレーションの宿命と言えるもので、地球や惑星の大気や超高層を調べている者にとっては常識に近いものです。それは上記のオーストリア気象局の推定値にも当てはまります。しかしながら、同時に風下領域では場所によってはほんの数kmで一桁も値が違う事を示しています。これらは局所高濃度の観測(上記)と合致しています。例えば避難経路を考える時に、遠くに逃げるのでなく、低濃度地帯を選んで横向きに逃げるのが良いと思われます。
話が逸れましたが、要するに、地面に定着した放射性物質の影響はきちんと調べられていないと云う事です。それでいて『安全』と言っても説得力はゼロです。となれば、どの程度の値が何週間続いたら脱出すべきかを推定するしかありません。一番安全なのは、ヨウ素(I131=半減期8日)を仮定した単一減衰近似です。つまり、至近8日間の積分値の倍がその前の8日間の積分値である、と考えて、爆発時点まで遡って計算するのです。4月5日現在で24日(580時間)とすると、最近8日間の積分値の7倍(=1倍+2倍+4倍)の被曝を既にしている事になり、例えば4月1日前後の平均的な値が10マイクロSv/時だったとすると、すでに15ミリSv近い被曝をしている事になって、これに(5)の2倍条件を考えると、子供や妊婦はとっくに脱出しておかなければならない、という事になります。こんな簡単な情報が今まで流れなかった理由が分かりません。この概算からハッキリしていることは、
(12) 4月1日前後の日変化の最低値が15マイクロSv/時(子供や妊婦なら5マイクロSv/時)ならば、早めに脱出すべき という事です。少なくとも土壌調査の報告が出て来るまでは、こういう判定をするしかありません。


最期に、関係官庁への提言です。まず、風上情報が欲しい所です。原発からのダストの流れの方向がはっきり分かる位置で、かつメンテがしやすい場所という意味で、
(c) 福島に限らず全ての原発で、電力会社の責任で、10km圏内で1kmおき、10~20km圏で2kmおき、20~30km圏で3kmおき、30~40km圏で1kmおき、40~50km圏で5kmおきに、放射能モニター(簡易線量計)を設置し、風評被害対策として高めの(5ミリSv/時程度)のゼロ表示設定で、気象庁の責任でリアルタイムで流して欲しい。
もしも隣り合わせ2点以上で同時に放射能値が2分以上に渡って上昇したら、それこそ、その下流(原発とモニター場所を結んだ直線上から角度30度以内)が危険地域という事になり、直ぐに警報が出せます。そもそもシミュレーションで緊急予報をするという発想が非科学的発想なので、現在点検中の原発も、安全対策だけでなく、この種の事故対策をきちんとした上でなければ再開すべきでありません。システムは簡単なので、USB付きの線量計があれば、家庭からでもデータはとれます。
他に原発サイトの回りでの放射性ダストの分布を推定する為に
(d-1) 原発を取り巻くような形で500m程度離れた地点での放射能モニターを至急設置して欲しい。
(d-2) ダストと風の垂直分布(ダストが何処まで高く昇るのかが決定的に重要です)を推測する為に、気象ゾンデに簡易線量計を積んで、毎日数回、原発サイトの近く(又は至近の風下)で打ちあげて欲しい。
(d-3) 原発地点の近くの高い所で、常時発煙筒を焚いて欲しい。この煙の行き先から放射性ダストの向かう方角がある程度わかる
これらの情報があるだけで、放射性ダストの行き先の予測が非常に楽になります。今問題になっている海水の汚染でも、汚染源から数百離れた所での分布(深さを含む)が分かるとかなり予測が立てられるのではないかと期待しますが、こちらは海洋学や水産学の専門家が測定場所を推薦するのが一番よいと思います。
気象庁には、土壌汚染の概算の為に
(e) 原発の場所から出た放射性物質の総量を放射能と風向きの観測値から大雑把(桁の精度)で見積もって欲しい
とも思います。せっかくデータと毎日比較しながらダスト予報を毎日計算しているのですから、簡単に出て来ると思います。それがあると、一般の人(理系)でも、どの程度、どこの土壌に積算されたか推定がつき、例えば山の水を飲んで良いかどうかの判断材料になります。
ちなみに、ダストは風の浮力で浮いているから、風速の変化が重要です。従って、空気中の放射能の量と土壌に落ちる放射性物質の量は必ずしも比例関係にありません。例えば遠方で相当量の放射性物質が見つかったからといって、それより近いところも同様に危ないという事にはなりません。

一方、原子力安全委員会が地球惑星科学関係者に応援を頼んでいない(超高層の学会にも気象学会にも大気化学学会にもその手の呼びかけがありません)というのが解せません。シミュレーションと観測データの比較はこの3つの学会(+海洋学会や陸水学会)が得意とする分野で、特に今の事態だと至急
(f) 地球大気・海洋関係のプロに応援を頼むべき
です。更に地下資源探査関係者(放射能は上記(b)の説明のような副次効果がありますから、リモートセンシングの手法が使える可能性があります、あくまで可能性ですが)にも応援を頼むべきです。
応援に関しては、実は決定的な障害があります。政府はおろか、学術会議までが『知恵の結集』を呼びかけながら、同時に意味不明な『データ並びに予測の一元性』を要求している事です。 3月25日の第一次緊急提言 の最後の項目で、『原発施設外の環境モニタリングとそのデータの評価について、(中略)、一元的かつ継続的な体制を至急構築する』とはっきり書いていますが、ここで、モニタリングを誰がすべきなのか、評価を誰がすべきなのかを書いていません。現状にこれを当てはめると『原子力安全委員会が全部やるから、地球科学者は余計な事はするな』という意味になります。これでは、個々の科学者も学会レベルでも、セカンドオピニオンを出す事はおろか、独自でデータを取る事もおちおち出来ません。というのも学術会議に逆らったら研究費が貰えなくなる可能性が高いからです。
そもそも、一ヶ所に責任集中させるという事は、オーバーロードになって判断が遅れるという事です。しかも原子力安全委員会は地球科学(ダスト類の移動の観測並びに予想)に関しては素人です。素人にデータ類を一元的に集めるのは百害あって一理もありません。更にモニターネットワークの構築は多くのボランティアに広い範囲をカバーしてもらうボトムアップが一番効果的であり、そのデータの質の評価を地球科学や放射線科学の専門家がすれば良いだけの話です。もしも一元性を求めるなら、そういう役割分担まで言及すべきでしょう。至急、学術会議には
(g) 日本学術会議が3月25日付けで出したメッセージで、その主張の中の『一元性』の具体的内容を明らかにして欲しい
と思います。他ならぬ学術会議が科学者の行動の邪魔をしては話になりません。しかも、今のままでは情報を隠す為に一元化を主張していると思われかねません。
一方、原子力安全委員会にはもう一つ提案があって、それは「人間の心理を考慮した避難計画の立て方」を身を以て勉強して欲しいと云う事です。そもそも今回のような事故を防げなかった事自体が、住民視点(不安心理など)で物事を判断出来なかった事を示しています。その後の対応を見ても、この性質が変わったとは思えません。プルトニウムが検出され、収束に数ヶ月以上かかると事を考えれば、今からでも遅くありません。一番手っ取り早いのは
(z) 原子力安全委員長の班目氏に、原発北西30キロ地点に一家揃って暫く住んで貰う
事でしょう。これをするだけで、人心がかなり落ち着く筈です。携帯ネットの充実した現代、政府との連絡は遠くからでも十分に出来ます。

2011-3-18:初版
2011-3-25:改版
2011-4-5:第3版
revisions:
2011-4-6:(12)の部分の単純ミス修正(避難条件は変わりません)
2011-4-7:観測値サイトのリンク追加と変更、シミュレーションのリンク追加。
2011-4-8:線量計以外のモニター手段(b)を挿入。
2011-4-17:外部リンク(冒頭)を追加
2011-4-18:注釈4を補足
2011-4-30:(c)を修正

山内正敏
スウェーデン国立スペース物理研究所(IRF)
(修正に当たっては多くの方のコメントに感謝します。間違い等があればお教え頂けると有り難いです)
最後に「カルシウムを食べよう」を提唱したいと思います。イライラは判断を誤りスケープゴートに走る元ですので。
===========================================

注釈1:単位について(Gy と Sv)

Sv = Q x Gy

で大抵は Q=1 です。但し、ソースの近く(原子炉の近くとか、放射性ダストの近く)では中性子の事があり、その場合はQ=10程度(エネルギーによって数値が少し違う)です。


注釈2::原子力安全委員会が3月25日にやっと『 文部科学省の測定値 に基づく、避難や屋内退避の必要性の 判定基準 』を提言をし、26日の測定値分から、 判定結果 を流しています。かいつまんで書くと、被曝上限値(彼らは10~50ミリSvで設定)を84時間で割った値を赤信号にするというものです(文書には、1週間同じ状態が続いた場合に、一日16時間をコンクリートに準ずる室内に住んだ場合にどれだけ被爆するかという計算をして、それが被曝上限値を越えるか越えないか判断すると書いてある)。もったいぶった説明をつける割には、木造の場合に放射能を殆どシールドしない事などを無視していますが(注釈4参照)、そういう些細な事はともかく、実際の判定で『一部で基準値を超える所があるものの、8日と云う半減期で減るだろう事を考えたら限度内』としているのは解せません。既に放射能ダストが出始めて3週間も経っているのに、評価期間が1週間だからです。危険値の計算方法を示してくれた事は評価しますが、こんな杜撰なやり方では『安心』という言葉に説得力が無くなります。危険を危険と云ってこそ、『安全』という言葉に重みが出て来る事を原子力安全委員会(それが政府の判断を決めている)は学ぶべきでしょう。


注釈3:屋内退避の目的は外部被曝と内部被曝(放射性ダストを吸い込む危険)の両方です。文部科学省の 防災ネットワーク問答集原子力安全委員会の資料 の94ページ目によると、木造建築はきちんと窓とかを締め切れば放射性ダストを短期的にはかなり防ぐ事ができますが(1/4程度に軽減)、建物の外のダストから出される放射線に対して殆ど無力です。コンクリートだと外部被曝を5分の1に軽減します。ちなみに1日以上の長期間で屋内がどのくらい放射性ダストを閉め出す事が出来るかについては書いてありません。木造家屋で1/4に軽減というのは有り得ないと見るべきです(原子力安全委員会はこの手の考察を全くしていません)。


注釈4:現在必要なシミュレーションは2種類あって、一つは『過去の積算』の計算(過去に原発から出された放射性ダストの影響を将来分まで推定するシステム)で、もう一つはダスト予報に代表される『リアルタイム風下予報』です。この2つの違いを政府や原子力安全委員会が認識しているとは思えません。だから、どちらも計算出来るという筈のSPEEDIは、その無謀な目標の為に非現実的な入力条件(簡単な観測で得られる筈も無い放出高度などの値)を要求する事になって失敗に終わりました(我々のような地球・惑星科学の専門家から見ると、明らかな設計ミスです)。意味のある数字にはならず、結局、これは単純な積算線量計の結果(注3)で代用されています。SPEEDIの失敗はともかく、過去の放射能積算は確かに自粛に意味のあり、これなら確かに正確さが重要です。でも、その部分はここで提案するガイドライン(1)~(5)に対応します(個人的には、少なくともSPEEDIとの比較と云う意味で、SPEEDIの結果が出された直後にこちらも解禁すべきだったと思います)。
一方、リアルタイム風下予報は、これから起こるかも知れない不測の事態(ガイドライン(6)~(9)に対応)への心構えを目的としたものですから、台風の進路予報と同じく、予報しない方がパニックを引き起こします。そういう使い方を目的としたリアルタイムの予報まで自粛するのは、税金を払っている国民への責任を放棄のと同じ事になります。そもそも、2種類のシミュレーションの違いが分からない組織に判断を『一元化』する事が間違っているのです。また、気象庁には政府に止められた段階で、海外のシミュレーションの読み方の解説(精度や使い方のコメント)をすぐさま公にする選択があり、それをしなかったのは、唯一判断能力のある組織としては怠慢のような気がします。

放射能漏れに対する個人対策(第3版)

copy:「放射能漏れに対する個人対策」 山内正敏先生 スウェーデン国立スペース物理研究所

2011年03月28日 14時16分27秒 | 原発・放射能

先日の記事の原本に更新がありました。最新版はこちらの原本「放射能漏れに対する個人対策(改版)」を参照ください。

外からの放射能に関して、
放射線医学総合研究所(事故対策本部に加わった組織)を始めとして、多くのメディアや研究者が
『現在の放射能の値は安全なレベルである』
という談話を発表していますが、残念ながら、どの組織も
『どこまで放射線レベルが上がったら行動を起こすべきか(赤信号と黄信号)』
を発表していません(注釈1)。これでは近隣地域の人々の上安を払拭する事は出来ないと思います。行動を必要とする危険値や警戒値を語らずに『安全です』と言ってそれは情報とは全く言えないからです。これは我々が取り扱っている宇宙飛翔体での管理についても言える事です(その為に宇宙天気予報があります)。
そこで、少々荒っぽいですが、
放射能と風向きの観測値
(現時点で一番濃度の高い場所では文部省の測定結果を参照するのが一番です)
に基づく緊急行動指針を概算してみました。科学的に厳密な予測は気象の緻密な観測やシミュレーション、拡散条件など多分野に渡る計算を必要として、短い時間にはとても出来ないので、多少の間違いもあるかも知れませんが、緊急時ですので概算をここに公表します(3月25日現在)。なお、ここでは状況が悪化して来た場合(次第に悪化するケースと原発で変な事が起こった場合)を考えます。微妙な濃度の放射線が長期(3週間~500時間以上)に渡る場合は、別のガイドラインが必要になります。


先ず第一に、刻々と変化する放射能に対してどう判断するかです。色々な研究所が上限値を出していますが、これが総量である事が問題です。というのも測定値は1時間当たりの値だからです。とりあえず、総量100ミリSv(Svはシーベルト)という数字で考えてみます。この数字は原子力関係者が緊急時に受けて良いとされる政府基準・東電基準で(政府は今回に限り250ミリSvに引き上げた。ちなみに
国際基準
は原子力従事者で500~1000ミリSvで、一般人で20~100ミリSvです)、
更に妊婦を除く大人が受けても概ね大丈夫と科学的に示されている値でもあります(

R.L. Brent の2009年のレビュー論文
を参照)
居住地付近での悪化に気がついてから(就眠中など、そこで既にロスタイムがある)脱出まで半日~1日かかるとして、状況の悪くなる事を加味して、危険値は100時間で割るのが妥当です。
(1) 居住地近くで1000マイクロSv/時(=1ミリSv/時)に達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号。
しかしながら、この値になって行動すると云う事はパニックを意味します。今までの変動幅を見るに、一桁の余裕を見れば数日の余裕があると考えられます。逆に言えば、1割以下の量を超えた段階で行動を開始するのが妥当で、
(2) 居住地近くで100マイクロSv/時(=0.1ミリSv/時)に達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。
という事になります。ちなみに黄信号でも長時間に渡ると危険値になってしまいますので、黄信号が10日以上続く場合は脱出を真剣に考えるべきです。黄信号に至らなくとも高い放射線が長期間続く場合は、室内にこもっている訳にはいかないので脱出を考えるべきですが、それはここでは考えません。


第2に、妊婦や小児に関する特別な考慮です。事故対策本部の放射線医学総合研究所に100ミリSv(総量)で大丈夫とありますが、これは正確ではありません。上にあげた R.L. Brent のレビュー論文(2009年)によると、100ミリSv(総量)というのは、胎児の1%以上の人が影響を受ける値です。つまり、安全値というより、むしろ、これを越えると有為な差があるという危険値です。では大人に比べてどのくらい考慮しなければならないか? 論文の Figure 4 を見ると、ある種の障害に関して、妊娠初期で危険値が低くなっていて、妊娠後期に比べて3割程度の放射線で赤ちゃんに同じ障害が出ています。(ちなみに、妊娠後期から大人までは大差はないという事のようです)。という事は、大人の場合の3割(30ミリSv)を目安にするのが妥当です。一方、小児については甲状腺ガンのリスクが高くなっていて、それ故に妊娠初期と同様に取り扱うのが妥当です。従って
(3) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)や小児の場合、居住地近くで300マイクロSv/時(=0.3ミリSv/時)に達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号。
(4) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)や小児の場合、居住地近くで30マイクロSv/時(=0.03ミリSv/時)に達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。
となります。この黄信号も(2)と同じく10日以上続く場合は脱出を真剣に考えるべきです。
逆に言えば、(2)や(4)の1割以下(居住地近くでの値が、普通の人で10マイクロSv/時、妊娠初期の人で3マイクロSv/時)なら安心して良い事になります。ちなみに、放射能の影響は、一般的には細胞分裂の活発な若い人ほど深刻という事になります(但し原典を当たっていませんので、論文を御存知の方はお教え下さい)。

 ここで居住地近くと書きましたが、実は居住地での放射能値と測定点での放射能値が同じとは限りません。それどころか、高い放射能値を示すような地点の近くに限って、短い距離で大きな違いがある事が文部科学省の測定から示されていて、例えば僅か3kmの違い(原発から30kmの同心円上の固定地点32と固定地点34)では
25日19時の瞬間値
でも
23日から24日にかけての積算値
でも5倍以上の差になっています。この局所高濃度域は原発から北西と南に伸びており、その方面では、居住地と一番近い観測点(危険な場所は文部科学省が調べてくれていますから誤差は減ります)とで最大倍の差を見積もる必要があります。従って
(5) 原発から北西と真南に伸びる地域では上記(1)、(3)の半分の放射能量で緊急脱出すべき = 赤信号。
となります。黄信号の判断条件は変わりません。というのも黄信号になったら文部科学省が調べる筈だからです。


第3に、距離との関係です。チェルノブイリで問題になったのは事故現場からの直接放射でなく、そこで発生した高濃度の放射性噴煙が移動しながら出す放射線でした。福島原発も、レベルは違うものの放射性ダストを外に出しています。少なくとも、原発や30キロ下流での高止まりの放射能値は、放射性ダストが出続けている事を意味しています(下の注釈3参照)。ダストは濃淡を作りながら拡散し、ある高さまで昇ると風に乗って、その濃淡は距離と共に強くなるのが普通です。この手のマイクロスケールの濃淡(いま問題になっているのは高濃度部分です)は自然界では普通に起きています。この高濃度ダストが風に運ばれる事のリスク計算がありません。
地表と違って上空100mを越えると風は安定的にかなりの速さで吹く事が多くあります(山などで風を感じないのは、どんなに標高が高くてもそこが地表だからです)。その場合、地表から数百メートル以上の高さ(ダストが届き得る高さ)では10m/秒(時速約40km)という見積もりが良く(10km上空は最大50~100m/秒です)、この速度だと、高濃度の放射性ダストは(サイズにもよりけりだけど)数時間は拡散せずに放射能を出し続けます。一部の人が言っているように距離の逆自乗・逆三乗で減る事はありません(真空の場合とは全く違います)。たとえば煙突から出る煙を見て頂ければ分かりますが、風の弱い日(煙突の高さで5m/秒以下)だと、ソーセージ状の煙のくびれが距離と共にハッキリして、その為、高濃度の部分が距離の割にあまり拡散しない事が見て取れると思います。実際、文部科学省の測定結果(上記)も、強い濃淡を裏付けています。
このような高濃度ダストは原発現場でも高濃度の放射能を出しますから、現場で非常に高い値を記録したら、その風下の人間は緊急に室内に退避しなければなりません。その警報が届くまでに2時間見積もる必要があり、そこから80km圏という数字が簡単に出て来ます。ちなみに、こういう警報は日本語で出されますから、日本人(現状では1時間以内で対応すると思われる)と外国人とでは避難の速さが違い、その為に日米での退避半径が違うと考えられます(もちろん、避難範囲を広げると国が後日保証しなければならない人が多くなる、という事情もあるかも知れませんが、そういう政治的・裁判手管的考察はここではしません)。
ここで風向きをどう知るかが問題になります。問題は風向きが高度によって違う事で、下手をすると地表近くと2000mの上空とで正反対の事すらあります。なので、花粉予想や煤煙予想と同じ要領で、気象庁で予測するのが一番ですが、残念ながらそこまで至っていません。幸い、文部科学省の測定結果と
米国機の空中測定結果(http://energy.gov/japan2011)
から、ダストが概ね北西(一部真南や南西)の狭い地域に流れている事が分かります。北西は海風の風下に当たり、それはダストが極端に高い所まで昇っていない(高い所まで昇るダストが非常に少ない)事を意味いていて、それ故に、水素爆発のような爆発時を除いては、高さ1km以下での風向きだけを考えれば良い事になります。
具体的には、原発サイトでの放射能値が問題になる場合、その時に居住地の風が普段と同じであれば原発の北西(と真南)が風下に当たり、念のために、この向きから左右30度ずつ危険範囲を取れば十分です。ちなみに爆発の場合はダストの昇る高さが分からないので、全ての方角が風下になりうると考えるのが無難です。

では、低気圧通過とかで風向きが違う場合はどうするか? この場合は風下の範囲が広がります。その際に参考になるのが、海外の研究所が出している予報です。日本全体のシミュレーションは
ノルーウェー気象研究所(http://transport.nilu.no/products/fukushima)
の Dr. Andreas Stohl(大気汚染シミュレーションの専門家)や
オーストリアの気象庁(http://www.zamg.ac.at/aktuell/)、
ドイツ気象庁(http://www.dwd.de/)、
フランス放射線防護原子力安全研究所(http://www.irsn.fr/EN/Pages/home.aspx)、
などが出していて、例えば地表のどこにダストが届くかは
これ
です。上述したようにかなり長い距離をダストが塊の形を保ったまま流れているのが分かると思います。ノルーウェー気象研究所の予報は
ノルーウェー気象庁(http://www.yr.no/)
の風向き予報(例えば東京だと
これ)に基づいています。
但し、全ての予報(シミュレーション)は何らかの仮定が入っていて、それ故に正確な予報が出来ません。とくにダスト雲の行き先や密度は天気予報よりも遥かに難しい予報です。例えばダストがどの高さまで昇るかの仮定を変えるだけでも行き先がすっかり変わります。現に上の4つの予報結果はお互いに食い違っています。だからこそ、観測データを一番の拠り所とすべきです。特に海風陸風が卓越している場合は(爆発のようにダストが高く舞い上がる場合を除いて)風向き予報よりも過去の平均(主に北西)を重視すべきです。
予報や計算の曖昧さは、特に『量』で顕著です。例えば、オーストリア気象庁では放射性物質の量も出していますが、この手の『数値』は多めに見積もるのが普通なので、シミュレーションの数字にはあまり踊らされない方が無難です(下に書きます)。大切なのは観測値です。

予報と実際の値が違う以上、(普段と風向きが違う場合に)風下を知る為には、実際の地上での風向き(アメダスなどの観測値)も見る必要があります。この場合、地表から上空1km程度まで、風向きがゆっくりと時計回りに変わる事(エクマン螺旋といいます)を考慮して、誤差を最大120度と見積もると、地表風向きに対して(上から見て)時計回りに90度、反時計回りに30度の範囲が風下に当たります。ただし、こういう面倒くさい事をしなければならないのは、普段と違う風向きの時だけです。


さて、では福島原発での放射能の値がどれだけ上がったら室内退避をすべきでしょうか? 急速に運ばれた放射性ダストが、例えば朝凪夕凪になって居住圏にジグザグしながら浮遊するとして、2時間を想定すれば50ミリSv/時が危険値です。つまり
(6) もしも原発の近くで50ミリSv/時を越えたら風下100km以内の人は緊急に屋内(出来るだけコンクリート製:注釈3)に退避し、100km以上でも近くの放射能値情報に随時注意する = 赤信号。
ちなみに無理やり居住地から脱出する必要は余りありません。想定外の爆発でなければ、様子を見て(1)~(5) に従って判断すれば良いと思います。
では警戒値はどの程度になるでしょうか? この場合、原発での測定が一ヶ所であることを考慮しなければなりません。局所的な高放射能雲なので、一桁の誤差を見積もる必要があります。従って、緊急避難値の1割の5ミリSv/時という事になりますが、この位の値になると、原発正門(測定値のある所)では、事故現場からの直接放射の量が大きくて、浮遊性ダスト起源と区別がつきません。こういう時は変動幅を使うのが常套です。つまり
(7) もしも原発の場所で急に5ミリSv/時以上の変動が見られたら、風下100km以内の人はなるべく屋内(出来るだけコンクリート製:注釈3)に退避し、100km以上でも近くの放射能値に随時注意する = 黄信号。
となります。補則として、スモッグの時の対策と同じく
(8) 居住地で黄信号の場合、朝凪や夕凪(あるいは霧の発生し易い天気下)は外出を控える = 赤信号。
というのも加えておきます。どんなに急速にダストが溜まるか分からないからです。一方、原発サイトで何らかの爆発(水蒸気爆発や水素爆発)があった場合、その爆発でそれだけの放射性ダストがどこまで高く上空に巻き上げられたかは分かりません。その事は、『放射性物質がない』と言われた1回目2回目の水素爆発で実際には放射性ダストを伴っていたらしい事からも分かります。なので、原発サイトで爆発があったら、風下は無条件に赤信号です。そして、その風下は高さによって違いますから、全ての方向が危険と云う事になります。従って、
(9) もしも原発サイトで何らかの爆発(水蒸気爆発や水素爆発)があった場合、半径100km以内の人は緊急に屋内(出来るだけコンクリート製:注釈4)に退避し、100km以上でも近くの放射能値情報に随時注意する = 赤信号。
となります。

第4に、原子力安全委員会が3月23日に公表した
試算値
への対応です。もしも単位が正しいなら各地点での観測値より遥かに大きい事は明らかで、というのも、12日間(300時間足らず)での屋外被爆量が、50km 風下で 100ミリSvもあるという事は、一時間あたりで 0.3ミリSv/時(=300マイクロSv/時)という危険値がずっと続いていた事を意味するからです。
実際の測定値
はこれよりも一桁低く、この事から、
(10) シミュレーションの試算値に極端に惑わされてはいけない
事が分かります。単位についての解説や正確なデータ入力条件が示されていないので断定的な事は言えませんが、この手の誤差はシミュレーションの宿命と言えるもので、地球や惑星の大気や超高層を調べている者にとっては常識に近いものです。それは上記のオーストリア気象局の推定値にも当てはまります。しかしながら、同時に2つの重要な事を示しています。一つはこの試算が平均的な『風下』の領域(放射性ダストの集まりやすい場所)を知るのに役に立つ事で、もう一つは、風下領域では場所によってはほんの数kmで一桁も値が違う事で、この事は局所高濃度の観測(上記)と合致しています。従って、
(11) SPEDDIシミュレーションは、これから先、真っ先に危険になるかも知れない地域を予測するのに役立つ
という事なります。例えば避難経路を考える時に、まず遠くに逃げるのでなく、西に逃げるのが良いという事をなります。


最期に、気象庁と原子力保安院への提言です。原発サイトの回りでの放射性ダストの分布を推定する為に
(a) 原発を取り巻くような形で500m程度離れた地点での放射能モニターを至急設置して欲しい。
(b) ダストと風の垂直分布(ダストが何処まで高く昇るのかが決定的に重要です)を推測する為に、気象ゾンデに放射能モニターを積んで、毎日数回、原発サイトの近くで打ちあげて欲しい。
(c) 原発地点の近くの高い所で、常時発煙筒を焚いて欲しい。この煙の行き先から放射性ダストの向かう方角がある程度わかる
これらの情報があるだけで、放射性ダストの行き先の予測が非常に楽になります。

あと、気象庁を中心にして、土壌汚染の概算の為に
(d) 原発の場所から出た放射性物質の総量を放射能と風向きの観測値から大雑把(桁の精度)で見積もって欲しい
と思います。具体的には下記の手法です(これは案ですので、改善案を持っておられる方はご連絡ください)。
各観測地点で、それぞれ放射性ダストが空全体(半球)に一様に広がっていると仮定すると、それから放射線源(物質上特定)の密度が出てきます(土壌からの放射線量は空中からの放射線量に比べて無視できる)。もしもダストの半減期(いろいろ混合しているけど、思い切って8時間、8日のそれぞれについて場合分けするのが簡単だと思う)と上空の風速が分かれば、この放射線源のfluxが分かります。これを原発を取り巻くようにして積分すると放射線源の排出量(単位時間あたり)が推定出来るし、これを異なる距離で比較して、更に雨による落下の効果を考慮すると、地上に落ちてしまった放射線源の量(単位時間あたり)が推定できます。そして、これらを3月12日から積分すると総量が出てきます。もちろん、最低でも検証のために実際の土壌の放射線量と比較する必要がありますが、とにかく観測値から概算は上可能ではありません。水源地の土壌を全部調べるには膨大な時間がかかりますので、概算は役に立つと思います。ちなみに、風速を仮定すれば学生さん(理系)でも出来る計算ですが、仮定の仕方で結果が桁で変わりますので、間違って大きすぎる値(それはパニックを引き起こす)になりかねません。だから、上空の風速のデータを持っている日本の気象関係者が計算するのは無難です。
理論的には風速の変化が重要です。というのもダストは風の浮力で浮いているからです。従って、空気中の放射能の量と土壌に落ちる放射性物質の量は必ずしも比例関係にありません。例えば遠方で相当量の放射性物質が見つかったからといって、それより近いところも同様に危ないという事にはならないのです。

それから、原子力安全委員会(SPEDDIの関係者)が地球惑星科学関係者に応援を頼んでいない(超高層の学会にも気象学会にも大気化学学会にもその手の呼びかけがありません)というのが解せません。シミュレーションと観測データの比較はこの3つの学会が得意とする分野で、特に今の事態だと至急
(e) 地球大気関係のプロに応援を頼むべき
です。少なくともSPEDDIは実際のデータをシミュレーションに反映させるという点に関しては初心者と同じなのですから。

2011-3-18:初版
2011-3-25:改版
revisions:
2011-3-25:(米国エネルギー省のリンク追加)
2011-3-26:小児の判断基準(妊娠初期に準ずる)を追加、(e)を追加、注4を追加。
2011-3-27:爆発の場合を追加、(9)を挿入、注釈2を挿入。
山内正敏
スウェーデン国立スペース物理研究所(IRF)
(修正に当たっては多くの方のコメントに感謝します。間違い等があればお教え頂けると有り難いです)
最期に「カルシウムを食べよう」を提唱したいと思います。イライラは判断を誤りスケープゴートに走る元ですので。
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注釈1:単位について(Gy と Sv)

Sv = Q x Gy

で大抵は Q=1 です。但し、ソースの近く(原子炉の近くとか、放射性ダストの近く)では中性子の事があり、その場合はQ=10程度(エネルギーによって数値が少し違う)です。


注釈2::原子力安全委員会が3月25日にやっと『
文部科学省の測定値
に基づく、避難や屋内退避の必要性の
判定基準
』を提言をし、26日の測定値分から、
判定結果
を流しています。かいつまんで書くと、被曝上限値(彼らは10~50ミリSvで設定)を84時間で割った値を赤信号にするというものです(文書には、1週間同じ状態が続いた場合に、一日16時間をコンクリートに準ずる室内に住んだ場合にどれだけ被爆するかという計算をして、それが10~50ミリSvを越えるか越えないか判断すると書いてある)。もったいぶった説明をつける割には、木造の場合に放射能を殆どシールドしない事などを無視していますが(注釈4参照)、そういう些細な事はともかく、実際の判定で『一部で基準値を超える所があるものの、8日と云う半減期で減るだろう事を考えたら限度内』としているのは全く解せません。そこに、放射性物質が定常的に流れ込んでいるという(現実に即した)発想は無いようです。しかも既に放射能ダストが出始めて2週間も経っているのに、評価期間は1週間で、上記の緊急脱出条件と同じです。危険値の計算方法を示してくれた事は評価しますが、本気で自衛するつもりなら『原子力安全委員会』の推薦(それが政府の判断を決めている)を囚われるのはお勧め出来ません。


注釈3:原子炉は開放弁や場所不明の亀裂や通して外と繋がっていると考えられます。実際、水素爆発とその直前の放射能増加は、水素や放射性ダストが原子炉から出て行った事を意味しています。一方、原子炉内では水を被っていない燃料棒が、表面から放射性ダストを出し続けています。ダストの出る速さは一定でなく、焚き火での焼けぼっくいと同じように、小さな崩壊(爆発)を繰り返して、それが放射能の濃淡を作ります。亀裂や開放弁から出て行く時も同じで、最終的に発電所から出て行く時も同じです(最悪の場合は大爆発という形ですが、今はそれは考えていません)。


注釈4:屋内退避の目的は外部被曝と内部被曝(放射性ダストを吸い込む危険)の両方です。文部科学省の
防災ネットワーク問答集
によると、木造建築はきちんと窓とかを締め切れば放射性ダストを短期的にはかなり防ぐ事ができますが(1/4程度に軽減)、外部被曝に対して殆ど無力です。コンクリートだと外部被曝を5分の1に軽減します。ちなみに1日以上の長期間で屋内がどのくらい放射性ダストを閉め出す事が出来るかについては書いてありません。木造家屋で1/4に軽減というのは有り得ないと見るべきです(原子力安全委員会はこの手の考察を全くしていません)。

放射能漏れに対する個人対策(改版)

copy:山内正敏氏「放射能漏れに対する個人対策」を読む際に考慮すべき点とは(ガジェット通信)

2011年03月22日 13時09分24秒 | 原発・放射能

先日掲載させていただいた記事の補完的な記事を見つけましたので掲載します

山内正敏氏「放射能漏れに対する個人対策」を読む際に考慮すべき点とは(ガジェット通信)2011.03.22 04:10:22

山内正敏さんが書いた「放射能漏れに対する個人対策」という記事が話題になっています。この文書は具体的に放射線量の計測値がいくつに達したら避難すべきかということについて考察した内容で、数字がはっきりしていおりたいへんわかりやすく感じます。果たしてこの数字は妥当なのでしょうか。そしてこれら計測値を判断基準にして行動するのは正しいのでしょうか。3月21日14時時点でのテキストをベースに東北大学の北村名誉教授にコメントをいただきました。判断の際、参考にしてください。

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●山内正敏氏「放射能漏れに対する個人対策」に関して

山内氏の見解は発生源(原子力発電所)近くの放射線測定値を手掛かりとして、脱出する際の指針を示しておられます。氏が基本的な認識として述べられている、以下の問題設定はとても妥当であると考えますし、このような考え方は確かに重要です。

—–
(1)残念ながら、どの組織も『どこまで放射線レベルが上がったら行動を起こすべきか(赤信号と黄信号)』を発表していません。これでは近隣地域の人々の不安を払拭する事は出来ないと思います。

(2)とりあえず、総量100ミリSv(Svはシーベルト)という数字で考えてみます。
—–

しかし、それに続くいくつかの想定が現在の原子力発電所の実情からはかなりかけ離れた点もあるように思われます。

●その1:
『基本的に、準備は早くすること』という姿勢にも賛成です。しかし、まずは毎時100マイクロシーベルトという測定値が瞬時値なのか持続的な値なのか見極めることは極めて重要です。今、仮に大規模な放射性物質放出が持続的に起こるとしたら、それは再臨界が起こってかつ圧力容器、格納容器の健全性が損なわれている場合であろうと思います。再臨界の可能性は別稿に論じたようにかなり小さく、それよりは起こりやすい事象は格納容器の圧力低下を図るための人為的放出(ベント)です。この場合、山内さんが前提としておられる、『状況が刻々と悪くなる事を考慮すれば……』という想定はあてはまりません。

●その2:
『チェルノブイリで問題になったのは事故現場からの直接放射でなく、そこで発生した高濃度の放射性噴煙が移動しながら出す放射線でした。福島原発の場合,燃料棒が壊れているという事ですから、焚き火での焼けぼっくいと同じく、マイクロスケールでの爆発を繰り返して、それが放射能の濃淡を作っています』

という記述は、現実を反映していないと思います。チェルノブイリでは、燃料、黒鉛などが文字通り粉々になってそのまま上空へ放出されたのです。黒鉛の破片も燃焼状態であったかも知れません。今回の場合、燃料棒が壊れたといっても被覆管が破損してペレットが露出した状態ではあって、粉々になどなっておりません。さらに圧力容器や(多少不完全かもしれませんが)格納容器に囲まれた空間中での放射性物質放出が起こっているのです。いうまでもありませんが圧力容器の中で臨界現象が起こっても冷却水が存在する限り安全上の危険は小さいでしょう。『焚火での焼けぼっくいと同じく,マイクロスケールでの爆発』という表現が何を指すのか小生には判りかねますが、焚火が時々はぜるような現象は、原子炉からの放射性物質の放出に関してはあてはまらないと思います。

●その3:
『高濃度の放射性ダストは(サイズにもよりけりだけど)数時間は拡散せずに放射能を出し続けます』という記述につきまして。

『一部の人が言っているように距離の逆自乗で減衰する事はありません』という指摘には全く同意いたしますが、数時間は拡散しないというメカニズムが小生には理解できません。

乱流拡散が起こらないという意味なら理解できますが、『拡散せずに……』ということにならないのではないかと思います。

ということで、結論です。

(1)このご指摘には貴重な提案が含まれていることは十分評価いたします。

(2)ただし、上記の3点を考えて、大変に厳しめの想定であると思います。チェルノブイリとの類比で述べられている説明は危険の過大評価になっています。

(3)再臨界が持続的に起こっているのか否かが判断の重要なポイントです。放射線量の計測値だけで判断を下すことは無理があると思います。

山内正敏氏「放射能漏れに対する個人対策」を読む際に考慮すべき点とは(ガジェット通信)2011.03.22 04:10:22

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copy:「放射能漏れに対する個人対策」 山内正敏先生 スウェーデン国立スペース物理研究所

2011年03月20日 15時01分34秒 | 原発・放射能

最新版は下記リンクの原本を参照ください

放射能漏れに対する個人対策」 山内正敏先生 スウェーデン国立スペース物理研究所


放射能に関して、 放射線医学総合研究所(事故対策本部に加わった組織)を始めとして、多くのメディアや研究者が『現在の放射能の値は安全なレベルである』という談話を発表していますが、残念ながら、その組織も『どこまで放射線レベルが上がったら行動を起こすべきか(赤信号と黄信号)』を発表していません。これでは近隣地域の人々の不安を払拭する事は出来ないと思います。行動を必要とする危険値や警戒値を語らずに『安全です』と言ってそれは情報とは全く言えないからです。これは我々が取り扱っている宇宙飛翔体での管理についても言える事です(その為に宇宙天気予報があります)。
そこで、少々荒っぽいですが、行動指針を概算してみました。科学的に厳密な予測は気象シミュレーションや拡散条件など多分野に渡る計算を必要として、短い時間にはとても出来ないので、多少の間違いもあるかも知れませんが、緊急時ですので概算をここに公表します(3月19日現在)。


先ず第一に、刻々と変化する放射能に対してどう判断するかです。色々な研究所が上限値を出していますが、これが総量である事が問題です。というのも測定値は1時間当たりの値だからです。とりあえず、総量100ミリSv(Svはシーベルト)という数字で考えてみます。この数字は原子力関係者が平時に受けて良いとされる政府基準・東電基準で(国際基準は500ミリSv)、更に妊婦を除く大人が受けても大丈夫と科学的に示されている値でもあります( R.L. Brent の2009年のレビュー論文を参照)
気がついてから脱出まで半日かかるとして、かつ状況が刻々と悪くなる事を考慮すれば、危険値は100時間で割るのが妥当ですから、
(1) 1000マイクロSv/時に達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号。
という事になります。しかしながら、この値になって行動すると云う事はパニックを意味します。現在の値の変動幅を見るに、一桁の余裕を見れば数日の余裕があると考えられます。逆に言えば、1割以下の量を超えた段階で行動を開始するのが妥当で、
(2) 100マイクロSv/時に達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。
という事になります。


第2に、妊婦に関する特別な考慮です。事故対策本部の放射線医学総合研究所に100ミリSv(総量)で大丈夫とありますが、これは正確ではありません。上にあげた R.L. Brent のレビュー論文(2009年)によると、100ミリSv(総量)というのは、1%以上の人が影響を受ける値です。つまり、安全値というより、むしろ、これを越えると有為な差があるという危険値です。論文のTable 5 や Figure 4 論文を見ると、安全と言い切れるのは5ミりSv(総量)以下で、そこから100ミリSv(総量)まではグレイゾーンです。現に、大人の場合、同様に『1%以上の人に明らかに影響がある』と言われる1000ミリSv(総量)に対して、原子力従事者の安全基準は1割の100ミリSv(総量)です。普通の人が毎年放射能を受ける訳でない事を考えても、3割以下で安全と考えるのが妥当で、その事は上記論文の Figure 4 からも見て取れます。ということは、
(3) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、300マイクロSv/時に達したら、緊急脱出しなければならない = 赤信号。
(4) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、30マイクロSv/時に達したら、脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。
となります。
逆に言えば、(2)や(4)の1割以下(普通の人で10マイクロSv/時、普通の人で3マイクロSv/時)なら安心して良い事になります。


第3に、距離との関係です。チェルノブイリで問題になったのは事故現場からの直接放射でなく、そこで発生した高濃度の放射性噴煙が移動しながら出す放射線でした。福島原発の場合。燃料棒が壊れているという事ですから、焚き火での焼けぼっくいと同じく、マイクロスケールでの爆発を繰り返して、それが放射能の濃淡を作っています。現に現場付近では、初期の値は大きく変動していました(今は飽和しているから一定値になっている)。この手のマイクロスケールの高濃度放出は自然界では普通に起きている事で、それ故に科学者でなくても多くの人が『そんなものだ』と感じています。このリスク計算がありません。
地表と違って上空100mと越えると風は安定的にかなりの速さで吹いています。その場合、だいたい10m/秒という見積もりが良く(10km上空は50~100m/秒です)、この速度だと、高濃度の放射性ダストは(サイズにもよりけりだけど)数時間は拡散せずに放射能を出し続けます。10m/秒とは時速約40kmに相当します。そのようなダストは現発現場でも高濃度の放射能を出しますから、現場で非常に高い値を記録したら、その風下の人間は緊急に室内に退避しなければなりません。その警報が届くまでに2時間見積もる必要があり、そこから80km圏という数字が簡単に出て来ます。ちなみに、こういう警報は日本語で出されますから、日本人(現状では1時間以内で対応すると思われる)と外国人とでは避難の速さが違い、その為に日米での退避半径が違うと考えられます。
さて、では福島原発での放射能の値がどれだけ上がったら室内退避をすべきでしょうか? この場合、原発での測定が一ヶ所であることを考慮しなければなりません。局所的な高放射能雲なので、一桁の誤差を見積もる必要があります。雲が居住圏にジグザグしながら浮遊するとして(例えば朝凪夕凪)、2時間を想定すれば50ミリSv/時が危険値であって、その1割が警報発令の値という事になります。即ち
(5) もしも原発の場所で5ミリSv/時を越えたら風下100km以内(左右60度の扇形)の人は至急屋内に退避し、100km以上でも近くの放射能値情報に随時注意する。
となります。

written 2011-3-18 (revised 3-19)
山内正敏
スウェーデン国立スペース物理研究所
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単位について(Gy と Sv)

Sv = Q x Gy

で大抵は Q=1 です。但し、ソースの近く(原子炉の近くとか、放射性ダストの近く)では中性子の事があり、その場合はQ=10です。

放射能漏れに対する個人対策

原子力発電所・津波対策の見直しを

2011年03月18日 00時51分32秒 | 原発・放射能

原子力発電所の災害は、放射線物質との長期的な戦いになりそうです。ロシアの事故の炉はまだ内部で燃焼していて、隣の炉では発電を続けているというのですから、私たち門外漢にはまったく理解できない世界です。

事故の原因は詳しく調べないとわかりません。調査前の推論は往々にして外れます。責任問題など絡む色々な鞘当てもありうるでしょうが、そこにちょっとでもそういうにおいを嗅ぎ取れば今回で原子力発電の未来は途絶えると思います。

昨日は原子力発電所の設計面と点検面で問題があったと書きましたが、今日はこのような記事が出ていました。

福島原発設計 元東芝の技術者 「津波全く想定せず」(03/17 10:22)北海道新聞
東京電力福島第1原発を設計した東芝の元技術者、小倉志郎さん(69)=横浜市=が16日、東京の外国特派員協会で記者会見し「1967年の1号機着工時は、米国ゼネラルエレクトリック社(GE)の設計をそのままコピーしたので、津波を全く想定していなかった」と明かした。
 三陸沿岸は津波の多発地帯だが、津波が比較的少ない米国技術が今回の被害の盲点となった可能性がある。
 日本の原子力発電は英米の技術輸入で始まり、福島原発はそのさきがけ。小倉さんは1、2、3、5、6号機の冷却部分などを設計し「1号機は、日本側に経験がなく無知に近い状態だった。地震津波の多発地帯とは知っていたが、批判的に検討、判断できなかった」と話した。2号機からはGEの設計図を改良したが、「マグニチュード8以上の地震は起きない、と社内で言われた。私の定年が近くなってやっと、地震対策の見直しをしたが、それでも大地震は想定しなかった。責任を感じる」と述べた。

もしこれが本当ならば、女川原発が持って福島原発がトラブルを発生させたのか、その差を説明できる「仮説」を立てられるかもしれません。昨日「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震 」にて参照した2010年記事では、津波の引き波の際に冷却水が取り入れられなくなるかもしれない原発(泊、女川、福島第1、第2、浜岡、島根)のうち、女川と浜岡には取水槽があったと記載されています。それゆえ福島第1・第2と同じく津波に遭遇した女川原発ではかろうじて持ちこたえられた可能性があります。もちろんただの仮説であり、本当の原因はまったく別であるかもしれません。

設計当時の1960年代後半はまだ、今よく知られている地球科学のプレートテクトニクス理論は主流ではなかったようです。
三陸沖地震は巨大で繰り返し発生していて、とても高い津波を発生させることは知られていましたが文献が少なく、まだ研究は進んでいなかったようです。
黎明期の原子力発電所の設計で津波・巨大地震対策ができていなかったとすればとても残念ですが、巨大地震が発生した後は地震の活動がより活発になると思われますので、今ある原子力発電所、特に古い時代の建造物の構造的な津波対策の見直しが緊急で必要なのではないでしょうか。


平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震

2011年03月17日 01時36分14秒 | 原発・放射能

2011年3月11日14時46分は忘れられない時刻になりました。平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震が発生し、三陸沖が震源だというのになんと関西でもゆっさゆっさという強い揺れを感じました。
自衛隊が撮影する、迫り来る津波が仙台平野を覆うというオンタイムの惨事を現実と思えないまま、あっけにとられながら公共放送で観てから、少し離人症気味な感覚です。まるで悪夢を見ているようです。


より大きな地図で The 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake 2011/3/11-平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震 を表示

原子力発電所がとても信じられないような災害を起こし、東京電力のスタッフの方々や自衛隊の方々など命をかけた防衛に挑んでいます。もう、ずっとずっと胸が痛んでいます。
ご無事で帰還はありえない程の放射線被曝状態だと思いますがどうか命だけは助かりますように。

原発事故の原因はわかりません。
ただ、ことさら事業者を責めても無意味などころかかえって重大なミスの隠蔽につながるので、きわめて客観的で当事者を感情的に追い詰めない原因究明が必要になると思います。

今は反原発の機運が高まっていますが、原発なしでエネルギー需要をまかなうのはすぐにはまったく不可能です。以前から筆者は原発が怖くてしかたがなかったのですが、今は頼らざるえないものだと考えています。危険なのに運用しないと生きていけないならば、もっと安全なエネルギーの開発と移行も含めて巨額の投資、何重もの安全策が必要であると考えています。

世界でも有数の巨大地震発生地帯である三陸沖に面した設計構想で造られていたのか、これほど大きい地震の想定は不可能であったのか、想定した地震と津波のパワーの推定が足りていなかったのか、1970年代稼働で老築化していたのではないか、等様々な可能性があるのですが、関西ではバラエティ報道番組でも取り上げられていた基本的な運営に関する問題点が最近指摘されていたことを思い出させます。

取水口の問題

チリ地震が警鐘 原発冷却水確保できぬ恐れ 」2010年3月1日(月)「しんぶん赤旗」

改善ないまま
原発の津波対策をめぐっては、2006年に日本共産党の吉井英勝衆院議員が国会質問で不備を指摘しています。5メートルの津波(引き波)によって、日本の原発の約8割にあたる43基の原発で、冷却水が海から取水できなくなることを明らかにしました。また、原発ごとに想定されている引き波でも、12原発が、取水不能になるうえ貯水槽もないことがわかっています(女川・浜岡の各原発は取水槽あり)(略)
冷却水喪失なら炉心溶融の危険
吉井議員の話 2007年の新潟県中越沖地震では、地震の揺れそのものによって柏崎刈羽原発が被害を受けた。津波でも、海面が上がると冷却ポンプが水没する危険があり、海面が下がると冷却水喪失の恐れがある。これらは、原子炉の崩壊熱による炉心溶融を懸念させる事態だ。今後も、地震の揺れや津波への対策を前進させるために、国会でも取り組みたい。

点検に関する問題は経済産業省のホームページで確認できます。しかしこれが原因とつながりがあるかどうかはわかりません。

東京電力株式会社柏崎刈羽、福島第一及び福島第二原子力発電所の点検周期を超過した機器に係る報告の評価について」(2011年)平成23年3月2日(水)

 点検周期を超過している機器が全発電所の合計で171機器ありましたが、そのうち、141機器については既に点検が完了しています。
また、点検未実施である30機器についても外観点検等により、漏えいがないことや異状がないこと等を確認し、そのうち、至近に点検を行う予定の機器が27機器となっています。
なお、残りの3機器のうち、福島第一原子力発電所1号機の 原子炉再循環ポンプMGセット可変流体継手2機器は外観点検等で異常がないことを確認するとともに、技術評価を行い次回定期検査時に点検を実施することを決定しています。
また、福島第二原子力発電所2号機の原子炉給水ポンプタービン排気弁リミトルク1機器は運転停止時の試験に用いる機器であり、原子炉の運転上の機能要求がなく、使用停止措置を講ずることとしており、これらのことから東京電力は当該171機器全てについて、安全上の問題がないと評価しています。

東京電力株式会社福島第一原子力発電所第4号機の第4回定期事業者検査の実施体制に関する保安院の評定について(定期安全管理審査の結果に基づく評定)」 (2011年)平成23年3月10日(木)