教育勅語は発布後に意味が改変された
教育勅語(現代語訳はこちら)の問題箇所「一旦緩急あれば義勇公に奉じ」がお国のために戦争で死ぬべき的意味へと変貌した理由は、学問側による国語辞典・漢和辞典上の「義勇」の定義変更によりもたらされたようです。
明治天皇が1890年教育勅語を発布直後
義勇の意味は「義を見ていさむこと」 「1.義の心より出づる勇。2.義勇兵」でした。 「義とは自らの志より生ずる満足な決定であり、自分の心が命ずるゆくべき道である
」、対義語は「利」、義は「行ふべきことを爲し、爲すべからざることをなさぬこと
」であり、自分の思う正義に従うことで、政府や王様のいいなりとは全く別です。
義勇兵は「自ら進みて兵たるもの」という自発的従軍であり、 赤紙で本人の意思とは無関係に従軍するといったものではありませんでした。教育勅語発布1890年の後、1894年明治天皇は「義勇兵ノ団結ヲ止ム」 という詔勅を出して日中戦争で義勇兵希望をした若者へ待ったをかけているので、その前の教育勅語で推奨した義勇の防衛に関する義勇は 自発的従軍である義勇兵の意味であったこと、義は自発的・自律的な 五常の一の義を意味するという共通認識が市民にもあったことがうかがえると思います。 まだそのころは漢語を正確に読めたのではないでしょうか。
辞書の変化
ところが辞書での義勇の定義が「君國の爲めに一身を捧げ、進みて事を爲すこと。」へ変化していきます。 教育勅語は最初から天皇の為に命を捧げよ的標語だったわけではなく、アカデミア側が義勇の定義を変更して滅私奉公的な命を投げ出す献身へ改変したというのがどうも本当のところなようです。
- 1890年10月30日 教育勅語発布
- 義勇奉公 国民修身談 : 勅語衍義,博文館,鈴木倉之助 著,明24.12 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/759351/128
- 1894年8月7日 義勇兵ノ団結ヲ止ム
- 出師軍歌 : 義勇奉公 三田村熊之介 (鉄街隠士) 著 高田文賞堂 1894年明治27年8月6日印刷11日発行 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/855497/1
- 征清忠勇画談: 義勇奉公 三田村熊之助 (楓陰) 著 鹿田書房 1895年明28.3 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/773728/10
- 少年亀鑑 : 義勇奉公 行川富之助 編 弘文社 1895年明28.9 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/757042/1
- 1905 「義勇:義に勇むこと」漢和中辞典 : 熟語註解,文海堂 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/862750/391
- 1906 「義勇:義を見ていさむこと、義勇兵:自ら進みて兵たるもの、 」漢和大辞林,郁文舎, http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/862748/538
- 義勇奉公美譚 北陸出版協会 明42.5 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/755115/7
- 1909 「義勇:忠義と男気と。義に勇むこと」漢和中辭典 : 熟語註解,松村九兵衞 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1085492/487
- 1909 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/902806/377
- 1910 「義勇:義を見ていさむこと、義勇兵:自ら進みて兵たるもの」漢和大辞林,郁文舎 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/862749/620
- 1912 「義勇:義の心より出づめ勇。義勇兵」新訳漢和大辞典,六合館 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1088118/638
- 1913 「義勇:(い)義を見ていさむこと。又、義のために発する勇 (ろ)義にあつくして勇あること。又、義心と勇気と。(は)国家または官府の強制によらず人民自ら進みて公共のために盡くすこと。又、其ために組織せられて防備又は戦闘に従ふ団隊」大正漢和大辞典,三省堂 編 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/936730/131
- 1914 「義勇:義の心より出づめ勇。義勇兵」漢和大辞書,興文社 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/936745/906
- ●1915年義勇「君國の爲めに一身を捧げ、進みて事を爲すこと。「義勇公に奉ず」ぎゆうほうこう{義勇奉公 義勇を盡くして、君國の爲めに一身を犠牲にすること。」大日本国語辞典第1巻,金港堂書籍,上田万年他著 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/954645/596
- ●1917年義勇 1.義に勇む心2.義勇兵〔義勇兵〕義のために人民の自ら進みて組織する兵。〔義勇奉公〕國のため一身を砕きて盡すこと。〔義勇艦隊〕平時は海運に従ひ、戦時に軍艦に艤装して、戦闘に加はる商船の國體。 大字典 上田万年 等編 啓成社 大正6年 1917年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950498/913
- 1919 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/958699/596
- 義勇 イ 義にいさむこと 大漢和辞林 後藤朝太郎 等編 朋文堂書店 大正8年 1919年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/958699/596
- 義勇 1.義に勇む心2.義勇兵〔義勇兵〕義のために人民の自ら進みて組織する兵。〔義勇奉公〕國のため一身を砕きて盡すこと。〔義勇艦隊〕平時は海運に従ひ、戦時に軍艦に艤装して、戦闘に加はる商船の國體。 大字典 上田万年 等編 啓成社 大正9年 1920年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950499/911
- 1921 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/936723/652
- 義勇 1.正義と勇気と。2.正義に基きたる勇気。 義勇、公に奉す。[句]義勇を以て、君國に盡す。義勇奉公。 義勇奉公[句]前條に同じ。 言泉 : 日本大辞典. 第2巻 落合直文 著 大倉書店 大正10-11年 1921-22年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/969160/76
- 1922大正漢和字典・育英書院 義勇奉公- http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/958759/580
- 1922 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/958745/331
- 義勇 義心から出る勇気、忠義で勇気のあること「義勇奉公」 大正漢和字典 保科孝一, 湯沢幸吉郎 編 育英書院 大正11年 1922年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/958759/580
- 義勇 1.正義の心より出づる勇。2.義勇兵。 義勇兵 軍籍にあらざる者が志願してなりし兵士。 字源. 全 簡野道明 著 北辰館 大正12年 1923年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950550/782
- 1924 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/936718/578
- 1925 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1018382/666
- 義 〇正しきすぢみち、のり(法)五常の一「仁-禮智信」〇君臣の閒の道徳、五倫の一。中庸〇むね、わけ(意旨)〇行事の正しき理に適すること〇善行の人に遇ぐれること 又は公共の爲めにする心がけ。又、其の人〇みさを(節)〇衆のたふとび戴くこと。
義勇 〇正義の心より出づる勇。〇義勇兵。 義勇兵 軍籍にあらざる者が志願してなりし兵士 字源 簡野道明 著 北辰館 大正14年 1925年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1021128/773 - 義勇 1.義の心より出づる勇。2.義勇兵。 新訳漢和大辞典 浜野知三郎 編 六合館 大正14年 1925年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/936724/655
- 義1.みち。のり。(い)五倫の一、君臣の間に於ける道徳〔中庸〕(ろ)五常の一、正しいすぢみち「仁-禮智信」2.わけ。むね。物事の意味。3.正しい行。又、こころがけ。4.他人と憂ひを同じ5.血縁にあらずして親戚の関係にある間柄。
義勇 1.正しい道理のためにいさむこと。2.忠義と勇気と。3.義勇兵。義兵。 義勇兵 軍人でない者が自ら進んでなる兵士。義兵。義勇。
大漢和辞典 服部宇之吉 編 春秋書院 大正14年 1925年 - ■1926明解漢和大字典・石塚松雲堂 「君國のために一身を犠牲となすこと。」 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1019913/657
- 義 1.衆の尊び戴くこと。2.衆と事を共にすること。他と憂苦を同じくすること3.物事の理に適ふこと。制裁の宜しきに合ふこと。4.よき行の人に過ぐること。5.外表に附属すること。6.他の飲料と混和したること。7.血縁外の人と血縁の関係を約すること。8.禽獣の?きこと。9.すぢみち イ 人の履行すべき正しき條理。人の執り守るべき常の分限。 ロ わけ。むね。物事の意旨。
10.よし。よろし。きりもり宜し。すぢみち正し。11.儀に通じ用ふ。12.宜に通じ用ふ。
義勇 1.義を見て勇むこと。2.忠義と勇気と。又、忠義に篤く勇気多きこと。3.君國のために一身を犠牲となすこと。國家社會のため事をなすこと。明解漢和大字典 土屋鳳洲 著 石塚松雲堂 大正15年 1926年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1019913/657 - 義勇 1.忠義で勇気のあること。 2.正義にいさむこと。 義勇兵 ぐんじんでない人が自分からのぞんでなつた兵。 詳解漢和新辞典 保科孝一, 塚田芳太郎 著 健文社 大正15年 1926年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/919491/270
- 義勇 1.義を見て勇むこと。2.忠義と勇気と。又、忠義に篤く勇気多きこと。3.君國のために一身を犠牲となすこと。國家社會のため事をなすこと。 新漢和辞典 松雲堂編輯所 編 松雲堂 昭和2年 1927年
- 義勇 正義と勇気と。 正義に基きたる勇気。君國の爲めに一身を捧げ、進みて事を爲すこと。「義勇公に奉ず」 ぎゆう ほうこう {義勇奉公 義勇を盡くして、君國の爲めに一身を犠牲にすること。 義勇兵 はなし 大日本国語辞典. 巻1 上田万年, 松井簡治 著 富山房 昭和3-4 1928-29年
「義勇兵と言うのは今日まで用いられていた傭兵の別名ではない。国民が総て統制的に訓練せられ、全部公役に服し、更に奉公の精神に満ち、 真に水も洩らさぬ挙国一体の有様となった時武力戦に任ずる軍人は自他共に許す真の適任者であり、義務と言う消極的な考えから義勇と言う更に 積極的であり自発的である高度のものとなるべきである。」
戦争史大観,石原莞爾 http://www.aozora.gr.jp/cards/000230/files/55635_49037.html- 義勇 義の心より出づる勇気 義勇奉公 君國のために一身を犠牲として力を盡すこと。 詳解新漢和大辞典 久保天随 編 有宏社 昭和4年 1929年
- 義(1)人の履み行ふべき道。人の守るべき法則。行ふべきことを爲し、爲すべからざることをなさぬこと。五常の一としては特に君臣間にて守るべき道徳をいふ。
(2)(訓)ヨシ・ヨロシ すぢみち正し。道理に適ったこと。正し。(3)わけ。意旨。意味。(4)めぐみ。徳惠。(5)つとめ。職分。
大辞典. 第七卷 平凡社 編 1934-1936 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1873360/166 - 義勇 1.正義のためにいさむこと。2.義と勇と、忠義と勇気と。3.義勇兵。 義勇兵 身を軍籍におかぬ者が志願してなつた兵士 義勇奉公 君國のために一身をささげてつとめること。 新修漢和大字典 小柳司気太 著 博文館 昭和11年1936年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1126476/608
- 義 イ 五倫の一、君臣の道 ロ 五常の一、正しいすぢみち ハ 君國また公共の爲に盡す心がけ ニ 他人同志で結んだ親類 ホ わけがら、意味
義勇 イ 義にいさむ ロ 義と勇 ハ 義勇兵 現代漢和大字典 日本通信大学法制学会編輯部 編 日本通信大学法制学会 昭和13年1938年 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1106897/660 - 義 1.五常の一。行為の道に合ふこと。制裁の理に適ふこと。己れの利害を顧みずして、人道の爲めに盡くすこと。2.道理。理由。3.わけ。すぢ。意味。趣意。4.説法。説義。5.親子又は兄弟に擬すべき情誼。
義勇「1.正義と勇気と。2.正義に基きたる勇気。君國の爲に一身を捧げ、進みて事を爲すこと。「義勇公に奉ず」」 義勇兵 1.國家の強制によらず、人民の自由意思によりて兵役に服するもの。 又は、これによりて組織したる軍隊。2.軍隊に編入せられざる普通の人民の、戦時に自ら兵器を執りて敵に當たるもの。ぎゆうほうこう{義勇奉公 義勇を盡して、君國の爲に一身を犠牲にすること。 大日本国語辞典. 卷二 上田万年, 松井簡治 共著 富山房 1940-1941http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1870644/73 - 義 イ 五倫の一、君臣の道 ロ 五常の一、正しいすぢみち ハ 君國また公共の爲に盡す心がけ ニ 他人同志で結んだ親類 ホ わけがら、意味
義勇 イ 義にいさむ ロ 義と勇 模範漢和新辞典 遠藤隆吉 編 成光社 昭和18(1943年) - 義勇 イ 義にいさむこと。ロ 義と勇と、忠義と勇気と。ハ 義勇兵、義兵。〔文献通考 兵考〕 義勇兵 身を軍籍におかぬ者が任意に志願してなつた兵士。 義勇、義兵。 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1126477/793 詳解漢和大字典 服部宇之吉, 小柳司気太 共著 富山房 昭和18(1943年)
- 義勇「正義の心からでる勇気」 標準漢和字典 国語研究会 編 帝国図書1947 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1150835/175
高橋是清と石原莞爾は似ている。高橋は不況離脱という明確な目的をもって国債の日銀引受をやり、軍費が膨張し過ぎると抵抗して暗殺された。石原は総力戦をできる国にするという明確な目的をもって満洲事変を起こし、日中戦争の拡大には猛烈に反対して排除された。双方とも無目的な暴走の引金となった。
— 安冨歩 (@anmintei) 2012年12月21日