Life in Japan blog (旧 サッカー評 by ぷりりん)

日本に暮らす昭和生まれの猫ぷりりんの、そこはかとない時事放談と日記です。政治経済から科学、サッカー、手芸まで

原発のコストを低くするためには補償金額を少なくしなくてはいけない-20mSv/年は住民へのコスト丸投げ

2012年05月27日 21時17分25秒 | 原発・放射能

原発のコストを低くするためには補償金額を少なくしなくてはいけない-20mSv/年は住民へのコスト丸投げ

国策を代行した電力会社、東京電力の過失による福島第1原子力発電所事故(2011年3月11日東日本大震災)で被害を受けている福島県の方達の一部が、日本国政府の 原子力損害賠償紛争審査会によって補償金を打ち切られようとしています。
年間20mSv以下の被曝推定地域(避難指示解除準備地域)からの避難者への補償を2012年8月で打ち切ろうとしているのです。

20mSv/年という原発作業員の線量限度と同じこのとんでもない数字・・・1時間当たり2.28μSv。政府は、この空間線量を参考にして考えてもあまり存在していない数字以下は補償をしなくてよいと考えているようです。

補償金は原発のコストに算入されますので、この金額は少なければ少ない方が良い人達がいます。
その人達が、補償をする線量を決めています。利益相反どころではない状態です。

避難指示解除準備地域とは

原子力災害対策本部資料より

  1. 「帰還困難」
    5年間を経過してもなお、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある地域です。現時点で年間積算線量が50ミリシーベルト超の地域が相当します。
  2. 「居住制限」
    避難指示区域のうち、年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、住民の方の被ばく線量を低減する観点から、引き続き避難を継続することを求める地域です。
  3. 避難指示解除準備
    避難指示区域のうち、年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であると確認された地域です。
線量限度について

現存被ばく状況にある地域の参考値は1~20mSvですが、年間20mSvの被曝は、通常状態の原子炉作業員等職業人5年間の年当たりの平均被曝線量限度です。放射線感受性が数倍高い乳児や幼児にはリスクが生じかねない値です。
実際の原発作業員の方々の被曝線量は、年間1.4mSvだそうです(1)。
妊娠する可能性のある女性においては、職業人でも5mSv/3ヶ月が限度です。
被曝によるメリットが無い一般公衆の線量限度は通常1mSv/年(補助的に5mSv/年)です(自然放射線や医療放射線は含まず)。

ICRP 111

それ以上の線量限度を事故などで受けてしまう現存被ばく状況を一般公衆が受容する前提条件が国際放射線防護基準ICRPのICRP pub.111和訳(←PDF注意), ICRP pub.111英語(←PDF注意)に明記されています。

(8)汚染地域に居住することを希望した場合、人々にそれを認める決定は当局によって下され、これが事故後の復旧段階の始まりを意味することになる。この決定には、潜在的な放射線の健康影響に対する防護と、しっかりとして生活様式や生計手段を含む持続可能な生活条件を人々に提供できることが暗に含まれている。
(8) The decision to allow people to live in contaminated areas if they wish to do so
is taken by the authorities, and this indicates the beginning of the post-accident rehabilitation
phase. Implicit with this decision is the ability to provide individuals with
protection against the potential health consequences of radiations, and the provision
of sustainable living conditions, including respectable lifestyles and livelihoods.

しかし日本政府は長期汚染地域への居住を解禁するにともない、被災住民の方の中の現存被ばく状態を選択したくない方々の避難費用の補償をしないことによって、経済力が無い住民の自己選択権を事実上剥奪し、過失事故による避難であるにもかかわらず補償をしないと宣言するようです。

また、ICRP111は現存被ばく状況下での居住を希望した場合でも、防護と生活設計を政府が提供できるabilityを持っている事が暗に含まれていると明記されていますが、NHKの番組内でも紹介されたように、除染費用も補償を打ち切る可能性があるようです。(参考:日本政府の決定についての 甲斐先生の資料(PDF))

見直しに伴って1人月10万円の賠償が前倒しで打ち切られるとの警戒感もある。楢葉町の南に位置する広野町は昨年9月、緊急時避難準備区域の指定を解除されたが、町民の95%が町外での避難生活を続けている。しかし、政府は今年8月末の賠償打ち切りを決めた。【図解・社会】福島原発・避難区域再編の現状(2012年5月4日)時事ドットコム

東京電力が不動産などの損害を補償する決定もあるのですが、収入の空白期間ができてしまうと被災者の方の苦痛はより増す方向になりそうです。( 2012年4月25日東京電力プレスリリース)

実測値は正確なのか?

科学者の方々は、ICRPが規制しているその値は体に受けた実測値であると述べているため、実際に体に受けて実証するしか補償をもらえる方法は無いようです。

2012/6/17追記:実測値ではないようです。よく考えればそのはずで、一般市民の体で計測するわけにはいけません。
「公衆構成員の年間実効線量は、1年以内に外部被ばくで受けた実効線量とその年に取り込まれた放射性核種による預託実効線量の合計である。この線量は、職業被ばくのように個人被ばくの直接測定では得られず、主に放流物と環境の測定、習慣に関するデータ及びモデル化により決定される。」ICRP2007年勧告4.4.4.公衆被ばく

ICRPの基準が実測値でも、放射線を避けるため今現在とっている行動パターンは正常なものではないので、正常な生活パターンをとって被曝するであろう線量を客観的に推定して欲しいと思います。

科学者の方はツイッターで、自治体の計測結果を見れば大丈夫と言われます。しかし、プロの保健婦の方達が線量計をつけて実測すると、8mSv/年の高い値が計測されています。24時間外に居た推測値からいえば、12時間外に居た値が観測されたとしています。セシウムのγ線は建物の壁や屋根も越えて来ますし、UNSCER 2000年報告では屋内にいれば0.8の線量になるといいますので、不思議ではありません。

また、ガラス個人線量計は、入射角による計測値の誤差(方向依存性)が生じる性質があります。屋根から、または地面から来るものは低く見積もります。
自治体が算出した値は少し少ないように思うのです。また、子供はなかなか測定の大切さや正確に測る意味を理解しないのではないでしょうか。
さらに、冬の季節の測定は雪が遮蔽するので、原発事故補償の参考値にはなりません。

内部被曝を計測するホールボディーカウンターも、とても限界がある測定方法です。γ線核種には有効ですが、α線、β線核種には不利で、全ての被曝を測定できるわけではありません。また、未知の放射線核種がある場合は計測に非常に時間がかかります。

計測値の客観性と正確性を上げるにはどうしたら良いのでしょうか。私は複数機関の同時検査が不可欠であると思っています。

追記:政府の対応に不信感を持たれる方のご意見、何件かぐぐれました。