platea/プラテア

『ゲキxシネ五右衛門ロック』『The Musical AIDA』など、ミュージカルの話題作に出演の青山航士さんについて。

All Shook Up/WHO AM I ?

2007-12-11 | ALL SHOOK UP
 ブログめぐりをすると楽しい、という感想がズラリと並ぶD・スワン版『All Shook Up』、坂本昌行さんのチャドには、若く貧しかった頃のエルヴィスに通じるものがある、と尾藤イサオさんが語っておられたそうですね。1955年、エルヴィスのメジャーデビュー直前の時間を舞台としたこの作品、彼にとっても最高にハッピーだった思い出と重なるかもしれません。
 亡くなる前の7年間、プレスリーはすさまじいほどのライブ活動を行っていて、特にラスベガスでは昼夜4回(!)公演を3週間・休演日なしでこなしたという、すごい数字が残っています。エピソードにも事欠かず、NYマディソン・スクエア・ガーデンのコンサートにはジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、ボブ・ディラン、デヴィッド・ボウイーらが観客としてつめかけています。どれほどの熱狂だったでしょうか。
 でも、過密スケジュールの中、プレスリーの精神状態は限界に達していたようです。睡眠薬を服用するようになり、77年、処方薬のオーバードーズによる不整脈のため亡くなりました。彼の死に寄せて、同年アメリカ大統領に就任したジミー・カーターは、「エルヴィス・プレスリーの死によってわが国の一部が失われた。・・・プレスリーの音楽は白人のカントリーミュージックと黒人のリズム・アンド・ブルースを調和させ、アメリカの大衆文化を変化させた」と語ったそうです。
 町長から睨まれているチャドのようだった一人のアメリカ青年が、大統領が追悼メッセージを寄せるスーパースターになる・・・その間の出来事は、一人の人間が背負うにはあまりにも重すぎたのかもしれません。
 エルヴィスのゴスペル曲集"Elvis Ultimate Gospel"に収められた"Who Am I ?"には、「どうして彼は代わりに十字架にかけられるほどに私を愛してくれたのか、その答えを知ることはないだろう。一体私は誰なのか」という歌詞が出てきます。キリスト教的な意味と同時に、55年以来、誰一人経験したことのないほど、多くの人に愛された彼個人の心の底からの問いかけにも聞こえ、思わず耳をとめてしまいます。
 55年、アメリカの地方都市の音楽青年だったプレスリーが、あの大きな国の大衆文化を変える人間になろうとは、誰が思っていたでしょう。彼が一人の人間としての幸せを、当たり前に楽しめたのはその夏が最後だったかもしれません。日本公演、ますますハッピーに盛り上がって欲しいですね