
久々の千駄ヶ谷の国立能楽堂。とはいっても、本日は大講義室。
5月5日の本公演に先立ち開催された能楽師・加藤眞悟氏による特別事前講座にうかがいました。
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4月23日(日)午後2時~4時
国立能楽堂大講義室
ゲスト:甲野善紀(古武術実践研究家)
参加費1,000円(当日、5月5日の本公演チケット購入者は500円)
①『芭蕉』のあらすじと見どころ
②『芭蕉』の能面と能装束
③舞は表現の頂点「序の舞」舞と無
④「舞の身体表現」対談&実技:甲野善紀&加藤眞悟
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加藤氏は哲学科で学ばれたとのことで、氏独自の深い洞察による世阿弥の能の解釈など、とても面白く、すぐに話に引き込まれました。
能は魂を鎮めるもの、と知識としては知っていたものの、縄文時代から続いてきた神道、そして中国から伝わった仏教の中で培われてきた『草木国土悉皆成仏』、そして都のそこらかしこで目の前で人が死ぬのが当たり前だった武家社会の時代における『祟り』や『六道輪廻』の話から解かれる解説に、より理解と共感を深めることができました。
特に世阿弥とその世阿弥の思想を受け継ぐ金春禅竹の作品は、鎮魂とはいっても、生きている人間が亡くなったもの達の魂をどうのこうのして、というのではなく、負けた側にも、その理があり、能の中でその精神性がツーツーツーっと上がっていき、悩みが晴れていく、という解説。
深く心に響くお話でした。
今回、予習として世阿弥の『風姿花伝』を読んでいったのですが、もう一度、改めて読み返さなくては・・と思いました。
面の取り扱い方、鏡の間、装束などの解説も興味深く拝聴。
そして5月5日の本公演で演じられる『芭蕉』の解説。
人ではなく、芭蕉の葉の精なのだから、まさに『草木国土悉皆成仏』。
本公演がさらに楽しみになりました。
そして後半は甲野先生との対談。
甲野先生は日本の武家政治が数百年続いたこと、禅、浄土真宗等のお話をされ、そして、剣道の話に。
そこから身体の使い方。「正しい基本」と言われていることの真偽を鵜呑みにするべきではない、というお話を。
また剣道を嗜んでいらしたという加藤氏と実際に竹刀を使っての立ち合いも。
最新の技に加藤氏も驚かれていました。
丹田をギュルギュルギュルっと感じることができる大和座りや、腕先を使っての方向転換のやり方、などに客席から感嘆の声が上がりました。
会場には音楽家講座に参加された皆様も多く、ご挨拶。
加藤氏と甲野先生にご挨拶して、退席。
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その後は上野文化会館会議室に。
ずっと本番と重なったりして参加出来なかった演奏表現学会の会合に久々に参加。
この日は、名ピアニスト・作曲家の野平一郎氏を迎えてのフランス現代音楽のレクチャー。
野平氏は、この文化会館の音楽監督であり、この春からは東京音楽大学の学長となられた。そのような、とてもお忙しい中の登壇。
メシアン、デュティユー、ブーレーズ、そして実際にパリで野平氏と交流のあった様々な現代の作曲家達とその作品の紹介。
トータル・セリエズム、スペクトル楽派、さらにはサチュラシオン(飽和)楽派・・
頭の中は???だらけとなったけれど、これらのフランス現代音楽の根本にある思想は、それまでの「人間中心の否定」だという。
そして、それに代わって、構造主義、フッサール、フーコー、レヴィナス、デリダ等の「哲学」がその基盤になっているとのこと。
ミュライユによるオーケストレーションのコンピュータソフトの作成、そしてコンピュータ支援作曲の話も、面白かった。
さらにこうした動きはとてつもない速さで今も加速しているのだろうな・・・
まさにサチュラシオンな一日でしたが、心地よい疲れ、というか全く疲れを感じないくらいの充実度でした。
14世紀の世阿弥の日本から一気に現代のフランスへ。
700年の時と場所の隔たり、そして全く異なる世界と思想。
正直、現代音楽は苦手。なんとかメシアン、ギリ、デュティユーでまでかなあ・・・
でも、それは、自分が常に音楽に対峙する時「人間=自分の感情中心」だったことに気付かされた。
聴き方、演奏する時の「構え」からして違っていたのだから、好きになれるはずはない。
池田清彦氏、そしてお弟子の西條剛央氏の唱えるところの『構造構成主義』的な構えになれれば、自身の苦手も変わっていけるのかもしれない。
ウクライナのシルベストロフが前衛から機能和声に回帰したように、本来の音楽はこちら側ではないか、という思いは依然としてあるけれど。
現代音楽は一体誰が必要としているのだろう?くらいに思っていたのだけれど。
これを機に、少しずつ聴いてみようかな・・
芭蕉の葉の精霊が現れるくらいなのだから、AIの精霊だって居るかもしれません。
『草木国土AI悉皆成仏』?
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写真は文化会館2階の精養軒で一息ついて。
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