『笛物語』

音楽、フルート、奏法の気付き
    そして
  日々の出来事など

フルート奏者・白川真理

第120回 音楽家講座~甲野善紀先生を迎えて~ in鶴見 8月24日(水)

2022-08-26 02:08:32 | 音楽家講座・甲野善紀先生を迎えて
午後になり湿った南風が吹き始め、空はどんよりと曇り、時折雷も聞こえてくるようなお天気でしたが、大雨に降られることもなく無事開催できました。

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21日の加賀の講習会に参加されていた言語学者の伊藤雄馬氏から、言語とコミュニケーションと身体の動きについて大きなヒントをいただくことができた。

言語は人と人を繋ぐもの。

コミュニケーション、何かを伝達するということは音楽も同じ。

「フレミングの左手の法則」と言葉
29年前に「願立剣術物語」という伝書を入手した。

これは阿部道是(あべどうぜん)が師である松林左馬之助の教えを語ったものを同門の服部孫四郎がまとめたもの。

松林左馬之助が徳川家光の御前試合に呼ばれた折に、阿部道是を受け手として同行したことが記録に残っているので、阿部道是はかなりの使い手でもあっただろうから、この伝書は師・松林左馬之助の教えと考えて良いだろう。

その「願立剣術物語」の中に
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(以下引用)
身の構え、太刀の構えは器物に水を入れ、敬って持つ心持ちなり。
乱りに太刀を上げ下げ身を歪め、角を皆、敵を討つ。
敵を押さえ受け開き、外るる事など大きに悪し。
総じて太刀先より動くことなし。
ただ、かいなばかりを遣うことぞ。
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という教えがあり、その「ただ、かいなばかりを遣うことぞ」の術理と、伊藤氏からいただいた大きなヒント、フレミングの左手の法則などが、重なってきた。

(技の実践)
払えない手、斬り込み入り身。

受けては全くなすすべもなく崩される。

人は何故、防げるかというと、それは相手の動きが判るから、先回りするのである。
しかしこれだと、触った瞬間に気持ち悪くなり、払うのを止める。

普通はヒンジ運動だが、それだとすぐに動きが予想されてしまう。
30年前に「井桁崩し」に気が付いた。
関節をヒンジ運動にしないで、刀のこのあたり(先から三分の一あたり?)に支点を作る。

そして、前腕を消す。

「見えていますよね。でも消えているんです。でもまだ不十分で、これがもっときれいに消えたら、凄いことになります。」

(幕末の剣豪)仏生寺 弥助(ぶっしょうじ やすけ)は、剣をただ上段に上げて打つだけだったそう。

前腕を極力消して人間の機能を逆利用する。

「どう人に伝えるか」

あるチェリストは紙を落としたのを掴む能力が素晴らしく、普通は15,6センチくらいのものなのだが、彼は2㎝、そして5㎜でも、掴むことが出来る。

やわらちゃんも、この能力が高かったそう。

楽器演奏者は日頃から左右別々の動きということを左右同時にやっている。

そうしたことにフト気が付けば、応用がいけば、人は驚くようなことが出来る。

アマゾンのピダハンは左右という言葉を持たない。
実は人にとって左右という感覚はよくわかっていない。

(実践)
紙に書かれた星形の図形を左手に鏡を持って、それを見ながら右手のペンでなぞっていく。

(数名が試みるが、みな、個人差はあるものの、少しやったところで止まってしまう。)

鏡で絶えず自分の動きを修正するというのは・・・

(頭で)分っているつもりの左右は身体の中ではわかっていない。

ただ「かいな」を使う。

(元力士・一ノ矢・松田哲博氏を受け手にし、技を披露しつつ解説)


弓を運搬しそのまま引くのはだめ。

肩甲骨、鎖骨、胸鎖関節を使う。



酒屋が重い瓶に入った箱を持つ時にはいきなり順手ではなく逆手にしてから、肘に気付かれないようにそっと肘から先だけを返して持つ。



前回、合気道の一教(いっきょう)という基本がそもそも違っていて、ということを話したけれど、同方向ではなく、左右別方向にすることで、相手は探ることになり、力が抜けてしまう。

別のタイプの技としては自分で動かすのではなく他の何かに任せるやり方。

自分は脇役でアシスタントに徹する。主役は他の何か。(剣鉈の気付き)

この時一歩下がる。実際には1センチくらい下がる。

日常の応用としても使える。
口だけ貸してもらって代わりに言ってもらう等。
何かに預けて言ってもらう。

浄土思想。「禅の研究」の鈴木大拙も晩年はずっと妙好人(みょうこうにん)の研究をしたそう。
禅は自力、浄土真宗は他力。
いずれも凄い人というのは、自分を投げ切っている。

武術というのは「対応の技術」

人混みをかき分ける機能を逆利用しているだけ。

人が概念として作ったものが、あまりにも具体的になっていると、当たり前のように思うけれど、袋竹刀2本、であれば、2本と思えるが、袋竹刀と木刀だだとすぐに2本とは思わない。
無意識の内に、同じもの2本はアリでも、違う形状のもの2本はないと思っている。

余談だけれど、本来、障子やふすまは1本、2本と数えるのだそう。

自動的に働いているのは便利は便利。だが、それ故に、見落とすこともある。

見落とすのが当たり前と思っておくこと。

好物も(それを見て認識して予測するから美味しい。
これが闇鍋だと(予測できなくて)美味しくない。

キャッチボールも見えているから(ミットを)引ける。

全てのことは「予測」が働いている。

それに合わせて動く。
昔の武術家はそれが凄かった。







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(個別指導)
1.フルート
間違えてはいけない、とずっとやってきていて、そのせいか、指先が思う様に動かないのが悩み。

両手に指紐で、響きが変化。
 「指というよりも、音の変化はすぐにわかりました」本人談

(甲野先生談)
指が柔らかくなると、頭の中も柔らかくなります。紐は付けたり外したりして工夫してみてください。手の甲側が蜘蛛の巣状になるようにやることで、負荷が減ります。
紐はねん挫した人が足に巻くことで回復したりもします。
一人でやる時は、手首に巻いてから、など、工夫を。

この紐によって、心の解放と楽しさを覚えてやっていく。
そのうち、イメージするだけで、変わっていけるようになる。
一瞬で、フローに、日常とは違う「ある世界」に入るツールですし、紐は現実にその作用があります。

巻き始めの様子



2.フルート
緊張することと、首の痛みが悩み。

四方襷で、音に変化。
さらに壁に頭を接近させるやり方で方が落ち、より響く音に。







3.一般
ふとした時に忘れたり、混乱するようになり困っている。

(先生談)
物を忘れて探す時に「タヌキガコケタ」と言いながら探すとかなりの確率で見つかる。
心で思うだけでなく、口に出して言う。
潜在意識は覚えているので、意識がパっと変わることで、効果があるのではないか?
やや回文的な感じもある。
(私もよく忘れますが、こういうのはよく覚えている、と弘法大師が作った長い回文をスラスラと・・)

耳の側でハサミのチョキチョキした音を聞かせてというのもある。



4.元力士・一ノ矢・松田哲博氏
フレミングの左手の法則をどう技に応用されたのかを詳しく聞きたい。

(先生談)
直行しているとモーター、力は電力で、電力は力、発電機とモーターは逆
円ではない動き、井桁は移り変わる時、両方の成分がある。
前腕を消す。動きが如何に合成されるか。
気持ち悪いから探りたくなる。


5.ピアノ
右手でオクターブが続く時に、とても疲れるのをなんとかしたい。

指紐、四方襷で大きく変化。








6.胡弓(筝・三味線奏者・竹澤悦子氏)
弓の返しが安定しない。

指紐で大きく変化。



7.フルート(白川)
あのゾーンに入れた経験をもう一度、と思うことが却って邪魔をし、緊張を呼ぶ。ついつい練習しすぎて、右肩周辺に軽い痛みが出てきたので、治したい。

祓い太刀
直後に声も変化し、大きく変化。クリアに。

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(感想)
今回はなんといっても、先生の進展の大きさ、技の凄さに尽きると思いました。

最後に楽屋で受けさせていただいた最新の技はまさに「目がくらむ」という言葉そのもの。

目がスパークしたような生まれて初めての衝撃でしたが、頭の中がスパーンとすっきりしました。

また何よりも、元力士の松田氏(四股名・一ノ矢)と対峙されている時の先生の生き生きとした表情は、青年を通り越して少年の様でした。
日頃の音楽家講座では見ることのない紛れもない「武術家」としての気配ではなかったかとも思いました。

現役を引退されているとはいえ、そして、もちろん「受け手」として受けてくださっているからこそでも、元力士の方が先生を掴んだまま一周振り回されてしまったり、足元から崩されてしまうという光景にも圧倒されました。


祓い太刀は今まで何度も受けさせていただき、そのたび、大きな効果と変化がありましたが、今回のものは別格!
より身体深部、そして心にまで影響がありました。
きっと、これも先生の進展によるものなのでしょう。

19年もやっているのに、音楽家講座で演奏するのは緊張してしまい、毎回、先生に良いとこ見せようという邪念が芽生えてしまい、今回も最初は定まらず、ヘナチョコでしたが、それでも、参加されたかつて師・植村先生とアンサンブルで共演もされた事のあるプロフルートA氏から
「ルイロットの響き、堪能させていただきました。特に2回目の祓いの後はより音色がクリアになり素晴らしかったです。植村先生の音を思い出しました」
という内容のメールをいただき、とても嬉しかったです。

一瞬で魂を掴まれて、涙してしまう植村先生の音には、もちろん全く及ばないものの、そうした音と音楽を聴くことが出来た笛吹きの一人として、この流れを途絶えさせぬ様、精進していきたいと思いを新たにしました。

ずっとお手伝いしてくださっている忍者の五十嵐(いからし)剛くん、そして杖の鈴木照子さん、も顔出しOKだそうなので、先生と一緒に写真を。
五十嵐くんが「写真を撮りましょう!」と言ってくださり、良い120回記念となりました。



先生と一緒に、というのも少なかったので、良い記念になりました。
先生は白い絣の御着物がとても良くお似合いでした。

参加された皆様、鶴見の会場スタッフの皆様、五十嵐君、鈴木さん、そして甲野先生、本当にありがとうございました!


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