『笛物語』

音楽、フルート、奏法の気付き
    そして
  日々の出来事など

フルート奏者・白川真理

釣り合い

2020-10-06 21:36:15 | 気付き
もう2か月くらい前から、パソコンでツィッターが読めなくなってしまっています。

息子に「なんとかして」と泣きついたけれど、「よくわかんない~」

・・そんなはずないでしょ、きっと自分のツィートを監視されるのが嫌なのね・・

と思いつつも、愚息のツィートで一喜一憂するストレスから解放されたことも確かなので、まあ、これでもいいかな、と思って、もうずっとそのまま。

つまんないのは、甲野先生のツィートが読めないことで・・

なので、先生のメルマガが以前よりもより楽しみになって、毎回むさぼる様にして読んでいます。

ヒントをいただくことも多い。

もちろん、先生の術理を理解している訳でも、技が出来る訳でもないのですが、シュっと何かが刺激され、こちらの感覚が変化するという化学反応。

これは、最近、月1で開催させていただいている音楽家講座でも同様。

いつも何日か経ってから何かしら影響を受ける。


・・・・・

フルートの最も有名な教本はやはり「アルテス」だろう。

特に「黄色のアルテ」は各学校のブラバンの部室にも完備されているのではなかろうか。

ピアノのバイエルみたいに、一般的な本で、もちろん、私も最初はこの黄色のアルテからスタートした。

古い本で、オリジナルのフランスのアルテスと、翻訳者の意見とがごっちゃになってしまっているという問題はあるものの、良心的な熱意の下完成された素晴らしい仕事だと思う。

要は、使い手が、ちゃんと吟味すればよいわけで、これはこの黄色いアルテに限ったことではない。

「鵜呑みにしない」

ということが大事なのである・・
・・・・・・・・・・・

黄色のアルテの冒頭にフルートのセッティングの図がある。

歌口の穴の真ん中とキィの中心が揃うように、という注意書きもあったかと思う。

フルートにもメーカーによってはその位置でセットできるように目印が刻まれているものもあるし、胴体と頭と同じ場所になるように文字やマークが刻印されたりもしている。

これを見たら、特に黄色のアルテスを読んでいなくても、誰でも素直に、この目印を合わせるだろう。

私も2004年までは、ずっとそのセッティングで吹いていて、何も違和感を感じていなかった。

そういうもの、と思い込んでいたから。


それが、甲野先生と出会い、そのご縁で、和光大学の関根秀樹先生や岩城正夫先生と交流するようになり、様々な民族音楽や日本の笛のことを学んだ。

そして、楽器の釣り合い、ということを考えるように。

フルートはとてもバランスが悪い笛だ。

そんな発見の中、一時は頭部管にテグスでおもりをぶら下げて、左右を釣り合わせて吹いていたこともある。これは特に大きな笛、アルトやバスフルートにはとても有効だと今でも思っているのだけれど、周囲注目を集めすぎるのが面倒で、今は却下。

こんなことがあって、すぐに気付いたのは前後の釣り合い。

フルートのキーを真上にして掌の上に乗せると手前に転ぶ。

手前の方がバーがあったりして、メカニズムが重いのだ。

所謂、通常のセッティングでは、このキーが真上にくる状態で演奏することとなり、これは、楽器が手前に転がろうとするのを手指、特に右小指や左親指で押さえこみつつ、演奏していることになる、ということに気付いたのだった。

そして、すぐに、頭部管をぐぐっと内側にし、キィが下にうつむく角度にしたところ、嘘みたいに、ラクに指が動くようになって・・

という大発見があったのでした。

2004年・・

これを喜々として師匠に報告したところ、

「あ、僕はずっとそう!」

そして、フランス版のアルテス、つまりオリジナルでは、日本版とは異なっている、私が発見した、と思っていたセッティングが書かれている、とも。

植村先生が訳されたアルテスにも、ちゃんとそのオリジナル通りのセッティングが・・

と教えていただいたのだった。

・・そこには歌口の真ん中ではなく、歌口の外側の縁、つまりエッジとキィの中心が一致する図が・・

もちろん、通常セッティングのままの名手も沢山いる。


でも、私には、これは本当に驚きの変化をもたらした。

・・・・・・・
それから16年。

私はアルテス先生が提唱しているセッティングだもんね、植村先生とも一緒だもんね、とこのセッティングを見直すなんて発想は全くないままにやってきたのだった。

でも、それが先週の木曜日、10月1日の午後、変化した。

きっかけは、やはり音楽家講座。

個別指導希望者が少なく時間がある時には、私も最後に甲野先生に聴いていただいているのだけれど、あの場で吹くというのは、未だに緊張する。

毎回、不本意な演奏。

先生や受講生の皆様の前で、いいとこ見せたい、と思ってしまうのだろう‥多分。

前回も、なんだか無駄に力んでるよなあ、まだまだ、という感覚だった。

心、メンタルの問題がやはり大きいのだろうか・・

とも思っていたのだけれど、ハタと気付いた。

「緊張」はメンタルよりも、緊張してもしょうがない身体の使い方をしているからじゃないのか、と。

それを私は少しずつ発見し、はがしてきた学びをしてきたのじゃなかったか・・と。

つまりは、「鶏が先か卵が先か」という話だ。

メンタルが緊張する原因を考えたところ、一番普段と違うのは手指。

フルートにしがみついている?

ということに気付いて、ようやくはっとした。

あんなにオリジナルのアルテス提唱のセッティングで変化した、と思っていたのに、いざ演奏となると、まだまだ自分の手指で笛を持って、強引に操っていた・・

そこで、もうひとつの、オリジナルアルテスの話。

黄色のアルテでは、最初に出す音はソになっている。

左手の小指以外、全ての指で押さえるので、楽器の保持が簡単だ、という理由だろう。

ヤマハのテキストも同様の理由で最初はソラシ。

ところが、オリジナルのアルテスでは、最初の音はド♯。

これは右手の小指しか押さえない音で、結果、笛はとても不安定に。

でも、これが安定して楽器の保持ができるようになれば、他の音はよりたやすい、という
「狭き門より入る」という発想だ。

さらにもっとシビアな提案もあることを思い出す。(チェックアップ@グラーフ)
右小指も離して、ドの♯を吹く。

このことを思い出して、よりド♯が安定するセッティングを探したところ・・
今までよりも、さらに3ミリ程、内側に頭部管を回すこととなりました。

この3ミリは、多分、唇やアゴの形状の違いの差。

私の下唇はきっとアルテスや植村先生よりもやや厚い。

「埋める」奏法になったからこそ、この違いが、ようやくわかる。


これにより、手指の余計な力みはかなり解消された。
苦手なフィンガリング、特に左右の小指が絡むパッセージがぐっと楽に。
最近はドンジョンのサロンエチュードを日課練習に使っているのですが、びっくりするくらいの変化があった。

今度の音楽家講座で、どういう感じとなるか、とても楽しみです。

これが正しいとか、どうのこうの、という話ではなく、この変化に辿り着くのにざっと16年かかったよ、というお話・・

「鵜呑みにしちゃいけない」

は、本当に難しいです。