王様の絵日記

猫好き漫画家の毎日のあれこれ

いたむひと。

2009-01-20 22:08:25 | 
仕事中、入ってきたダンナ様が開口一番。

「天童荒太、直木賞だってさ~!」

「おー!アラタおめでとー!」

…と、アシさんたち。

「えっ?直木?なんで取ったの?まさか『包帯クラブ?』」

と、わたくし。

「『悼む人』っすよ」

とアシY田。

「な、何それ、新刊!?何時出たの??」

と、焦るわたくし。

「…新刊出たって何度か話題に出したけど、先生無視してたじゃないっすか…」


違う!無視違う!
耳にイヤホン入ってて全く聞こえてなかったんやそれ!



…と、いうわけで、慌ててアマゾンお急ぎ便で注文致しました。

天童荒太は、現在唯一新刊が出たらハードカバーでも買う大好き作家さんであります。
読書の傾向がめっきり似ているアシさんズも揃ってファンで、うちの仕事場では愛情を込めて「アラタ」と呼ばれてまして(呼び捨て無礼スミマセン)、私が買った新刊はアシさんたちの間をくるくると回ります。

しかし前作の「包帯クラブ」だけは…。
私が七転八倒しながら読み、その後か××よ姉が同じく七転八倒しながら読んだ後、誰も読もうとしないまま仕事場の本棚に眠っていたりします。

どうしたんだアラタ!
まさかこのまま「青年よ大志を抱け」なんてグローバルな方向に行くんじゃないだろうな!
だったらわたしたち、もう追いかけられないかもしれません!
いやいや、辛いわ戻ってきて!
なんて皆で言いながら以前の作風を懐かしがっていたんですが、それでもやはり新刊と聞けば、飛びついてしまうんであります。



「悼む人」。
画像はオンライン書店「e-hon」より。

お仕事終了後、2日ほどかけて読みました。


何の物語であるか、どんな話であるか、と訊かれればちょっと困ります。
何だろう。
まさにタイトル通り、「悼む人」の物語であるとしか。

「永遠の仔」や「あふれた愛」で描かれた、真面目すぎて、不器用で、生きる事が下手で、でもその分より精一杯に生きている人々の、痛々しく愛おしい姿。
その人々のゆっくりした足取りを、内に内に向かって深く掘り進めていくような、息苦しいほどに緊張感のある文章は健在でありました。

人を見つめる温かい目と、己が内面を見つめる静かに冴えた目。
淡々と深いところに降り、それから静かに昇って行くような物語は、ますます深みや円熟味を増しているんですが、その分派手さやはっきりした答えを求める人には「つまらん」と一蹴されそうな気もします。


「永遠の仔」を読んで、「所詮は負け犬の傷の舐めあいじゃん」と嗤ったアノ人は元気かな。
たぶんこの物語も、つまらん負け犬物語に分類されるんだろうな。


多分、それでいいんだと思います。
この小説の主人公なら、誰かからきっとそう言われても、首をかしげて考えて、真面目に真面目に答えを返すだろうし、その真面目な言葉は相手にはきっと届かない。

それでもいい。
全ての人に理解して貰うなんて不可能だし、説得も出来ない。
自分が納得できるように生きて死ぬしかない。

願わくば理不尽な死を、自分の中の怒りや悲しみを、昇華できるように。
そのためにより苦しい道を選び、その道を選ぶ事に安らぎを感じる、不器用で美しい人々。

そんな人々の物語にただ圧倒され、だらだらと涙を流しながら読みました。


「面白かったか」と訊かれると、「そういう話じゃない」と答えるでしょうね。
でも、私の大好きな天童荒太の視線、痛み、悼み、思い、願い。
それをどっぷりと共有できるような物語でした。

この人の描いてきた人間達を愛おしいと思い、どこか自分と重なる部分があると思う人になら、間違いなくおススメできる小説だと思います。



…それにしても、この本を持ってソファーに埋まっている私を見たダンナ様の一言。

「何か、珍しく『本読んでるー!』って感じだねー」

…って…。

足元にはずっしり資料本が詰まれてるんですけど。

「だっていつもは『ホンマに読んでんのかな?』って感じだもん」

平均して月に10冊~20冊ぐらいの本を読んでるんですが、いわば情報収集の為の読書なんで速読に近いような斜め読みなんですね。
頭の中の情報と照らし合わせながら、ばーっと読んで取捨選択していく。
そんな前のめりな読み方をしている妻を、彼は常々痛々しく思っていたようです。

「楽しそうに読んでるのはいい事です」

涙だらだら流しながら、ゆっくりページを捲っている姿が、ですかね。


心を揺さぶられるというのも、やはり大切な事であります。
本を読むのは本当に好きな事の筈なのに、必要と時間に迫られて読んでばかりですから。
じっくり味わう事の出来る作家さんの新刊は、本当にありがたい心の糧であります。


…さあ、リフレッシュ出来たし、また資料読みますか。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする